3.戯れの後に
昼食を終えて自由時間となった。
俺は草原に、仰向けになって転がっている。
聞こえてくる子供たちの元気な声に、どこか心が安らぐのを覚えた。
「ねぇ、パパ!」
そうしていると、唐突にサターニャが話しかけてくる。
身を起こして見ると、我が娘は小さな花冠を差し出してきていた。どうやら、友達の女の子と一緒に作ったものらしい。
「もしかして、俺に?」
「うん! サターニャと、おなじだよ!」
そう言うと、もう一つ同じような花冠を取り出した。
なんだろうか。天真爛漫なその姿を見て、涙がこぼれそうになった。
あー、メチャクチャ可愛いわ、うちの娘。他の家の子も可愛いだろうけど、断言できるね。俺の娘が世界で一番かわいいと思うのだが、文句はあるだろうか。
花冠を頭に被りながら、俺は満たされる気持ちに浸っていた。
だが、そんな俺を見てサターニャが一言。
「わー、パパにあってない!」
満面の笑みで、無邪気な言葉の刃物を振り下ろした。
「………………………」
いや、うん。分かってるよ。
俺は生まれながらの強面だったからね。
風貌は歴戦の戦士、能力は平々凡々な中堅冒険者。
「ははは、この~っ!」
「きゃ~! パパ、くすぐったいよ~!」
地味なコンプレックスを刺激されたが、娘に当たるわけにはいかなかった。
それなのでここは、くすぐりの刑である。サターニャはきゃっきゃと笑いながら、ごめんなさい、と何度も言うのだった。
そんな様子を他の保護者たちは微笑みながら見守っている。
だが、約一名――ある子供は例外だった。
「サターニャをいじめるな!」
「――あだっ!?」
ニヤニヤしていると、後頭部を思い切りなにかで殴られた!?
振り返るとそこにいたのは――。
「リチャードくんっ!?」
で、あった。
木の棒を持って、鼻息を荒くするリチャード少年。
彼はどうやら、俺がサターニャを苛めていると勘違いしたようだった。そんでもって、美少女を守るナイト様気取りで、悪を倒しにきた――と。
ふむふむ。なんとも、威勢の良い話である。
しかし、娘との戯れのひと時を邪魔された以上は、タダでは済まない。
「ふっふっふ――覚悟はできているな、リチャード少年?」
「く、くるならこい! この、あくま!」
対立する様子は、まさしく勇者と魔王のそれ。
俺は自身の娘を守るためならば、人間をやめる覚悟もあるのだ。果たしてリチャードはそんな俺の想いを越えることが出来るだろうか。否、出来るはずがない!
――大人げない? 言ってろ。
娘が出来た父親はみんな、娘の男友達は敵に見えるのだ。
それ故に、この戦いは単なる喧嘩ではない。年齢差もなにも、関係ない。
「ふはははははははははは! こい、リチャード!!」
俺は両腕を広げて、少年を威圧した。
すると彼は瞬間、怯えた様子を見せて……。
「くっ……!?」
敗走した。
すなわちこの勝負、俺の勝利。
「ふはははははははははははははははははははははははははははははっ!!」
改めて言おう!
大人げない? ――知るか、そんなの!!
「もぅ、パパ……」
なにやらサターニャが物言いたげに見つめていたが、気にしない。
俺は外敵を打ち払った愉悦に浸るのであった……。
◆
そうして、帰宅の時間が近付いてくる。
俺はアシリアさんたち他の保護者と片付けをしていた。
子供たちは一か所に集まって、マーヤ院長が人数の確認を行っている。――だが、事件はその時に起こった。
「あら、大変だわ……!」
「どうされたんですか、マーヤさん」
顔面蒼白になって声を震わせる彼女に、俺はそう訊ねる。
するとマーヤさんは、呼吸を荒くしながらこう言うのだった。
「二人、いません!」
「二人? それって――」
彼女の言葉を受けて、俺も子供たちの方へ視線をやる。
そして、その時になって気付くのだ。
「サターニャと、リチャード――ですか!?」
愛娘と、その友人の不在を。
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