閑話・月の行方捜索騒ぎ 〈電谷 視点〉
電谷は、藍領地の電脳技術全般を受け持つ電脳族だ。
チャームポイントは丸眼鏡と丸い頬だと声高にして言いたい。見る人の記憶に残る素敵要素だと電谷は自負している。
11月2日。本日の電谷は、藍領地本部ビルの最上階、幹部専用会議室にいた。
つい最近まで、電谷はこの会議室への入室を禁じられており、未だに入室前は口笛を吹くぐらい嬉しい。喜び勇んで扉を開けると、にへらと締まりのない顔を、既に入室して椅子に腰掛けていた『九位』炎乃響華にばっちりと目撃されてしまった。
彼女は片眉を上げて、電谷にうろんげな表情を見せる。頭でも打っているのかと言わんばかりのジト目の視線には気付かない振りをして、電谷は響華の前に椅子を置いて座った。
「やははーっ。どーも、お待たせしちゃいましたかね!」
「別に、時間丁度よ」
「いやー、お手数お掛けしてかたじけない」
何故か響華に舌打ちをされた。電谷はとても丁寧に謝りの言葉を告げただけのはずなので「はて?」と首を傾げる。
「……それで、辛夷の火上『領王』とやらの私へのメッセージは? とっとと聞いて帰りたいんだけど」
「ほいほい」
(あーらま。エン様なんだか余裕無い? 珍しいなぁ……)
電谷は、ぱっと手早く目の前の空中に電脳画面を出す。
「あ。良ければ会談部分も見ます? 全部録画してるんで」
電谷の提案に、響華は一瞬考え込むように目を伏せたが、直ぐに目線を上げて真っ直ぐに電谷を見る。
「……〝平崇〟も居たのよね?」
「タイラタカシ?」
「なら見たいわ」
「お、おぉう?」
電谷は目を瞬かせながら、辛夷領地との会談映像の動画を再生した。心なしか響華の真紅の瞳が輝いている。しかし、再生時間が進むごとに、次第に響華は訝しげに眉根を寄せる表情となり、更には柳眉を釣り上げて画面を睨み付け始めた。
(エン様、百面相っすね)
動画内では、辛夷領地の火上堅炉『領王』と『二位』音根比良高の、不真面目で砕け過ぎる態度のやり取りが繰り広げられていた。響華の顔は、公的な会談の場でありえないような無礼さが気に障ったからだろうかと電谷は思った。『三位』水名透も不快そうに顔を顰めていたことを頭の隅に思い出す。
「これ、全部茶番じゃないの……。アンタ、何のために辛夷の電脳をハッキングして優位に立ったわけ? 無駄になってるわよ」
「へ?!」
電谷は響華の指摘に耳を疑った。
「な、何ですと……っ!?」
「『透明の玉座』ってドラマの生演技を披露しているだけだわ」
響華は呆れて嘆息し、「っていうか、この火上『領王』上手いわね……」と神妙に呟く。
電谷はパクパクと口を開け閉めて、唖然となった。
響華は電谷の反応は放置して、携帯端末を取り出し「敦美? 辛夷の『領王』になめられてるわよ」と藍領地『領王』の機國敦美に連絡を入れていた。
それを見て電谷もはっと正気に戻る。慌てて電脳で『透明の玉座』というドラマを調べた。
それから動画サイトのドラマの動画を再生して、電谷はデスクに突っ伏す。眼前には火上と音根のやり取りそっくりな映像が流れる。
「ぐはっ……マジか、マジなのかぁぁぁ!! タイラタカシって辛夷の『二位』様の芸名!? あのお二方、俺らの前でドラマ再現のコントやってたと!? ひたすら茶化されてるうぅぅぅ!!」
「この手間掛けた演技の意図は何かしらね」
「意図っすか?! う、うーむ……!」
電谷は首を捻りながら腕を組む。しかし、特に考えは浮かばない。やはり単純に、十代ばかりの子供の藍領地ランカー達をからかってやろうとひと芝居をうっただけではないだろうか。大人げない話だ。
電谷は、ふと響華の携帯端末に視線を向けて目を丸くした。
「あれ? エン様、携帯変えたんっすか?」
「ええ。いい加減、『藍らふらいふ』アプリのアイコンが目に入るのが不愉快だったの」
「見たことない機種っすね」
「そりゃ、敦美のお手製だから」
「『マスター』の! いいなぁー世界に1つだけの一点物じゃないっすか……羨まっ!」
「まぁ、ね」
携帯端末を見つめる響華の真紅の瞳は柔らかい光を帯びていた。電谷も内心ほっこりする。
(『マスター』とエン様、ホント仲良いよね。俺もキョウダイ弟子ってやつ欲しかったなぁ)
敦美と響華は幼馴染みというだけでなく、姉妹弟子のため、友人関係以上に仲が良く、互いに固い信頼関係がある。電脳族は世間的に弟子入りの声すら上げにくいので、電谷は師弟関係とやらにとても憧れていた。純粋に敦美と響華が羨ましい。
(アズ様みたいにコジれるとヤバいけどもー……)
『二位』雷秀寿の、兄妹弟子と袂を分かつことになった病気の一件を思い出し、電谷は悲しくなってそっと目を伏せる。
気付けば録画映像は火上の響華宛てのメッセージ部分に入っていた。
すると、急に響華の顔から表情が消える。
(ん? エン様……?)
真紅の瞳が静かに火上を映している。真剣と言うよりは、どこか強張った様子にも見えて電谷は驚いた。響華のここまで露骨な余裕の無い表情を間近で見るのは初めてだ。
「……えっと、要するにこの方は〝炎乃〟姓じゃないから、いくら今の火族族長のオファーがあっても族長にはならないぞ! って律儀にエン様に宣言しているんすよね?」
「――」
(え……っ! まさか違う!?)
微かに表情を険しくした響華の反応に、電谷は目を見開いた。電谷には読み取れない何かがこの映像にはあるらしい。
「あのエンさ……」
「帰るわ」
響華は硬くそう告げると立ち上がり、電谷が声を掛ける前にさっさと部屋から出て行ってしまった。
(ぎゃーっ、お待ちになってー!!)
慌てて追い縋って部屋を出た電谷だったが、何者の声も拒絶するような響華の後ろ姿に、掛ける言葉も消えて口を閉じた。紅いウェーブを靡かせる背中が小さくなるのをぼんやりと眺め、はぁっと重い溜息を零して身を翻す。
「カラスが鳴くから、俺も帰りましょー……」
それから、電谷は家というよりは自身の次元空間へと帰る。
一応家のリビングに設置されているホワイトボードを見てから、今日の日付の『11月2日、帰宅』の項目に丸を付けて現在の時間を書き込み、所謂次元シェルターに入る。朝出掛ける時も同様だ。このホワイトボードが、両親との表での唯一の会話になる。
両親も電脳族なので、彼らも家に帰ってきたらそれぞれの次元シェルターに入って生活するのだ。両親との会話は基本画面越しである。
母親が朝食や夕食を作ると、父親と電谷に連絡が入る。料理はリビングの机に並べられているので、それを次元シェルターに運び、画面越しに家族と一緒に食べるのだ。電脳族にとってはこれが普通の家庭生活なのだが、他の種族からは奇異な目で見られる。
電谷の次元シェルター内は和室である。何となく畳の匂いが好きなのだ。
勿論、キッチンやトイレと風呂など、ひと通りの機能は揃っている。この次元シェルターの水道、下水、電気は全て表の家と繋がっている。つまり表の家のものを利用しているのだ。
電脳族が、次元シェルターがあっても表の家を所有する理由はこのためである。次元シェルターは完全に世界と切り離された場所でもなければ、全てを自身で生み出せるほど万能な創造の空間でもないのだ。
電谷は回転座椅子に座ると、目の前に6つの電脳画面を出す。
1つは堅香子領地のドラマ『透明の玉座』を再生させ、もう1つは藍領地の電脳を管理するための作業兼仕事用である。
3つはそれぞれ別のオンラインゲームで、自分のキャラクターを少しずつちょこちょこと動かし、ギルドや組合の持ち家内でアイテムを作り始める。そしてログインして家にやってきた仲間のメンバーに挨拶をそこそこしたり、依頼されていた作成物を渡したり、問答無用でアイテムを投げつけたり、ささやかな交流をする。
そして最後の1つの電脳画面のモニターには、皇族御三家時代の宙地原全土の地図と、電谷が何年もかかって電脳内で掻き集めて調べた、翡翠革命当時の翡翠の『領王』及び上位領地ランカーの名前を表示していた。
(しかし〝炎乃〟姓が火族の族長に付けられる名字だったとは。つまり翡翠のメンツって、そういうこと……だよな? このメンバーを処刑したって、『皇帝』陛下の処刑の件を抜きしてもヒジョーにマズい……。翡翠領地民の皆さん、生存者を死に物狂いで追い回す理由はやっぱり恐怖が原動力なんだろうなー……)
自身が作成した翡翠の上位領地ランカー表に電谷自身の感想メモを付け足しつつ心臓がバクバクと脈打つのを意識した。
《『領王』火巻凰十 (何と『皇帝』陛下!!)
『二位』水岐広早 (てるやんの兄のタカ様。水族族長候補っぽい)
『三位』灰兼思 (現・葛領地『領王』、灰族族長)
『四位』氷藤信子
『五位』雷秀寿 (現・藍領地『二位』、雷族族長資格を保有)
『六位』炎乃静流 (炎乃姓。エン様と血縁関係無し。当時の火族族長か?)
『七位』光杜陽平
『八位』鉄神隆介 (歴代の鉱物族族長は全員〝鉄〟の鉱物族)
『九位』粒堂真智
『十位』霧原雫 (現・霧族族長の母親)》
処刑された翡翠上位領地ランカーは、全員が族長もしくは族長候補だったのではないかという仮説が成り立つ。そして、そのメンバーを翡翠領民は処刑したのだとしたら――
(皇族どころか色んな種族と領地の要人をブッ殺している訳で、全世界の種族からフルボッコにされる所行……。というか、翡翠領地はこれでよく見逃されてるよな……存続していることが奇跡なんだけども)
電谷は額に浮かんだ冷や汗を腕で拭い、一旦落ち着いてから飲み物でも冷蔵庫から取ってこようと腰を上げる。
しかし、1つのオンラインゲーム内で呼ばれているのに気付き、また腰を下ろした。
『紅茶ー! 助けてくれ! 固定が1人用事入って抜けちまった!!』と電谷のキャラクター、その名も〝紅茶〟が組合専用チャットで呼びかけられている。
キャラクターが傍に居て話しかけられている訳ではない。別のエリアにいるキャラクターの〝にゃんすけ〟から声が飛んできているのだ。
電谷は『用事と言う名の固定解散かな?』と茶化して返信した。
〝にゃんすけ〟からは『ちげーよ! まじもんのようじだよ!!』とチャットが返ってくる。変換もせず平仮名で素早く返された答えに本気の焦りと苛立ちを感じ、電谷は直ぐに『ごめんよ(´・ω・`)』と謝った。
固定とは、エンドコンテンツという最難関の未踏派ダンジョンに挑むために、事前に集まってメンバーを決めているパーティーのことである。野良のパーティーとは違って一期一会ではなく、事前に決めたパーティーメンバーのみでコンテンツをクリアするまで遊ぶのだ。
固定はパーティーメンバーを毎回集める手間が省ける反面、メンバーの予定を調整して合わせなければ挑めないという短所も合わせ持つ。縛られている感じがして結構面倒臭いのではないかと、固定を組んだことのない電谷は勝手に偏見を持っている。
ゲーム内チャットでは、〝にゃんすけ〟が『紅茶はクラフト専門でも、エンド挑める準最強装備持ってるだろ!? ボイチャもやろうと思えばやれるって前に言ってたよな!? 頼むよ、手伝ってくれ。今日を逃したら、またエンドに挑戦出来る日が伸びちまうんだよ!!』と必死に文字を打ち込んでいた。
「あー……ボイチャ必須……まずいな」
ボイスチャットは極力したくないが、この〝にゃんすけ〟には、以前に中央大陸での電牙葦成のニュース動画を掻き集めて送ってもらった恩がある。これからも他領地の情報源の1つとして、色々と融通を効かせてくれるという貴重な情報提供者だ。
電谷は覚悟を決めて了承の返事をした。それから戦闘装備に着替えて、〝にゃんすけ〟の固定パーティーと合流する。彼らは騎士や狩人、聖魔法使いなどの職で、緑の魔導師の電谷は職かぶりをしていないことにほっと安堵した。
ゲームの環境音やシステム音とは別に、マイクに向かう人間の声が混じり始める。
『こいつ、紅茶。うちの組合のクラフト屋。普段はエンド来ない奴だから補欠程度に考えてくれよ』
『おう』
『あいよー』
『紅茶さん、来てくれてありがとう!』
『初めまして』
『クラフト屋なのに準最強装備持ってんのかよwwww』
『よろしくです、紅茶さん!』
電谷は、『透明の玉座』のドラマの音声をオフにして、台詞を字幕モードに切り替える。ふぅっと溜息を吐き、気合いを入れてからボイス機能をオンにした。
「初めまして、紅茶です。今日はよろしく!」
『……』
『……』
『……』
『初めまして、アイカです』
『……』
『……』
『初めましてです! 僕はよもぎって言います』
〝アイカ〟と〝よもぎ〟以外からは返事がない。〝にゃんすけ〟含む他のメンバーは突然黙り込む。息を呑む音が微かに聞こえて、電谷は半笑いになった。
(わあ……凄い沈黙率! 電脳族多いのネ!)
次の瞬間、黙り込んでいた面々の絶叫が響き渡った。
『で、でんやああああああ!?』
『嘘っ、えっ!? 電谷?! マジで!?!』
『電谷じゃん!?』
『?? え、有名な人なの?』
『ちょ……ガチで電谷……本物か……?!』
『ハァッ、電谷!? ざけんな、何がクラフト屋ッ!? てめぇ、ゲームで手ぇ抜いてんじゃねぇよ!! 真面目にエンドやれや!!』
『? 皆、知り合い??』
「こらこら。アイカさんとよもぎさんが困ってるんで、リアルの話はその辺でやめたまえよ」
『うわっ、電谷うぜぇぇ!www』という罵倒だか歓声だか、よく分からない電脳族諸君の弾む声を電谷は聞き流す。
宙地原世界で、次元能力が5本の指に入る優秀さを誇る電谷は、電脳族内では有名人である。電谷が相手を知らなくても、相手の電脳族は電谷を知っているのがデフォなのだ。逆に言うと、電谷に反応する輩は電脳族だと分かる指標にもなっている。
しかし、身バレしたからには下手な立ち回りは出来ない。何とか格好をつけたいものだ。
電谷は所持品を確認して、作る際に材料収集が大変な稀少なアイテムを大盤振る舞いすることに決めた。エンドダンジョンに有利になる食事と薬品を全員に配布する。皆からは歓喜の声が上がった。『持ち帰って売りたい……』と呟いた強欲メンバーもいたが、素直に使ってくれないかと説得する。
それから皆で談笑しながら、ダンジョン内を進んだ。エンドコンテンツに挑んでいるとは思えないほど、和気あいあいとした雰囲気であった。
電谷を知らず、中の人間が電脳族ではないらしい〝アイカ〟と〝よもぎ〟にも、〝にゃんすけ〟達によって『こいつ、電脳族族長と友達で対等レベルに電脳使える奴だから』と電谷の情報が共有される。
〝アイカ〟と〝よもぎ〟から『え! 凄い人じゃない!』『じゃあ紅茶さん、ゲームが凄く上手い人なんですね!』と称賛の声を掛けられる。細かく言うと正確には対等レベルには達していないので、電谷は「むにゃ……」っと謎の言葉を濁した呻き声を出した。大変恥ずかしいのである。
『ねぇ、ねぇ。うちの領地……あ! どこだかは秘密だけど、空に月が昇ってさ。皇族がいるって大騒ぎになったんだよ。今でも領地ランカー達が自領地内を探してるの』
『え? アイカって、ひょっとして俺と同じ領地?』
『いや、十六夜。あの月、全領地で出てるの見えたから。宙地原世界の空を覆ってたスケールらしいぜ。スゲーとしか言えない。流石皇族』
『うちの『領王』様なんて、閣下と手を組んで、ガチで皇族御三家を探しだして主権を皇族に戻すとか言い出した……世紀末だ……』
『ふむ。ってことはモリゾウは葛領地ではないと』
『おい、にゃんすけ! 特定やめろっ』
(閣下? ハイ様閣下だよな)
意外な人物の名前が出て、電谷は軽く目を瞠る。
閣下の愛称で他領地民にも親しまれているのは、葛領地の『領王』灰兼思だ。
主にメディアへの露出の多さと、思春期の心をクリティカルヒットしてくる独特のファッションセンスで大人気である。堅香子領地から熱烈な招待を受けており、今度人気連続ドラマにもゲスト出演するらしい。一体どこに向かっているのか。
(……いや、でもハイ様閣下が皇族支配主義の保守派系なのは、翡翠革命のメンバーにいた時点で当然っちゃ当然か。へぇ、皇族探してる『領王』達の纏めリーダーっぽいことやってんだ? ハイ様閣下自身は、皇族御三家の居場所を既に把握してそうだけども。はて? 何故に捜索チームリーダー?)
電谷は首を傾げながらも灰兼の話を興味深く聞いていた。
〝モリゾウ〟の領地の『領王』と同じく、〝よもぎ〟の領地の『領王』も灰兼と接触しているという。〝よもぎ〟がつい口を滑らせて「刑務所」という単語を慌てて誤魔化したのを、電谷は耳聡く拾った。
(うおっ、まさかの僕っこ、よもぎさんは辛夷領地出身か! ってことはもれなく領地ランカー。辛夷は全領民、闘技大会強制だもんね。わー、順位高い人なのだろうか? 個人的に仲良くしたいっ。辛夷の情報欲しいー)
電谷の操作する〝紅茶〟は、〝よもぎ〟にグッと指を突き立てるエモートを送る。
〝よもぎ〟はキラリと星を輝かせてどや顔のエモートを送り返してきた。結構ノリの良い人である。
(うち、先月の爆破事件の主犯2人……葛領地に引き渡すはずだったのに逃げられてんだよなぁ。1ヶ月間、音沙汰ないけども、このままハイ様閣下が有耶無耶にしてくれるとは思えないし)
そこで〝にゃんすけ〟から個別ボイスチャットが入る。周りのパーティーメンバーには聞こえない秘密の通信だ。
『電谷って、確か藍領地住みを公言していたよな?』
「そうっすよ、藍領地住民ですわん。ゲーム内では紅茶と呼び給えよ。葛領地の電脳技術屋、電徳遙一君』
『げっ……正体バレてたのか』
「この間の電牙葦成の情報でね。ヒジョーに助かった反面、前から中央大陸領地住みとは思ってたけども、ちょい情報の集め方が一介の電脳族にしては優秀過ぎませんかね? って思った次第ー」
『あー、褒められてんのか、抜けてるって言われてんのか、スゲー複雑だぜ……。でさ電谷。今度、閣下が藍領地行くから』
「ファッ!?」
『遂に手が空いた。正式発表まだだけど、女郎花領地と藤袴領地の征服完・了!!』
「嘘ぉっ!? この平和なご時世に本当に領地戦争やっちゃったの!! しかも勝っちゃう!?」
『あの人、生まれてくる時代を間違えてるから。多分他の領地も獲る』
「ひえぇ……中央大陸に住んで無くて良かったワー……」
『じゃ、今の情報が穴埋めにパーティー参加してくれた粗品ってことで。……マジ、さんきゅう』
少し照れた声音で、〝にゃんすけ〟は秘密の通話を切った。
葛領地の情報を貰った電谷は俄然やる気が出る。
しばらくすると強敵のモンスターに遭遇し始め、全員悠長にお喋りをしていられなくなった。忙しく戦い始める。
補助魔導師職の電谷は、藍領地の今後を考え続けながらも、味方にステータス上昇や異常無効の様々なバフを掛け続け、ダンジョンの敵には毒やスロー、攻撃貫通のデバフをばらまく。敵視がこちらに来ないようにヘイト管理もしっかりしつつ、ダメージ量よりも基本死なずに周りに迷惑を掛けないことを心掛けて電谷なりにパーティーに貢献した。
約3時間半ほどの時間を費やして、電谷達はダンジョンの5区画まで到達出来た。初回攻略は2区画までで撤退するのが平均的な攻略速度らしいので、随分と早く奥まで攻略出来たようだ。レアなアイテムもドロップして、皆喜んでいた。
『今日は本当長い時間付き合ってくれてありがとな。ここまで来られるとは思わなかった』
「あらま。結構時間も経ったっすね。じゃあ、今日はお終い?」
『ああ。準備もしっかりして、最終区画は流石に固定フルメンバーで踏破したいしさ』
申し訳なさそうに〝にゃんすけ〟が言う。
「気にせんで良か良かー」と電谷はからりと笑った。
ところが〝にゃんすけ〟と違い、他のパーティーメンバーには微妙な空気が流れる。電谷に礼を告げながら『次も一緒に遊びたいね』と〝アイカ〟に言われたり、遠回しに次も電谷に来て欲しいと言う雰囲気があった。
電谷はあえて気付かない振りをするが内心ひやっとしていた。
(この固定、崩壊のカウントダウンが始まっておるのだが……)
電谷が『用事と言う名の固定解散かな?』と茶化していた言葉が、かなり現実味を帯びていた。
一度のドタキャンでこんな雰囲気になる訳がない。用事で抜けた人物は、既に何度か前科があるようだ。〝にゃんすけ〟以外のパーティーメンバーは、かの人物を切りたがっている気配があった。
どうやら、固定パーティ―メンバーのリーダーの〝にゃんすけ〟が他のメンバーの意見を汲まず、その1人を庇って気遣っているという偏った状況のようである。このままでは近いうちに不満が溜まったメンバーに脱退されて、この固定パーティーは解散になるだろうと思われた。
電谷はパーティーを抜けた後、こっそりと〝にゃんすけ〟に『用事で来なかった御方に皆の不満がかなり溜まってるっぽいから、その人には抜けてもらって他に予定の空いている新しい人を誘った方が良いんじゃないかい?』とチャットを送っておく。
〝にゃんすけ〟から返信は無かった。
ゲーム内だけの知人でも、知り合いを切るのはつらいものだ。ただ固定パーティーのリーダーならその判断と割り切りが出来なければならないので、電谷は心の中で〝にゃんすけ〟の成長を応援しておくと、そのままログアウトした。
緑茶を飲んで一息つく。
次に電谷は藍領地のSNSを巡回し始めた。ほとんどの呟きや写真などが先日の空に出現した月の騒ぎが続いている。
(てるやんの月って分かっているから藍領地ランカーは皇族捜索なんてしないけど、探す振りはした方が良いかもしれない。ちょっと『マスター』達の反応を不審に思ってる藍領地民もいるな……。ナー様にお知らせしときましょーか)
むーんと眉根を寄せて電谷は透にメールを入れる。更に藍領地の掲示板を開いた。
(うわ、『藍らふらいふ』アプリの勢い抜かれてる! 皆、完全に月族の話題の方に移ってるじゃん)
1. 【お月見】月族のいる領地予想スレ 105【したい】
2. 検証・あれは本当に月族の月だったのか? 56考察目
3. 「藍らふらいふ」攻略スレ 339人目
4. 【絶対に】俺のアプリに9位と博士が未実装な件 362【許さない】
5. 炎乃響華アンチスレ 欠席3088日目
6. 最近領地ランカーがこそこそ隠れて暗躍してないか? パート62
7. 【闇束霞】今日のかすみたん 225不幸目【ショタ× 男装女子○】
8. 【皇族御三家】太陽族・宙地原族・月族 最強種族議論スレ 97
9. 【ネタバレ】「藍らふらいふ」を語るスレ 472ED目
10. 【水名透】←こいつらの区別がつかない→【水瀬英貴】1240の水族
……ざっと上位10のスレッドを見て、少し前まで無かった皇族御三家関連のスレッドの数に驚く。
敦美や藍領地ランカー関連のスレッドがほとんど勢いを落として下に下がっていた。『炎乃響華アンチスレ』だけは、昔からの不動の位置のままだが。
ちなみに闇束スレッドは『藍らふらいふ』アプリで爆誕した新規のスレッドだ。アプリで彼女のシナリオを読むまで、藍領地民は彼女が女性だと知らなかったため、随分と衝撃を受けたらしい。彼女を幸せにしたいという趣旨で、闇束の写真を加工し、誰が1番闇束に似合う女性の服を着せてあげられるか大会をスレッド内で行っている。濃い。
(……そうだ。てるやん、明日も学校休みならお見舞いに行こっかな)
電谷の親友である水城輝夜は、道路爆発及びドロッと事件から学校を欠席している。本当に体調がすぐれないのか、透に自宅待機を薦められているからなのかは分からない。具合が悪いなら連絡は控えた方が良いだろうと考えて電谷は遠慮しているのだ。
それから電谷は、『透明の玉座』のドラマ全話を観て火上と音根がコントに使っていた話数を発見した。
6話目と43話目だ。響華へのメッセージに使ったシーンだけ43話目を使っており、その副題が〝就任〟だった。
メッセージに使えるシーンは6話目にもあったのだが、何故かそこは使わずカットして43話目のシーンを使っている形だ。火族族長になるのを断った話を語るのに〝就任〟というタイトルのシーンで演じるのは随分とあべこべに感じる。
電谷がいくら考えても火上の意図が見えてこず、電谷は考えるのを諦めた。
さっさと報告書を作成し、敦美と透にメールで送る。
「お仕事終ーわりっと」
電谷は鼻歌を歌いながら、明日水城家に向かう予定を立てるのだった。
第1章の閑話はこれでおしまいです。
次回から、第2章が始まります。




