表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

6.絶対に見捨てない決意






 名状しがたい威圧感に、俺は改めて知る。

 やはりサターニャは――普通の女の子ではない、ということを。

 三年前のあの日、箱の中にあった手紙には『魔王の愛娘』だと書かれていた。それを最初は何かの冗談だと思った。しかし、日が経つにつれて変化は訪れる。


 最初は、初めての夜泣きの時だった。

 家の中にあった食器という食器が割れて、弾け飛んだ。

 それ以外にも、サターニャは昔からどこか不思議な雰囲気を醸し出していた。


「でも――!」


 恐怖心は当然にあった。

 それでも、俺はこの子を見捨てられなかった。

 いいや、正確には見捨てるという選択肢がないのである。だって――。


「サターニャ……っ!!」


 この子はもう『魔王の娘』だとか、そんなの関係なしに『俺の娘』だから。

 サターニャを引き取る時に、俺は決めたのだ。どんなことがあっても、この女の子は俺の手で育て上げる、と。その結果、周囲に奇異の目で見られようとも……!


 俺は、サターニャを見捨てない!

 なにがあっても、この子は――『俺の娘』なのだから!!


「パ、パ……?」

「大丈夫だ。お父さんは、ここにいるぞ……」


 抱きしめる。

 娘を取り巻く不思議な力は、俺の身体を引き裂いた。

 それでも、そんな痛みはこの子を失う、その辛さに比べれば屁でもない。


「サターニャ、どうしちゃったの……?」


 不安そうな声を発するサターニャ。

 そんな彼女に俺は優しく、あやすようにこう告げた。


「これは――夢だよ。お父さんと同じ夢を見てるんだ」

「パパと、おなじゆめをみてる……?」

「そうだよ? だから――」


 ぐっと、少しだけ腕に力を込めて。

 絶対に離すものかと、誓うように抱きしめて。



「俺たちは、いつまでも一緒だよ」――と。



 その瞬間ふっと、サターニャを包んでいた何かが消えた。

 最後に彼女の――。



「そっかぁ、パパ――だいすき」



 そんな言葉を残して。

 気を失った娘を抱きしめたまま、俺は呆然と立ち尽くす。



 ――あぁ、良かった。

 この子に、俺と同じ思いをさせずに済んだのだ。



◆◇◆



 リチャードの傷は出血量の割には浅く、やってきた救助隊の治癒魔法で元通り。しかしそれよりも問題だったのは、俺が娘を抱きしめた際の傷だった。


「Dランク冒険者が一人でワイバーン二体を相手にした!? 馬鹿ですか!!」

「いやー、うん。結果的に生き残ったんだし、ね?」

「ね、じゃありません! 重傷ですよ!?」


 治癒師の女性に大目玉を喰らう。

 どうにも全身の筋肉に裂傷があり、かつ骨もズタズタ。幸いにして臓器等にはダメージがなかったらしいが、普通なら死んでいてもおかしくない怪我だった。

 どうりで歩くのも辛いし、視界も歪んで見えていたわけだ。


「これから数日は家で安静にすること! ――いいですね!?」

「分かりましたよ、はいはい」


 俺は治癒師に適当に返事をする。

 でも、一番安心したのはこの怪我の原因がワイバーンとの戦闘によるもの、と判断されていたことだった。それならば、サターニャの正体がバレることはない。

 娘はこれからも変わらずに、託児所で普通の女の子として生活できる。

 そのことが嬉しくて、変な笑みを浮かべてしまうのだった。


「あの、ラインドさん……?」


 さて。そんな風にしているところに、声をかけてくる人があった。

 その人というのは、良く知っている人物で……。


「あぁ、アシリアさん。どうされました?」


 俺は本当に、何も考えずにそう訊ねた。

 すると彼女は大粒の涙を流しながら、



「本当に、申し訳ございませんでした!」



 そう、大声で謝罪した。

 周囲は何事かとどよめき、俺も例に漏れずにきょとんとする。


「え、ちょっと待って下さい。なんで謝るんですか?」

「うちの息子がサターニャちゃんを連れ出したばっかりに、こんなことに……!」


 そこまで聞いて、俺は「あぁ、なるほど」と納得した。

 つまるところ今回の騒動について、アシリアさんは親としての責任を感じているのだろう。たしかに俺も同じ立場なら、こんな感じになると思えた。

 それでも俺は彼女と、リチャードを咎めるつもりはない。

 だから――。


「ほら、リチャード! 頭を下げなさい!」

「ご、ごめんなさい……!」


 頭を垂れる少年の肩にそっと手を置いた。

 そして、こう言うのだ。



「ちゃんと謝れたな、偉いぞ。次からはこんなこと、しないようにな?」――と。



 しっかりと、笑顔で。

 すると、アシリアさんとリチャードはきょとんとした。


「それじゃ、この話はコレで終わり! また明日!!」





 そう宣言して、俺は豪快に笑うのだった。



 


次回更新は19時頃!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ