表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠る月の皇子  作者: 古波萩子
『眠る月の皇子』
29/141

第24章 世界を煙で重ねて巻いて

 あい領地、中央都市郊外の映画館。

 スクリーンにエンドロールが流れる館内は、まだ照明が点かず薄暗い。


 最後部座席の中央に座った人物は、優雅に拍手をした。


「素晴らしい。『皇帝』陛下によって引き裂かれた、月族つきぞく宙地原そらちのはらぞくの悲恋を見事に描いた作品……。間違いなく今年の最優秀映画賞を取れるだろう」


 満面の笑みを浮かべたその人物以外にも、館内には多数の人間がいる。

 年齢や性別も多種多様。誰1人客席には座らず、通路やスロープに整列していた。

 杖をついた老人が1歩前へ出る。


堅香子かたかご領地は良い時代映画を作りますな」

「ふふ。だが、〝斬新歴史解釈〟といううたい文句が気に障る」

「つけた者を探しましょうに。後に主上が、その文言を目に入れることはございますまい」


 老人の返答に、座席に座る人物は満足げに頷く。


「……時に、地原ちはら。今日は他にも気に障ることがあったな。私の秘めたる心中が察せられるか?」


 軽い口調で向けられた詰問に、〝地原ちはら〟と呼ばれた老人は身体を固くする。

 通路に整列していた人々にも緊張が走った。


「――存じております。主上に危険が及ぶような失態を……」

「よもや私が、ホテルの件をなじっていると思っているのか?」


 ふうっと大業な溜息が吐かれる。

 地原ちはらは狼狽した。


「あれは、太陽族たいようぞくからの警告ではないか。こちらの勝手を見つけたとな。だからことを起こさず、撤退を決めた。まさか貴様は、皇族の長たる太陽族に不満があるのか?」

「滅相もございません……っ!! で、では」

「この藍領地の者は何をしていた?」


 地原ちはらは、はっとする。直ぐに鋭い目線を背後に立つ人物に向けた。


土部つちべ卿士けいし! お前の息子は何をしておったのだ!? 街角の検問は、全て獣櫛じゅうくし涼柁りょうたくず領地のランカーどもを捕まえる目的だと報告していたではないか!! そう聞いていたからこそ、我々大地族は、検問に掛からぬようにと注意を払って動きを止めていたというに……まるで道化じゃ! まんまと奴らの牽制に従うはめになっておったわ!!」

「は……はい……」


 〝土部つちべ卿士けいし〟と名指しされた中年の男性は、顔色を無くして声も身体も震えていた。


「藍領地の『領王』にしてもじゃ! 〝領地の防衛をせず、水族みずぞくとの間に摩擦がある〟との、お前の息子からの情報だったというに! だからこその翡翠ひすい領地と同じ手を使うと決めたのだぞ!? それが蓋を開けてみれば、藍の『領王』と水族どもが結託して、太陽族が出張ってくるまでの時間稼ぎをしておったなどと……!! 全て報告と違っていたではないか!!」

「も、申し訳ありません。息子の阿騎あきは『十二位』でして、どうしても上位領地ランカー間の情報が得られず……」


「これだから幹部になれぬ輩の領地は」


 再び、座席に座る人物から呆れたような溜息が聞こえ、地原ちはら土部つちべは冷や汗を掻く。


土部つちべくらいを下げて藍領地の担当を下りてはどうだ?」


 土部つちべは出された宣告に悄然しょうぜんとした。

 整列する他の者達から、冷ややかな視線が土部つちべに突き刺さる。

 だが、地原ちはらから助け船が入った。


「お待ち下され。土部つちべ家に匹敵する家は、なかなかありませぬ。ただ、藍領地の上位が……この土地は昔からどうにも人材が異質なのです。よそで『領王』になるような能力者が、上位領地ランカーとしてごろごろとおりまする。何とぞご容赦を」

「ふふ。大地族族長が、藍領地の上位領地ランカー全員が『領王』クラスだとのたまうか。言い訳にしては陳腐な喩えを使うものだな」


 かの人物はこぎみよく笑っていたが、不意に真顔になった。



「強大な力を持つ者が集まる理由が……生まれる原因が、あるのか……。この領地に――」


 「強大な力を持てる原因……」と、微かに復唱して口に弧を描く。


 映画のエンドロールが終わり、館内の照明が点灯する。

 座席に座る人物がライトを浴びて姿を現した。

 それは10代に見える少女だった。

 しかし、少女にしては表情から見え隠れする老獪ろうかいさと妖艶ようえんさが、年齢にそぐわない。

 黒を基調としたセーラー服に身を包んでいた彼女は、客席から悠然と立ち上がる。

 セーラー服の襟元には〝地王ちわか〟と刺繍があった。

 その場にいた全ての大地族が彼女に恭しく平伏する。


「ではしばし、800年振りの表の生活を楽しもうか。ふふ」

「どうかごゆるりと。我らが主――御神地みかむちすめらぎ殿下に、藍領地での恒久なる平穏を我らがお約束いたしましょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ