1.その子はサターニャ
「果たして、どうしたものか……」
俺はボロい家に箱と女の子を持ち帰って、悩み込んでいた。
連れ帰ってきたのは(良くはないけど)良いものの、どうするべきかがまるで思いつかない。少なくともあのまま放置してたら、そっちの方が駄目だし。
風邪を引くかもしれないし、なんなら餓死をするかも……。
「だからって、連れ帰っても出来ることがねぇ!」
そこまで考えてから、殺風景な部屋の中で俺は叫んだ。
気ままな男の一人暮らしだった。そんな平凡なオッサンである俺が、いきなり子供の面倒なんて見れるわけがない。そんな甲斐性があるなら、結婚してるよ。
「いや、でもそんな自己嫌悪に陥ってる場合じゃないな。せめて、そういった知識を持った人の助言を仰がなくては――あ、そうだ! 隣のアシリアさん!」
そこまで口にして、俺は妙案を思い付いた。
隣に住んでいるアシリアという女性は、シングルマザーで、子育てにも熱心だという話だ。それならば、何かしら相談に乗ってくれるかもしれない。
それとなれば、問題は――。
「あとは、この子との関係だな……」
そう言えば、名前もまだ付けていなかった。
それはいくらなんでも可哀想だ。
箱の中ですやすやと眠る女の子を見て、俺は一つ頷いた。
「よし、この子の名前は――」
◆◇◆
「ん、どうされたんですか? ラインドさん」
「やあ、アシリアさん。少しだけ話があるんだけど……」
――翌朝。
俺は起きてすぐにお隣を訪問した。
今にも外れそうなドアをノックすると、中からは二十代後半の女性が一人。長い黒髪を後ろで一つに結んだ彼女――アシリアは、やや垂れ目なそれをこすっていた。背丈は俺の肩ほどなのだが、決してガタイの良い方ではない。
細身の、どこにでもいるような女性だった。
「この子、親戚の子なんだけど――俺が面倒見ることになってさ?」
そんな彼女に、俺は抱きかかえた女の子を示す。
スヤスヤと眠ったままの少女を見て、アシリアさんは首を傾げた。
「親戚の……? ラインドさん、前に孤児だった、って仰ってませんでした?」
「あ、うぐ――いや! 最近になって見つかったんだよ、ははは!」
「そう、なんですか? おめでとうございます」
「ははは……」
――あぶねぇ! 自分の境遇忘れるところだった!!
俺は冷や汗を滝のように流しながら、何度も、意味なく首を縦に振った。
アシリアさんはそれ以上追及することなく、何やら考え込んだようにしてからこう言う。そしてそれは、俺にとって救いとも思えるものだった。
「それでしたら、仕事に出ている間に預けられる託児所を紹介しましょうか?」
「マジっすか!」
俺はその話に、即座に飛びついた。
冒険者稼業の合間に預けられるなら、願ったりかなったりだ!
「それじゃ、今日はその見学に行きませんか? それで――」
面倒見のいい性格のアシリアさんは、そこまで口にしてから首を傾げた。
そして、こう訊いてくる。
「その子の、お名前は?」
それは、うちの子の名前を問うそれ。
俺はすかさず、昨晩考えた名前を発表するのだった。
「この子の名前は、サターニャだ!」――と。
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