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眠る月の皇子  作者: 古波萩子
第3章 叡智の眺め、MMO『黄泉オンライン』
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 第5話 『黄泉オンライン』 その2・ゲームスタート



『――教えてくれたゲーム……響華きょうかも誘っていいかな、水城みずしろ君』

「う……うん。響華きょうかさんもいいよ」

『――ありがとう』

「じゃ、じゃあ、改めてメールでゲストアカウントとパスワード送るよ。ゲーム自体は『黄泉よもつオンライン』で検索したら出て来るサイトで、ダウンロードするんだ」

『――分かった。家に帰ったらやってみるね』

「う、うん」

『――じゃあ、また』



 そこで、通話は切れる。

 輝夜てるやすは耳から離した携帯端末を、呆然と見つめて呟いた。


「あれ……? 俺、仁芸にぎ君とじゃなくて、何故なぜ機國きぐにさんと話していたような……。夢……寝ぼけてる?」

「てるやん、しっかり! 夢じゃないですことヨ!?」


 軽く錯乱する輝夜てるやすに、電谷でんやがしっかりとつっこみを入れる。

 輝夜てるやすはメールを誤送信したのだろうかと、携帯端末内の履歴を確認した。しかし、仁芸にぎで合っている。それに敦美あつみの携帯番号を輝夜てるやすは知らない。電谷でんやも隣で輝夜てるやすの携帯端末の画面を覗き込みながら首を傾げる。


「博士の携帯が近くにあったのを代わりに取ったとか……? いやんっ、『マスター』ったらいくら弟のだからってプライバシーの侵害はいかんですぞー」

「あ、それで……。そっ、そっか。それ、うちの兄貴もたまにやるよ」

「マァッ、下のキョウダイってしいたげられてるのがデフォなの!?」

「虐げられてるのかな? でも、そんな大袈裟なことじゃないと思うけど」

「そーいうもん? 俺はひとりっ子……? ってやつなんでその微妙な感覚よく分からんっすね」


 輝夜てるやすは段々と冷静になってきて、はっと目をみはった。


機國きぐにさんと響華きょうかさんもゲームやるんだ!? って言うかさっきの俺、機國きぐにさんに変なこと言ってなかった!?」

「ナイナイ、大丈夫。むしろ電話を掛けてきた『マスター』の発言の方が謎に包まれておりましたワー」

「良かった……」


 輝夜てるやすは、ほっと胸を撫で下ろす。

 その様子を見て、電谷でんやは「ふむ」と頷きながら顎に手をやった。


「てるやんって、本気で『マスター』が好きなんデス?」

「えっ!?!」


 思わず動揺して、持っていた携帯端末を床に滑り落とす。輝夜てるやすは自分の顔が真っ赤になっているのが分かった。頬は熱いが心の中は焦って冷や汗を掻いている状態だ。

 輝夜てるやすの慌てっぷりに、電谷でんやは視線を泳がせてポリポリと頬を掻く。


「えーと、……告白は、しないの?」

「うぇっ!?」

「や、ごめん。野暮なつっこみだった」


 電谷でんやがあえてPC(パソコン)の方に顔を向けたまま、頭を下げる。「てるやんは、おうちの事情もありますもんね」と続ける電谷でんやの横顔を見ながら、輝夜てるやすは自分自身に驚いていた。


(そういえば……、全然自分の気持ちを伝えたいって考えたことない……)


 敦美あつみに好かれたいと思って色々と行動していたが、ストレートに告白をするという考えには至らなかった。――いや、無意識に目を逸らしていたのだ。輝夜てるやすは告白が怖い。

 ふっと、拳を振り上げる昔の兄の姿を目の前に幻視する。輝夜てるやすはビクリと身体を震わせた。



『僕は、お兄ちゃんが好きだよ』

『お前……っ、月族つきぞくじゃない俺を見下しているのか!』



 背筋が凍る。幼い頃、震えながら一生分の勇気を出して伝えた親愛の言葉を、暴力で返されたあの日は――もう遠い。


「迷惑……迷惑になる、んじゃないかな。俺に告白されるって……」


 輝夜てるやすが暗くうわごとのように零した言葉に対して、電谷でんやはからりと明るい声で答えた。


「それはてるやん、『マスター』本人に伝えてみなきゃ分からないことっすよ! なんてったって『マスター』は、てるやんの素性も事情も全部ひっくるめて知っておりますからね。迷惑ならバッサリ断ってくれますよ! 悩むだけ損ソン! 当たって砕けてさっさと悩み解消しちゃうといいですぞ」


 輝夜てるやす白練しろねり色の瞳を瞬いた。電谷でんやの遠慮の無い言葉に笑いが込み上げてくる。


「ふ、ふられるの前提……!」

「だって『マスター』忙しそうなんですもん! 恋愛より仕事タイプの女子にしか見えませぬ」

「確かに機國きぐにさんは、いつも仕事で学校に来てないけどそれって俺のせいで」

「いやいや、てるやんのせいじゃないっすよ。というか、てるやん全然関係ないから!」

「え……?」

「『マスター』の自業自得っすね。長年サボってた授業の補習をしているようなもんデス。いや、ガチであのお人、ずっと放置していた自分の仕事を急にやり出したから忙しいだけなんで。本来はねぇ、てるやんが引っ越してこなくてもやってなきゃな仕事なのです。てるやんが気にする要素は全く無し!」

「そう、なんだ……」


 輝夜てるやすは、電谷でんやにはっきりと断言されたことで胸のつっかえが軽くなる。


「でも俺から告白って、命令みたいにならないかな。月族つきぞく、だし……」


 電谷でんやは不思議そうに輝夜てるやすを見て、首を横に傾げた。


「はて? この自宅に軟禁状態のてるやんのどこに命令なんて権力があります?」

「うっ……」


 グサリと胸に刺さる的確な指摘だった。「フハハハ、告白からは逃れられぬのだ!」と電谷でんやはコミカルに笑った。


「そっかそっか、てるやんは『マスター』が好みっと。俺と同じで年上好きかと思ってたから、結構意外な感じ」

「やっくんは年上好きなんだっけ」

「フヘヘ。やっぱね、大人の女性の存在感って良いよね。芯のしっかりした、自分を持っている女性が好きだよん」

響華きょうかさんみたいな……?」


 輝夜てるやすは、地下運河で頼もしかった響華きょうかの背中を思い出す。しかし、電谷でんやは難しい顔をして腕を組んだ。


「んー、エン様かぁ」

「同い年だから好みじゃない?」

「や、エン様はね。ののしり方もスッパリとしてて、手厳しく素晴らしい逸材なのですが」

「罵り方……?」

「エン様は俺と同類っていうか、あい領地で自分の居場所を探してキョロキョロしているのが、ちょい俺の中のしっかり者像と外れるんっすよ」


 一瞬、電谷でんやの顔に悲哀の色が浮かんだように思った。


(〝自分の居場所〟――……ああ、そうだ。やっくんはあい領地を自分の故郷だって、電脳技術屋の仕事を大事にしていたんだ。でも、友達と他の電脳族でんのうぞくのためにそれを手放した。本当は辞めたくなかったんじゃないか……?)


 輝夜てるやすの頭の片隅で、自身の家出の計画がよぎり、後ろめたく感じた。電谷でんや輝夜てるやすと違い、逃げずに周りに強制された電脳族でんのうぞく族長を務めるのだ。

 輝夜てるやすの中で迷いが生まれる。本当に電須でんす佐由さよしに連絡を取って頼むようなことなのか、自問自答する。しかし答えは出ない。


(『かぐや』は――……)


 『かぐや』に答えを求めようとして、直ぐに打ち消した。彼に頼るのは間違っている。輝夜てるやすが決めるものなのだから。



「ではでは、てるやん。そろそろ休憩はここまでにして、ゲームのキャラクター作成を再開しましょー!」

「あ、うん。そうだね」


 電谷でんやに促され、輝夜てるやすも気分を切り替える。PCの前に座り直した。


「やっくん。俺、ランダムで行くよ」

「ほほう。リアルと同じ顔とは冒険しますな!」

佐由さよしさんのゲームをやっている他の人って、翡翠ひすい革命で兄貴の味方側だった人達だけで関係ない一般領民は遊んでないはずなんだ。そんなに現実と区別しない方が、そういう人達とゲーム内で会った時に話し掛けやすいと思う」

「じゃ、俺も便乗して。この際名前もリアルのままいきます?」

「うん」

「ひゃぁっ、本名と顔晒しプレイとか初めて! ヒジョーに恐ろしいですわぁ! ドキドキ!」


 輝夜てるやすはキャラクター作成の決定ボタンを押す。すると、確認のシステムメッセージが表示された。



《 水族みずぞくたけ領地スタートです。所属する皇族派閥は月族つきぞくになります。皇族派閥の恩恵は特にありません。

 このキャラクターでゲームを始めますか?  はい・いいえ 》



「皇族派閥の恩恵って何だろう。それにたけ領地ってどこ?」

あい領地の昔の名前っすよ」

「え!? そうなんだ!?」

「正確には、あい領地と他の4つの領地の全部を含めた島全体の領地のことを、たけ領地って呼ぶのさ。皇族御三家が表に居た時の大昔の領地名ですな。領地争いのせいで、5つに別れちゃったらしいからねぇ」


 電谷でんや輝夜てるやすの疑問に答えながら、自分の方の決定ボタンを押した。



《 電脳族でんのうぞくはスタート領地が自由に選べます。領地を選択して下さい。

 所属する皇族派閥は、太陽族たいようぞく宙地原族そらちのはらぞく月族つきぞくが選べます。支持する皇族家を選択して下さい。皇族派閥の恩恵は、太陽族たいようぞくが経験値+5%、宙地原族そらちのはらぞくが領地間移動費の半額、月族つきぞくは特にありません。

 このキャラクターでゲームを始めますか?  はい・いいえ 》



「あ、良いなぁ。電脳族でんのうぞくは派閥を選べるんだ。派閥の恩恵って、要するにゲーム内の特典なのか。何で月族つきぞくって何も無いんだろう」


 輝夜てるやす月族つきぞくに何も特典が無いことにがっかりする。その隣で電谷でんやは眉を潜めていた。


「んん? なにゆえ、水族みずぞくは皇族御三家が自由に選べない仕様……? これまさか現実の関わりと同じ……? えっ! ホントなら凄い情報の塊なんだけど!? ちょい待ってもらえる、てるやん! 他の種族も見たい!」


 慌てて電谷でんやは《いいえ》を選択し、やり直す。


「全種族見てみるのか?」

「それは後で。ただ、あいの上位領地ランカーの種族がどこの派閥なのかは早急に知っておきたいっ。まぁ、全員電脳族(でんのうぞく)と同じ立ち位置で、自由に皇族御三家三択になっていると心の底から思って……いや願っておるのですが。ってありゃ? 闇族やみぞくが無い」


 種族選択で、闇族やみぞくの文字がいくら探しても見つからなかった。


闇族やみぞくって選べないみたいだね」

電脳族でんのうぞくがあるのに、闇族やみぞくハブとは一体、ウゴゴゴ……」

「でもそれ以外の種族は全部選べる感じかな」


 電谷でんやは、水族みずぞく闇族やみぞく――『三位』『八位』『十位』を除いて、あい領地の上位領地ランカー全員の種族を下から順に選んでいった。



 ●『九位』炎乃えんの響華きょうかの〝火族ひぞく〟――《皇族派閥、太陽族たいようぞくのみ》



 「ほーん。まぁ、これは当然っすね」と電谷でんやは頷き、「火族ひぞくも固定なんだ」と輝夜てるやす水族みずぞくだけが特別なわけじゃないことに、ほんの少し安心する。



 ●『七位』紙垂野しでのつかさの〝紙族しぞく〟――《皇族派閥、宙地原族そらちのはらぞくのみ》



 この瞬間、「はあああ!?」と電谷でんやが苛立ちを含んだ大声を出して立ち上がった。輝夜てるやすはびっくりする。


宙地原族そらちのはらぞく支持派ァ!? か、間者が! こんなトコに伏兵がッ!! 翡翠ひすい領地とくず領地のテロの時、こんな人があい領地全体の警備担当やってたってこと!? 港の下位領地ランカーの警備が全然いなかった時間があるってまさかまさかじゃないだろうな!?」


 画面を指差して電谷でんやは憤慨する。港という単語に、つるぎの死に関わりがあるかもしれない人物だと分かり、輝夜てるやすは微かに顔をしかめた。


 

 ●『六位』色部いろべ直晃なおあきの〝彩色族さいしきぞく〟――《皇族派閥、皇族御三家から自由選択》

 ●『五位』刃佐間はざま逍遙しょうようの〝刃族やいばぞく〟――《皇族派閥、太陽族たいようぞく宙地原族そらちのはらぞくから選択》



「うっ……あのハザ様まで、地味に宙地原族そらちのはらぞくと関ってた可能性あるのか……ショック過ぎる」

つるぎさんが関わっていたから、入っているだけじゃないかな。俺の護衛をやってくれた時、凄く気を遣ってくれて良い人だったよ。さっきの『七位』の人も一族は宙地原族そらちのはらぞく支持だけど、本人は関わってないかもしれないだろ?」

「……うーむ、そーかもですが。てるやん、お人好しっすな」


 輝夜てるやすのフォローに電谷でんやは苦笑する。しかし次の種族で目を丸くした。



 ●『四位』時蔵ときくら石斗せきとの〝刻族ときぞく〟――《皇族派閥、月族つきぞくのみ》



「何……だと……?!」


 電谷でんやは驚愕していたが、輝夜てるやすはやっぱりそうなのかと納得していた。何故なら、時蔵ときくら輝夜てるやすに書道と礼儀作法を教えに来てくれている先生、火住ひずみ由理ゆりの夫だと聞いていたからだ。



 ●『二位』あずま秀寿ひでとしの〝雷族かみなりぞく〟――《皇族派閥、皇族御三家から自由選択》

 ●『領王』機國きぐに敦美あつみの〝機械族きかいぞく〟――《皇族派閥、太陽族たいようぞく月族つきぞくから選択》



機械族きかいぞくは、宙地原族そらちのはらぞくとは全然関わらないんだ)


 輝夜てるやす敦美あつみのことを考えている隣で、電谷でんやは「皆さん、何も知らない顔して裏で色々思うところあったってことっすね……。黒い! 黒いよ、あい領地上位ランカー……!」と衝撃を受けていた。電谷でんやは一通りうちひしがれたポーズを取ると、むくりと顔を上げて姿勢を正す。


「じゃ、ゲーム始めましょー。電脳族でんのうぞくは領地を選べますんで、てるやんと同じたけ領地&月族つきぞく派閥にしますね」

「うん」


 電谷でんやの変わり身の早さにも、だいぶ慣れてきている輝夜てるやすである。

 キャラクター作成の確認メッセージに対して《はい》を選択すると、画面が暗転する。真っ白な文字で文章が表示された。



《 黄泉よもつ狭間はざま。世界の強者は、死者か生者か――……? 》



 次第に画面が黒から白に変化していき、白い文字はその白の中に埋没して消えていく。

 続いて現れたのは、深い青色。白色を侵食していき、泡のような形で白色は消えて去った。ザバーンというSE音が流れる。


(海?)


 海岸の景色が、ゲーム画面に現れた。

 ゲーム内の輝夜てるやすは、浜辺に打ち上げられたようだ。この時点でキャラクターを動かせる。

 初めてやるゲームに輝夜てるやすはわくわくしていた。しかし、いざ意気込んで動かしてみると、キャラクターを動かせるだけで何も出来ない。


「やっくんの方も同じ状態?」

「うむ。でも同じ海岸にいるっぽいのに、てるやんのキャラが見えんね。もうちょっと進めないとオンラインモードにならないのかも」

「そっか」


 キャラクターを動かして、海岸沿いの道に出る。すると画面が変わった。


「うおっ、ムービー!?」

「これは放っておいても自動で進行するの?」

「するはず。うわっ、メインシナリオにムービーあるとかヒジョーに商業っぽい!」



 画面の中の輝夜てるやすは、走ってきた1人の少女にぶつかった。


《 「きゃっ、ごめんなさい!」 》


 頭を下げて謝る少女に、ゲームの輝夜てるやすは首を横に振る。ほっと顔をほころばせた少女は、ふと輝夜てるやすの顔を凝視した。


《 「貴方、一体どこの誰……? 不思議な感じがするわ」 》


 ゲーム内の輝夜てるやすは、口を開閉して手を上げる。少女は驚いた顔をした。


《 「種族と名前しか覚えてないの!? 記憶喪失だなんて!」 》



(あ、自分のキャラクターって喋らないんだ)


 ゲーム内の少女は音声があるので、ジェスチャーだけで話が進められるのが不思議な感じがする。

 隣の電谷でんやは口をあんぐりと開けて唖然としていた。


「あれ。やっくん、どうかした?」

「ここここの黒髪ロングの美少女、ヤミ様……!? エエエェ……!? 音声まで本人なんですけどぉッ!?」


 電谷でんやは素っ頓狂な声を上げる。


「ヤミ様?」

「うちの『十位』闇束やみづかかすみ様! うえっ」

「ええっ!?」


 輝夜てるやすは思わず、電谷でんやの顔と交互にゲーム内の少女を2度見した。あの男装の闇束やみづかと同一人物には見えない。輝夜てるやすは素直に感心する。


「やっくん、よく分かるなぁ」

あい領地の掲示板でヤミ様の女装? 的なコラ画像を何度か見てたんで」

「そうなんだ。はぁ……この子が、あの護衛の人か。女の子って可愛い格好すると本当化けるよね」

「おっと、それてるやんが言う?」

「は?」


 輝夜てるやすはむっと口を尖らせる。一方電谷(でんや)は素早く視線を天井に逸らして口笛を吹き、失言を誤魔化す気である。輝夜てるやすもあまり掘り下げたい話題ではないので聞かなかったことにした。

 ゲーム内では、少女姿の闇束やみづかがフレアのスカートを揺らして街の方角を指差す。


《 「街の中心地にこの領地のあるじの屋敷があります。まず、そちらに向かってみて下さい。きっと助けて下さると思います」 》


 闇束やみづか輝夜てるやすにそう教えると、くるりと身を翻す。1度、輝夜てるやすの方を振り返ったが、結局そのまま背を向けてこの場を去って行った。

 そのムービーが終わると、通常のゲーム画面に切り替わる。

 先ほどまで居なかった電谷でんやのキャラクターが画面内に現れ、レベル・体力・精神力など、様々な表示のバーや数字、コマンドが画面に出てきた。


「やっとオンラインゲームになりましたなぁ」

「凄い! 隣にやっくんのキャラがちゃんといる」


 輝夜てるやすが感動しているのを見て、電谷でんやは挨拶代わりに自身のキャラクターをぴょんっとその場でジャンプさせた。輝夜てるやすもジャンプさせてみる。ぴょんぴょんと謎の跳ね合いの掛け合いが続いた。


なんか面白い」

「フフフっ! 人と一緒に遊ぶのがオンラインゲームの醍醐味だいごみですからネ!」


 ゲーム画面には、《次のメイン目的・領主の屋敷へ向かう》という細かな指示の表示もされている。

 電谷でんやに促され、輝夜てるやすはステータス画面を開いてみた。



《 水城みずしろ輝夜てるやす 

    水族みずぞく/ヒーラー  月族つきぞく派閥

    レベル1

    体力:15

    精神力:28

    反射神経:22

    運:50

    種族能力:【回復の水】           》



(ヒーラー? 回復の水??)


 疑問符がいっぱいな頭で、カーソルを「回復の水」の上に移動させると説明文が出た。



《【回復の水】喉の乾きを潤す水を出す。 効果:精神力を5消費して、体力を12回復する》



(飲み物を出す能力って……。み、水は確かに出すけどさ……。水族みずぞくが出した水は、普通飲まないから……!)


 輝夜てるやすが説明文に頬を引きらせた時、電谷でんやが叫ぶ。


「えぇっ!? 電脳族でんのうぞくがタンクぅぅ!? 攻撃も防御手段も無い種族なのに!? そりゃ別の意味で他種族のヘイトを常に取ってますけども! うわーっ、これ納得したくないッ」



《 電谷でんや 

    電脳族でんのうぞく/タンク  月族つきぞく派閥

    レベル1

    体力:35

    精神力:19

    反射神経:50

    運:1

    種族能力:【異空間の小部屋】         》



 電谷でんやのステータス画面を覗いて、輝夜てるやすは目を瞬かせる。


「タンクって何?」

「壁役のジョブ。盾といいますかね、1番に敵に突っ込んで行って敵のヘイトを――ヘイトっていうのは敵視のことなんですが、敵の注意をずっと引きつけて、他のパーティーメンバーに敵の攻撃がいかないように戦闘終了まで耐えるのがお仕事」

「1人でそんなことをしていたら死ぬんじゃないか?」

「そこでヒーラーさんの出番っすよ。ヒーラーのてるやんのお仕事は、パーティーメンバーのHPが減ったら回復すること。このゲームだとHPって体力のことっすね。精神力がMPのことっぽい」

「やっくんが敵の攻撃を耐える役で、俺が回復して、それで敵って倒せるのか?」

「一応、タンクの攻撃力でも倒せると思いますが、かなり時間が掛かるはず。ぬう……アタッカーがいませんとな。敵を倒すのはアタッカーのお仕事なのデス。『マスター』とエン様、どっちかアタッカーを選んでくれると良いのですが」

「オンラインゲームって、役割分担があるんだ」

「そうですよ。オフラインゲームと違って、レベルカンストさせて無双なんて基本不可能な仕様。後はこれMOなのかMMOなのか……戦闘出来るトコまで進めないと判断出来ないっすね。サクサク進めていきましょー。ていっ」


 突然ピロンッと音が鳴って、「わ!?」と輝夜てるやすは驚く。

 《電谷でんやからフレンド申請がありました。許諾しますか? はい・いいえ》というメッセージが出る。


「フレンド?」

「離れていてもズッ友だよ!」

「え」


 若干引いた輝夜てるやすに、電谷でんやは外したことを照れながらコホンと咳払いをして言い直す。


「フレンドだと一緒に行動してなくても連絡が取れて、ゲームによっては相手がどこで遊んでいるかとかが大抵分かる。てるやんも俺に投げてね」

「へぇ」


 輝夜てるやす電谷でんやは、更にパーティーを組んで街へと歩き出した。


「しかし、闇族やみぞくがキャラクター作成で選べなかった理由は、メインシナリオに闇族やみぞくが絡んでるからでしょーかね。ヤミ様がムービーで登場したって辺り、結構重要な出会いの演出だったはずですし。こうなってくると、他の領地でもヤミ様が登場なのか気になるなぁ。でもタイトル画面は光族ひかりぞくの七芒星だったのは、はて?」


 輝夜てるやす電谷でんやの考察を聞きながら、つるぎのアプリゲームといい、どうして電脳族でんのうぞくは本人の許諾無しに実在の人物をゲーム素材に使うのだろうと、闇束やみづかを気の毒に思い、内心でつるぎ佐由さよしに呆れていた。

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