4.女神が仲間になった
――で、どうなったのかというと。
「かわいいかわいいかわいい!! ――なんなのだ、この可愛らしい生物は! もうこの、ちっこくて愛らしくて目がくりくりで、撫で回したくなってしまう!」
「……っていうのを、撫で回しながら言うなよ」
「パパぁ、たすけてぇ~……?」
これ、このようになった。
女神アリエッタは、サターニャのことを後ろから抱きしめている。頭やら身体やらを撫で回して、完全に嫌がられているのだが、それでもお構いなしだった。
娘に助けを求められている俺であったが、特に実害もなさそうなので放置。
いや、しかし……。
「そろそろ、放してやってくれないか?」
「や! 妾の子だぞ!」
「いや、違うだろ」
「むぅ……」
いい加減に止めた方がいいと思い、そう提案した――が、この女神は言うに事欠いて『自分の子宣言』までしやがった。淡々とツッコみを入れてしまう。
すると唇を突き出して、駄々っ子のように頬を膨らすアリエッタ。
渋々といった風に、サターニャを解放した。
「それで? さっきまでの敵意はどこに行ったんだ」
胸に飛び込んでくる娘をあやしながら、俺は相手にそう訊ねる。
そうすると彼女は『あぁ、そういえば』といった顔になってから、綺麗な髪をいじりつつ、こう答えるのだった。
「なに、気にするな。悪意がないのであれば、邪気もなにも関係ないからな。見たところお主は人間で、その子は少しばかり違うようだが――」
「…………?」
「うむ。可愛いは正義だからな!」
「さいですか」
小首を傾げるサターニャを見て、大きく頷く女神。
俺は思わず苦笑いを浮かべた。神様というのは意外に、気紛れなものなのかもしれない。サターニャが魔王の娘だというのは黙っておくとして、ひとまずは普通に接しても良いのかもしれなかった。
「だが、それにしても――」
そう思っていると、おもむろにアリエッタはこう口を開く。
「これほどの才能の塊と出会ったのは、初めてだな」
「才能……?」
俺が訊き返すと、彼女は後ろに隠れた娘に目配せをしつつ言った。
「その子からは、膨大な潜在魔力を感じる。磨けば、かの勇者をも超える人材となるのは、ほぼほぼ間違いないだろう」――と。
それは神としての興味か。
少しだけニヤリと、口元に笑みを浮かべたアリエッタ。その視線が怖かったのか、俺の足にしがみ付くサターニャ。どうやら、少しばかり怯えている様子だった。
そんな娘を確認して、俺は守るように間に入る。
「そんなに怖がるな。だから連れ去ろうなど、考えておらん」
「いや、説得力ないですけどね?」
そしてそう言うが、俺は即座にツッコんだ。
だが、彼女は続ける。
「少しばかり、気になるな。いや、決して覗き見したいわけではないが――今後の成長を、妾も見守らせてもらうことにしよう」
「え、それって――」
「そこの猫よ。お主の目を借りるぞ?」
言うが早いか。
アリエッタは寝転がっているももに……。
「なにを、したんだ?」
「ちょっとした小細工だ。この猫には、聖獣となってもらった」
「うわ、ももが喋った!?」
なにがあったのか、それは分からなかった。
それでも、明らかな異変が発生する。呆気にとられているうちに、ももの口からアリエッタの声が聞こえてきた。
唖然とする俺とサターニャに、もも――アリエッタは言う。
「これからは、この猫を通してお主たちの暮らしを観察させてもらうぞ? ――まぁ、安心しろ。四六時中見張るなどというわけではなく、気の向いた時だけだ」
そして、すっと女神の姿は消えていった。
代わりに飼い猫から感じる、彼女の気配のようなそれ。
「マジかよ……」
俺は、少しげっそりとしながらそう漏らすのだった。




