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眠る月の皇子  作者: 古波萩子
『眠る月の皇子』
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第18章 カーテンコールへ祝砲を

 敦美あつみ達が立ち去って、10分後。



 ピロロロロ……


 手の中の携帯電話が鳴った。

 秀寿ひでとしは、目覚めさせていたけんに目配せを送る。

 簡易の能力封じの手枷をはめられた状態のけんは恐る恐る携帯電話を受け取り、通話ボタンを押す。携帯電話は秀寿ひでとしにも相手の声が聞こえる設定にしている。


「も、もしもーし?」

『……もしもし……』


 可愛らしい少女の声が電話口から聞こえ、秀寿ひでとしは驚いた。けんに「知り合いか?」と声を出さずに口を動かす。

 けんは頭を左右に振って否定した。


「ちょ、ちょい待ち。キミどちらさん? 誰からこの番号を? こちとら粒島りゅうしまけんって言うんだけどかける番号間違ってねー?」

『合ってます。この電話なら貴方の依頼主……電拳でんつかつるぎさんには気付かれないように私がハックしているので……大丈夫です』

「はあ?」


 けんは全く聞き覚えの無い声の少女から「電拳でんつかつるぎ」の名前まで出されて混乱した。


『私は電照でんしょう巫倉みくらと申します』

「そ、そう。デンショウミクラ? 電脳族でんのうぞくの子ね……」

「!?」


 秀寿ひでとしは少女の名前を聞いて息を呑む。


電須でんすさんの妹……!? 本物なのか!?)


『これから、貴方に太陽族たいようぞくの総意を伝えます』

「は? え? ……は?」


 けんは突然つっこまれた浮世絵離れする〝太陽族〟という単語に、頭の中がこんがらがった。


『これから伝えることは、お願いではありません。太陽族から貴方に与える命に――』

「ちょ、ちょい待ってくれる!? いやいやいやお嬢さん、何の悪戯電話かな!? 太陽族がどんな種族かわかってる!? 皇族のトップよ!? 『皇帝』になる一族のことだからな!?」

『その……、貴方に与えられる命は、次期『皇帝』陛下になられる方の御言葉になります。貴方に拒否する権利はありません』

「――」


 けんは開いた口が塞がらない。

 けんが信じていない様子を察したのか、彼女は語り口を変える。


『では証拠とまではいきませんが、貴方のあるじを呼びます。画面を見てください』

「主?」


 携帯電話を耳から離すと、画面にけんがよく見知った男性が現れた。


「!?」


 直ぐに背筋をピンと伸ばして、口をへの字に引き結ぶ。冷や汗が滝のように流れた。


『ああ、粒島りゅうしま。随分と元気そうじゃないか?』


 シックで高級な革張りの大きな長椅子にゆったりと腰掛けた銀髪の男性は、黒コートと黒手袋、銀のアクセサリーを身につけた格好で悠然と足を組み、画面の向こう側にいるけんを見下すような角度で微笑んでいた。



 ――くず領地の『領王』〝灰兼はいかねおもい〟。



「は、灰兼はいかね『領王』様……っ」

『この俺が、何を1番愛しているのか知っているかな』

「へ、平穏でしょうか……!?」

『それは1番ではない』


 笑みを浮かべながら、顎の前で灰兼はいかねは手を組む。

 だが決して灰色の瞳は笑っていなかった。


『〝忠誠心〟だ。この世の中で最も尊ぶべきもの。そうだろう?』

「は、はいっ!!」

『だというのに、お前からはそれが感じられないな?』

「い、いえその、これはっ」

『誰が、いつ、今の現状を謝れと言った』

「え……」

『忠誠心は行為だ、見せてこそ意味を成すものだ。言葉ではない。……ここまで言えばもう理解したか?』

「……はっ。も、申し訳ありません!!」

『よろしい。さすが粒島りゅうしまだ。物わかりがいい』


 にこっと笑む。

 笑みを向けられたけんの方は真っ青になった。

 震えるけんの右手から秀寿ひでとしは携帯電話を取る。


「お久しぶりです。灰兼はいかねさん」

『ああ、あずま君。久しいじゃないか。しかし君もよくよくついていない――いや、なかなかの悪運だな。また革命ごっこの獲物になっているなんてね。しかも、昔は安全な領地の外側にいたが今度は危険な内側にいるようだ。さて、その気分はどんなものかな?』


 秀寿ひでとしは肩をすくめた。


灰兼はいかねさん、相変わらずの格好ですけどそろそろ三十路じゃ……?」

『人の美的センスに口を出せるほど、君がファッションに興味があるとは意外な発見だな。人の目を気にするのは良い兆候ではある。他人に興味があり、意識しているということだからね』


 部下に振りまいていた笑顔はさっと消し、灰兼はいかねは憮然とした顔でとつとつと語った。


「さっきそちらに藍領地からミサイルを」

『何のことだかわからないな?』

「それじゃ、葛領地はあれで帳消しにするんですね」

『爆破事件と相殺だ――呑んでくれるね?』


 否とは言わせない威圧を向ける相手に、秀寿ひでとしも焦ることなく冷静に応える。


「わかりました。ではそちらの領地ランカーが起こした3件の爆破事件は、特別に罪に問わない判決で――」

『4件』

「え」

『もう1件は、これから粒島りゅうしまが起こすんだ。目標は木蓮もくれんホテルスイートルーム。俺の忠誠心を存分に太陽族の方々にお見せしなくては』


 灰兼はいかねはさらに口角を上げてにっこりと微笑んだ。


「そこに、誰が泊まっているんですか?」


 秀寿ひでとしはごくりと唾を飲み込む。次に飛び込んできた言葉は耳を疑うような事実だった。



宙地原そらちのはら族だ。翡翠と違い、本人が来ているよ。――9年越しの仕返しが叶うとは嬉しいものだね』


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