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眠る月の皇子  作者: 古波萩子
『眠る月の皇子』
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序章 幼き約束

 桜並木の続く歩道。陽の光を反射してまぶしく光る白い玉砂利が、桜の木々の根元を敷き詰めている。

 一際ぐんと伸びた古い巨木の前に幼い少年と少女が向かい合っていた。


 にび色の短い髪にTシャツと半ズボン姿の少年は、頬を涙でぬらし俯いている。

 白練しろねり色の髪と瞳を持つ少女は、白いワンピースの裾をふわりとなびかせて少年へと近付いた。

 そして両手に抱えていた真っ白なうさぎのぬいぐるみを差し出す。

 ぬいぐるみは60センチほどの大きさでオレンジ色のリボンを首に巻いていた。


「ツキちゃんに誓うよ。この領地の人達がどんなにがっかりして怒っても、僕だけは絶対にきみにがっかりなんてしない。うん、一生しない。君はがんばっているもん」


 少女の1人称は女の子らしからぬものだった。

 「ツキちゃん」と呼ばれた兎のぬいぐるみを受け取った少年は、すがりつくようにきつく抱き締める。泣き顔を埋めたまま、足元にまとわりつく子犬を手荒につまみ上げて少女へと差し出した。


「わぁっ! ロボットだ!」

「……その子に、誓う……。どんなに、みっともない結果を見せることになっても、自分がやれるところまで、まだやってみる……」


 か細くかすれた少年の声は高く、目の前の少女よりも女の子のような愛らしさがにじんでいた。

 少女は微笑み、少年を真似て子犬をぎゅっと抱き締める。


「僕、この子をずっとずっと大事にする!」

「うん……」


 少年もさらに力強く兎のぬいぐるみを抱き締めた。


 少女と少年の交流は、まるで結婚指輪の交換の儀にも似通う。

 幼い2人の頭上では、桜の花びらが春風に吹かれて柔らかく舞い散っていた。




 白い少女の背後には、黒い2つの人影がたたずんでいる。

 1人は青年。

 もう1人は癖毛が印象的な少年である。彼は約束を誓う2人と同じぐらいの歳のようだった。


 ――青年の方は、笑い合う幼い2人にどこまでも暗く冷え切った視線を注ぎ続けていた。

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