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3.女神アリエッタ






 その声は、怒りを含んだ女のものだった。

 どうやらサターニャにも聞こえているのだろう、ひどく怯えている。


「いったい誰だ! 姿を見せろ!!」


 足にしがみ付いてくる娘のそんな姿を見ていられなくなり、俺は声を荒らげた。すると続いて聞こえてきたのは、くすくすという、どこかこちらを嘲るようなそれ。

 眉をひそめつつ、サターニャを背後に隠した。

 その時、頭の中に響く声が言う。


『よかろう。女神たる妾に喧嘩を売ろうという気概、買ってやろう』――と。


 そして、その直後に――湖面から光が放たれた。

 あまりに神々しいそれに思わず見惚れてしまいそうになるが、同時にもの凄く眩しいものだった。自然と腕で顔を覆って、目を背ける。


『くくく。生半可な覚悟の人間ならこれで逃げ出すところだが、な』


 ――どうやら、お前は見どころがある。

 自らを女神だとそう呼ぶ声は、愉快そうにそう口にした。

 やがて光が一か所に収束し、人の形を作りだす。果たしてその正体は、




「え……?」

「どうだ。声も出まい! 妾の美しさに絶句するがいいわ!!」

「………………………………」




 齢十代半ばという感じの、ちっこい女の子だった。

 ある意味で絶句した俺。しかし、それを勘違いした少女は高笑い。

 羽衣のようなものに包んだ、その薄っぺらい胸を張ってこう宣言するのだった。


「このように人間に姿をさらすのは、数百年振りか! ――それならば、此度は特別に妾の名も教えてやろうではないか!!」


 ……いや、聞いてませんけど。

 勝手に話を進められることは癪だったが、ツッコみを入れる間もなく。



「妾の名は、アリエッタ――湖の女神アリエッタである!!」――と。



 高らかにそう告げるのだった。





「そんで? そのアリエッタは、なにをしに出てきたの」

「む、女神を呼び捨てにするな下郎」

「下郎……」


 湖面に広がるように伸びた蒼い髪。

 そして金の瞳をした女神(自称)アリエッタは、俺の言葉に不機嫌に鼻を鳴らした。下郎呼ばわりにはイラッとしたが、この少女が只者ではないのは確かだ。

 下手にこれ以上、機嫌を損ねるようなことをするのは悪手に思える。

 そんなわけだから、ひとまず話を聞くことにした。


「さっき、異端だとかなんとか言ってたけど……」

「うむ。人間らしからぬ存在の力を察知したのでな、そのことだ」

「あー、うん。なんとなくだけど、把握した」


 そこまで言われて、俺は状況を察する。

 異端の力というのは言うまでもなく、サターニャのそれだろう。仮にこのアリエッタが本当に女神だとするならば、反応してもおかしくはなかった。

 でも、ここで一つ考える。


「で、それの出どころは分かったんですか?」


 一向に攻撃らしきものを仕掛けてくる様子はないアリエッタ。

 もしかしてと思って、そう訊ねた。すると、


「うむ。分からぬ!」


 何故か、自信満々にそう返事をする女神である。

 どうやらハッキリと、その発生源までは探知出来ていないらしい。だがしかし、アリエッタはこのようにも続けた。


「だが、お主らから気配を感じたのでな。残り二人には眠ってもらった」

「なるほど、な」


 少なくとも、その程度までは分かっているらしい。

 俺は少し考えてから、アリエッタに向かってこう言った。



「その異端ってのは、俺だ」――と。



 しれっと、なんの迷いもなく。

 女神を名乗る少女に向かって、嘘を放り投げた。


「なに……?」


 すると、目の色が変わるアリエッタ。

 後ろに控えるサターニャは、会話の意味が分からないのだろう。首を傾げて俺のことを見上げていた。そんな娘の頭をポンポンと優しく叩いて前を向く。

 そして、ニッと笑みを浮かべてこう言った。


「だとしたら、アリエッタはどうする?」


 それは――挑発。

 どうして、このようなことを言うのか。

 それはサターニャに危害を加えられないよう、注意を逸らすためだった。俺か娘か、異端の力の出どころが判断できてないなら、俺がそれを被ればいい。

 そうすることで、サターニャが安全になるなら身の安全など関係なかった。


「くっ、くくくく! 面白い! ――女神たる妾に、勝負を挑むというのか!!」


 アリエッタは、心底おかしそうに笑って言った。

 同時に強大な魔力の高まりを感じる。


 それを察知して、俺は確信した。

 この少女が自身を女神だと、そう称したのは嘘ではない、と。


「ならば、神の名のもとに死ぬが良い!!」

「くっ――!」


 俺は護身用のナイフを取り出して、構えた。

 普通なら逃げて然るべき場面。だが、後ろにはサターニャがいた。

 娘を守らないで、なにが父親か。それに、ここで逃げるような弱い姿を見せるのは、父親の在り方として間違っていると、そう思えた。


 だから、圧倒的な力の差があろうとも。

 俺はアリエッタに立ち向かい――。



「ねぇ、おねぇちゃん?」



 戦闘を開始しようとした、その時だった。

 いつの間にか前に出ていたサターニャが、女神にこう声をかける。



「パパと、けんかするの……?」



 どこか、泣き出しそうな声色で。

 羽衣の一部を掴んで、首を傾げながら相手を見る。



「………………………………」



 硬直する女神アリエッタ。

 彼女は、数秒の間を置いてからこう叫んだ。




「かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」





 


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