8.悲しきかな
「ももちゃ~ん、ごはんだよ~!」
「にゃ~」
ペット用の餌箱を必死に開けるサターニャ。
その隣では拾った子猫――『もも』が、今か今かと待ち構えていた。
娘が餌を皿に入れると、ももは元気よくそれに食らいつく。そんな様子を少し離れた位置から眺めて、俺は小さく笑った。
最初は心配だったが、サターニャは一生懸命にももの世話をしている。
起きてから一緒に託児所に行って、帰ってきてからもずっと一緒だった。
今では託児所のアイドル的な存在になっているらしい。
「これはこれで、本当に良かったのかもしれないな」
餌代やその他諸々の経費については、棚ぼたの昇格のお陰で賄えていた。
だから心配だったのは、サターニャが途中で世話に飽きてしまう、ということ。だがそれも杞憂だったらしく、心優しい我が娘にはあり得ないことだったらしい。
そのことが、とにかく誇らしい俺だった。
「さて、それじゃ――」
それでも、納得いかないことが一点だけある。
俺は娘と飼い猫に歩み寄り、同じ目線になるようしゃがんだ。そして、
「よ、よしよし~……」
ももを撫でようと、ゆっくり手を伸ばした。
すると、それに気付いたももは――。
「フシャ――――――ッ!!」
「んぎゃーっ!?」
突然に怒り、俺のその手を引っ掻いた。
まだ幼い猫のそれとはいえ、痛いものは痛いのだ。
「こ、こいつ、どうして俺には懐かないんだ!?」
思わずそう声を荒らげてしまう。
その声にももは驚いたのか、さささっと、サターニャのもとへ。
彼女もそれを抱え上げて、よしよしと、優しく頭を撫でるのだった。
「パパ、おかおがこわいよ~?」
「………………」
そして一言。
無慈悲な、そして無垢なそれを向けられた。
顔が怖いというのは生まれつき。なんだったら、幼少期の孤児院では、そのことで女の子に嫌われていた。何もしてないのに――そう、何もしてないのに!!
なんだろう、小さなトラウマに元気を奪われていった。
「パ、パパ……?」
そんな様子の俺を見て、どこか気まずそうにサターニャはこちらを見る。
自分の一言が父を傷付けたと思っているのだろうか。
満面の笑みを浮かべて、こう口にするのだった。
「サターニャは、パパ、だいすきだよ!」――と。
俺の脳内に、電流が走る。
その言葉はきっと世の父親なら、娘に言われたい言葉ナンバーワン!
「サ、サターニャぁぁぁぁぁぁっ!」
だから自然と、歓喜のままに俺はサターニャを抱きしめようとした。
すると当然、もものことも抱きしめることとなり――。
「シャ――――――――ッ!?」
「ぶふっ!?」
今度は、顔面を引っ掻かれた。
もうやだこの猫。
のた打ち回りながら、俺はそう思うのだった。




