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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死にたいんですか?勇者さん




「ん?今なんでもするって言ったよね?」


 青年が私に向かって問いかけます。

 今私の目の前にいるお方は勇者様。世界を救うためにあちこちの魔物を討伐して回る偉大なお方です。

 私たちは今、薄暗い洞窟にいます。

 私のすぐ隣には、先程まで生きていた巨大な生物の骸が転がっていました。

 勇者様の手に持った剣は血に濡れています。横たわる巨大な魔物は、勇者様によって討伐されたのです。

 そして勇者様が私に提案します。


「なら僕を殺してくれないか?」


 私は驚きましたが、なんでもするといった手前、なんでもするしかありませんでした。




 どうしてこうなったか?

 事の発端は、この洞窟に魔物が住み着いたことでした。

 魔物は強大で、たまたま近くにあった私の村の人々が何人も襲われ帰らぬ人となりました。

 その魔物は知能がある魔物だったようで、私たちに向かって提案をしたのです。


 一週間に一度、女を洞窟に生贄に捧げろ。

 そうすればお前たちは生かしておいてやる。


 魔物は女の肉が大好物だったようで、比較的女が多い私たちの村に狙いを付けたようです。

 女が多い理由としては、一昔前にあった戦争で男手が減ってしまったことが挙げられます。


 戦う事を恐れた私たちは、生贄を捧げることを選んだのです。

 週に一度、村から女が選ばれて洞窟に捧げられていきました。

 首を振り逃げ出そうとする女性。妹の為に自ら身を捧げた女性。自分の為に魔物に歯向かい、殺された婚約者の後を追う為に期日でもないのに洞窟に向かった女性……

 今まで五十人余りの女性が犠牲となりました。

 そして、ついに私の番が訪れたのです。


 不思議と恐怖はありませんでした。無論ちっとも怖くなかったかと言えば嘘になりますが、

 自分の前に先達として散った女性が五十人もいるとなれば、私が拒否するのはお門違いなのではないか?そんな風に思っていました。

 むしろ、孤児であった私が後回しにされていた事に驚きを感じていた程でした。


 洞窟に向かう時は一人でした。

 確かに天涯孤独の身でしたが、さすがに少し寂しいと思いました。

 友人は全くいない訳では無いのに、どうして見送り一つないのか考えた所……

 私と親しくしていた人間は、既に全員生贄に捧げられていました。


 一人納得した私は速やかに洞窟に向かう事にしました。

 監視が無かった為、逃げようと思えば逃げられる状況でしたが、

 小娘一人が生きて他の町まで辿りつけるとは思いませんでしたし……

 私は素直に洞窟に向かう事を決めたのです。


 そこそこ長い道中を終えると、洞窟の入口が見えました。

 洞窟の入口に立つと、ひんやりした空気が中から漂ってきます。

 夏の日中を歩いて来たので、その涼しさは私にとって大変ありがたいものでした。

 念のため、挨拶をします。


「すいませーん。魔物様のお宅はこちらでしょうかー?」


 一瞬の静寂。

 場所を間違えたかと思い踵を返そうとした私に、洞窟の奥からおどろおどろしい声が響いてきました。


『生贄か!早う来い!』


 どうやら間違いでは無かったようです。

 ホッとした私は洞窟の中を進んで行きました。


 洞窟の中には青い鉱石が転がっていました。

 私も普通の女子なので、こうした綺麗な光景は見ているだけでもうっとりしてしまいますが、

 焦れた魔物が洞窟を揺らし始めたので急いで奥に進みました。

 こんな綺麗な景色が崩れて消えてしまっては勿体無いですし。


 そして私は魔物がいる最奥までやってきました。

 洞窟の奥は、不思議と明るく、闇に不自由することはありませんでした。

 魔物は巨大なワニのような風体をしています。

 特徴としては背中に水晶のようなトゲトゲがあることぐらいでした。

 ワニは私を見て嘆息します。


『今回の女は随分と貧層だな』


 魔物の言葉に私はつい自分の体を見下ろしましたが、成程確かに貧層です。

 孤児ゆえに満足な食事を得られず、私は痩せっぽちで低身長でした。

 その事実に私はあることに思い至ります。


 もしや……村人たちが私を差し出さなかったのはあまりに貧相な私に魔物が機嫌を損ねないか心配だったからでは?


 そう思うと納得がいきます。肉だと言われて目の前に出されたものが骨と皮だけの残飯だったら、私もテンションが低くなります。

 まあ私の場合は食べますが。

 貴重な食べ物ですし。


『ふん。まあいい。俺様は上機嫌だからな』


 ご機嫌を損ねてしまうのではないかと冷や冷やしましたが、どうやら杞憂に終わったようです。

 ふとワニの足元を見れば、血に塗れた赤い肉塊がありました。

 肌色の皮膚や、茶色く長い髪の毛などが散らばっていることから見て人間で間違い無いでしょう。

 ワニの口元にも、ピンク色の腸らしきものがありますし。


 成程。私よりも先に女を一人食していた為機嫌が良かったという事ですか。


「その子の後に食べますか?」


 私は魔物に尋ねました。

 一つの料理を完食せずに次の料理に手を伸ばすのは行儀の悪い事ですし。


『いや、こいつは男であまり旨くない。新鮮でやわらかいやつが喰いたい』


 どうやら先客は男性のようでした。

 確かに女性と男性、どちらがおいしそうかと問われれば、私も女性と答えるかもしれません。

 しかし、男性にしては髪の毛の量が多く、もう既に肉の塊なことも相まって傍から見れば女性にしか見えませんでした。


「その、失礼ですが女性の方に見えますが……」


『ああ、面白い事にこいつ、女の格好をして洞窟に入り込んできやがった。短剣を隠し持ってやがったが、そんなので俺様は傷付かない』


 成程。女装した方でしたか。

 どうやらこの男性は、女の振りをして魔物に近づき、短剣で刺し殺そうとしたようです。

 しかし、魔物には勝てなかったのでしょう。


『愉快な奴だった。俺の事を「妹の仇!」と呼んでいやがった。遊んでいたら結構粘ったからな。中々楽しめた』


 どうやら私は先客である男性に感謝する必要があるようです。

 何せ魔物が満足していなければ、機嫌を損ねて村を襲っていたかもしれないのですから。


 とりあえず、食べられる準備をしましょう。

 私は着ている衣服を脱ぎ始めました。


『うん?何をやっている?』


 私の行為に疑問を持ったのか、ワニの魔物が問いかけてきました。


「いえ、食べられるときに服はいらないでしょう?破れたり、食べられてしまってはもったいないですし」


 私の衣服は孤児にしては少し上等な麻布色のワンピースでした。

 村の裕福な家庭からのお古で、私の数少ない自慢の一つです。

 こんな服を無駄にするなんてもったいない!

 洞窟に誰が来るか分かりませんが、もしかしたら拾って持ち帰るかもしれませんし、

 魔物も服はあまり食べたく無いでしょう。


『ふーん。面白い奴だな。だが女の肉に飢えている。早く喰わせろ』


「はい、ただいま」


 ワンピースを脱いで畳み、洞窟の端に置いておきます。

 下着なんて上等なもの履いているわけがありませんし、靴を脱いでおしまい。

 生まれたままの姿になった私は、ワニの前に身を晒します。


 しかし先客さんの食べられ方は随分痛そうだな……

 丸呑みの方が痛くないかな?でも胃の中でゆっくり溶かされるのは大分嫌だなぁ。

 首を折って殺してもらった後に食べて貰いたい……だけどそこまでリクエストすると機嫌を損ねてしまうかも。

 それに生きたまま食べることが趣味かもしれないし……う~ん、人生最期の考え事だ。悩ましい。


 なんて事を思考していたら、目の前にワニの顎が大きく開かれていた。

 ……頭の位置を移動させて牙で頭を砕けないかなぁと思っていると。


「そこまでにしてもらおうか、クリスタルアリゲーター」


 洞窟の入口の方から待ったの声が掛けられた。




『ぬう?何者だ小僧』


 ワニに待ったを掛けた声の主の方を向けば、確かにまだ少年と言って通じそうな容姿をしていました。

 金に近い茶髪、上等そうなマント、右手に構えた鉄の剣……

 端正な顔立ちも相まって、まるでお伽噺の主人公のようでした。


「僕は勇者だ。君を討伐しに来た」


 成程。正真正銘お伽噺の主人公、現役の勇者様でしたか。

 勇者様は各地に出没する魔物を鎮める為、各地を回っているという噂でしたが、

 まさかこんな辺境の地にもいらっしゃるとは。


『勇者か!恐るるに足らん!』


 ワニの魔物は私を突き飛ばし、勇者に向かって飛びかかります。

 私は尻餅をついておしりの皮が剥けてしまいました。痛い……


 勇者は飛びかかってくる魔物に向かって剣を一閃します。

 すると当たってもいない筈なのに、ワニの右前脚が切断されてしまいました。


『GAYAAAAAAAAAAAAAAA!!』


 悲鳴を上げて仰け反り、壁に激突するワニの魔物。

 洞窟が揺れ、天上からパラパラ石が降ってきます。


「む。手早く片付ける。でやぁ!」


 掛け声と共に再び剣を振り抜き、ワニの魔物は胴から真っ二つに寸断されてしまいました。ワニは断末魔さえ上げず、その体から命を捨てました。

 巨大なワニは倒れ伏し、村の悲劇は見事終幕を迎えたのでした。


「ふぅ……怪我は無いかい?」


 勇者様が話しかけてきます。

 おしりが若干痛いですが、これは怪我では無いでしょう。


「だ、大丈夫です」


「そうか……あれは君の服か?着るといい」


「あ、ありがとうございます」


 そういえば裸だった。

 私は勇者様の気遣い通りワンピースに再び袖を通した。


「女性を辱めるなんて……なんて下種な魔物だったんだ」


 あ、ワニの魔物にあらぬ嫌疑がかかってしまった。

 とはいえ訂正する必要も無い為そのままにしておく。

 スルーってやつね。


 私は頭を下げて勇者様に礼を言う。


「助けていただき、ありがとうございました!このお礼は必ずいたします!」


「礼なんていいさ。当然のことだ」


 勇者様はそう言うが、村の危機を救ってくれたのだ。

 何か礼をしなくては釣り合わない。

 しかし疲弊した今の村の現状では大した謝礼も用意出来ないし……


 なら私の身を捧げるべきかな?

 どのみち魔物に捧げる筈だった身だ、村の為だと思えばあまり惜しくは無い。


「そんな!是非ともお礼をさせてください!私に出来ることならなんでも(・・・・)します!」


「ん?今なんでもするって言ったよね?」


 勇者は私の発言に目を光らせると、こう言った。


「なら僕を殺してくれないか?」




 突然の勇者様の発言に戸惑います。

 私が訳を聞いても、なんら不思議ではないでしょう。


「ど、どうしてでしょうか?」


 勇者様は心底疲れた顔で溜息を吐きます。


「疲れた……ということだね。生きることに」


「生きることに……」


 聞いてもあまりピンときませんが、ならばなぜ……


「でしたら、自刃なさったらいかがでしょうか?」


 死にたいのならば、自殺する方が手っ取り早い。

 今目の前で魔物に立ち向かった方なのだ、勇気が足りないという事もあるまい。

 勇者様は私の言葉に、溜息と共に呟きました。


「出来ないんだ……」


「はい?」


「僕の体は丈夫すぎて死ねないんだ」


 えぇ……

 確かに勇者は天の神から加護を受け取り、常人とは一線を画した肉体を持っていると言われていますけど……

 自ら死ねないほどに丈夫って、そんなことがあり得るのでしょうか?


「何度も剣を自分に突き刺した。死ねなかった。首を吊って死のうと思った。ロープが耐えられなかった。毒を飲んだ。全く効かなかった」


「えぇ……」


 思わずドン引きしてしまった。

 というかそんなに死にたがっていたんですか……


「だから人の手によってならば、死ねるかと思ったんだ」


「はあ、それで私に」


「身内に殺してくれっていっても聞いてくれなくてね……だったら赤の他人の君に頼んでみようかなって」


 そりゃあ、家族に殺してくれっていったら聞いてくれないでしょう。

 私家族いませんが。


「ですがそれなら、先程の魔物に抵抗せずに殺されれば良かったのでは……?」


「そしたら君が死んでしまっていただろう?僕の自殺に人を巻き込むわけにはいかない」


 確かに、勇者様が斬ってくれなければ私は間違い無く先客と同じ肉塊になっていたでしょう。

 優しい人のようだ。優しいが故に、心が病んでしまったのかもしれない。

 ならば力になるべきだ。


「分かりました!介錯させていただきます!」


「おお!助かるよ!」


 こうして私は、勇者様の自殺に手を貸すことになったのでした。




「まずはじめに、オーソドックスに首絞めを頼む」


「了解です」


 洞窟の地べたに寝っ転がった勇者様に馬乗りになり、首に手をかけた。

 女性の非力な力でも、頸動脈を抑えれば簡単に人を殺せる。

 ましてや体重を掛けることが出来るこの体勢ならばなおさらだ。


「行きますよー」


「うん。これで終わってくれればいいなぁ」


 勇者様の首を全力で締め付ける。

 両腕に自分の全体重をかけて押しつぶす。

 なるべく血流を止めるように意識し、そのまましばらく首を絞め続けた。


 五分程はたっただろうか。

 勇者様の呼吸は完全に止まっている。

 苦しげに顔を歪め、血も止まっているため顔面蒼白だ。

 だけど未だ動き続け、苦悶の表情で目を見開く。

 そして私の手をタップしてギブアップ宣言をした。

 どうやらこれは苦しいだけで死ねる兆候はなさそうだ。


「はぁ~駄目だったか」


「呼吸止めても動けるんですね」


「昔溺死しようとしたこともあったけど、苦しいだけだったよ……」


「はぁー壮絶ですねぇ」


 気を取り直して次に行こう!




「次は剣で突き刺してくれ」


「それは駄目だったんじゃ……?」


「人の手によれば違うかもしれない。神様の盟約的なサムシングで」


「サムシング」


 勇者様の剣を受け取り、持ち上げ……重っ!


「こ、これ持てません~!」


「あっと、女性には無理だよなそりゃ。分かった、こっちを使ってくれ」


 そう言って勇者様は先客さんの肉塊から短剣を拾い上げました。

 血に濡れたそれをマントの端でゴシゴシ拭き取ります。


「い、いいんですかマントを汚してしまって」


「まあ、自分の死に装束だし……僕が納得できるならいいんじゃない?」


「まあ、確かにこれから血に汚れるわけですけど……」


 私は短剣を受け取って勇者様に切っ先を向けて構える。


「い、行きますよ!」


「きちんと刃は立ててね!君が怪我しちゃうから!」


「ええ~い!!」


 私は短剣を勇者様の胸元に向けて思いっきり突き刺した。

 短剣は細身だが切れ味は抜群だったようで、勇者様の胸に深く突き刺さった。

 血が滲み出し、徐々に服を赤く染めて行く。

 仕立てのいい服を汚してしまう罪悪感があったけれど、それより勇者様の様子だ。


 勇者様は痛みに顔を歪めていたけれど、じっと自分の胸元の短剣を見つめ続けた。

 しかし首を傾げた勇者様は私に言った。


「残念ながら心臓を外れたみたいだ」


「え、そうなんですか……難しいな」


「確かに心臓をいきなり狙えってのはハードル高かったよね。内臓狙いにしようか。短剣を抜いてお腹に刺して」


「分かりました」


 勇者様の胸元から短剣を思い切り引き抜く。

 胸から血がバシャバシャ飛び出して私を返り血で濡らす。

 その様子に勇者様は申し訳なさそうな表情になる。


「すまない、服を血で汚してしまった」


「この位なんてこと無いですよ」


 血の染みは頑固だから、落とすのになかなか苦労するだろうけど、

 でも掃除や洗濯は得意技だった。

 ワニの魔物に村が襲われた時も死体の掃除係をやったし。


 私は勇者様から抜いた短剣を今度は勇者様のお腹目がけて突き立てる。

 ズブリと確かな感触を感じる。肝臓か、膵臓辺りを刺せたかな?


「滅多刺しにした方がいいですか?」


「う、ぐ……そうだね、お願いできるかな?」


「任せてください!」


 短剣を抜いて、刺す。今度は胃を貫いたかな。

 短剣を抜いて、刺す。捻って傷口を広げてみよう。

 短剣を抜いて、刺す。もう一回心臓にチャレンジ。


「ご、ごふっ」


 勇者様の口から血が溢れ、地面に零れる。どうやら自分の血が気管に溜まり溺れてしまったようだ。

 気を失った勇者様はその場で倒れ込み、自らが作った血だまりの中にバシャリと音を立て倒れ伏してしまった。


 死ねただろうか?

 勇者様曰く生きていたならば傷は勝手に再生するという事なので様子を見る。


 やがて日も暮れ始め、暖を取る為に外に薪を集めに行く。

 今夜はここで野宿かな?食料はどうしよう。孤児院では一日夕食を抜くぐらい良くあったけど。


 薪を集めて洞窟に戻ると勇者様が立ちあがっていた。

 どうやら死ねなかったようだ。

 こちらに気付いた勇者様が手を上げて話しかけてくる。


「やあ、帰ってしまったかと思ったよ」


「確かに、書置きぐらいはするべきでしたね……地方語は分かりますか?」


「この辺?いや予習してないなぁ」


「じゃあ残しても無意味でしたね」


 とりあえず集めて来た薪を血に濡れていない地べたに置く。


「駄目でしたか」


「駄目だったね。気を失って、やったか!?って思ったけど……」


「溺れただけでしたね」


「でも気を失うなんて快挙だよ。水に溺れても意識はあったんだから!」


「確かに……進歩ですね」


「「あはははは」」


 二人で頷き、笑い合う。

 これなら無事自殺できる日も遠くなさそうだ。




 今度は集めて来た薪を使って火葬を試してみましょうか。

 そんなことを言って勇者様と笑い合う。

 なんていうか、久しぶりに心から楽しい気分になった。

 勇者様も同じみたいで、私に殺してほしいと依頼した時よりも随分元気になっている。

 たくさん自殺を試みて、デトックスになったのかな。




 火葬も失敗に終わって朝になる。どうやら燃やし尽くそうとする端から再生してしまうようだった。

 そろそろここを出ようと言う勇者様に続いて私も洞窟を出た。

 朝焼けの空は、今までで一番輝いて見える。


 ……もう、終わりなのかな。

 寂しい思いで旅支度をする勇者様を見る。

 救われて、お願いを聞いて、笑顔に魅せられて……


 何のことは無い。

 私も普通の女の子だったというだけだ。


 勇気を出して声を出す。


「あ、あの……勇者様!…………」


 声を掛けたけど、その後の言葉が出て来ない。

 あまりの気恥ずかしさに俯いてしまう。

 だけどそんな私の目の前に、勇者様の血だらけの手が差し伸べられた。


「その……まだ死ねてないから……もうしばらく自殺を手伝ってほしいんだ」


 その言葉に、私は弾かれたかのように顔を上げる。

 勇者様は、少し照れくさそうに頬を掻いている。

 顔が赤く染まって見えるのは、私の妄想か、朝焼けの反射か、血に濡れているからか。

 勇者様が目を合わせて私に微笑む。


「それから、様づけはちょっと好きじゃなくてさ……長い付き合いになりそうだからさ」


 私は、差し伸べられた勇者様の手を――ううん。


「はい!……勇者さん!」


 勇者さんの手を取った。

 二人で手を繋いで歩いて行く。


 ひとまずは、もっと強い火力を求めて火山に行きましょうか?








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