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眠る月の皇子  作者: 古波萩子
第1章 地底へのいざない
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 閑話・月の行方捜索騒ぎ 〈電谷 視点〉

 電谷でんやは、あい領地の電脳技術全般を受け持つ電脳族でんのうぞくだ。

 チャームポイントは丸眼鏡と丸い頬だと声高にして言いたい。見る人の記憶に残る素敵要素だと電谷でんやは自負している。



 11月2日。本日の電谷でんやは、あい領地本部ビルの最上階、幹部専用会議室にいた。

 つい最近まで、電谷でんやはこの会議室への入室を禁じられており、未だに入室前は口笛を吹くぐらい嬉しい。喜び勇んで扉を開けると、にへらと締まりのない顔を、既に入室して椅子に腰掛けていた『九位』炎乃えんの響華きょうかにばっちりと目撃されてしまった。

 彼女は片眉を上げて、電谷でんやにうろんげな表情を見せる。頭でも打っているのかと言わんばかりのジト目の視線には気付かない振りをして、電谷でんや響華きょうかの前に椅子を置いて座った。


「やははーっ。どーも、お待たせしちゃいましたかね!」

「別に、時間丁度よ」

「いやー、お手数お掛けしてかたじけない」


 何故か響華きょうかに舌打ちをされた。電谷でんやはとても丁寧に謝りの言葉を告げただけのはずなので「はて?」と首を傾げる。


「……それで、辛夷こぶし火上ひかみ『領王』とやらの私へのメッセージは? とっとと聞いて帰りたいんだけど」

「ほいほい」


(あーらま。エン様なんだか余裕無い? 珍しいなぁ……)


 電谷でんやは、ぱっと手早く目の前の空中に電脳画面を出す。


「あ。良ければ会談部分も見ます? 全部録画してるんで」


 電谷でんやの提案に、響華きょうかは一瞬考え込むように目を伏せたが、直ぐに目線を上げて真っ直ぐに電谷でんやを見る。


「……〝たいらたかし〟も居たのよね?」

「タイラタカシ?」

「なら見たいわ」

「お、おぉう?」


 電谷でんやは目を瞬かせながら、辛夷こぶし領地との会談映像の動画を再生した。心なしか響華きょうかの真紅の瞳が輝いている。しかし、再生時間が進むごとに、次第に響華きょうかは訝しげに眉根を寄せる表情となり、更には柳眉を釣り上げて画面を睨み付け始めた。


(エン様、百面相っすね)


 動画内では、辛夷こぶし領地の火上ひかみ堅炉けんろ『領王』と『二位』音根おとね比良高ひらたかの、不真面目で砕け過ぎる態度のやり取りが繰り広げられていた。響華きょうかの顔は、公的な会談の場でありえないような無礼さが気に障ったからだろうかと電谷でんやは思った。『三位』水名みずなとおるも不快そうに顔を顰めていたことを頭の隅に思い出す。


「これ、全部茶番じゃないの……。アンタ、何のために辛夷こぶしの電脳をハッキングして優位に立ったわけ? 無駄になってるわよ」

「へ?!」


 電谷でんや響華きょうかの指摘に耳を疑った。


「な、何ですと……っ!?」

「『透明の玉座』ってドラマの生演技を披露しているだけだわ」


 響華きょうかは呆れて嘆息し、「っていうか、この火上ひかみ『領王』上手いわね……」と神妙に呟く。

 電谷でんやはパクパクと口を開け閉めて、唖然となった。


 響華きょうか電谷でんやの反応は放置して、携帯端末を取り出し「敦美あつみ? 辛夷こぶしの『領王』になめられてるわよ」とあい領地『領王』の機國きぐに敦美あつみに連絡を入れていた。

 それを見て電谷でんやもはっと正気に戻る。慌てて電脳ネットで『透明の玉座』というドラマを調べた。

 それから動画サイトのドラマの動画を再生して、電谷でんやはデスクに突っ伏す。眼前には火上ひかみ音根おとねのやり取りそっくりな映像が流れる。


「ぐはっ……マジか、マジなのかぁぁぁ!! タイラタカシって辛夷こぶしの『二位』様の芸名!? あのお二方、俺らの前でドラマ再現のコントやってたと!? ひたすら茶化されてるうぅぅぅ!!」

「この手間掛けた演技の意図は何かしらね」

「意図っすか?! う、うーむ……!」


 電谷でんやは首を捻りながら腕を組む。しかし、特に考えは浮かばない。やはり単純に、十代ばかりの子供のあい領地ランカー達をからかってやろうとひと芝居をうっただけではないだろうか。大人げない話だ。

 電谷でんやは、ふと響華きょうかの携帯端末に視線を向けて目を丸くした。


「あれ? エン様、携帯変えたんっすか?」

「ええ。いい加減、『あいらふらいふ』アプリのアイコンが目に入るのが不愉快だったの」

「見たことない機種っすね」

「そりゃ、敦美あつみのお手製だから」

「『マスター』の! いいなぁー世界に1つだけの一点物じゃないっすか……羨まっ!」

「まぁ、ね」


 携帯端末を見つめる響華きょうかの真紅の瞳は柔らかい光を帯びていた。電谷でんやも内心ほっこりする。


(『マスター』とエン様、ホント仲良いよね。俺もキョウダイ弟子ってやつ欲しかったなぁ)


 敦美あつみ響華きょうかは幼馴染みというだけでなく、姉妹弟子のため、友人関係以上に仲が良く、互いに固い信頼関係がある。電脳族でんのうぞくは世間的に弟子入りの声すら上げにくいので、電谷でんやは師弟関係とやらにとても憧れていた。純粋に敦美あつみ響華きょうかが羨ましい。


(アズ様みたいにコジれるとヤバいけどもー……)


 『二位』あずま秀寿ひでとしの、兄妹弟子と袂を分かつことになった病気の一件を思い出し、電谷でんやは悲しくなってそっと目を伏せる。


 気付けば録画映像は火上ひかみ響華きょうか宛てのメッセージ部分に入っていた。

 すると、急に響華きょうかの顔から表情が消える。


(ん? エン様……?)


 真紅の瞳が静かに火上ひかみを映している。真剣と言うよりは、どこか強張った様子にも見えて電谷でんやは驚いた。響華きょうかのここまで露骨な余裕の無い表情を間近で見るのは初めてだ。


「……えっと、要するにこの方は〝炎乃えんの〟姓じゃないから、いくら今の火族ひぞく族長のオファーがあっても族長にはならないぞ! って律儀にエン様に宣言しているんすよね?」

「――」


(え……っ! まさか違う!?)


 微かに表情を険しくした響華きょうかの反応に、電谷でんやは目を見開いた。電谷でんやには読み取れない何かがこの映像にはあるらしい。


「あのエンさ……」

「帰るわ」


 響華きょうかは硬くそう告げると立ち上がり、電谷でんやが声を掛ける前にさっさと部屋から出て行ってしまった。


(ぎゃーっ、お待ちになってー!!)


 慌てて追い縋って部屋を出た電谷でんやだったが、何者の声も拒絶するような響華きょうかの後ろ姿に、掛ける言葉も消えて口を閉じた。紅いウェーブを靡かせる背中が小さくなるのをぼんやりと眺め、はぁっと重い溜息を零して身を翻す。


「カラスが鳴くから、俺も帰りましょー……」





 それから、電谷でんやは家というよりは自身の次元空間へと帰る。

 一応家のリビングに設置されているホワイトボードを見てから、今日の日付の『11月2日、帰宅』の項目に丸を付けて現在の時間を書き込み、所謂いわゆる次元シェルターに入る。朝出掛ける時も同様だ。このホワイトボードが、両親との表での唯一の会話になる。


 両親も電脳族でんのうぞくなので、彼らも家に帰ってきたらそれぞれの次元シェルターに入って生活するのだ。両親との会話は基本画面越しである。

 母親が朝食や夕食を作ると、父親と電谷でんやに連絡が入る。料理はリビングの机に並べられているので、それを次元シェルターに運び、画面越しに家族と一緒に食べるのだ。電脳族でんのうぞくにとってはこれが普通の家庭生活なのだが、他の種族からは奇異な目で見られる。


 電谷でんやの次元シェルター内は和室である。何となく畳の匂いが好きなのだ。

 勿論、キッチンやトイレと風呂など、ひと通りの機能は揃っている。この次元シェルターの水道、下水、電気は全て表の家と繋がっている。つまり表の家のものを利用しているのだ。

 電脳族でんのうぞくが、次元シェルターがあっても表の家を所有する理由はこのためである。次元シェルターは完全に世界と切り離された場所でもなければ、全てを自身で生み出せるほど万能な創造の空間でもないのだ。


 電谷でんやは回転座椅子に座ると、目の前に6つの電脳画面を出す。

 1つは堅香子かたかご領地のドラマ『透明の玉座』を再生させ、もう1つはあい領地の電脳を管理するための作業兼仕事用である。


 3つはそれぞれ別のオンラインゲームで、自分のキャラクターを少しずつちょこちょこと動かし、ギルドや組合の持ち家内でアイテムを作り始める。そしてログインして家にやってきた仲間のメンバーに挨拶をそこそこしたり、依頼されていた作成物を渡したり、問答無用でアイテムを投げつけたり、ささやかな交流をする。


 そして最後の1つの電脳画面のモニターには、皇族御三家時代の宙地原そらちのはら全土の地図と、電谷でんやが何年もかかって電脳内で掻き集めて調べた、翡翠ひすい革命当時の翡翠ひすいの『領王』及び上位領地ランカーの名前を表示していた。


(しかし〝炎乃えんの〟姓が火族ひぞくの族長に付けられる名字だったとは。つまり翡翠ひすいのメンツって、そういうこと……だよな? このメンバーを処刑したって、『皇帝』陛下の処刑の件を抜きしてもヒジョーにマズい……。翡翠ひすい領地民の皆さん、生存者を死に物狂いで追い回す理由はやっぱり恐怖が原動力なんだろうなー……)


 自身が作成した翡翠ひすいの上位領地ランカー表に電谷でんや自身の感想メモを付け足しつつ心臓がバクバクと脈打つのを意識した。



《『領王』火巻ほまき凰十おうと (何と『皇帝』陛下!!)

 『二位』水岐みずき広早こうさ (てるやんの兄のタカ様。水族みずぞく族長候補っぽい)

 『三位』灰兼はいかねおもい (現・くず領地『領王』、灰族はいぞく族長)

 『四位』氷藤ひょうどう信子のぶこ

 『五位』あずま秀寿ひでとし (現・あい領地『二位』、雷族かみなりぞく族長資格を保有)

 『六位』炎乃えんの静流しずる (炎乃えんの姓。エン様と血縁関係無し。当時の火族ひぞく族長か?)

 『七位』光杜みつもり陽平ようへい

 『八位』鉄神てつじん隆介りゅうすけ (歴代の鉱物族こうぶつぞく族長は全員〝鉄〟の鉱物族こうぶつぞく

 『九位』粒堂りゅうどう真智まち

 『十位』霧原きりはらしずく (現・霧族きりぞく族長の母親)》




 処刑された翡翠ひすい上位領地ランカーは、全員が族長もしくは族長候補だったのではないかという仮説が成り立つ。そして、そのメンバーを翡翠ひすい領民は処刑したのだとしたら――


(皇族どころか色んな種族と領地の要人をブッ殺している訳で、全世界の種族からフルボッコにされる所行……。というか、翡翠ひすい領地はこれでよく見逃されてるよな……存続していることが奇跡なんだけども)


 電谷でんやは額に浮かんだ冷や汗を腕で拭い、一旦落ち着いてから飲み物でも冷蔵庫から取ってこようと腰を上げる。

 しかし、1つのオンラインゲーム内で呼ばれているのに気付き、また腰を下ろした。



 『紅茶ー! 助けてくれ! 固定が1人用事入って抜けちまった!!』と電谷でんやのキャラクター、その名も〝紅茶こうちゃ〟が組合専用チャットで呼びかけられている。


 キャラクターが傍に居て話しかけられている訳ではない。別のエリアにいるキャラクターの〝にゃんすけ〟から声が飛んできているのだ。


 電谷でんやは『用事と言う名の固定解散かな?』と茶化して返信した。

 〝にゃんすけ〟からは『ちげーよ! まじもんのようじだよ!!』とチャットが返ってくる。変換もせず平仮名で素早く返された答えに本気の焦りと苛立ちを感じ、電谷でんやは直ぐに『ごめんよ(´・ω・`)』と謝った。


 固定とは、エンドコンテンツという最難関の未踏派ダンジョンに挑むために、事前に集まってメンバーを決めているパーティーのことである。野良のパーティーとは違って一期一会ではなく、事前に決めたパーティーメンバーのみでコンテンツをクリアするまで遊ぶのだ。

 固定はパーティーメンバーを毎回集める手間が省ける反面、メンバーの予定を調整して合わせなければ挑めないという短所も合わせ持つ。縛られている感じがして結構面倒臭いのではないかと、固定を組んだことのない電谷でんやは勝手に偏見を持っている。


 ゲーム内チャットでは、〝にゃんすけ〟が『紅茶はクラフト専門でも、エンド挑める準最強装備持ってるだろ!? ボイチャもやろうと思えばやれるって前に言ってたよな!? 頼むよ、手伝ってくれ。今日を逃したら、またエンドに挑戦出来る日が伸びちまうんだよ!!』と必死に文字を打ち込んでいた。


「あー……ボイチャ必須……まずいな」


 ボイスチャットは極力したくないが、この〝にゃんすけ〟には、以前に中央大陸での電牙でんかび葦成あししげのニュース動画を掻き集めて送ってもらった恩がある。これからも他領地の情報源の1つとして、色々と融通を効かせてくれるという貴重な情報提供者だ。


 電谷でんやは覚悟を決めて了承の返事をした。それから戦闘装備に着替えて、〝にゃんすけ〟の固定パーティーと合流する。彼らは騎士や狩人、聖魔法使いなどの職で、緑の魔導師の電谷でんやは職かぶりをしていないことにほっと安堵した。

 ゲームの環境音やシステム音とは別に、マイクに向かう人間の声が混じり始める。


『こいつ、紅茶。うちの組合のクラフト屋。普段はエンド来ない奴だから補欠程度に考えてくれよ』

『おう』

『あいよー』

『紅茶さん、来てくれてありがとう!』

『初めまして』

『クラフト屋なのに準最強装備持ってんのかよwwww』

『よろしくです、紅茶さん!』


 電谷でんやは、『透明の玉座』のドラマの音声をオフにして、台詞を字幕モードに切り替える。ふぅっと溜息を吐き、気合いを入れてからボイス機能をオンにした。


「初めまして、紅茶です。今日はよろしく!」


『……』

『……』

『……』

『初めまして、アイカです』

『……』

『……』

『初めましてです! 僕はよもぎって言います』


 〝アイカ〟と〝よもぎ〟以外からは返事がない。〝にゃんすけ〟含む他のメンバーは突然黙り込む。息を呑む音が微かに聞こえて、電谷でんやは半笑いになった。


(わあ……凄い沈黙率! 電脳族でんのうぞく多いのネ!)


 次の瞬間、黙り込んでいた面々の絶叫が響き渡った。


『で、でんやああああああ!?』

『嘘っ、えっ!? 電谷でんや?! マジで!?!』

電谷でんやじゃん!?』

『?? え、有名な人なの?』

『ちょ……ガチで電谷でんや……本物か……?!』

『ハァッ、電谷でんや!? ざけんな、何がクラフト屋ッ!? てめぇ、ゲームで手ぇ抜いてんじゃねぇよ!! 真面目にエンドやれや!!』

『? 皆、知り合い??』


「こらこら。アイカさんとよもぎさんが困ってるんで、リアルの話はその辺でやめたまえよ」


 『うわっ、電谷でんやうぜぇぇ!www』という罵倒だか歓声だか、よく分からない電脳族でんのうぞく諸君の弾む声を電谷でんやは聞き流す。


 宙地原そらちのはら世界で、次元能力が5本の指に入る優秀さを誇る電谷でんやは、電脳族でんのうぞく内では有名人である。電谷でんやが相手を知らなくても、相手の電脳族でんのうぞく電谷でんやを知っているのがデフォなのだ。逆に言うと、電谷でんやに反応する輩は電脳族でんのうぞくだと分かる指標にもなっている。


 しかし、身バレしたからには下手な立ち回りは出来ない。何とか格好をつけたいものだ。

 電谷でんやは所持品を確認して、作る際に材料収集が大変な稀少なアイテムを大盤振る舞いすることに決めた。エンドダンジョンに有利になる食事と薬品を全員に配布する。皆からは歓喜の声が上がった。『持ち帰って売りたい……』と呟いた強欲メンバーもいたが、素直に使ってくれないかと説得する。


 それから皆で談笑しながら、ダンジョン内を進んだ。エンドコンテンツに挑んでいるとは思えないほど、和気あいあいとした雰囲気であった。

 電谷でんやを知らず、中の人間が電脳族でんのうぞくではないらしい〝アイカ〟と〝よもぎ〟にも、〝にゃんすけ〟達によって『こいつ、電脳族でんのうぞく族長と友達で対等レベルに電脳使える奴だから』と電谷でんやの情報が共有される。

 〝アイカ〟と〝よもぎ〟から『え! 凄い人じゃない!』『じゃあ紅茶さん、ゲームが凄く上手い人なんですね!』と称賛の声を掛けられる。細かく言うと正確には対等レベルには達していないので、電谷でんやは「むにゃ……」っと謎の言葉を濁した呻き声を出した。大変恥ずかしいのである。

 

『ねぇ、ねぇ。うちの領地……あ! どこだかは秘密だけど、空に月が昇ってさ。皇族がいるって大騒ぎになったんだよ。今でも領地ランカー達が自領地内を探してるの』

『え? アイカって、ひょっとして俺と同じ領地?』

『いや、十六夜いざよい。あの月、全領地で出てるの見えたから。宙地原そらちのはら世界の空を覆ってたスケールらしいぜ。スゲーとしか言えない。流石皇族』

『うちの『領王』様なんて、閣下と手を組んで、ガチで皇族御三家を探しだして主権を皇族に戻すとか言い出した……世紀末だ……』

『ふむ。ってことはモリゾウはくず領地ではないと』

『おい、にゃんすけ! 特定やめろっ』



(閣下? ハイ様閣下だよな)



 意外な人物の名前が出て、電谷でんやは軽く目を瞠る。


 閣下の愛称で他領地民にも親しまれているのは、くず領地の『領王』灰兼はいかねおもいだ。

 主にメディアへの露出の多さと、思春期の心をクリティカルヒットしてくる独特のファッションセンスで大人気である。堅香子かたかご領地から熱烈な招待を受けており、今度人気連続ドラマにもゲスト出演するらしい。一体どこに向かっているのか。


(……いや、でもハイ様閣下が皇族支配主義の保守派系なのは、翡翠ひすい革命のメンバーにいた時点で当然っちゃ当然か。へぇ、皇族探してる『領王』達の纏めリーダーっぽいことやってんだ? ハイ様閣下自身は、皇族御三家の居場所を既に把握してそうだけども。はて? 何故に捜索チームリーダー?)


 電谷でんやは首を傾げながらも灰兼はいかねの話を興味深く聞いていた。

 〝モリゾウ〟の領地の『領王』と同じく、〝よもぎ〟の領地の『領王』も灰兼はいかねと接触しているという。〝よもぎ〟がつい口を滑らせて「刑務所」という単語を慌てて誤魔化したのを、電谷でんやは耳聡く拾った。


(うおっ、まさかの僕っこ、よもぎさんは辛夷こぶし領地出身か! ってことはもれなく領地ランカー。辛夷こぶしは全領民、闘技大会強制だもんね。わー、順位ランク高い人なのだろうか? 個人的に仲良くしたいっ。辛夷こぶしの情報欲しいー)


 電谷でんやの操作する〝紅茶〟は、〝よもぎ〟にグッと指を突き立てるエモートを送る。

 〝よもぎ〟はキラリと星を輝かせてどや顔のエモートを送り返してきた。結構ノリの良い人である。


(うち、先月の爆破事件の主犯2人……くず領地に引き渡すはずだったのに逃げられてんだよなぁ。1ヶ月間、音沙汰ないけども、このままハイ様閣下が有耶無耶うやむやにしてくれるとは思えないし)


 そこで〝にゃんすけ〟から個別ボイスチャットが入る。周りのパーティーメンバーには聞こえない秘密の通信だ。


電谷でんやって、確かあい領地住みを公言していたよな?』

「そうっすよ、あい領地住民ですわん。ゲーム内では紅茶と呼び給えよ。くず領地の電脳技術屋、電徳でんとく遙一よういち君』

『げっ……正体バレてたのか』

「この間の電牙でんかび葦成あししげの情報でね。ヒジョーに助かった反面、前から中央大陸領地住みとは思ってたけども、ちょい情報の集め方が一介の電脳族でんのうぞくにしては優秀過ぎませんかね? って思った次第ー」

『あー、褒められてんのか、抜けてるって言われてんのか、スゲー複雑だぜ……。でさ電谷でんや。今度、閣下があい領地行くから』


「ファッ!?」


『遂に手が空いた。正式発表まだだけど、女郎花をみなえし領地と藤袴ふじばかま領地の征服完・了!!』


「嘘ぉっ!? この平和なご時世に本当に領地戦争やっちゃったの!! しかも勝っちゃう!?」


『あの人、生まれてくる時代を間違えてるから。多分他の領地も獲る』

「ひえぇ……中央大陸に住んで無くて良かったワー……」

『じゃ、今の情報が穴埋めにパーティー参加してくれた粗品ってことで。……マジ、さんきゅう』


 少し照れた声音で、〝にゃんすけ〟は秘密の通話を切った。

 くず領地の情報を貰った電谷でんやは俄然やる気が出る。



 しばらくすると強敵のモンスターに遭遇し始め、全員悠長にお喋りをしていられなくなった。忙しく戦い始める。

 補助魔導師職の電谷でんやは、あい領地の今後を考え続けながらも、味方にステータス上昇や異常無効の様々なバフを掛け続け、ダンジョンの敵には毒やスロー、攻撃貫通のデバフをばらまく。敵視がこちらに来ないようにヘイト管理もしっかりしつつ、ダメージ量よりも基本死なずに周りに迷惑を掛けないことを心掛けて電谷でんやなりにパーティーに貢献した。




 約3時間半ほどの時間を費やして、電谷でんや達はダンジョンの5区画まで到達出来た。初回攻略は2区画までで撤退するのが平均的な攻略速度らしいので、随分と早く奥まで攻略出来たようだ。レアなアイテムもドロップして、皆喜んでいた。


『今日は本当長い時間付き合ってくれてありがとな。ここまで来られるとは思わなかった』

「あらま。結構時間も経ったっすね。じゃあ、今日はおしまい?」

『ああ。準備もしっかりして、最終区画は流石に固定フルメンバーで踏破したいしさ』


 申し訳なさそうに〝にゃんすけ〟が言う。

 「気にせんで良か良かー」と電谷でんやはからりと笑った。

 ところが〝にゃんすけ〟と違い、他のパーティーメンバーには微妙な空気が流れる。電谷でんやに礼を告げながら『次も一緒に遊びたいね』と〝アイカ〟に言われたり、遠回しに次も電谷でんやに来て欲しいと言う雰囲気があった。

 電谷でんやはあえて気付かない振りをするが内心ひやっとしていた。


(この固定、崩壊のカウントダウンが始まっておるのだが……)


 電谷でんやが『用事と言う名の固定解散かな?』と茶化していた言葉が、かなり現実味を帯びていた。

 一度のドタキャンでこんな雰囲気になる訳がない。用事で抜けた人物は、既に何度か前科があるようだ。〝にゃんすけ〟以外のパーティーメンバーは、かの人物を切りたがっている気配があった。

 どうやら、固定パーティ―メンバーのリーダーの〝にゃんすけ〟が他のメンバーの意見を汲まず、その1人を庇って気遣っているという偏った状況のようである。このままでは近いうちに不満が溜まったメンバーに脱退されて、この固定パーティーは解散になるだろうと思われた。



 電谷でんやはパーティーを抜けた後、こっそりと〝にゃんすけ〟に『用事で来なかった御方に皆の不満がかなり溜まってるっぽいから、その人には抜けてもらって他に予定の空いている新しい人を誘った方が良いんじゃないかい?』とチャットを送っておく。

 〝にゃんすけ〟から返信は無かった。

 ゲーム内だけの知人でも、知り合いを切るのはつらいものだ。ただ固定パーティーのリーダーならその判断と割り切りが出来なければならないので、電谷でんやは心の中で〝にゃんすけ〟の成長を応援しておくと、そのままログアウトした。





 緑茶を飲んで一息つく。

 次に電谷でんやあい領地のSNSを巡回し始めた。ほとんどの呟きや写真などが先日の空に出現した月の騒ぎが続いている。


(てるやんの月って分かっているからあい領地ランカーは皇族捜索なんてしないけど、探す振りはした方が良いかもしれない。ちょっと『マスター』達の反応を不審に思ってるあい領地民もいるな……。ナー様にお知らせしときましょーか)


 むーんと眉根を寄せて電谷でんやとおるにメールを入れる。更にあい領地の掲示板を開いた。


(うわ、『あいらふらいふ』アプリの勢い抜かれてる! 皆、完全に月族つきぞくの話題の方に移ってるじゃん)




 1. 【お月見】月族のいる領地予想スレ 105【したい】

 2. 検証・あれは本当に月族の月だったのか? 56考察目

 3. 「藍らふらいふ」攻略スレ 339人目

 4. 【絶対に】俺のアプリに9位と博士が未実装な件 362【許さない】

 5. 炎乃響華アンチスレ 欠席3088日目

 6. 最近領地ランカーがこそこそ隠れて暗躍してないか? パート62

 7. 【闇束霞】今日のかすみたん 225不幸目【ショタ× 男装女子○】

 8. 【皇族御三家】太陽族・宙地原族・月族 最強種族議論スレ 97

 9. 【ネタバレ】「藍らふらいふ」を語るスレ 472ED目

 10. 【水名透】←こいつらの区別がつかない→【水瀬英貴】1240の水族




 ……ざっと上位10のスレッドを見て、少し前まで無かった皇族御三家関連のスレッドの数に驚く。

 敦美あつみあい領地ランカー関連のスレッドがほとんど勢いを落として下に下がっていた。『炎乃えんの響華きょうかアンチスレ』だけは、昔からの不動の位置のままだが。

 ちなみに闇束やみづかスレッドは『あいらふらいふ』アプリで爆誕した新規のスレッドだ。アプリで彼女のシナリオを読むまで、あい領地民は彼女が女性だと知らなかったため、随分と衝撃を受けたらしい。彼女を幸せにしたいという趣旨で、闇束やみづかの写真を加工し、誰が1番闇束(やみづか)に似合う女性の服を着せてあげられるか大会をスレッド内で行っている。濃い。



(……そうだ。てるやん、明日も学校休みならお見舞いに行こっかな)


 電谷でんやの親友である水城みずしろ輝夜てるやすは、道路爆発及びドロッと事件から学校を欠席している。本当に体調がすぐれないのか、とおるに自宅待機を薦められているからなのかは分からない。具合が悪いなら連絡は控えた方が良いだろうと考えて電谷でんやは遠慮しているのだ。





 それから電谷でんやは、『透明の玉座』のドラマ全話を観て火上ひかみ音根おとねがコントに使っていた話数を発見した。

 6話目と43話目だ。響華きょうかへのメッセージに使ったシーンだけ43話目を使っており、その副題が〝就任〟だった。

 メッセージに使えるシーンは6話目にもあったのだが、何故かそこは使わずカットして43話目のシーンを使っている形だ。火族ひぞく族長になるのを断った話を語るのに〝就任〟というタイトルのシーンで演じるのは随分とあべこべに感じる。

 電谷でんやがいくら考えても火上ひかみの意図が見えてこず、電谷でんやは考えるのを諦めた。

 さっさと報告書を作成し、敦美あつみとおるにメールで送る。


「お仕事終ーわりっと」


 電谷でんやは鼻歌を歌いながら、明日水城(みずしろ)家に向かう予定を立てるのだった。 


 第1章の閑話はこれでおしまいです。

 次回から、第2章が始まります。

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