表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠る月の皇子  作者: 古波萩子
第3章 叡智の眺め、MMO『黄泉オンライン』
98/141

 第10話 『黄泉オンライン』 その4・メイン〝光族の神祇官〟と宙地原の創世神話

 正午にお向かいの草乃かやの恵兎けいとが帰ったので、午後から『黄泉よもつオンライン』を始めた。

 電谷でんやのキャラクターは、やはりオフライン表示だ。学校からは流石にログインしないらしい。


(えっと、メインクエストは神祇官じんぎかんに会うってところで止めてたんだっけ?)


 ゲームを再開しながら、頭の中でこれからゲーム内でやろうとすることを考える。

 メインを進めて、レベルを上げる必要があるのだ。

 他領地へ自由に移動出来るようになるためのサブクエストが、確かレベル25。それを早めにクリアしておきたい。


機國きぐにさん達はどこまで進んだんだろう)


 輝夜てるやす達とは違う領地でゲームをスタートさせた敦美あつみ達のことを考えながら、メインナビゲーションを確認した。

 《次のメイン目的・神祇官じんぎかんと面会する》と表示されている。クエストマークは水名みずな晴樹はるきの頭上についていた。

 カーソルを晴樹はるきにロックオンして話し掛けると、街中を俯瞰ふかんで映すムービーが始まる。時間が進んだことを示した街並みや空の風景が映し出された後、街の通りに屋台が建ち並び、色とりどりの提灯が飾られ、お祭りといった姿に街は様変わりした。

 気付けば、祭り状態の街中にぽんっと輝夜てるやすのキャラクターは放り出されている。

 隣には、巫女姿の闇束やみづかかすみが立っていた。彼女にクエストマークがあったので話し掛ける。


《 「おはようございます。この間振りですね。お話は水名みずな殿から伺っていますから、私がはく様にお引き合わせ致します」 》


 輝夜てるやすが首を傾げると、闇束やみづかは巫女衣装の袖を掴んではにかんだ。


《 「こう見えて、闇族やみぞく神祇官じんぎかん見習いなのです。まだ私には神祇官じんぎかんとしての細かい見極めが出来ないんですけど……」 》


 闇束やみづかに先導されながら、祭り会場から少し離れた豪奢な天幕へと向かう。そこには新たな人物がいた。ムービーに切り替わる。

 白装束の青年――? だろうか。角度によっては童顔で少年にも見える。ひょっとしたら輝夜てるやすと同じ10代の年齢かもしれない。白に近い金髪に紫色の瞳。どこかオドオドとしていて背を丸め、不安そうな目を輝夜てるやすに注いでいた。


《 「貴公が族長の言っていた人間か。だけど、本当に私と同じ悪霊が見えているのか? 闇族やみぞくでも無いのにうさんくさい奴……。これ以上、私のような厄介な例外はいらないぞ……」 》


 青年に声はない。渋い顔をする彼を闇束やみづかが頭を下げてなだめていた。彼と闇束やみづかは師弟の間柄という設定らしい。年齢も大して変わらない風なのに不思議だ。

 青年の台詞テキストの名前部分はまだ《 ??? 》だが、輝夜てるやすは既に名前に見当がついていた。攻略サイトのQ&Aに書かれていた〝光耀こうよう様〟だと思う。

 すると、『かぐや』が呟いた。


『――主上、9年前に会いに来たのはこの神祇官じんぎかんだったかと』


(え!?)


『当時はもう少し幼い姿でしたが、この方です』


(そっか……。この人が亡くなった神祇官じんぎかん……)


 輝夜てるやすはゲームキャラクターの神祇官じんぎかんをじっと眺める。それでも会った記憶が思い出せずに肩を落とした。

 実は御天日みあめひ凰十おうとの記憶も輝夜てるやすにはあまりない。輝夜てるやすは彼を慕っていたはずで頻繁に会ってもらっていたのだが、電拳でんつかつるぎとの記憶の方が鮮明で――何というか、人は本当につらかった時期や嫌だったことはいつまでも覚えていて、楽しかった記憶は忘れやすいのだなとつくづく思う。


 〝???〟の青年は、溜息を吐くと不承不承に話し出した。


《 「本来、神祇官じんぎかん闇族やみぞくしかなれない。他種族にはその資質の力が備わっていないからだ。しかし、私のような光族ひかりぞくという例外もいる。私の名はコウヨウ。良い意味でも悪い意味でも稀代の神祇官じんぎかんといわれ、これでもはくくらい持ちだ」 》


 彼が名乗ったので、次の台詞テキストの名前には《コウヨウ》と名前が表示されるようになった。


《 「闇族やみぞくでもないのに、私と同じ目を持つという貴公の言がどうにも信用ならない。証明してもらおうか。今、この領地で彷徨さまよう3つの魂を黄泉へと還してみろ」 》


 台詞は尊大なのだが、コウヨウは眉を八文字に下げて輝夜てるやすと目を合わせない。顔は俯き、若干自信なさげに身体は縮こまっている。そんなコウヨウの姿に闇束やみづかも眉を八文字にして不安そうだった。何でこんなに似ているんだろうか、この2人……。


《 「待って下さい、伯様。この人には伯様のように魂を消滅させる光の力なんてないです。私と同じおふだはらうやり方で良いんですよね?」 》

《 「え……? うんー……」 》

《 「どうしてそんな苦虫を噛み潰したかの顔を!? 普通は種族能力で悪霊のお祓いなんて出来ませんってば! 私だって出来ませんよ!? これ、余っているお札です。良かったら使って下さい」 》


 輝夜てるやす闇束やみづかからおふだのアイテムを受け取った。5枚あり、消耗品だ。

 同時に次のクエストが発生する。《指定場所で人魂を3体倒す》と表示された。指定場所は広範囲で、地図の中に記された円形の表示は街とその付近のフィールド全てだった。


(あ。ひょっとして本当はここで初めて戦闘をする段取りだったのか)


 既に電谷でんやとともに、道すがら人魂の敵を倒しているのだが、どうやらもう一度、同じ敵を3体倒さなければならないようだ。2度手間である。


(でも、俺ってヒーラーだけど攻撃出来るのかな……?)


 不安を抱えつつ、街の裏路地にいる《人魂ひとだま レベル1》と戦闘を始める。種族能力は【回復の水】しか使えないが通常攻撃は出来るだろうと考え、素手で殴った。

 《ダメージ1》の表示が出て「!?」と驚く。あまりに与えるダメージが低い。

 人魂の方は、レベル2の輝夜てるやすに《ダメージ5》の攻撃をしてくる。体力を削られるので回復しようとすると、種族能力発動を攻撃でキャンセルされた。


(ちょっ!? 俺死ぬ! 殺される!!)


 何か無いかと慌ててアイテム欄を開き、お札が目に入った。それを使ってみる。すると、《ダメージ30》の表示で人魂が消滅した。


「強!?」


 思わず素っ頓狂な声が出た。消耗品なのでもったいない気がしていたが、イベントで貰ったアイテムは積極的に使っていけということだろう。お札を消費して残り2体の人魂もあっさり倒す。

 クエストを達成し、再び天幕へと戻ろうとしたら物陰からコウヨウと闇束やみづかが現れた。


《 「本当に悪霊が視えているな。いいだろう、私が神祇官じんぎかん見習いとして記憶喪失の貴公の身元を引き受けてやろう」 》


(戻る手間が省けてありがたいけど、この2人、祭りの進行をしなくて良いのだろうか……)


 ゲーム内のことながら、細かいところが気に掛かる。すると別の路地からNPC数人が徒党を組んで現れ、輝夜てるやすの疑問を解消してくれた。

 なんとコウヨウと闇束やみづかに因縁をつけに来たのだ。神祇官じんぎかんは宮廷の偉い立場だと思っていたので、このイベントには非常に驚かされた。


《 「こんなところでサボりですか? 嫌ならとっとと神祇官じんぎかんを辞めて下さい。ただでさえ真っ当な神祇官じんぎかんなのか怪しい輩なんだから」 》

《 「なっ! 無礼です! 伯様は歴代で最も視る力を持つ神祇官じんぎかんなんですよ!!」 》

《 「どうだか。他の歴代の方々は、ちゃんと闇族やみぞくだったっていうのにねぇ」 》

《 「貴方っ、伯様に族長候補として指名されなかったからって……!」 》

《 「闇束やみづか。このような私的な場で口にする話じゃない」 》


 コウヨウに鋭く制止され、闇束やみづかはすごすごと引き下がる。絡んでいたNPC達も近くの屋台の柱を蹴りつけ、唾を吐き捨てながら悪態をついて去って行く。輝夜てるやすはゲーム内のこととはいえ、彼らのガラの悪さにドン引きしていた。全員水色系統の髪色だったので水族みずぞくだと思われるのだが、あれが身内だとは思いたくない。


(って言うかリーダーっぽいNPC、水瀬みずせ英貴ひできさんっぽくなかった……? ムービーじゃなかったからよく分からなかったけど。顔が似ていた気がする)


 微妙に嫌な気持ちを抱えてアンニュイになりつつ、クエストクリアのSEを聞いた。レベルが3に上がる。

 続けて、闇束やみづかから次のクエストを受けた。そのクエストは祭りを楽しむ話だけで、特に戦闘もなくサクサクと話が進む。


 〝皇三こうさん節会せちえ〟の祭りは、街の中心から少し南東に下がった広場に円形の石舞台が作られ、祭壇に置かれた神聖な原始の石を崇めるという儀式がメインだった。皇族御三家をたたえるだけの軽い催しだと輝夜てるやすは思っていたので、神聖で厳かな儀式の雰囲気に良い意味で裏切られる。

 その石舞台に上がれるのは、神祇官じんぎかんのコウヨウのみ。石舞台の周りは一定の位置で注連縄しめなわが張りめぐらされ、一般の街のNPC達は近付いてはならない。近付けない彼らは遠くから祭壇を見つめ、手を合わせたり、頭を下げて思い思いに祈りを捧げていた。


 輝夜てるやすはこの広場の景色と位置に見覚えがあった。現実で水城みずしろ家と獣櫛じゅうくし家の家が建っている土地だ。

 そしてあの石舞台。周りが湖でもなく石畳も簡素なものなのだが、『かぐや』が居る精神世界の場所に酷似していた。初めて見る儀式だというのに強烈な既視感が沸く。

 輝夜てるやすは胸中で『かぐや』に訊ねた。


(これ、皇族御三家が表から消える800年前まで、現実でも本当にやっていた祭り……?)


『分かりません。月族つきぞくは皇族領地から外に出ることは叶いませんでしたから』


(そっか。……不思議なお祭りだなぁ。権力者の皇族御三家を敬おうってものじゃなくて、宙地原そらちのはらの創世神話を前提に皇族御三家を大事にしようって促すお祭りだなんて)


 ゲーム画面内の祭壇に向かって喋るコウヨウの台詞は、小難しい言い回しで創世神話を語るものだった。輝夜てるやすは一応手元のノートに書き込んでいたが、途中で古文の教科書に載っている一文が含まれていると気付き、学校の教科書を取り出して見比べる。やはり同じ内容だった。

 古文に載っている一文の現代語訳はこうだ。



 創世神話(いわ)く、宙地原そらちのはらの惑星の人類は石から生まれた。

 最初が宙地原族そらちのはらぞく。次いで時を同じく誕生したのが太陽族たいようぞく月族つきぞくである。

 彼らが宙地原そらちのはらの惑星に、他の生物が生きられる環境を作りし原始創造の存在。

 彼ら無くして、この宙地原そらちのはらの惑星は冷たき宇宙で現存できはしない。



(今まで創世神話を語る古文の言い回しって、随分と皇族御三家を誉め過ぎじゃないかって思っていたけど……。改めて読むと、警告みたいな文章だ。皇族御三家が居なくなると惑星が危ないって言ってる……? だからちゃんと大事にしろって念押しするのが〝皇三こうさん節会せちえ〟っていうお祭りの主旨なのかな)


 歴史の教科書も広げてみた。歴史の授業としては適当に流され、テストでも問題としては採用されない冒頭のページ、惑星の始まりという創世神話の現代語訳部分に目を向ける。




 ――広大な宇宙に浮かぶ塵芥ちりあくたとも言える無数の石の欠片かけら。それらが渦のように集まっている空間があった。

 ある時、赤い熱をまとった球がその渦に乗り、周りの石を溶かす。溶けた石達が1つに固まり冷えて、巨大な球体の石の惑星となった。


 それが、宇宙に生まれた地平の平原――〝宙地原そらちのはら〟という惑星の誕生である。


 宙地原そらちのはらとなった無数の石の中には、様々な外宇宙の欠片――微生物が含まれていた。

 空気も水も大地もない、無の惑星に適応するため、最初に動き出した微生物は生きられる環境を自ら生み出す進化を遂げる。

 その進化を思考したのが、のちの宙地原族そらちのはらぞくと呼ばれるもの。

 その思考に影響され、炎をまとった石を吐き出したのが、のちの太陽族たいようぞくと呼ばれるもの。

 炎の熱に惑星の地表が再び溶かされるのを防ぎ、その熱と光を抑えるための石の欠片を覆ったのが、のちの月族つきぞくと呼ばれるもの。


 最初の生物であり、原始生命体の太陽族たいようぞく月族つきぞく宙地原族そらちのはらぞくは、果て無き宇宙での時の中を生き続けながら石の中の様々な物質を活性化させ、惑星を生物が生まれる世界へと変え、長き活動時間に適応する進化をも遂げた――……




 ……眉唾だなぁと思わずにいられない。荒唐無稽で摩訶不思議なのだ、創世神話とやらは。この惑星には、ちゃんと空気と海と大陸と緑があるから余計にそんな否定的な考えになってしまうのかもしれない。

 現に180年前まで宙地原そらちのはらの創世神話は架空のおとぎ話とされていて、歴史の教科書には載っていなかったとページの端に注意書きがされている。


 小さな文字の注釈によると、転機は180年前の機械族きかいぞくの宇宙進出だった。

 世界初の宇宙船を飛ばした機械族きかいぞくは、「この惑星の傍に天体は無く、粒子のような無数の衛星の欠片が浮遊するばかりで、後はただ、光の無い闇の宇宙空間だけが広がっている。何故、宙地原そらちのはらの惑星内から見た空に、存在していない太陽と月なる天体が観測出来、その恩恵まであるのかが全くもって不明である」と発表した。その証拠として公開された宇宙の映像は当時世界を震撼させたという。

 宇宙から見た宙地原そらちのはらの惑星は、巨大な白い石そのもの。空気も水も緑も大地も無いように宇宙からは見える。オカルト過ぎる惑星だ。

 この謎は現在も解明されていないし、今後も永久に解明されない。機械族きかいぞくが宇宙の調査をそれ以降辞めてしまったためである。人工衛星は打ち上げても、惑星は科学的に調査し解明するべきものではないというのが機械族きかいぞく族長の弁、らしい。

 創世神話は架空か史実か――。現代に置いても賛否両論で答えが出たわけではないが、その宇宙の映像以降、歴史として取り扱うことになったと締めくくりに書かれている。



 輝夜てるやすは、ぼうっと歴史の教科書をめくりながらゲームを進めていく。

 ゲーム内のイベントでは、現在の皇族御三家を讃えるという話の流れでコウヨウの締めくくりの台詞に見知った名前があった。目が釘付けになる。



《 「御天日みあめひ凰十おうと『皇帝』陛下、御神地みかむちすめらぎ殿下、御満月みみつく夜重やえ殿下、お三方の安寧をここに願う――」 》



「みあめひおうとッ?!」


 思わず裏返った声が口から飛び出す。ガタンッと立ち上がってしまった。


(ちょっ!? このゲーム、凰十おうとさんもプレイヤーだったんだよね!? それともこの『皇帝』役をやってたの!? ええっ!? どういうこと!?)


 慌てて2階の自室から1階のリビングへ行き、窓際に座る篁朝たかときに興奮気味に話し掛けた。


凰十おうとさん、ゲーム内で『皇帝』設定だったんだけど! ゲームはしてなかったの!? それともゲーム内の『皇帝』凰十おうとさんって設定だけで本人じゃない!?」

「……」


 篁朝たかときの答えはない。篁朝たかときにぼんやりと虚ろな目を向けられて、輝夜てるやすははっとする。瞬間的な高揚はなくなり、冷静になってきた。


「いや……急にごめん、何でも無いよ。兄貴、ご飯食べ終わったんだね。お皿下げるよ」


 篁朝たかときの傍にあった皿を台所で洗い、2階の自室へと戻った。御天日みあめひ凰十おうとの名前に、ついテンションが上がってしまったが、今の篁朝たかときに聞いても答えは返ってこないのは分かっていたことだ。落ち着かなければ、と息を吐いてから気分を変える。



 ゲームの祭りに関する一連のクエストは、先ほどのコウヨウの台詞で終了した。場面転換をしたと思ったら、街の風景が最初の状態に戻っている。屋台や石舞台は綺麗さっぱりと消えていた。

 メインクエストは経験値が多いのか、レベルが4に上がる。このまま進めていけば、自然とレベルが上がっていく形なのだろう。

 しかし、戦闘のクエストが間違いなくあるはずなので、ヒーラーの攻撃力の無さを経験した輝夜てるやすは少々不安に思う。

 新しい種族能力を覚えたが、《【水の壁】水の防御壁を前方に出す。 効果:精神力を20消費して、40秒のダメージ無効化》という現実でも水族みずぞくがよく防御として使っているのを目にする能力だった。攻撃力が無い。


 装備を揃えるのが良いかもしれないと思い立ち、祓い屋や道具屋といったNPCが経営している店を覗いてみる。店には大刀・弓といった殺傷力のありそうなものから、扇子せんす・鏡・勾玉まがたま注連縄しめなわ・おふだといった戦闘には一見役立ちそうに思えないラインナップが正々堂々武器と称して並んでいた。

 しかしどれも高く、最低でも15000皇三銭こうさんせんする。ゲーム通貨は現実と同じだ。ちなみに輝夜てるやすの現在の所持金は950皇三銭である。

 消耗品のお札は1番効果が低いランクのものが1枚500皇三銭。1枚は買えるが悩ましいところだった。


(そういえば、プレイヤー同士でも売買があるんだっけ)


 〝旅の行商人〟というNPCが近くに立っていた。彼に話し掛けると《【旅の行商人】はプレイヤー同士の売買をするマーケットです。買う行為にはレベルが必要ありませんが、出品する場合は特定のサブクエストをクリアし、領地間移動を解禁する必要があります。》とテキストの解説が出る。

 マーケットは沢山の商品名が膨大に載っていたが、ほとんどの出品数は0。出品が1件あるものでも、9年前の出品履歴や落札履歴を最後に動きが止まっているものばかりで、輝夜てるやすの顔色が曇る。


翡翠ひすい革命で亡くなった人達の利用履歴か……)


 悲しくなってマーケットは閉じたが、収穫はあった。どうやらプレイヤーはお札が作れるらしい。製作者の名前入りの出品があったのだ。

 9999999999皇三銭という、売る気があるのかないのか分からない出品価格で置かれていた――後々、これは本当に売る気がなく、マーケットを倉庫代わりに使う結構メジャーなやり口なのだと知るが。


 輝夜てるやすは自分で作れるのなら作ろうと思い立つ。

 ゲーム内の特殊な電脳を開き、攻略サイトのクラフトの項目を見る。

 厄除やくよけ屋というお札や御守りのアクセサリーを製作するサブジョブがあると書かれていた。

 厄除け屋がある領地の一覧にたけ領地もあったので、輝夜てるやすは早速地図を見ながら厄除け屋に向かう。厄除け屋の主人には特殊クエストマークがついていた。

 話し掛けると、《厄除け屋の職業に就きますか? はい・いいえ》の選択肢が出る。《はい》を選ぶ。《厄除け屋のサブジョブが解禁されました》というアナウンスが出て、クラフト製作の説明が入った。

 最初から作成出来るお札作りは簡単で、原材料の紙(1枚5皇三銭)と硯(使用回数無制限300皇三銭)、一般流通筆(使用回数99、100皇三銭)と一般流通墨(使用回数99、50皇三銭)をNPCから買って、製作ボタン1つで完成するものだった。

 NPCの道具屋が1枚500皇三銭で売っている物を同じ金額で10枚作れるのである。しかも厄除け屋の主人は特殊なNPCで、プレイヤーが作成したお札1枚を150皇三銭で買い取りをしてくれるあきないもしていた。このお得感に輝夜てるやすは喜んだ。


 最初は武器を買うためのお金稼ぎのつもりでお札を作っていたが、次第に製作自体が楽しくなってきて、時間が経つごとに目的を忘れ、熱心にお札作りに励み続ける。


 厄除け屋のレベルが8に上がると、お札の文字を好きに打ち込めるというシステムがアンロックされた。色々悩んだ結果、どうにも気恥ずかしくて定型の《悪霊退散》のまま作ることにする。


(でも自分だけのお札かぁ……。ブランドみたいで面白い機能だな)


 電谷でんやが『黄泉よもつオンライン』の過疎化を嘆いていた気持ちが分かる。一般に公開されていて沢山の人がこのゲームで遊んでいたら、もの凄くカオスで面白かったんじゃないかと思う。


 唐突にピロンッと音が鳴った。

 《ハナヤギヒビキからフレンド申請がありました。許諾しますか? はい・いいえ》というメッセージが出て目を丸くする。


 座り込んでクラフトをしている輝夜てるやすの目の前には、いつの間にか青い髪のイケメンの青年が立っていた。

 頭上にあるプレイヤー名は〝ハナヤギヒビキ〟と表示されている。

 イケメンの口が動いていたので、話し掛けられているのに気付く。全く見ていなかったゲームのチャット欄を見た。



《 ハナヤギヒビキ>>こんにちは

  ハナヤギヒビキ>>何やってるの?

  ハナヤギヒビキ>>レベルいくつぐらい?

  ハナヤギヒビキ>>ひょっとしてタイピング苦手?

  ハナヤギヒビキ>>フレンド登録しよう

  ハナヤギヒビキ>>何かやりたいクエストあるなら手伝うけど 》



(無茶苦茶話し掛けられてた……!!)



 初めて知らない人とチャットするかと思うと、ドキドキと鼓動が早くなり緊張する。

 勇気を出して入力ボタンを押した。



《 >>水城輝夜:初めまして、こんにちは 》



 それに対して、相手は首を傾げるエモートをした。









《 ハナヤギヒビキ>>輝夜。私、響華だから 》








天体のこと:本物の太陽は、水素ガスの球体で宇宙の巨大な原子炉みたいなものです。


 だから太陽族とは一切関係がありません。

 炎を纏った石を太陽として便宜上太陽族を名乗る彼らは、疑似太陽の種族だと認識していただけたらと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ