第13章 怠惰な『領王』動き出す
◇◇◇
『馬鹿ね。他人の言葉で作った夢なんかを叶えるから、叶った先に何も無いのよ敦美』
響華の言葉に酷く心がざわついた。
敦美が『領王』になったのは、天使の少女になれと言われたからではない。
見当違いもはなはだしい――……
自分は怒っているのだと、敦美が気付いたのは藍領地本部の高層ビルを後にしてからだ。
コンビニ店内のイートインスペースでブラックコーヒーを飲み、腹立ち紛れにシュークリームを食べているうちに次第と冷静さを取り戻していた。
響華が言っていた「他人」とは、あの少女を指していない。
当時、敦美達に『領王』を期待した大人達のことを「他人」と指している言葉だったのだと思い当たる。
敦美は彼らの期待を叶えて『領王』になった。
でもそれは敦美の希望だったわけではない。
そういう……話だったのだ。
(響華は、それがわかってたから闘技大会でわざと負けたの……?)
ふざけた試合をして闘技大会の上位の順位を無茶苦茶にした響華を悪く言う領民は多い。
それでも自身の意思で選んだ結果だからこそ、響華は今の立場に満足し、納得出来ているように見える。
響華は自由だ。
敦美よりもキラキラと輝いて、今を生きている。
敦美は電脳を目の前に表示して響華に連絡した。
『敦美? 何、どうしたの』
「――響華。今日は色々ごめん、ありがとう……。私、響華に言われた意味にようやく気付いた」
響華に謝りの言葉を伝える。すると、
『そんな話をしたかしら。忘れたわ』
響華はあっさり敦美に答えてさっさと電話を切る。
敦美は思わず笑みを零した。
「『領王』様、これどうぞ!」
笑顔のコンビニの店長にブラックコーヒーのペットボトル飲料を一杯に詰めた袋を手渡された。素直に受け取って店内から出る。
ペットボトルの重さに1度家に帰ろうかと考えていた時、視界の端に白いものが映った。反射的に目で追い、それが小さな子猫だとわかると苦笑する。
近頃、思い出の少女を求めるあまり過敏に白いものに反応し過ぎる。重症だ。
敦美がそう思っていたら道の角から1人の少年が走り出てきた。
子猫の近くで息も荒く腰を折って立ち止まる。伏せた顔は見えなかったが、空色の髪で水族だと推察出来た。体格から見るに中学生だろう。
時計を確認すると20時過ぎ。夜だ。非力な中学生がうろついて平気なほど平和な時刻ではない。
顔を上げた少年に敦美は見覚えがあった。
(朝方、桜並木にいた子だ)
少し、探す少女に似ている気がして印象に残っている。
彼女は真っ白な髪と瞳だったので、空色の髪と瞳の少年を似ていると感じるのは変なのだが。
何故か妙に気に掛かり、つい声をかけてしまった。早く家に帰るように注意をする。さらにペットボトルを1本あげて敦美はその場を去った。
(この辺りで見かけない子だ)
ひょっとしたら他領地から引っ越してきたのかも知れない。そう言えば敦美は、ここ何年か藍領地の入領承認をろくに確認もせずに許可を出して発行するという雑な仕事しかしていなかったように思う。
(そうだ……。私はまだ他の領地を探していない……!)
突然見えた光明にハッとした。
何を諦めていたんだろうか。『領王』の地位だからこそ、やれることがあるではないか。
風我師匠が、まさにしていた無茶苦茶なことを。
力尽くでの、領地拡大――……
――いるかもしれないんだ。藍領地以外の土地に。
この広い世界、宙地原のどこかに必ず。
彼女は、きっと。
◇◇◇
「デンスサヨシ? 名字からして電脳族のようですが……」
砂岳は考え込みながらくわえていただけの葉巻をまた口から離し、コートのポケットに突っ込んだ。
――9年前。敦美は確かに覚えている。
あの少女を目の前で連れ去った人間が、当時から消息不明の電照巫倉の実兄、電須佐由だったことを。
従姉妹の巫倉自身に聞きたくても、風我師匠と共に藍領地を出てから一切連絡も無い。こちらも消息不明になっている。
そして電須佐由の代わりに電脳族族長に就任した電拳剣は、未だに彼を血眼で捜し回っているが見つけられていない。
佐由は敦美が探す少女の貴重な手掛かりだ。
「――電脳族内で現人神として崇拝されている人物なの」
「現人神!? そりゃー、まるで皇族なみの表現じゃないですかい」
「――束の間でも皇族の末席だったらしい……。太陽族の養子になって」
砂岳はさらりと告げられた衝撃的事実に仰天する。
「電脳族が、こ、皇族!? 一体どこの与太話です!?」
「――本当かどうか今、確認している。昔から機械族内で有名な噂話で……。不敬にも電脳族の前族長――彼の両親が皇族御三家に謁見して、自分の息子は皇族に匹敵する力を持っているから電脳族を加えた階級順位制度を宣誓し直してほしいと頼んで、息子を献上したという話なの」
淡々と語る敦美の言葉が砂岳は上手く呑み込めず頭を掻く。
「えぇっ……? そ、そもそも皇族ってやつはどこにいるのかわからない存在でしょう……!?」
敦美が、すっと人差し指を上空へ向けた。
釣られて砂岳は空を仰ぐ。意味を理解して戦慄した。
「人工衛星……!! じゃ、じゃあ機械族と電脳族は、とっくの昔から皇族の居所を把握してたんですかっ!?」
砂岳は慌てて口を押さえる。顔色を青くしながら、撤去作業をしている下位領地ランカーに自分の大声が届かなかったかと慌てた。
「――空から敷地を見るだけで決して近寄らず、不可侵のはずだった。けど、電須佐由が生まれて電脳族がその暗黙の礼節を破ったみたいなの。皇族との養子縁組は、彼の両親が交通事故で亡くなったことで事実上破棄された。電須佐由はその時から失踪。かろうじて母親のお腹の中で生きていた妹の巫倉は一命を取り留めて生まれ……ちょうど、赤ん坊がいた機國家が預かった。
でも巫倉が、何故か兄と映ってる写真を持っていたのを覚えてる……。今回の目撃情報でようやく気付いたの。電谷は電須佐由を喫茶店で見たんだよね?」
「ヘェッ!?」
電谷がすっとんきょうな声を出す。目が完全に泳いでいた。
砂岳はお喋りなはずの電谷がずっと黙り込んでいたことにそこで気付く。
敦美は電谷のおかしな態度には触れず、砂岳に続けて話し始めた。
「――私は9年前の藍領地で電須佐由を見たことがある。今まであれは、偶然彼がこの領地に現れていただけかと思っていた。けれど昨日、電谷が喫茶店で見たと言うの。ひょっとして、彼は藍領地にずっと隠れ住んでいた……もしくは藍領地に愛着があってここにしか現れないんじゃないかって思い始めたんだ。確信が欲しい。砂岳、昔の藍領地の話で思い当たることはない……?」
「隠れ住む……? まさか、あの化け物級の能力者の話? 俺は見たことすらないですが藍領地に、えーとそう、17年も前ぐらいからそんな能力者がいると風我様がおっしゃっていたんです」
「――風我師匠が……。17年前は電須佐由の両親が交通事故で亡くなった時だ。砂岳ありがとう。……電谷」
「う! や……はは、もしかしたら見間違いをしていた可能性がぁっ! ほ、ほら俺そもそも伝説の電須佐由様の顔も知りませんし! 勝手に見たような妄想しちゃって! もうっ! 寡黙吊りやめてほしいです!」
「――今日の電谷、〝業〟を連呼していたね。私に何を隠しているの……?」
敦美の刃物のような射る眼差しに電谷の肌が泡立つ。
電谷は密かに円形の次元移動空間を自分の影に重ねて開いていた。即座にこの場から離脱しようとして、その空間が使えない状態にされているのに気付く。
「!?」
頭上に空を覆うような別の次元空間が発現していた。
それは巨大な正方形の次元空間でまるで布のようだった。ふわりと落ちてくる。区画一帯の空が布の次元空間に包み込まれた。電谷の円形の次元空間はその布のような次元空間によって吸い込まれるように消失する。
敦美が発現させた巨大な次元空間に押し潰されて同じ場では共存出来ずに崩壊したのだ。
「ぎにゃあああああっ!!!! 俺の移動手段!!! 俺のマイハウスぅぅぅぅ!!! 今日からどこで生きればいいんだあぁぁぁ!!!」
電谷は号泣した。地面にはいつくばって嘆く。
巨大な布の次元空間も消えた。その途端、電谷に向かって「バーカ!」と遠方から声高な罵倒が飛んでくる。土を操って地中に刺さる鉄筋を1つずつ抜く作業をしていた土部の声だ。
砂岳は屈んで電谷の背中をさすった。
「壊された次元空間、修復には1ヶ月かかるんだったか。自宅はあるんだし、たまには普通に家の方に帰るといいさ」
「家族が居れば家が温かいなんて幻想っす! 帰ったって両親とも自分の次元空間シェルターにいて、家の方には誰も帰ってきませんよっっ!!!」
「お前ら電脳族って家を持つ意味ないのなぁ! メシが作れないなら、しばらくうち来るか?」
電谷は顔を上げないが、ピタリと嗚咽を止めて低い声で呟く。
「……タケ様。俺、結構神経質な上に軽く潔癖症なんっすよ……」
「だろうな」
電谷のしっかりとした断り文句に、砂岳は笑って電谷の背中をバンバンと叩いて元気づけた。
「『領王』様。ちょいと殺生ではないですか。藍領地で事件が起こっている時に、電谷の緊急時の逃げ道を取り上げるなんて。一応、藍領地の電脳技術屋なんですぜ。喫茶店の件でも被害者になるトコでしたでしょう」
地面に伏した電谷を見下ろしながら敦美は言った。
「――砂岳、心配しなくても大丈夫。水族が守ってくれる。そういう話を昨日領王執務室で響華達としているようだったから」
「え。そうなのか」
電谷は丸眼鏡を外して左腕で顔を拭う。それから丸眼鏡をかけ直した。
「……本当、ナー様は『マスター』を過小評価し過ぎっすよね」
電谷は観念して顔を上げた。それから地面に正座し、敦美に毅然と問う。
「『マスター』。事件を調べてる訳でもないのに、なんで急に電須佐由様に興味を持ってるんですか。探す意味がわかりません。リーダーやりたくない病に罹ってる、うちの殿じゃあるまいし。あとはっきり言っときます。絶対に今、藍領地で起こってる爆発事件の犯人ではないと思います」
「どうしてそう思うんだ?」
横から砂岳が疑問を口に出す。
「今の話で俺も確信したんです。そうだ、ここは巫倉様が生まれ育った領地なんだって。妹の街を壊すような事件を起こすなんてありえません。
電須佐由様は雲雀領地の生まれだし、水族のとある御方を嫌ってる。だから水族の本家がある藍領地になんているはずないって、昔からうちの殿は決めつけてましたがね。……とんだ見当違いをしてたってわけです。
でもずっとヒントは出てた。たまに入る目撃情報は藍領地。ホント殿は馬鹿だなぁって思います。電脳族なら家族と長年生活する領地をどれだけ愛して大事に思っているか、そこをわからない所が、致命的に他種族出身の殿の殿たる気の毒な残念さ……」
電谷は、殿と呼ぶ電脳族族長・電拳剣の名を出して意気消沈する。
「――でも巫倉は9年前から藍領地にはいないよ」
「それでも、です! 従姉妹の『マスター』だっていますし、同じ姉妹弟子のエン様だっている! 育った街で、家があって友人がいる! まさしく巫倉様の故郷!! だから電須佐由様はここにいるんだ。
俺達電脳族は、他の種族と違って故郷って呼べる領地も本家も無いっす。皇族が世界からいなくなった後に生まれた新参なせいで一族が集まれる領地を貰ってません。『マスター』も「機械族風情が」って言われることはあるでしょうが、電脳族が「電脳族風情が」って言われているのとは天と地ほどニュアンスが違ってます。だって機械族には、何かあった時に誰もが逃げ込める領地が……故郷がちゃんとあるじゃあないですかっ」
電谷は悔しそうに自分のふとももを叩いた。
「電須佐由様の両親をさっき不敬なんて言われましたが、電脳族内では一か八かの夢のような賭けをしてくれた御方として今でも惜しまれてます。英雄的行為でした! 『皇帝』陛下が表に姿を現われてくれて電脳族込みの階級順位制度を宣誓してくれたら……って! 他種族に電脳族なんてクソだと思われてもいい。最下位で構わないんです。ただ領地が――」
電谷の丸い目に涙が滲む。
「――電脳族にだって、故郷があったっていいんじゃないですかね……」
電谷は一旦ぐっと耐えるように口を引き結ぶと、
「――不肖、藍領地を愛するこの電谷! ここは俺の心の故郷っす。一生ここで暮らす所存! 『マスター』がいても、なんだかんだで藍領地は水族の領地ですよ。だから俺が水族の依頼優先で動くのも当然っす! そもそも俺は領地ランカーではないのだからっ! 『マスター』の部下じゃありませんからあぁぁーっ」
わざらしく大声で叫ぶと電谷は地面に転がった。
「さあ『マスター』! 煮るなり焼くなり好きにしてくだせえ!」
「――電谷は勘違いをしている」
「ふへぇ? 勘違いっすか……?」
電谷は勢いをつけて上半身だけで身体を起こそうとし、失敗する。しこたま頭を地面に打ち付けて悶絶するはめになった。
敦美は電谷の挙動には触れずに言う。
「――水族と何をしていても私は構わない。彼らが藍領地の防衛に反する行動を取るはずはないから勝手にやってくれるなら歓迎だもの」
「よ、よくご存知で。さすがっすなー……。ぐえー、頭ぐわんぐわんしますわ。吐きそう」
「電谷、病院行くか? 頭は甘く見るとやべぇぞ」
「う。確かに怖いから行こうかしらん」
砂岳の手助けを受けながら電谷はよろよろと立ち上がる。
「――私は個人的に会いたい人がいるの。その人の行方を電須佐由はきっと知っている。だから貴方に聞いただけだよ」
「ははっ、良かったな電谷! ただの私情でおとがめないってよ!」
電谷は遠くで土部がこちらを見て嗤っている姿に気付き、むっとする。
「ハー……、大地族なんかの近くでとんだドジッ子演じちゃったワー……。笑われるのは慣れてても大地族ってだけでムキムキしますな。はんっ! 自分達は皇族の身内って見下し感を普段から漏らし過ぎっすよ!」
「は? 身内?」
砂岳は電谷の発言に目を丸くする。
「あり? タケ様、皇族史は苦手なタイプ?」
「歴史はあんまりなァ……。大地族と皇族に何か関係あったのか?」
「大あり。大地族は宙地原族の直属の従者で、皇帝城に出入りを許されてた特別枠の種族っすよ」
「でもそれは大昔の話だろ?」
「ハハ、どこの大昔ー? 17年前に電須佐由様の養子縁組を反対した一大勢力が大地族ですがな」
「!?」
「ちな、特別枠だった種族は火族もかな。こっちは太陽族側ね。『皇帝』陛下の直属の臣下~。表立った後見種族が、その時代の風族1人しかいない孤立無援な皇族なんて月族だけですぞ」
電谷は歴史の話を始めると、頭の痛みを忘れたように喋る。
「ちょ、ちょっと待て! それじゃ大地族も皇族の行方を知ってんのか!?」
「従者だもーん。ってか大地族よ? この宙地原の大地で生きててアイツらに隠しごとが出来るわけないじゃないっすか! あ。電脳族の居場所は次元空間があるので別ね。
大体、各領地の情報も大地族が必ず上位領地ランカーにいるからダダ漏れしとるのよね。1つの領地に1名って謙虚に見せて賢しい手口だわ。要は一族内で精鋭を選別して送り込み、上位順位を確実に取るスタイル! ついでに優遇の引き継ぎ権までフビン装ってゲットしとりますよって。大地族を見たら工作員と思えってね」
砂岳はぽかんと口を開けてしまう。思わず土部の方に視線を向けた。
土部は砂岳がこちらを見ているのに気付き、遠くから手を振る。
年相応の可愛いらしい仕草だったが砂岳は顔を引きつらせた。
「大地族が上位領地ランカーにいない藍領地って実は超レアな領地なんっすよ。俺は大地族に情報ガバガバにされてないってのも藍領地の美点だと思ってますので、タケ様これからもガンバ!」
「――俺はこれから同僚を見る目が変わっちまうわ……。どう接すりゃいいんだよ」
砂岳は天を仰いでぼやく。
「なんつーか、一介の下位領地ランカーの俺が全部聞いてて良かったんですかね……?」
「――別にいいよ」
「うはっ『マスター』本気でどうでもよさそう! まぁ、黙ってるだけで知ってる人は多い情報だと思いますよ。大地族を『十位』以内にいれてない領地は多分そうデショ。桔梗領地――はそもそも獣族だけか。あとは桔梗近くの葛領地とか」
電谷の言葉に砂岳は重要な案件を思い出した。
「そうだ、葛領地……!! 雷様を知らねぇか!? 葛領地の『領王』灰兼思と翡翠で同僚だっただろ? だからお悔やみの言葉を藍領地との連盟で名前添えて欲しいって外務担当が探してんだよ」
「え!? ハイ様閣下がお亡くなりに?!」
スパンッと砂岳は電谷の肩をはたく。
「痛い! 酷い!」
「冗談でも、よそ様の『領王』にやめなさいっての! 1件目の喫茶店爆発時に隣のビジネスホテルも火事で巻き込まれてんだ。そこに泊まってた葛領地の下位領地ランカーが2人いたんだよ。しかも亡くなった。旅行先で死ぬなんてついてねぇって話でなァ」
「アズ様なら何故か病院じゃなくて、てるやんと学校……」
電谷は言いかけて一旦黙る。
「いません! 学校にはいませんでしたぁ!!」
そう電谷は主張したが、敦美はその言葉を聞き流して砂岳にも見える電脳画面を空中に表示した。今朝の学校カメラの映像には雷秀寿が映っている。
砂岳は呆れた。
「おい。いるじゃねぇか……」
「ふおぉぉぉぉっ!!」
「ん? 電谷が教室からいなくなった時の映像が無くねぇか?」
「あれま。ホントっすね。俺が数学の授業中に立ち上がってここに来た映像が消え……」
そこまで言いかけ、また電谷は口を閉ざす。どうやら言えない何かに気付いたようだ。
『電谷使って一般人の記録映像操作させてる奴が何よ!』
敦美の脳裏に、響華の怒鳴り声が蘇る。
「――〝水族の転校生〟。響華が言っていた子はどれ? 多分この映像内にいないんじゃない?」
「ぐっ!」
「電谷……お前さん」
「うわああ! タケ様、誤解ですってば! 俺じゃないよ、この映像加工!!!」
「――電谷」
敦美から重々しく発せられた呼びかけを最後の警告だと悟り、電谷はがくりと肩を落とす。涙目で別の映像を敦美の画面へと飛ばした。
「その映像は俺が別に撮ってたやつっす……。その監視カメラの映像は、本当に俺が加工してるんじゃないんです……。別の御方が手を加えてるやつなんですよぉ……」
電谷が敦美に渡した映像には、先ほどまで一切存在していなかった人物が映っていた。
「――この子……」
空色の髪と瞳。
秀寿の隣にいる見覚えのある少年に、敦美の目が釘付けになる。
(昨日コンビニの前にいた子だ……)
「――この子が転校生……?」
「はい。お名前は水城輝夜君っすよ。『マスター』は近頃全然学校来ないんでクラスメイトの顔を覚えてないっぽいからピンと来ないかもですが、昨日うちのクラスに転入したばっかりの転校生! ってか『マスター』、やっぱ水城家を全くご存知ない……?」
「やっぱりってどういうことだよ。まさかお前さん、入領許可書の偽造まで……!?」
「俺じゃありませんってば!!」
「げ! じゃあ水族ってことは水名様が!?」
「――砂岳。私がよく確認しないで承認した、私の落ち度。ただそれだけだよ」
敦美が静かに念を押す強さで告げ、砂岳は黙って首を縦に振った。
「――〝水城輝夜〟……。電谷と喫茶店に一緒にいたのもこの子?」
「わー! それは俺の黒歴史!! 違うんっすよ! てるやんを誘ってあの店に行ったのは俺の成した奇跡の最悪タイミン……」
言いかけた電谷が、口を開いた状態で固まった。
「あれ……? タケ様、喫茶店の隣にあるビジネスホテルに客がいたって言いましたっけ……?」
「ああ。だから葛領地のランカー2人が火事で死んでだな」
「どうやって泊まってたんです?」
「はあ? そりゃ宿泊手続きを……」
「『改装休業中』」
「は?」
「俺がてるやんとその前を通った時、そんな札がドアにぶら下がってましたけど……」
にへらっと冷や汗を流しながら電谷が苦笑いを作った。
砂岳は凍り付く。急いで身を翻し、現場にいた部下達に向けて怒鳴った。
「現場の片付け作業中止ー!! 検死班呼んでこい!!」
敦美は、じっと映像を見つめていた。
そこには秀寿と輝夜の2人が校門を出ていく姿が残されていた。




