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眠る月の皇子  作者: 古波萩子
『眠る月の皇子』
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第1章 運命の再会は、不法投棄のさなか

 水城みずしろ輝夜てるやすは、重いまぶたを上げた。


 先ほどまで輝夜てるやすの視界に入っていた桜の古木と泣きじゃくる少年の姿はない。

 代わりに、複数のダンボール箱が小山を作る見慣れない部屋の景色が目の前にあった。

 懐かしい子供の頃の夢を見ていたのだと認識するまで、少しの時間が必要だった。

 寝ぼけまなこで部屋を見渡すと、床一面が軽く浸水している。


「……う……、また兄貴か……」


 ベッドは勿論、輝夜てるやす自身もびしょ濡れだった。

 ぐっしょりと朝から濡れ鼠になるのも慣れたもので動揺はない。心の病で精神不安定な輝夜てるやすの実兄がパニックを起こして水族みずぞくの力を使い、家全体を水没させるのは日常茶飯事だ。


(でもなんでだろ……? こういう時、いつもびっくりして直ぐに起きてたのに……。まぁ、水族みずぞくの出す水の中なら俺は息はできるし、溺れる心配はないけど)


 首を傾げながら重い体をベッドから起こす。濡れた自分の髪を摘まみ苦笑した。


「……水もしたたる良い男?」


 良い男と言うには少々――いやかなり、たくましさが足りていないのは輝夜てるやすも自覚している。


(むなしい……)


 がくりと肩を落とし、段ボールの中を漁った。服が入っているはずだ。


(もうちょっと目が小さければ……。つり目の奴は得だよなぁ。鋭くて格好いいって言われてることもあるし)


 女の子に良く思われたい。近頃の輝夜てるやすにとって最大の悩みの種であり、関心ごとだ。

 17歳。健全な男子高校生なのである。

 輝夜てるやすは童顔の容姿がコンプレックスだ。身長も152センチと低く、他人に実際の年齢より若く見られることばかりで「中学生?」と声を掛けられるのが非常に苦痛である。

 だからか、人よりも〝格好いい〟には敏感だ。


 顔を上げると、窓ガラスにはそら色の髪と瞳を持った少女にも見える顔立ちの人間が映っていて、輝夜てるやすは口を尖らせた。その仕草も男らしさを減点していたが、つい癖でしてしまう。

 ビニール袋に入っていた服を雑に引っ張り出していると、ピチャピチャと水を踏む小さな足音が近付いてきた。 


 水城みずしろ家の愛犬ロボット、甲斐かいがひょっこりと部屋に顔を出す。 


 甲斐かいは、黒い毛色で鼻の辺りと前足後足の先だけ白い毛色をした、子犬の姿をしたロボットだ。嬉しそうに尻尾をはち切れんばかりに振りながら、輝夜てるやすの足下にくる。

 輝夜てるやすは慌てて甲斐かいを腕の中に抱えた。


甲斐かい! どこも壊れてないよな!? お前、防水機能があるかも怪しいのに!」


 『クゥンクゥン』と甘えた声で鳴く甲斐かいに、「ほう」っと安堵の溜息を零す。どこも壊れていないようだ。

 ちょうど、母の水城みずしろつむぎが部屋の前を通りかかった。

 つむぎは洗濯物を回収しながら、部屋を浸水させている水を少しずつ手の平の上へ球状に集めては蒸発させるといったやり方で家中を乾かし回っていたようだ。


「おはよう。甲斐かいを守ってくれたの母さん?」

「ええ。おはよう、輝君てるくん。ぐっすりだったわね。……多分、引っ越し疲れしてるのよ」


 つむぎは歯切れ悪く答え、曖昧な笑みを浮かべた。


(あれ……? そういえば、いつこの新しい家に到着したんだっけ……?)


 就寝前後の記憶が無い。輝夜てるやすは首を傾げた。


「んー……そうかも。子供の頃の夢まで見たし。兄貴は?」

「病院。おぼろさんが会社に行く前に連れていってくれたわ。良い先生だと良いわね」


 父、水城みずしろおぼろの名前を口にすると、つむぎは恋する少女のような表情ではにかんだ。

 つむぎにとっておぼろは、いつまで経っても〝白馬に乗った王子様〟というやつなのだ。こんな時、息子はどういう反応で返すべきか、輝夜てるやすは未だに悩む。

 目を泳がせつつも話を戻した。


「兄貴、近頃は水没攻撃やらなくなってたのになぁ」

あい領地のランキングニュースをテレビで見ちゃって……。きっと色々思い出しちゃったのよ。自分が領地ランカーだった年齢と近い子ばかり映っていたから……」


 つむぎはまた歯切れ悪く言いよどんだ。




 ――現在の宙地原そらちのはら世界には、領地ごとに『領王りょうおう』と呼ばれる支配者がいる。

 『領王』の主な役目は領地の拡大、防衛。戦闘に特化した領地のトップ権力者だ。


 領地内で数十年に一度、闘技大会が開催されて優勝した者が『領王』になれる。

 闘技大会の参加条件は領地によって異なるが、基本的にどの領地も在住していれば出身は問われないで参加出来る。

 この闘技大会で優勝は出来ず、『領王』になれなかった他の出場者は、『二位』『三位』……と最終的な勝敗順位がそのまま階級順位の名称となり、以後『領王』の部下となって領地防衛で他領地と闘う兵士となる。

 『二位』~『十位』までを上位領地ランカー。

 『十一位』以下は下位領地ランカー。

 そして総じて〝領地ランカー〟と呼ばれている。

 その階級順位はランカー同士の決闘や思いがけない不幸で欠員があった際の繰り上がりなどで変動したりもする。




「この藍領地を統治している人ら、そんなに若いの?」

「『領王』様がてる君と同じ年頃の女の子よ。『二位』以下の子達も10代が多くて、私もびっくりしちゃったわ」

「女の子!?」


(可愛いの!?)


 反射的に輝夜てるやすはそう考え、身を乗り出した。

 つむぎは目を丸くした後、くすくすと笑って言う。


「綺麗な子だったわよ」

「そ……そう……」


 がっついたようで急に気恥ずかしくなり、頬が熱くなる。

 息子の反応に微笑ましげな視線を送る母親から逃れるべく、輝夜てるやすは慌てて1階の居間へと駆け下りた。


 1階のリビングの床はまだ2センチほど水が張った状態だった。

 比較的無事なソファの上に抱えていた甲斐かいを降ろしてやり、頭をひとなでする。甲斐かいは小さな尻尾をぱたぱたと動かし目を細めて喜んだ。

 それから、机の上に用意されていた朝食を手早く食べてシャワーを浴び、自室で取り出したブレザーの制服を着る。

 クリーム色のカーディガンの上着に濃紺一色のスラックス。紺色のチェックのネクタイをきゅっと締めて仕上げだ。

 昨夜、藍領地に引っ越してきた輝夜てるやすは今日が転校初日になる。


(今更、転校に新鮮さも特に無いけど)


 何故なら水城みずしろ家の転居と転校は年中行事のようなもの。藍領地自体も子供の頃に何度か来訪している見知った土地だ。

 

 ――9年前。どこかの領地ランカーだったらしい輝夜てるやすの兄、水城みずしろ篁朝たかとき

 領地ランカーをうまく引退出来ず、領民から恨みを買って酷い目に遭わされた。その領民達は未だに兄の命を狙い続けている。

 だから水城みずしろ家は、ずっと逃亡生活を送っているのだ――……





            ◇◇◇





 宙地原そらちのはらの大地は、牡丹ぼたんの花に似た地形である。

 世界の中心である中央の島は皇族御三家の領地であり、人影の消えた皇帝城がそびえ立つ。現代でも神聖な土地で立ち入りが禁止されていた。

 現在の領地数は60。

 中央の島を囲む広い大陸は中央大陸と呼ばれ、更に南下したところに中央大陸ほどではないが広大な土地の島がある。

 周りを海に囲まれたその島の中には5つの領地があり、北東に位置する領地が藍領地だ。

 藍領地は大きな川や湖が多く、古来に水族が『皇帝』から授かった領地だった。だから今でも水族の本家は藍領地にある。

 そのため、昔は水城みずしろ家も葬式や法事、結婚式や年始の挨拶など親戚が集まる行事がある度に訪れていた。


 しかし兄が追われるようになった9年前を最後に、藍領地に近寄ることはなくなっていた――……



(うちが藍領地にいて大丈夫なんだろうか。本家に怒られないのか……? まさか黙って入り込んでいる訳じゃないと思うけど)


 輝夜てるやすは藍領地に戻ってきたことに、不安を感じていた。


 本家の反応を案じる輝夜てるやすの頭上では、青く明るい空がどこまでも広がっている。まばらな雲のゆったりとした流れを無意識に目で追っていると輝夜てるやすの口から、ふわっと欠伸が出た。


(夢を見たせいかな。疲れが取れてない……っていうか身体が重いような)


 空に向かって両腕をぐんと伸ばしてみる。その拍子に手に持っていた鞄が頭に当たってきた。意味も無くムっとして鞄をにらむ。

 ふと、むかし最後に立ち寄った藍領地での桜並木の記憶が脳裏をかすめる。


(本当に、懐かしい夢だったな。思い出すのも何年振りだろ……?)



 ――9年前の藍領地。桜並木の歩道。

 輝夜てるやすは、闘技大会に出て罵倒されるのが怖いと泣きじゃくる少年に出会い、彼の闘技大会の出場についての悩みを聞いた。

 その少年は最後には勇気を出して闘技大会に出ると決意したので、輝夜てるやすも応援の言葉をかけたのだ。散々な結果で他の人間が批難したとしても輝夜てるやすだけは彼を罵倒したりしないと約束を交わした。


 ところがこの話、輝夜てるやすにとっては美談とは言い難い思い出である。

 何故なら当時の輝夜てるやすは、身の安全のために少女の変装をしていたのだ。格好がつかない話である。



 不意に、今朝の夢に引っかかりを覚えた。細かい部分が現実のものと異なっていたことに気付く。

 夢の中の少年の瞳に映っていた輝夜てるやすは、何故か真っ白な髪と瞳をしていたのだ。

 ――輝夜てるやすの瞳と髪の色は、空色である。


(髪の色はカツラを被っていたなら違ってても不思議じゃないけど、目はカラコンまで入れてたのか? 全然その辺は覚えてないなぁ)


 右手で自分の空色の髪を摘まみながら、左手で制服のポケットに放り込んでいた携帯電話を取り出す。その画面を親指で操作し、ぼんやりと藍領地の電脳ネットを見た。

 映し出されているのは、この藍領地の写真付きの最新版とされる階級順位表ランキングだ。


(いない……)

 

 輝夜てるやすはあの少年の顔を確かに覚えている訳じゃない。だけど、思い出の少年がどうしてもその画面内にいるようには思えず、顔をしかめた。

 闘技大会は頻繁に行われるものではない。10年に1度あるかないかという頻度が普通なので、9年前の藍領地の闘技大会の順位が、最新の階級順位表ランキングのはずである。


(結局、あいつは闘技大会には出場しなかったのか……? 俺、真面目に聞いて約束したつもりだったのに。向こうは本気じゃなかった……いや、冷静になってから考え直して止めた……?)


 ――――「まだやってみる」と。

 闘技大会へ出場すると、彼は輝夜てるやすに誓っていたが、どうやらそのあと出場しなかったようだ。


(まぁ、階級順位表ランキングと無縁の生活していた方がぶっちゃけ幸せだろうし……)


 輝夜てるやすは兄の事情が脳裏をよぎり、溜息が鼻から抜けた。


 確かあの少年は、先々代の『領王』の子弟に運悪くなってしまったばかりに、周りの大人達から次代の『領王』になることが当然と期待され過ぎて「出場して、もし『領王』になれなかったら……」と、周りの期待を裏切ることを恐れて思い詰めていた。

 だから輝夜てるやすは、たとえ彼が負けて『領王』になれなくても、輝夜てるやすだけは少年が勇気を出して出場したことを絶対に祝福するからと、つたないながらも応援したのだ。


 子犬のロボット、甲斐かいは彼から貰った。

 ……多分、機械族きかいぞくだったのだろう。だから余計にむごい話だと思う。


 機械族は根本的に非戦闘種族なのだ。

 今まで闘技大会に出場したという機械族の話を輝夜てるやすは聞いたことがない。


 機械族の力は、物を作ることのみである。

 だから事前に対抗手段になる物を作って準備しないと他の種族に太刀打ち出来ない。普段から携帯出来る物の数にも限界があるので、戦闘には向かない種族なのだ。


 それでも、一切の攻撃手段が無い上、物を作る技術さえ無い電脳族でんのうぞくよりマシではある。

 非戦闘種族の筆頭格である電脳族は、独自の電脳世界を作り出して自在に操る能力を持つが、現実世界では何も出来ない種族である。

 唯一、現実に干渉する能力が、次元に入って姿を消したり移動するというもの。

 それも他者は連れて入れない代物で、自身が逃げ込むだけの避難所――シェルター風の専用能力でしかないらしい。



 遙か昔、この宙地原そらちのはら世界には『皇帝』が一族内から選ばれる太陽族たいようぞくを主家に、月族つきぞく宙地原族そらちのはらぞくという3つの種族――皇族御三家がいた。

 皇族御三家は全ての種族に階級と順位をつけて種族ごとに領地を配り、統治をさせていたそうだ。いわゆる種族の階級順位制度である。


 けれど800年前に『皇帝』が種族の階級順位制度を否定し、平等をうたって皇族御三家は歴史から姿を消した。

 その際『皇帝』は「種族に差はない」とおっしゃったらしい。

 でも現に戦闘能力には歴然とした差がある。しかも強さの順位は皇族御三家が決めていた種族の階級順位そのままだ。


 トップクラスの戦闘能力は消息不明の皇族御三家。

 次点は風族かぜぞく

 その次が火族ひぞく水族みずぞく大地だいちぞく……最後から2番目が機械族で最下位は一応、電脳族とされている。


 一応、と煮え切らないのには理由がある。

 機械族の派生で電脳族が誕生した時には、皇族御三家は既にいなくなっていた。

 だから正確には、電脳族には種族の階級順位が存在しないのだ。勿論、本家が居を構える領地もない。

 そのせいか、電脳族は一族内で集まることをせず、個々に生きているらしい。

 同じ非戦闘種族の機械族よりも同族同士の結束が薄いせいもあって、何も出来ない最下位の種族というのが一般的な認識だ。



(……あっ。これ、桜の葉っぱじゃないか)


 輝夜てるやすは足元に落ちていた緑のみずみずしい葉に目が吸い寄せられる。

 9月末。だが、まだ秋の気配も薄い。

 落ち葉に誘われるように思い出の桜並木をこの目で見たいという欲求が湧いてきた。多少遅刻しても転校初日は大目に見られるだろう。


(折角、藍領地に戻ってこられたんだ。あの場所へいってみるか!)




               ◇◇◇




(うわっ! そう、ここだ! 見覚えある!)


 おぼろげな記憶を頼りに、駅前近くの広場に辿り着いた。既視感があると心がはずむ。

 広場は山を背にした広々とした敷地に、歴史博物館の建物と小さな飲食の露店が3つ営業していた。

 歩道には桜や松、楠など沢山の木々が植えられ、季節を問わず緑の葉をつけ続ける常緑樹のホルトノキが主な割合を占めている。白い玉砂利が地面に敷き詰められていて、日差しを受けて眩しく光を反射していた。


「あ。ここ、城跡だったのか」


 設置されている看板の説明によると、ここは『皇帝』から領地をたまわった水族の族長が住む城があった場所らしい。もう城は無く、堀の石垣だけが残されていた。

 「そう言えば、水族の本家屋敷もこの近くだ」と思い出し、輝夜てるやすは何とはなしにそちらの方角にも顔を向けた。

 輝夜てるやすが広場の奥に進むと、夢の中に登場した桜並木の歩道があった。

 緑の葉を繁らせる桜の木は毛虫がそこかしこに落ちていて刺されると危険な雰囲気で、苦笑いする。

 顔を上げて前方を見ると、思わず足が止まった。



 愛らしい少女がたたずんでいる。



 肩までの長さできっちりと切り揃えられたにび色の綺麗な髪はサラサラと風に揺れ、色白でほっそりとした体格は黒基調のセーラー服が包んでいた。伏せた瞳は美しい漆黒しっこく色。

 かすみ草のような可憐さと、おしとやかな印象を輝夜てるやすに与えた。

 彼女の横顔は目の前の古木以外のものに思いを馳せているような憂いに満ちていて、輝夜てるやすはしばらく惚けて魅入ってしまう。

 間違いなく絶世の美少女が目の前にいると思った。輝夜てるやすの心臓がバクバクと脈打ち始める。


(うわっうわぁ! なんて可愛い子なんだ……!!)



 ――あれ……? でも、この子に俺はどこかで会ったことが……?



 一瞬湧いた疑問に、あの桜並木の少年の姿が輝夜てるやすの脳裏をかすめた。

 だが、直ぐさま最近の記憶に塗り潰される。


(……ああっ! 藍領地の『領王』!!)


 見覚えがあると思ったら、先ほど携帯電話で見たばかりの藍領地の現支配者だ。

 電脳ネットで掲載されていた顔写真よりも、実物の方が何百倍も可愛いときた。


(こっ、これは……!! 『領王』の子に声を掛けられるチャンスなんて二度と無いかもしれないぞ……!? よっ、よし!)


 ごくりと唾を飲み込み、勇気を振り絞って一歩を踏み出す。


 ジンジンと、どこからか頭の中に痛みが走った。

 緊張と熱で脳がとろけてしまいそうだ。



   すかっ



 ――つい、輝夜てるやすは彼女の横を素通りしてしまった。もう戻れそうにない。


(ぐう……!)


 背後を通り過ぎた輝夜てるやすを、彼女は無表情でちらりと一瞥したがそれ以上の反応はなかった。深く溜息をつき、スカートを翻して去っていく。

 去りゆく美少女の後ろ姿を、輝夜てるやすは呆然と見送った。


(おっ……、俺の意気地なしっ……!)


 輝夜てるやすは、もう一生訪れないであろう機会を逃した小心者の自分自身に腹が立つやら悲しくなるやらで頭を抱えた。


 そしてひとしきり落ち込み終えてから、緩慢な動作で携帯電話を取り出す。

 輝夜てるやすは再度、階級順位の電脳ページを開く。


(えっと、彼女の名前は……)



 〝藍領地『領王』 機國きぐに敦美あつみ



「えっ!? この名字、機械族!?」



 ――約束を交わした少年と同じ種族――その上、女の子……!!



 輝夜てるやすは慌てて電脳で〝領王〟と〝機械族〟を検索する。この藍領地の現『領王』機國きぐに敦美あつみの電脳内辞典や項目、藍領地の掲示板が引っ掛かった。


 電脳ネットは領地ごとに独立していて外部領地からは隔離されている。『領王』や領地ランカー達の情報を外部に極力出さないためだ。

 他領地の電脳情報が欲しければ、その領地に入る必要があるので諜報活動のみに特化した工作員ランカーなるものも存在し、最近では優秀な電脳族を情報屋として特別に雇う領地も増えたと聞く。


 今まで他の領地にいた輝夜てるやすは、思い出の少年を電脳で検索することも出来なかった。それが出来るようになったのだと今更ながら気付く。

 しかし〝機械族〟の検索で、かの少年らしき情報は全く出てこなかった。

 その事実に心を痛めながら、試しに検索に出た藍領地の掲示板を覗いてみる。

 掲示板で最近投稿されたスレッド名は【最弱機械族がなぜ最強になったのか?】というものだった。内容は――



『【最弱機械族がなぜ最強になったのか?】

  0001:名無しの藍領民

     自分は9年前に行われた闘技大会を見ていないので教えてください。

     なぜこの領地のランカーは機械族が倒せなかったのですか?

     不正があったのですよね?

     でなければ宙地原でこんなことありえません


  0002:名無しの藍領民

     最弱はオレら電脳族これマメな

     とっとと出てけ!╭( ・ㅂ・)و

 

  0003:名無しの藍領民

     オウサマけなすな 移民シネ


  0004:名無しの藍領民

     なんでスレ名で煽ってんですかねぇ

     失せろ              』


 

 ほとんど、藍領地の電脳族らしき人達の、質問者への非難囂々(ひなんごうごう)の書き込みばかりだった。

 元々、電脳族は機械族から派生して生まれた種族なので機械族を〝ご先祖様〟として崇拝している。機械族の『領王』をけなされて怒るのは当然の反応に思えた。



『 0032:名無しの藍領民

     別に隠してないから教えるが 

     我らが陛下は

     機械族と電脳族のハーフで両方の能力を継承した珍しいタイプ 

     武器を電脳空間に収納して

     戦闘になったらラグ無しに出して攻撃できる

     機械兵器はスタミナも無いから

     他の種族の能力以上の戦闘が可能ってわけよ


  0033:0001です

     機械兵器とは何ですか?

  

  0034:名無しの藍領民

     こいつスパイくせー

     はいはい巨大ロボットね           』



(巨大ロボット??)


 読みながら輝夜てるやすは目を白黒させる。

 子供ぐらいの大きさの清掃ロボットなら、何度か都会の街中で見かけたことはある。あれ以上大きなロボットを機械族は作れるというのだろうか。それはちゃんと動く物なのかと首を傾げる。

 これを皮切りに一言の書き込みが続いていた。



『 0036:名無しの藍領民

     ステルス迷彩の戦闘機


  0037:名無しの藍領民

     追尾ミサイル


  0038:名無しの藍領民

     隠してっけど敦美サマ 核ミサイル持ってるクサい

  

  0039:名無しの藍領民

     ガトリングで蜂の巣にされたの誰だっけ?

  

  0040:未分類人

     アレ未遂。桔梗領地のランカーちゃん


  0041:名無しの藍領民

     族長様ちーす!


  0042:名無しのやっくん

     トノ! クソコテやめて? |ω・)


  0043:名無しの藍領民

     >>0042おまいう


  0044:未分類人

     これだけ聞いてキミは全部に対応出来そう? 

     いつ頃復讐予定かな?

     桔梗領地二十一位の獣櫛君だよね!       』




 ――書き込みはそこまでで途切れていた。


 どうやら獣櫛じゅうくしなる人物が、藍領地の新参を装って情報を聞き出していた、きな臭いスレッドだったようだ。

 何とも言い難い不気味さと不安が残った。精神衛生上、読後感がよろしくない。


宙地原そらちのはら世界初の、機械族の『領王』……)


 機國きぐに敦美あつみと少年は同じ一族同士のはずだ。それなら彼は、同族同士の闘いを避けるために闘技大会に出場しなかった可能性もある。


(機械族も、大地族のように大会には一族内から1人しか出場させないっていう決まりのある種族かもしれない)


 案外、的を射ている考えではないかと思った。少年はいい加減な気持ちで輝夜てるやすとの約束を破ったのではないかもしれない。

 そう考えると、心が少し軽くなった。


「……よしっ」


 改めて悠然と立つ巨木を仰ぎ見てから、輝夜てるやすは気持ちも新たに転校先の高校へと向かうことにした。

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