第11話 『黄泉オンライン』 その5・画面越しの響華と輝夜の密約
青い髪のイケメンの青年、ハナヤギヒビキの中身は炎乃響華だった。
《 水城輝夜>>響華さん!?
>>ハナヤギヒビキ:そう
水城輝夜>>男キャラで作ったの!?
>>ハナヤギヒビキ:現実にろくな男がいないから試しに自分がなってみたわ
水城輝夜>>俺のこと? 》
輝夜は考え無しにチャットに打ち込んだ言葉に、自分自身でダメージを受け「うっ……」とうめく。すると、ゲーム内でヒビキが輝夜の傍にあぐらをかいて座った。
《 ハナヤギヒビキ>>へえ。どの辺がろくなもんじゃないのか話してもらおうじゃない 》
完全にやぶ蛇だった。しかし後の祭りである。輝夜はクラフトを止めて、ヒビキの隣に体育座りで腰掛けた。
どうも性別とタンク・ヒーラー・アタッカーで座るモーションが違うらしい。男性のヒーラーはなんでこんなに弱そうなのだろうかなどと現実逃避をしていたが、ヒビキ――響華の追求が始まった。
《 ハナヤギヒビキ>>で? アンタがろくでもないところは?
>>水城輝夜:……顔とか
ハナヤギヒビキ>>気にしているくせにリアルと同じ顔でゲームやるとかマゾいわ
>>水城輝夜:これはランダム選んだら出されたんだよ!
ハナヤギヒビキ>>別に女顔でも良くない? 不細工じゃないんだし。むしろ素材良いわよねアンタは
>>水城輝夜:響華さんはこんな顔の俺を男だと思える……?
ハナヤギヒビキ>>論外。好みじゃない
>>水城輝夜:やっぱり!
ハナヤギヒビキ>>でも女って男の美醜だけで恋愛しないのよね
>>水城輝夜:男だってそうだよ
ハナヤギヒビキ>>ふーん。じゃあ、アンタが敦美を好きになった理由は? 》
直球で問われ、画面外で輝夜はぐっと言葉に詰まる。どうタイピングしようか迷い、悩みに悩んで、結局素直に打ち明けることにした。顔を真っ赤にしながらチャットを打ち込む。何だか普段より大胆な会話が出来ている。やはり文字のやり取りだからだろうか。
《 >>水城輝夜:ひとめぼれです
ハナヤギヒビキ>>顔じゃん。ちなみに敦美は容姿に頓着しないわよ
>>水城輝夜:え!?
ハナヤギヒビキ>>敦美にとって大事なのは天使だけ。イケメンだろうが全部スルー
>>水城輝夜:天使?
ハナヤギヒビキ>>どんな男も桜の思い出には勝てないわ 》
(桜……それって――)
幼い輝夜と敦美が出会い、約束を交わした桜並木。響華が指摘しているのはきっとそのことだ。
輝夜の頬が熱く熱を帯びてくる。期待を――してもいいのだろうか。輝夜なら、敦美が振り向いてくれる可能性があるのだと。
《 ハナヤギヒビキ>>顔の問題はろくでもない要素じゃないわ。じゃ、他には?
>>水城輝夜:他って
ハナヤギヒビキ>>自分がろくでもないと思うところはもう無いわけ?
>>水城輝夜:あ。力が無い……
ハナヤギヒビキ>>あるわ。次
>>水城輝夜:いやないよ!?
ハナヤギヒビキ>>皇族なんてトップクラスの地位持っている奴が何ぬかしてんの
>>水城輝夜:そうじゃなくて俺が物理的に強くないって話!
ハナヤギヒビキ>>別に生きていくのに不都合ないでしょ。そもそもアンタが弱いってどういう観点の評価よ……
>>水城輝夜:不都合ある! 機國さんを守れない!
ハナヤギヒビキ>>は? アンタは領地ランカーにならないでしょ。人を守る必要ないわ 》
(……え……)
一瞬、頭の中が真っ白になった。しかし直ぐにはっと意識を引き戻す。するりと胸の内にずっと抱えている気持ちを打ち込んだ。
《 >>水城輝夜:俺は機國さんが困っている時には助けられる男になりたくて
ハナヤギヒビキ>>私が助けるし、敦美なら他にもツテがある。必要ない
>>水城輝夜:でも 》
――でも、輝夜は助けると誓ったのだ。それが、9年振りに再会した敦美と新たに交わした約束。輝夜が本当に守りたい誓い。
《 >>水城輝夜:俺が1番邪魔なのはわかってるけど 》
自分で打ち込んでおきながら、鬱屈した文字の羅列にショックを受けた。指がキーボードから離れ、微かに震える。思わず無意識に打ち込んでしまえるほど、卑屈な感情から出た確かな結論なのだ。
響華の方からのレスポンスも少し遅く返ってきた。
《 ハナヤギヒビキ>>輝夜が邪魔なわけがない。寝とぼけたこと言わないで 》
不覚にも、響華の断言に心が強く揺さぶられる。輝夜は白練色の瞳を揺らしてその言葉を何度も頭の中で読み返した。
《 ハナヤギヒビキ>>私が敦美との立場を考えろって言ったのを気にしているわけ? 前にもまじめに考えるならいいって言ったでしょ。敦美はあんたのことでカケラも困ってないから 》
――いつか月族本家の迎えが来ていなくなる癖にいい加減な気持ちで近寄るな、自分の立場を考えて敦美にアプローチしろと、響華に地下で怒られたのは2週間以上も前のことだ。
(……響華さんこそ覚えてたのか。ずっと俺に言ったことを気にしてくれてたんだ……)
《 ハナヤギヒビキ>>まさか、いなくなろうなんて考えてないわよね。失踪なんて 》
ドキリと鼓動が跳ねる。頭の中でも覗かれているような的確な指摘に、輝夜はPCの前で狼狽した。
《 ハナヤギヒビキ>>藍領地の領境防壁をどうやって越えるつもり? そもそもまとまった生活費は持っているの? その後の生活はどこまで現実的に想定しているか聞かせてくれない? 》
「馬鹿なことを考えるな」と即座に頭ごなしに怒られると思っていた輝夜は、一瞬ぽかんと口を開けた。とても現実的なつっこみをされている。
しばし、目を白黒しながら天井を仰ぎ見て再びPCの画面に向き合い、目を泳がせながら答えを打ち込んだ。
《 >>水城輝夜:お金は持ってないけど、父さんが嫌なら逃げてもいいって。お金を貸してくれると思う。領境や移動手段の問題は電須佐由さんに頼むつもりでいて 》
自分で書いておいて、随分見通しが甘くふわふわとした家出の計画なんだなぁと思った。輝夜は冷静な頭で真剣にそれなりの計画を立てたつもりだったが、全然冷静じゃなかったのだと気付かされる。頭に血が上っていたようだ。
《 ハナヤギヒビキ>>ふーん、父親が絡んでいるなら敦美のことだけが理由じゃないわね。ひょっとして電谷と話した?
>>水城輝夜:やっくん? まだ学校じゃなかったっけ 》
輝夜は部屋の時計の針を確認した。午後14時7分。午後からの授業の真っ最中だ。
《 ハナヤギヒビキ>>話してはないわけね
>>水城輝夜:響華さん、ひょっとして授業中にゲームしてる?
ハナヤギヒビキ>>私は敦美の家で仕事してるわ
>>水城輝夜:じゃあ今は休憩中なんだ
ハナヤギヒビキ>>領王の命令でゲームやってんのが仕事
>>水城輝夜:ゲームが仕事……
ハナヤギヒビキ>>輝夜。失踪する時は私に声かけて。金銭の面でも協力してあげる。あんたほわほわして世間知らずだから、大変さがわかってなさそうで放っておけない 》
(……え……?!)
《 ハナヤギヒビキ>>私が味方になってあげる。敦美じゃなく、輝夜の味方にね 》
響華の提案は輝夜を心底驚かせた。ここまでの輝夜の言葉で賛同してもらえるとは思わなかったのだ。しかも輝夜に協力までしてくれると言うのだから。
(響華さんが味方になってくれるなんて心強い)
《 ハナヤギヒビキ>>ただし条件が1つ 》
条件……? と目を瞬かせ、期待に胸を膨らませて次の言葉を待った。
《 ハナヤギヒビキ>>今日、敦美に告白すること 》
「えええええぇぇっ!?」




