第5話 幼き約束の最果て――
◇◇◇
気付けば、ソファにいた。
頭の中は真っ白で何も無い。
手には大きなこんぺいとうの袋が1つ。こんぺいとうは半分以上残っていた。
ぼんやりと初めて見る場所を眺めていたら、知らない場所ではないことを思い出せた。
ここは、自分のおうち。
騒がしくなった家の中。大人が近付いて来て、手を引かれた。
連れられて入った別の部屋には、体中に包帯をぐるぐる巻きにされて苦しそうに唸っている人がベットにいた。顔だけ包帯も何も無くて、でもとても具合が悪そうなんだ。
かぐやの兄だ。
――かぐや……? それは誰。
違う。この人は、自分の兄だ。
殴られた光景が頭の中に浮かんできた。殴られる前後はあやふやで、やっぱり真っ白。殴られたところ以外は何も思い出が出てこない。
でも分かった。自分の兄はこわい人だと。おそろしい人なんだ。どうしてか、この人の名前も思い出せないけど。
あれ? そもそも自分の名前は何だろう。どうしよう。自分の名前が分からない。
自分――じぶん……? それに自分は自分のことを何と言っていたんだっけ。家族はどう呼んでいたのかな。自分はおそろしい兄をどう呼んでいたのだろう。
傍に立つ大人を見上げる。この父だと思う大人に聞こうか。
聞きたい。でも、こわい。ああ、変だよね。どうしようどうしよう。自分のことが分からないなんておかしい。
ベットの兄は苦しんでいる。叫んで暴れている。こわいんだ。自分と一緒だ。
血の滲んだ包帯だらけの手を握った。兄は叫ぶのをやめた。微かに指が動いて、自分の手を握り返そうとしてくれる。自分の不安も逃げていく。
「だいじょうぶ。ここにいるよ」
――ここにいる。自分はここにいるんだ。
兄が黒っぽい青の髪の間から目を覗かせて自分を見た。きれいな紫色。でもほんのちょっと青い色も混じっている。きっと自分の髪も目も同じように青っぽい色だ。だってこの人の弟だもの。
ふと見ると、持っていたこんぺいとうの袋の中にピンクの花びらが混じっていた。手を突っ込んで取り出す。それは桜の花びらだった。
桜並木で、機械族の少年と大切な約束をした。
覚えている。ううん、それしか自分の記憶としてはっきりと覚えていない。
そう、彼も笑顔になったんだ。
それから母かもしれない大人に止められたけど、兄の口の中にこんぺいとうを一粒放り込んだ。
「あ……ま、い……」
「広早……!!」
兄の声は掠れてガラガラで聞こえにくい。
母と父らしい大人は泣いて兄の手を握った。
「いき……て……お、れは……」
――〝おれ〟――
そうか。兄のこの人が使っているんだから、弟の自分もきっと〝俺〟だっただろう。自分は自分のことを〝俺〟って言っていたのだ。
兄は震えてすすり泣く。もっと声がガラガラになるだろうに、ずっとずっと泣いた。
でも、きっと少年のようにそのうち泣き止むだろう。元気になる。だってこんぺいとうを食べたんだから。
しばらくベットにいた兄は病院に移ることになった。あんなに大怪我で、どうして最初から病院に連れて行ってあげなかったのだろうか。
病院の廊下を父に連れられて歩く。通り過ぎる病室の中から様々な人達の会話が聞こえた。
「兄貴。俺をびっくりさせないでくれよー」
「ああ、すまんかったなぁ」
どこかの病室を通り過ぎた時に耳に入って来た言葉で、兄の呼び方を知った。〝俺〟は、兄のことを〝兄貴〟と呼ぶようだ。
手を繋いで隣を歩く父が言う。
「私達の名前は変わるからね。今日から名字は〝水城〟。私は〝水城朧〟になる」
父は朧という名前だった。
「俺の名前は?」
ようやく俺の名前も知ることが出来るのだ。ほっとする。
朧が俺を驚いた表情で見下ろした。そして屈んで俺に目線を合わせ、悲しそうに瞳を揺らす。
「〝てるやす〟。……名前は夜に輝くと書いて、輝夜だよ。〝水城輝夜〟、私の大事な息子だ」
朧に抱きしめられた。温かくてくすぐったい。
〝水城輝夜〟。それが輝夜の名前。
兄は個室の病室に1人寝かされていた。でもじっと天井を見るばかり。朧が話し掛けても全然顔を動かさない。まだ不安なのだろうと近くに座って、傷だらけの手を握ると握り返してくれる。兄が輝夜を見ていた。
「……輝夜」
「俺はテルヤスだよ、兄貴」
笑いかけると、兄は少し戸惑うような表情をした。
朧が苦笑しながらテーブルのメモ帳にさらりと字を書く。
「広早も、今日から名前は〝篁朝〟だよ。〝水城篁朝〟」
それからずっと輝夜は水城輝夜で、篁朝も水城篁朝だった。
記憶が完全に戻る時、記憶を無くす前の水岐輝夜が戻ってきて、水城輝夜は消えるのではないかと身構えたこともあったけれど、結局彼は戻ってこなかった。
それどころか、どこにもいない。
『かぐや』には「彼は主上の前生の人格で、主上と全くの別人という訳ではありません。しかし、彼の方は主上とは別人なのです」と難しいことを言われた。概念的には転生に近いかもしれないと。
――つまり輝夜という少年は一旦死に、輝夜に生まれ変わったのだ。そして輝夜は前世の記憶を持っている――そういう存在に近いと。
水岐輝夜という人格は8歳までの記憶と経験によって形成されていて、それまでの記憶を無かったことにされたせいで自我が霧散し、消えたのだという。これを例えて前世とは言い得て妙なものである。
なんというか『かぐや』に似ている。輝夜もまた、月族の皇子にかけられた輝夜皇女の力に影響されて新たに生まれた人格なのかもしれないと思ったりもする。
あえて輝夜という人格の始まりを言えば、桜並木の約束からが輝夜の最初の記憶になる。
敦美との約束。何故か最初からそれだけは忘れずに覚えていた。
あの約束を交わしたのは水岐輝夜だった。
でも彼は消え、あの約束から生まれ育ったのは水城輝夜で、約束を覚えていて再会したのも水城輝夜の方だった。
正確には約束を交わした相手は輝夜とは言えず、敦美にそのことを伝えるべきなのか心底迷う。しかし敦美から見れば、水岐輝夜と水城輝夜は同一人物でしかない。
輝夜自身にもよく分からないのだ。
明確な線引きがない。『かぐや』は「約束を交わしたのは主上で間違いありません」と頑なに肯定をするし、余計に訳が分からなくなる。
どこからか、不気味な男が真摯な眼差しをこちらに向けていた。
『お前は誰だ』
――電牙。それは俺自身が知りたいよ。
◇◇◇
目を開けると、薄暗い一室の床に仰向けに倒れていた。
気を失っている間、ぐるぐると自問自答を何度も繰り返す不明瞭な夢を見続けたせいで、起きた時から身体は疲労感に支配されていた。口の中が鉄臭く、段々と身体中の痛みに意識が向く。
遠慮なく腹を蹴られて殴られたことと共に、その暴力を振るった相手の顔を思い出して震え上がった。吐き気をもよおす。咄嗟に手の甲で口元を抑える。
(ちがう……違う……! あれは兄貴なんかじゃない! 兄貴があんなこと……っ、するわけないんだ……! するわけないって、治ってもあんなこと俺にしないって父さんだって言っていたじゃないかっ……!!)
最後に自宅のリビングで見た、窓際でぼうっとしている篁朝の姿を何度も思い起こし、自分自身に言い聞かせる。輝夜に暴力を振るったのは、絶対に篁朝に似た別人のはずなのだ。
過去の兄は、いくら何でも脈絡なく暴力を振るってくるほど暴君ではなかった。記憶に残る暴力の思い出では、兄にはなにがしかの理由が存在し、それを輝夜に喋ってから暴力を振るっていたのだから。
必死に唾を飲み込んで吐き気をやり過ごそうと我慢した。目をつぶり、身体を丸めて横を向く。
「……気分が優れないのですか?」
か細い声と、ゆっくりと輝夜の背を撫でる手がある。
輝夜は瞼を上げ、苦しくて涙で濡れる瞳を手の主に向けた。
揺れる視界に、白練色の髪と瞳、少女寄りの童顔な顔立ちで和装の白い衣冠を着た少年が飛び込んでくる。とても見慣れた顔なのに、目の前にあることに異様なほどの不気味さを感じた。
(俺が……いる――……)
「……鏡……?」
「飲み物を持って来ます。待っていて下さい」
彼はすっと背筋を伸ばしたままで立ち上がった。所作の美しさに輝夜の身体が強張る。
ドアを開けて部屋を出て行った彼の人物は、映し鏡のように輝夜にそっくりだった。輝夜と同じ顔で別の意志を持って動く姿はとても恐ろしく感じる。
彼が姿を消したと同時に、輝夜は勢いよく上半身を起こした。輝夜が居る場所は小部屋。戸棚が壁に並び、中にはファイルや瓶、機材などが並んでいる。
(準備室――……学校……?)
痛む腹を腕で庇い、よろけながら立ち上がる。ドアに近付き、出来るだけ音を出さないようにドアノブをゆっくりと回した。少し開けたドアの隙間から見えた部屋は、大きな黒板とデスクが並ぶ。化学実験室だった。
ペットボトルとコップを用意する衣冠姿の背中が見えて、音を立てないように静かにドアを閉めて身を屈める。彼から姿が見えないようにデスクを回り込み、膝をついて滑るように床を移動した。
輝夜は自分でも何をしているのか分からない。とにかくここから逃げなくてはと、そればかりの考えが頭の中を支配していた。
この現実は悪夢のようだ。暴力を振るってきた篁朝、それを傍観していた電谷と電須佐由。そして極めつけが輝夜そっくりの人間。まるで別世界に迷い込んだかのようで、この別世界の悪夢から早く目覚めたい。逃げ出したいと焦燥感に急き立てられる。
輝夜は見つからずに扉の前に辿り着き、慎重に扉を開けて廊下へと出た。
目の前に真っ白い壁と床の廊下が広がる。
見覚えがあった。輝夜はここを知っている。
次いで廊下の突き当たりへと目が吸い寄せられた。その廊下の隅で1人を3人が囲む情景を幻視する。雷に打たれたかのような衝撃が身体を突き抜けた。
(桐煌高校……!!)
それは輝夜が最初に通った高校であり、電牙葦成と出会った場所。輝夜はここの制服を藍領地に定住するまでずっと着用していた。
(嘘だろ……! 俺、雉子領地にいる……!?)
輝夜は真っ青になった。
雉子領地は陸の孤島。周りは海に囲まれていて、中央大陸からほど遠い。なおかつ、ここには『領王』も領地ランカーもいなければ、どの種族の領地でもない。学校の関係者だけのために住居の街があり、店も言わずもがなだ。
獣櫛涼柁が「今年の春に廃校になってしまった」と前に言っていた。現在の雉子領地に住民が残っているとは思えないのだ。ゴーストタウンの可能性がある。勿論船も出ていないだろう。
(どうやってうちに帰ればいいんだよ……っ!!)
ショックを受けて呆然としていたら、背中を蹴られて床に叩きつけられる。あまりの唐突さに悲鳴も上げられず、息が止まるかと思った。問答無用で背中を踏まれる。
「何、自由にうろついてんだよ。お前自分の立場が分かってないようだな!」
輝夜は、自身を足蹴にする人物を仰ぎ見た。輝夜を殴りつけた篁朝の偽物だ。
――そう、偽物なのだ。
何度も心の中で復唱し、恐怖で早鐘を打つ鼓動を落ち着かせようと努力する。篁朝の偽物は、浅葱色のシャツの上に白のジャケットとスラックスを着用していた。一瞬、白い服ばかり着ていた電拳剣の姿が輝夜の脳裏をかすめていく。
輝夜に似た別人が慌てて廊下に出てきて輝夜を庇った。
「むっ、無体な真似はやめてあげて下さい……!」
「これはこれは殿下。ご存じ無いようで。この世界のコレはただの領民なんですよ。ああ、別世界でも自分という皇族の人間が、兄と同じ領民扱いされるのは我慢ならないと?」
「そ……そのような、ことは……」
篁朝の偽物は、憎悪の眼差しを止めに入った輝夜に似た別人に向けて腕を掴んだ。彼は向けられる悪意に蒼白になり、身体を強張らせている。
ブワッとつむじ風が両者の間を吹き抜けた。腕を掴んでいた篁朝の偽物の腕に裂傷が走り、急いで手を引っ込める。
「私の従者に領民風情が何用があるというんだ。無礼者」
「……っ! も、申し訳ありません……」
篁朝の偽物は、忌々しげに顔を歪めながらも頭を下げて身を翻した。輝夜に似た別人が「尊様……」と呟く。床に倒れる輝夜の身体がふわりと上に浮き上がった。
「わっ……」
輝夜が何もしなくても再び立つことが出来た。風に身体を押し上げられたことに驚く。
新たに現れた男性は、人目を引く薄葡萄色の髪と理知的な光がある菖蒲色の瞳を持っていた。20代後半ぐらいの年齢だろう。輝夜に似た別人と同じく白の衣冠を着ていた。
男性は、去って行く篁朝の偽物の背を目で追いながら輝夜に声を掛ける。
「彼のことは――いや、この世界で彼と関わりがあるかは知らないが、彼は君の知る人間とは別人だ。勿論私達もこの世界の人間ではない。アクシデントで別の世界から迷い込み、直ぐには自分達の世界に帰れずにいる。そのため君には、この世界の皇族の介入を防ぐ抑止目的の人質としてここに招待させてもらった」
男性は苦々しく顔を顰めてから、視線を輝夜に似た別人に向ける。
「先ほど狼藉を働いていたのは水族の水岐広早。……この私の従者である彼の実兄だ」
「尊様の側仕え、御高月煌夜と申します」
御高月煌夜は丁寧に輝夜に頭を下げた。輝夜はぼんやりと御高月煌夜のつむじを見つめる。
(……やっぱり、俺なんだ。佐由さんが昔から言っていた、皇族として育った本当の俺の姿――……)
ごくりと唾を飲み込んだ。姿勢の美しさが酷く目を引く。庶民育ちの粗野な輝夜が逆立ちしても敵わない別世界の住人としか思えなかった。本当に輝夜は皇族として数えられていい人間なのだろうか。
男性が肩を竦めて、広早のことを補足する。
「水岐という男はプライドが高く、神祇官に水族族長の素養無しと言い渡されてから、煌夜が神祇官に謀って自分を降ろしたのだと歪んだ思い込みをしているんだ。同程度の能力を持つ水名透が指名されたのも腹立たしさに拍車を掛けているのだろう」
「へ?!」
輝夜は思わず変な声が出て、慌てて口を塞ぐ。
(透兄と兄貴が同じぐらいの能力者!? ……無い無い無い! 有り得ない! っていうか、翡翠革命前の兄貴って本当にそれぐらいの力しか無かったの!? いや、透兄だって藍領地『三位』ランカーで充分凄い人なんだけどさっ。でも今の地上最強レベルの力と比べたら、やっぱりそれぐらいってつい評したくなるって言うか……)
輝夜は胸中でごにょごにょと比較した透に謝ると、漸く本当の意味で顔を上げた。
(――でも良かった。あの人は兄貴じゃないってことで合ってた。〝水岐広早〟って名前の別人。兄貴に似た全然知らない人だって考えで良いんだ)
もう、篁朝本人と比較はしない。次に顔を合わせた時は完全に分けて考えようと心に決め、輝夜はそっと息を吐く。
間を置かず、男性が輝夜に手を差し出した。
「初めまして……でいいかな。私は月族族長の御満月夜重皇女殿下の夫・風我尊。現在この場では不在の妻の代理として月族族長役を務めている」
(風我尊――……。風族って初めて会う……)
風族は自由奔放だと話に聞いていたので面食らった。事前知識と違って、目の前の風我尊は非常に落ち着いていて理性的な人物に見える。
「お、俺は水城輝夜です」
「輝夜か、良い名だ。無闇に歩き回って痛い目に遭うのはつらいだろう。ここからは人質という自分の立場をよく理解して行動してくれ」
「……」
輝夜は俯いて頷いた。
尊と御高月煌夜はほっと安堵の笑みを浮かべる。
「尊様。水城殿は怪我をされているので、治療をして差し上げたく思います」
「ああ、保健室に連れて行ってあげるといい。大人しくしていられるよな?」
尊が菖蒲色の目を細めて輝夜に念押しする。輝夜は首を縦に振った。穏健そうだがやはり凄味があり、否と言わせない強者独特の迫力があった。
尊の目の前に電脳でよく使われる顔文字の「 (-ω- )ノ゛ 」というアイコンが出現した。誰かからの呼び出しなのだろう。尊はそのアイコンを返事代わりにタップして空中から消し、御高月煌夜に「1人で大丈夫か」と尋ねていた。「平気です」というやり取りの後、尊は離れていった。
輝夜は大人しく御高月煌夜の後ろをついて歩く。不意に思い立ち、心の奥底へ声を掛けた。返答は直ぐにある。
『主上。私が代わりましょうか』
(『かぐや』……!! 良かったぁ……っ、本当に心細くって! かなりパニくってたかも。直ぐに『かぐや』と話せば冷静になれたと思うのに、全然そういう考えにいかなくってさ。とにかく無茶苦茶怖かったんだよ!! ……それに『かぐや』、代わったところで俺達多分力が使えないぞ。最初に飲まされたやつ、能力封じの錠剤だったんじゃないか……?)
『使えます。あの薬は効いていません』
(え!?)
『問題は、私が使う他者の力を増減させる力と、物質を液体化させる主上のお力が直接的な相手への攻撃となりえないことです。種族能力を無力化させたところで相手方の身体能力が無くなるわけではありませんし、護身武器を持っている可能性もあります。更に敵対相手は正確な人数も分かっていません。例え力が封じられていなくとも、動くのは賢明ではないでしょう』
(そもそも俺が自分の意志で自由に力を使えないんだよな……)
『主上が気に病まれることはありません。緊急時に、敵対相手が知らない奥の手があるという優位性は重要です。それに』
『かぐや』が御高月煌夜の背中に視線を注いだ気がして、輝夜も見つめる。華奢な体格だなと輝夜自身がもの悲しくなった。
『この皇子殿下を基準にして、恐れ多くも主上のお力を侮っていることでしょう。始めから〝力を使わない非力な月族〟という固定観念が相手側にあると思います』
(能力封じの薬は、一応飲まされたってだけなのか)
『水城篁朝に処方されていた薬の量から鑑みるに、皇族家並みの力を完全に使わせないようにするには少量過ぎる量だったと思います』
(……『かぐや』)
『はい』
(ちゃんとした皇族の俺を見た感想はどう? その、『かぐや』もこうなって欲しいって思っているんだろ……?)
『何故そのような比較を……? この方は主上ではありませんが』
(え?)
『……では、そうですね。確かに水岐輝夜皇子殿下が皇族としてお育ちになれば、この御高月煌夜皇子殿下になるのではないでしょうか』
(え? え? 輝夜は、俺……だよな?)
『主上は主上であらせられます』
(エエェー……?)
『かぐや』の力技な発言に頭の中を疑問符いっぱいにして困惑していたら、保健室に着いた。
御高月煌夜が鍵を取り出し鍵を回す。何故か、ガチャンという鍵が掛かる音がして「あれ?」と首を傾げた。保健室は既に開いていたようだ。
もう1度鍵を回してから解錠し、扉を開ける。御高月煌夜が先行して入り、湿布などを置いてある戸棚へと続いて足を運んだ。
保健室を見渡して、輝夜はぎょっと目を剥く。
ベットの上に信じられないものを目撃した。
それは意地悪い笑顔でこちらに手を振り、上半身はベットの背に持たれ、下半身は優雅に足を組んでベットに放り出していた。
輝夜は驚愕し過ぎて後ずさり、声なき悲鳴を上げて背後の戸棚にガシャンッ! とぶつかった。
この状況に対する恐怖などの一切が彼方にぶっ飛んだ。
(電 牙 葦 成!! なんでいるんだよっ!?)




