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七草 一
穂積はもう、目覚めたろうか。
いや、あいつのことだ、今頃は。
夜が白々と明ける頃、
八千代は寝床から跳ね起きた。
邸の外に飛び出すと、寒気が肌をつく。
八千代は走り出て薬草園に向かって駆けた。
吐き出す息が白く弾み、漂う間も無く消え失せる。
やはりいた。
手前一面に広がる白い水仙の園。
その向こうの薬草園に、屈み込む穂積の姿があった。
早春の今朝、穂積が七草を摘みに来ることは承知していた。
病に臥せっている父、蘇芳帝と穂積が敬愛する祖父、玄武院のために。
父はともかく、穂積があいつを「お爺様」と呼ぶたび虫唾が走る。
立ち止まった八千代の目の前に、白いものが散らつく。
雪だ。
白い頬を寒さに上気させ、
黒い睫毛を伏せた穂積は無心に薬草を摘んでいる。
ほの紅い指先に、緑の草が瑞々しく映える。
黒々とした土の上に、淡く大きな雪の片が舞い、
彼が纏う葡萄茶の衣の袖にも降り積もっていく。