4.捜索、そして遭遇
「リチャードくん、あぶないよ……」
「へいきだって。おれだって、たたかえるんだ!」
日が傾き始めた森の中をサターニャ、リチャードの二人は進んでいた。
先頭を行く少年は太い木の枝を手にして、少女を守るように。あたかも自分が姫を守る騎士となったかのような勇ましさで、どんどんと先へ行く。
サターニャは不安げに少年の背中を追いかけていた。
少女の義父――ラインドは、夜に子供だけで出歩かないことを忠告していたのである。サターニャの頭の中には、その言いつけがしっかりと刻まれていた。
そのため、だんだんと不安が募っていく。
「でてこい、まもの! おれがあいてだ!!」
それにもかかわらず、リチャードは好戦的に声を張り上げた。
森の中に残響した幼いそれは、寂しく空気の中に溶け込んでいく。反応はない。それを確認すると、少年はさらに躍起になって前へと突き進むのだ。
最早サターニャの制止など、意味をなさない。
「ごめんなさい、パパ……」
そして、小さく。
サターニャが義父へと謝罪の言葉を口にした時――。
「うわあああああああああああああああああああああっ!?」
「きゃあああああああああああああああああああああっ!?」
森の中には、二人の悲鳴がこだました。
◆◇◆
「二人は森の中に行ったんだな?」
「う、うん……」
俺は最後にサターニャたちを見た子からの情報を確認した。
どうやら二人は丘の隣にある森へと入っていったらしい。ここは凶悪な魔物が生息しているわけではないが、迷い込むと抜け出すのが難しい場所と言われていた。
そこそこの冒険者が中に入るならまだしも、子供――しかも揃ってまだ三歳の――が入るには危険極まりない。さらに夜になれば魔物の時間だ。
仮に低級といえど魔物と遭遇したら――考えたくもない。
「俺が先行して中に入って二人を探す! 他のみんなは、ギルドで捜索隊を募ってくれ! あと、万が一のために傷薬とかの準備も!!」
俺は冒険者としての知識を絞り出し、そう指示を出した。
そして、森の中に足を踏み入れる。
「くっそ、思ったより足場が悪いな……!」
すると分かるのは、その場所が妙な湿気に満たされていること。
加えて足場がまったく安定せず、ちょっとでもバランスを崩せば転倒してしまうことだった。だが、後者のことを考えればプラスな部分もあるかもしれない。
「これなら、まだそんなに奥には行ってないな」
子供二人だ。
その足でこの獣道を進むのならば、相応に時間がかかるはず。
俺はそのことを考慮して、探索範囲を当初のものから狭めることにした。その代りより重点的に、木陰などに隠れていないかを確認する。
「日が落ちてきたな、急がないと……!」
俺は空を見上げてから、呟いた。
そして【フレア】で明かりを確保して先を急ぐ。
「この一帯に生息している魔物――ボアかウルフ、といったところか」
遭遇の可能性は低い。
さらに、低級も低級の魔物ではあった。
だがしかし最悪の事態を考えて、迅速に行動するのが鉄則だ。
「無事でいてくれ……!」
腰のナイフで蔦を切りながら前へ。
俺は少しばかりの焦りを抱いて、唇を噛んだ。その時だった。
「うわあああああああああああああああああああああああっ!!」
「きゃあああああああああああああああああああああああっ!!」
子供の悲鳴が響き渡ったのは。
「あっちか!?」
俺は即座にそれへ反応した。
方向転換して、全速力で駆けだす。すると、そこにあったのは――。
「サターニャ!! ――って、嘘だろ!?」
「パパァ!!」
血塗れのリチャードを抱きかかえて震える娘。
そして、この近隣では遭遇し得ないであろう魔物の姿だった。
「なんで、こんなところに――ワイバーン、が!?」
Cランクに相当する魔物――ワイバーン。
それは少なくとも、Dランク冒険者の俺の手に負える敵ではなかった。
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