違う人がいるよ
未完結だけど思いつかないしお終い。
仕事で地方出張。
その地方都市では名の知れた、いわゆる地盤企業への営業だった。
もともと契約が大前提だったらしく、こちらが一生懸命説明することもなく向こうからの問いにこうですああですと答えるだけで、最初の打ち合わせは終わった。
仕事がスムーズに終わる分だけありがたく、後は顔合わせ的な要素が大きく、軽く身の上話なんかをして打ち合わせは終わった。
その会社は繁華街からは少し離れていて、そこまで路線バスが通っているわけではなかったのでバス停でソシャゲのガチャを回して待っていた。
やはり名の知れた地盤企業のバス停とあって、待ってる人が2,3人いるのだが、なぜかよそよそしさというか、落ち着かない雰囲気を感じていた。
変な街だなぁとか思いつつ、やってきたバスに乗った。
私はバスの座席は一番後ろの角が好きなので、お気に入りのポジションが空いてることに喜びを感じながら座った。
繁華街行きとだけあって、バスは座席が半分程度埋まっていて、この街の生活路線なんだろうなあとか思いつつ、またソシャゲに戻った。
10連回して、よっしゃ、狙ってたのが出たぞとちょっと喜んでいると、やはりバスの中からよそよそしさを感じた。
私が独り言でも呟いてしまったのかと思いつつ、軽く咳払いをして恥ずかしさを誤魔化した。
バスが停留所で止まり、また何人か乗ってきた。
ご年配の老人で、大声で馬鹿笑いをして乗り込んできたが、バスをぐるっと見渡すと、なぜか顔を近づけてヒソヒソ声でなにか喋っていた。
きっと、このよそよそしさは何事かと話していたんだろう。
そんな事を視界の端で観察していると、次の停留所に止まった。
何人か小学生が乗り込んできて、席に座るとチラチラと後ろの方向に視線を感じた。
なにか面白いものでもあったのかと私も振り返ったが、特に何の変哲もない住宅街の光景が広がっていた。
その小学生が、突如後ろを振り向いて言った。
「知らない人がいるよー?」
窓の外に尋常ではない人がいたのかと、私は外を眺めていたが誰もおらず、その小学生に目線を移すと、あからさまに私の方を指さしていた。
だから私は自分を指さし、俺か?とジェスチャーしてみると、
「そうだよ、おじさんだよ」
おじさんとは失敬な。
しかしバスのよそよそしさは頂点に達した。
答えはどうやら私らしい。
いろんな人がこっちを向いてヒソヒソ声で喋り出した。
バスの運転手からも、バックミラー越しで視線を感じる気がする。
地元の人しか使っちゃいけないような、税金で動いてるバスなのかと一瞬思ったが、よくよく考えれば乗る時にICカードをかざしたし、普通の路線バスなのだ。
別に気にする事もないか、外国人がバスに乗ってる時ってこんな感覚なのかと思いつつ、バスが終点につくのを待った。
田舎が余所者に排他的なのは珍しい話ではない...がそれはもっとド田舎の話だと思っていた。
ある程度発展していても、こんな感じなのかと少々びっくりしたが、外国人も日本でこんな思いをしてると思えば、難しい話ではないと思った。
が。
バスの運転手がバス会社と連絡を取っているようで、トランシーバーでなにやら会話をしていた。
すると、急に車内放送で、
「一番後ろのお客さん、次の停留所で降りて貰えますか」
と呼びかけられた。
いよいよ少しおかしいな。
停留所で止まり、わかってはいたけど無視をしていたら、
「わかるでしょ、他所から来てるんでしょ。降りて」
とまた呼びかけられた。
前に座っていたお客さんに小突かれ、「あんたのことだよ」と言われた。
そこまで言われたら無視して座り続けるのも難しいと思い、席を立ちあがってバスから降りた。
「どうもすいませんね」
とバスのスピーカーから呼びかけられたと思うと、バスは過ぎ去っていった。
まぁ、ここからはさほど遠くないし、いいのだが。
繁華街に向かって歩いていると、人々の視線をやたらと感じる。
しかも冷たい視線。
なんだなんだと困惑していると、ひとりの老人から声をかけられた。
「余所者だねあんた」
私も思わず立ち止まり、答える。
「そうですが...先を急ぎますので.....」
振り切ろうとした。
「見りゃすぐわかる。あんたは余所者だ。」
「だったらどうだっていうんです?」
「匂いでわかるんじゃよ。この土地の血の匂いがせん」
「いや、だから、だったらどうだって....」
「あんた、どうせあっこの会社と商談しに来たんじゃろ」
「どうしてそれを?」
「匂いじゃよ。この土地で生まれ育った人間はな、鼻がよう効く。鼻っちゅうのは、別に嗅覚のことやないで。ま、この土地の者にならんとわからんと思うけどな」
「わかりました。この土地の人ではないとして、何が問題なんでしょう?」
「問題じゃ。」
「だから、なにが?」
「帰れ」
「は?婆さん大丈夫ですか?」
「お前のいていいところじゃないんじゃよ」
※終わってないけどおしまい※