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一章 ❺ ワタシと師匠

ゴォンッ!!


「ふぁっ!?」


とんでもない音と共に、金属製の扉が凹んだ。


あちゃー。まだ力加減がうまくいってないや〜。


ドンドンドン…


んっ?


「くぉらぁーーーー!!!


誰だ俺の工房にカチ込んできやがったのはぁーーー!!!」


師匠の背は高い。二メートルを超える。


何故かといえば、巨人族ジャイアンツと、古ドワーフ《エルダードワーフ》のハーフだからだ。


だから、身長は高い方とはいえ百七十センチそこそこの私とは、目線が一瞬合わない。


その間ブルブルと大きく震えている私。


「あー?馬鹿弟子じゃねーか!お前何しやがった!?遂に師匠のタマ取りに来やがったか!?」


ヤバイやつだ…マジで怒ってる。


「御免なさい師匠。力加減がまだうまく出来なくて…」


「あー?力加減だぁ?何でそうなる…」


師匠は考えてる。


そして厳つい顔をさらに厳つくして、漸く心辺りに至ったようだ。


「お前まさか…『怪力』に目醒めやがったのか?」


さすが師匠、話が早い。伊達に百歳以上歳をとっていない。


巨人族ジャイアンツも古ドワーフ《エルダードワーフ》も、人間より長命で力が強く鍛治に向いている。


師匠は七十歳頃に、狩人ハンター稼業を引退して鍛治の世界に入ったそうだ。


「はい…」


「いつだ…」


「昨日です」


「チッ…」


自分が丹精を込めて作ったドアを一回撫でる。


「…分かった。もういい。取り敢えず中に入れ」


師匠が工房の中に入るのに続いて私も中に入った。


中は綺麗に片付けてあり、今迄の作品で納得したものだけ飾ってある。


半月は空けてた筈なのに綺麗なのは、師匠の鍛治に対する純粋で真摯な思いの現れなんだろう。


そしてその感じで、弟子にも接してくれると本当に有難かったりする…。


「で、おそらくあれだな?『怪力』に、俺が精魂込めて作ったモーニングスターが耐えられなかったんだろう?」


「はい…。コレです」


街中に入ってから、カードに収納していたモーニングスターを現出させる。


「おー。反ってやがる。コイツは鋼鉄製なんだがなぁ…」


「で、師匠にはこの武器の鑑定と、この金属から何か武具を作って欲しいんです」


そう言いながら、オーガ討伐時に拾った武器と金属をカードから現出させる。


「あぁ?こりゃぁ…」


師匠の目が光る。一瞬で職人の目に変わっている。


「はっ。コイツは金属じゃねぇ。


材質はどっちも同じ、魔界の奥地にそそり立つ魔導樹バガンだ。


そのバガンの一部を切り取って作ってやがる


こっちの塊はこれから何か作る所だったんだろう結構な量だ」


「その…魔導樹バガンって?」


「魔界の奥地に、魔素が濃過ぎて魔族や魔物でも立ち入れない場所がある。


その魔森の奥で、特に魔素の伝導率が高く硬い魔樹だ。


神鋼オリハルコン緋鋼ヒヒイロカネには劣るが、かなり良質な鋼材だ」


「でも木なんですよね?燃えちゃわないかな?」


「残念ながら、コイツはちっとやそっとの火力程度じゃ燃えやしねぇ…。


それに魔術なんかの魔素を元にした攻撃だと、逆に魔素に変換する。魔導樹の所以だ。


しかも他の鋼材との親和性が高く、素の鋼材の長所を伸ばしつつ魔導力を上乗せする


そこいらの鍛冶屋じゃぁ一生で一回お目にかかれりゃあいい方だ」


「師匠はコレから武具を生成出来る?」


「おうよ。楽勝…とまではいかんが、今日中にモノになる武器を一本仕上げてやる」


「本当!?」


「あぁ、使う度に壊されちゃこっちも叶わんしな。だが、いくら『怪力』を使ったって言ってもな、鋼鉄製のモーニングスターがこんなに反るなんてこたぁ無いはずだ。何と戦った?」


師匠は目を細くさせてる。


自分の生み出したモーニングスターが、刀と呼ばれる、切ることに特化した武器より反っているからだ。


「魔化オーガです。因みに、魔化オーガやこの素材も使ってみんなの武具を強化したいんです」


師匠の顔が引きつっている。


「馬鹿な事を…。お前らまだ五等星フィフスだろうが!?何でそんなのとやり合うんだ!」


「えっと…成り行きで?あ、昨日から四等星フォースだよ」


「いつ戦いやがった!」


「今日。最初オーガ三体だけだったんだけど、最後のオーガを倒したら出て来たの」


「お前…馬鹿だろ…」


「はい…。さっきハンターズギルドでもお説教されました…」


「ふぅ〜」


師匠は深いため息を付いている。


「だ、だって!無我夢中だったの!一生懸命だったの!そしたら時間は遅くなるし!魔化オーガの顔は吹っ飛ぶし!」


「あぁ?時間が遅くなる…?そういう事か…」


師匠は合点がいったという感じで溜息を付いてる。


「お前…その遅くなった時間の中で、モーニングスターに有りっ丈の力をぶち込んだろうが?」


「えっ?うっ…うん」


何でそんな見て来たようにわかるのかな?


「お前いま『何でそんな見て来たように』とか思ってんだろうが…」


ふぁー!?見抜かれてるぅ!!


「当たり前だ!俺も昔やらかしたことがあるからな…」


「えっ?師匠も『怪力』持ってるの?」


「馬っ鹿!俺のは剛力だ」


あれ?でも…


「『怪力』なんてスキルは早々現れねぇ…同時に領域ゾーン持ちなんてのはもっと現れねぇよ!」


領域ゾーン?」


領域ゾーンは、スキル外スキルに属するやつだ。


スキルとして認められないスキルが、世界には存在していて、スキルの解放条件もさっぱりだ。


人によっては、集中の極限の先に在るものとか、生命の起源に属するものとか言ってるがな」


「そんなスキルあるんだ…」


「要するに、常時発動型でも有意識発動型でもない…無意識発動型に属するやつだ。


然も、全ての人間に備わっているが、発動出来る人間は極極一部だ。


そんなスキルをスキルだと、世界は認めないんだろうな。


因みに、俺は百年以上生きてるが、三回しかこのスキルが発動したことがない」


えぇぇ…。


「そんなスキルが…」


「そして余りにもこのスキルの発動率の低さから、口伝や奥義の部分でしか伝授されない。


こんな事をヒヨッコのお前らに伝えたところで、どうしようにもならんしな」


「ご、ごもっとも…」


「まさか…お前が領域ゾーンを発動するとはなぁ…血は争えんという事か…」


「えっ?」


「お前の親父も両方同時に発動したことがあるしな…


そして決まってそんな時は武器を壊す」


「えぇ…」


ダメじゃん…


「恐らく自分の中で拡張された時間に、絶えず『怪力』を溜め込む」


「ふむふむ」


「普通なら一秒から二秒程度のスキルの力の上乗せだ。


それが領域ゾーンの所為で、時間が五倍から十倍に引き伸ばされる。


すると一秒間に一回しか上乗せしないところを、五秒間に五回分、武器に上乗せしている事になる。


そして、それだけの負荷が武器にかかる


つまり鋼鉄程度の剛性と弾性では、武器の人生が軽く終わる」


驚愕の事実…


「じゃぁどうすれば…?」


「さっきも言ったが、早々発動するもんじゃ無い。


だが、発動した時の対処として三つある。


一つ、控え目にスキルを使う。


一つ、武器では無く、体の方に力を分散させる。


一つ、武器の周りに纏わせる。だ」


「えっ?」


「剛力なんかのスキルに目醒め、何の鍛錬もなく使い続けると絶対に身体を壊す。


俺がお前に武器に力を流すよう仕込んだのはそのせいだ。


男よりも女の方が、身体の剛性が低いからな。


まぁその分、柔軟性が高いわけだが…」


「そっかぁ…ちゃんと考えてくれてたんだ…」


「お前今聞き捨てならん事を言わなかったか?」


「な、何でもないです!はい!」


冷汗が頬を伝う…。


「まぁ…これからバガンの鋼材で作る武具は、魔力のみならず、純粋な力の伝導率も高い。


それを使って、日々実践と練習を繰り返せば、いずれ普通の武器でも十分壊さずに使えるようになる」


「な、成る程…」


「今日から寝る前に、バガンの武具を使って鍛錬しろ。


勿論バガンの武具は剛性も柔軟性も高い。


ちょっとやそっとの事では壊れん。


身体に分散させるなら身体三、武具七を目処に使え


武具に纏わせるなら、身体二、武具五、纏い三程度でやれ


今迄培ったスキルの行使力と、蓄積された時間で、ある程度の負荷にもお前の身体は耐えれる様になってる筈だ


先ずは、単純な力の分散に慣れてから、武具への纏わせを練習しろ。


そしてこの鍛錬で、一瞬で力配分が出来るようになるまでは、実践では絶対に使うな。


単純に危険だからな」


「はい!師匠!!」


「お前の親父が若い頃に同じような事を言ってやった気がするな…」


「んふふ…」


「なんだ?」


「あの強い父さんも、そんな時が有ったんですね…」


「当たり前だ。どんな生き物も、より良い教え手が導かなければ、単なる力の暴発を招く。


その時の結果は…悲惨だぞ…?」


かなり詰め寄られて、険のある顔が視界いっぱいに映った。


「は、はぃぃ!!」


「よしよし…全くお前ら親子は修行のし甲斐のある…」


満足そうだ…。


こっちはヤだけど一々胸に突き刺さる。


確かに、マルクやユーゴにまた同じ気持ちにさせたくは無いもんね。


「さて金の話だ。今回、材料はお前ら持ちだから技術料だけってことになる」


「お…お高いんでしょうか?」


「ん?そうだな…余った魔化オーガの素材を、こっちで引き取らせてくれりゃぁチャラでいい」


「ほっ!本当に!?後、オーガ三体もあります!引く取ってください!!」


「あぁ構わねーよ。魔化オーガとオーガの素材…というか殆どまるまるっと…何てのは早々手に入らねーし、俺も今回の修行の成果を試したいしなぁ」


「良かった〜」


「そうだ、サービスしてやっから今日飲み代くらいは貰おうか?」


「い、幾らですか?」


「金貨一枚だな」


「あっじゃぁ今払います。はい」


「おっと…お前…羽振りが良くなったじゃねぇか…」


「今回、魔化オーガの討伐で特別報酬が出たんです!」


「まぁ…そうだろうな…あんなもんが跋扈されちゃあ世も末だ…」


「私、家族の生活費に報酬とか入れたら、後はお菓子か武具しか使う所無いから…」


「あれ?師匠?私変な事言いました?」


師匠の目が線になってる。


「いや、何でもぇ…」


『普通はもっと違うとこに金かけんじゃねぇのか?』


「さて、後は魔化オーガとオーガの素材を外に積んどきますね?」


「あー、解体屋を呼ぶからちょっと待ってろ」


と言いつつ、師匠はドスドスと外へ出て行った。


ちょっと暇なので、壁に掛かった大剣を手に取って、片手で振り回していると、解体屋一同(十人程度)が庭先に雪崩れ込んできた。


「どっ何処だ!魔化オーガを捌くなんてのは久しぶりだ!」


「俺の肉断ち包丁が火を噴くぜ!」


「今日は血の雨が降るぜ…」


「ヒャッハー!!!」


「……師匠?」


「おっ…おう…。


どうも俺が修行に行ってる間、ロクな解体が回って来なかったらしくてな?


血…いや、仕事に飢えてんだよ」


ギラギラした目をしたヤバイ人達から目を逸らし、師匠とだけ話をする。


「じゃぁ…外に…」


「あぁ…頼むぞ…」


師匠でも、ノリに乗った十人の切り裂き魔を直視出来ない。


素振りしていた大剣を壁にかけ、そして…背後からの視線を痛いほど受けながら外に出た。


そして魔化オーガ達を現出させようとすると、直ぐに止められ共同解体場に連行された。


共同解体場の中は独特な雰囲気と冷気、更に血生臭い臭いで充満していた。


臭気がこの程度で済んでいるのは、冷気で獲物の鮮度を高め、腐敗を抑えているからだ。


そして、壁にはいくつもの包丁や鉈、鋸も掛けてあり、このかなり広いスペースに、何も置いていない六つの大きな台が置いてあった。


その台の下には溝が彫ってありピンを刺す穴もある。


恐らく大きな仕事の場合は台を移動させて、協力して解体をしているんだろう。


「嬢ちゃん」


「はっはい!」


「あぁ〜そんなに固くならなくてもいいよ。


誰も取って喰う何てヤツはおらんから」


何故だろう信用できない。


「お嬢ちゃんが持ってきたオーガは、一体でこの台一つで足りるかい?」


「あっ、十分だと思います!」


「じゃぁ載せていってくれ」


「はい」


載せるだけだから、私のやる事はあっという間に終わり、後はお任せすることにした。


師匠の鍛冶工房に戻ると、大き目の黒板の前に立って睨めっこをしている師匠がいた。


「おぉ、戻ったか。


取り敢えず、お前とユーゴの武器、そしてマルクの小手を第一優先で作る。


次に三人揃いのマント。


最後に、お前の盾の補強とマルクのレザーブレストプレート、ユーゴのレザーアーマーだ」


「はい」


おー凄い。師匠に任せておけば間違いがない。


師匠の本当に凄いところは、こう言った気配りと、そのパーティーに合った武具をチョイスしてくれる所だと思う。


「特にお前の武器は大至急作る。リクエストはあるか?」


「えーっと…怪力のせいか、武器が全体的に軽く感じるんです。


だからちょっと重い武器でもいいかなって」


「ふん。まぁそこの大剣を片手で軽々と振り回せる位だ。余程『怪力』が馴染んでるみたいだな」


「はい!いきなり熟練星が全部埋まってました!」


「んん〜!?又お前は訳の分からんことを…」


「剛力から怪力にスキル変化があったのは昨日だし、多分、一気に全開したとしか…」


「『怪力』はスキルとしてはAランクだが、最早人の領域を超えている。


それがいきなり全開しているとなると、次も見越して武器を作らにゃならんな」


顎髭を撫でながら考えてる。


「バガンの素材だけじゃ恐らく持たんから、魔化オーガの腕の骨と結合させて、強度を補う方向に持って行くか!」


「な、なんか大事おおごとに…」


「全く…お前ら親子は何でこう鍛冶屋泣かせなんだ…」


「なぁんだ、父さんもかぁ。」


私があっけらかんと笑うと、


「ど阿呆!!」


と鬼の形相をした師匠の一喝が、お昼にもかかわらず三軒先まで響いた。

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