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七草 二
しんと冷えた空気の中目にした光景に、なぜか疼くように胸が痛む。
我知らず、八千代は穂積の姿を見つめていた。
思う相手に尽くすことを厭わない、優しい穂積。
幼い頃からその純朴な性質は変わらないのだな。
が、はっとして自分を取り戻すと同時に、
不覚の思いが八千代の中にこみ上げた。
くそ、女々しい奴め。
自分で遠ざけておいて女々しいこの俺。
八千代はわざと荒々しく足音を立てて近づいた。
穂積が顔を上げた。
「あ、兄上。おはようございます。お早いお目覚めですね」
色白な顔をほころばせ、そう声をかけた穂積に答えず、
八千代は無言で目の前に立ち見下ろした。
穂積の脇には、種別にきちんと集めて並べられた七草の籠があった。
「父上と、あいつにか」
「父上とお爺様に、ですよ。兄上にも、召し上がっていただきたく思って…」
穂積がいい終わらぬ間に、八千代は籠を蹴り上げた。
薬草を散らし、穂積の頬や装束に黒土が降りかかった。
「俺は青臭いものは嫌いだ!」
驚きと恐れを滲ませた穂積に鋭く冷たい一瞥をくれて、
八千代は背を向けた。