侵入者
「それじゃあ、今日の授業はここまでだ。明日は実技があるから今日はちゃんと体を休めておけ!! 」
「「 了解!! 」」
教官の授業終了の合図と共に教室にいた三十人くらいの少年少女は解散した。
「よっしゃー終わった終わった、なあ奏真、ちょっと食堂行って飯食おうぜ」
「いや、やめとく。というか陽翔、さっき教官が呼んでたぞ」
「えぇっ!? 寝てたのバレたか!? 」
いや、多分別の話だっただろうけどお前の馬鹿でかい声のせいでバレたよ。
「神賀利!! 今の話の件について色々と聞きたいことがある。三秒でこっちに来い!! 」
「さ、三秒!? 」
「三、二……」
「了解しましたーーッ!! 」
すると陽翔は物凄い速さで教官のもとに走って行った。相変わらず忙しい奴だ。
そう思いながら俺は自分の寮に戻って行った。
▶︎ーーー
外に出ると既に空はオレンジ色に染まっていた。それはそうだろう、寮が基地の敷地内にあるお陰で普通の学校より長く授業をする。幸か不幸か…
(この時間から部屋の片付けか…)
俺はつい最近寮部屋の移動通達が届いた。まぁ理由はあの馬鹿でかい声を出す奴と同じ部屋だったからだろう。
「気に入ってたんだけどな、あの部屋…」
「自業自得ってやつじゃないですか? 」
「……何の用だよ立花、女子寮は向こうだろーが。というか俺のせいじゃない、陽翔が騒がしいんだ」
「人のせいですか? 良くないですよそういうの」
この嫌味ばっかり言ってくる少女は立花海莉という。俺の同期の一人で同じクラスだ。
栗色の髪の毛は肩ぐらいまで伸びていて顔立ちもいい方。おまけに成績優秀実技もトップクラスというハイスペック少女だ。だがあまり他の女子と一緒にいる姿を見ない。
「もういいや、用がないなら行くぞ。俺は荷物を移動するのに忙しいんだ」
「荷物運びですか、まぁ忙しい様なので私はここら辺で失礼します。お疲れ様です」
そう言うと女子寮の方に戻って行った。あいつ本当に何しに来たんだよ…
(と、いけない。とっとと荷物運び終わらせないと)
二階にある部屋に戻り、一通りの私物は段ボールに詰め終わった頃、懐かしいものを見つけた。それは昔ある男から貰った剣だった。
剣といっても訓練用の模造刀だ。本物とは比べ物にならない。
「……あぁ、こんなの使ってた頃もあったな」
(……また試してみるか)
その剣を持とうとした瞬間、右腕に突如電撃が流れる様な痛みが走った。俺は痛みに耐えきれずに持っていた模造刀を落としてしまった。
「くそっ!! ……やっぱりダメか……」
まだ少し痺れている右の手のひらの甲を見てみるとそこには黒いバツ印が浮かんでいた。
「……はぁ…ただいま…」
「よう、どうだった教官の説教は」
「散々だったよ、今日は疲れたよ。というかもう片付け終わったのかよ」
「あぁ、一通りな」
とりあえず右腕の痺れが消えたので再び模造刀を段ボールに戻した。
「……奏真、また試したのか? 」
「…あぁ」
「結果は……見ればわかるか」
陽翔は俺の昔の事を知っている数少ない人物の中の一人だ。相部屋になった初日にお互いの事を知ろうという陽翔の提案でお互いの昔話をしたからだ。
陽翔は俺を止めなかった。理由はわからないが何かあるのだろう。
「無理はすんなよ、あと、お前の姉さんから手紙来てるって寮監が言ってたぜ」
「わかった、サンキュー」
そう言って、俺は入り口のカウンターに向かった。
▶︎ーーー
俺は寮監から手紙を受け取って外に出た。もう薄暗くなった空の下でベンチに座ってついで自販機で買ったコーヒーを飲みながら手紙を読んだ。
『そーくん元気にしてますか? お姉ちゃんは一人で少し寂しいです。三年前はそーくんが突然軍に入るとか言うからびっくりしちゃった。でもね、お姉ちゃんはそーくんに復讐なんてことして欲しく無いな。気持ちはわかるけどそんな事のためにそーくんの人生まで無駄にはして欲しく無いの。だからお願い。そろそろお家に帰ってきて。 ps,今日はカレーだよ』
姉さんは頻繁に手紙を送ってきてくれるがほとんどがこの様な内容だ。そして俺の返事は毎回ノーだ。
(悪い姉さん、こればっかりはやめられないんだ)
俺は飲みかけのコーヒーを全て飲み干し、部屋に戻ろうとした……
その時、突然サイレンの音が鳴り響いた。
『緊急連絡ーー基地に侵入者あり、数は不明、これよりレベル1に移行する。SCは速やかに寮に避難せよ』
「おい奏真!! 放送聞こえたよな、どうなってんだよ侵入者って。大丈夫なのか!? 」
今の放送を聞き、陽翔が慌てて駆けつけてきた。
「大丈夫だろ、どうせ侵入者の戦力はこっちより下だろうからな。一般兵が動いて終わりだ。だから俺たちSCは言われた通りに動けばいいんだよ」
「それもそうか、《能力持ち》もいることだし、問題ないか」
そう、この世界には奇妙な能力を使える人間が存在する。人々は彼らを《能力持ち》と呼んでいる。能力の種類は様々で何故使えるのかは不明だ。そして、俺たち少年少女で能力を使える者はSCと呼ばれる。
「そういうことだ、まぁ部屋にでも戻って荷物でもまとめるか」
(妙だな、『シルフサーバント』は元々は一般の軍事基地だったが現在は《能力持ち》も存在しているのだ。そんな所に一般武装の者が侵入するのは死にに行くのと同じだ)
(まさかッ!! )
「伏せろーーッ!! 」
急に遠くから声が聞こえた。すると突如女子寮の方から物凄い爆音が鳴り響いた。
見るとやはり女子寮の方向が妙に明るかった。
「おいおい、どうなってんだ……大丈夫なはずなんだろ? だって…侵入者は……」
そして、最悪を告げる放送が流れた。
『緊急連絡ーー…侵入者発見、数、四人。戦力レベ…ルは…5………《能力持ち》……』
当たって欲しくなかった予想が当たり、現実となってしまったのだったーー
「くそッ!! 今日はなんて厄日だ!! 」
「いいからとりあえず寮の中に戻るぞ、これは武器がいる」
「武器? 奏真お前、もう平気なのか? 」
「いや、長いのは無理だ。ナイフくらいの長さなら持てる」
(本当なら能力を使いたいところだが、まだ発現もしてないし……運悪いな…)
そう、ここの基地のSCは未だに能力が発現していない者も沢山いる。だが、《能力持ち》の判断は生まれた時に受ける脳の検査によって行われているらしい。
「とにかく一回戻ろう、外は危険だ」
「そ、そうだな…」
急に陽翔の返事が小さくなった。
「どうした? 何かあったのか? 」
「……さっきの爆発、女子寮からだろ? あそこにはまだ立花もいるんじゃないか……? 」
そういえばそうだな、あいつ女子寮の方に向かってたし。
「そうだな、…まさかとは思うけど、助けに行くとか言わないよな」
そう言うと、陽翔が黙ってしまった。
少しの間ができ、陽翔は言った。
「………悪い奏真、俺行ってくる」
「無茶だ、相手は四人だぞ? 固まって動いていたらお前一人じゃ太刀打ちできない。それくらいわかってるだろ」
そう、他人のためとか言って一人で突っ走るのは無謀なことだ。
「わかってる!! けど、その為の能力じゃないのかよ!? 」
「違う、これは自分の為に使うものだ」
少なくとも、俺はそう使うつもりだ。
他人の為とか、みんなの為とか、そういう綺麗事を言うつもりはない。
「……わかった、お前は戻ってくれ」
「ッ!! 」
「俺一人で行く」
「…………好きにしろよ…」
陽翔はそれを聞くと女子寮の方に走って行った。陽翔には悪いが、俺は他人の為に力は使わない。そんな事をしても無意味だと知っているからだ。
冷たい人間だと言われても構わない。今までもそう生きてきた。
(所詮、他人は他人なんだ)
俺はその場を後にし、寮に入った。
▶︎ーーー
私の眼の前には、炎が広がっていた。倉橋君と別れて少し寄り道をして帰ってきたらこの有様だった。
いつも帰ってきた時に受付の人と挨拶する場所は炎に包まれていて。私の部屋があった場所はまるで最初から存在しなかったかのように消し飛んでいた。
そんな時、侵入者の発見を知らせる放送が鳴ったが、私は次にどう動けばいいかわからなかった。
「お嬢ちゃん、無事か!? 」
すると後ろから一般兵の人が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「はい、私は…それより、寮にいた他の人達は大丈夫なんですか? 」
「それは心配ない、もう避難は済んだ。残るは君だけだ」
「そうですか…」
どうやら死者は出ていないそうだ。なら私も避難しよう。
「さぁ、一刻も早く避難を……とは、行かせてもらえないらしい…」
一般兵の人は私の後ろの方を見ながら手に持っている銃を構えて呟いた。
後ろには森があるのだが、木々は燃えていて地面は焼け野原となっていた。
だけど、その焼け野原から歩いてくる人影が四つ存在する事に気が付いた。それはだんだんとこちらに近づいていた。
「くっ…《能力持ち》を四人か……」
「戦いますか? 」
「いや…ここは逃げよう。俺らだけでは戦力不足だ」
それもそうだ、向こうは四人の《能力持ち》。こちらに勝ち目があるとは到底思えない。
私はそれに頷き四つの影の方を向いた。ある程度近くまで来て、ようやく姿がはっきりと見えた。
(全員私達と同じ子供!? )
「なっ!? 」
「何? 私達が子供だからってそんなに驚く必要はないんじゃないかな? 」
四人の少年少女の内の金色の腰まで伸びた髪の少女が喋った。だけど、おかしい。確かに私達は驚いたけど、何に驚いたとは言ってない。
(まさか、何を考えているのかわかるの? )
「そうだよー? すごいでしょ、驚いた? 」
「おい、あまり自分の能力を見せびらかすな。後悔する事になるぞ」
そう指摘したのは黒髪の少年だった。右手に赤い剣を手にしていた。どうやら炎を扱えるのはこの少年らしい。
「いいじゃん別に、どーせ全員殺すんでしょ? 」
「逃がしたらどうするんだ」
「何その冗談、笑えない…逃がすわけないじゃん」
「今だ!! 後ろに走れッ!! 」
突然一般兵の人が叫ぶと構えていた銃を四人に向かって乱射した。私はほとんど反射的に声に従って後ろに走り出した。
(これで倒せれば)
そんな淡い期待をしていたが、そんな期待をする事自体が間違いだと、現実は私に突き付けてきた。
放たれた銃弾は全て、四人の目の前まで行くと停止してしまった。
「お兄さん危ない事するねー。子供に銃ぶっ放すとか普通考えないでしょ」
茶色の前髪で左目が見えない少年が手を前に出しながらそう言った。
「アンタ毎回ギリギリで止めるわよね。もっと早く止めなさいよ!! 心臓に悪いじゃない!! 」
「うるさいな、文句あるなら次は止めないぞ」
「止めなさいよ!! 死んじゃうじゃない!! 」
「じゃあ僕に指図するなよ!! 全く…だから彼氏できないんだよ…」
「関係ないでしょそれとこれとは!! 」
「お前らそろそろ黙れ、敵の前だぞ」
剣を持っている少年が注意すると二人は黙った。どうやらこの少年がリーダー格らしい。
「ねぇ……そろそろ……」
黒髪を後ろで結んでいる少女がリーダー格の少年に話すと、その少年は茶髪の少年に合図を送った。
「はいはい、やりますよ。じゃあお兄さん。僕らは親切だからさ。この銃弾、返すね」
そう言うと、前に出していた手の人差し指を一般兵の人に向けた。
その瞬間、今まで活動を停止していた銃弾が全てこちらに放たれた。
「グアアアアアァァァァッ!! 」
一斉に放たれた銃弾はいとも簡単に一般兵の人を貫いた。頭、腕、足、そして左胸。体のいたるところから出血した一般兵の人はその場に倒れた。
私も後ろに走っている時、足首に命中しその場に倒れてしまった。幸い生きてはいるが、一般兵の人は即死だろう。
「はい命中。残り一人はどうする? 」
(今度は私だ……次こそ本当に殺される!! )
「決まっているだろ、殺すんだ」
リーダー格の少年がそう言って赤い剣を振り上げた。すると周りの炎がみるみると剣に吸い込まれ剣の赤い輝きは増した。
もう終わりと思った瞬間、突如遠くから声が響いてきた。
「待てこの野郎ォォォォ!! 」
その声は聞いた事がある。確か倉橋君の友達の神賀利君の声だった。
「ッ!! リーダー伏せて!! 」
そしてリーダー格の少年はその場に伏せると、今まで頭部があった場所あたりを氷の礫が弾丸の様な速さで通った。
「……はぁ…はぁ…間に合ったぜ」
私の目の前には手を膝につけて息切れしている神賀利君がいた。
どうも、スティアです。
今回初作品という事なので書いてすごい不安です。
誤字などがあった場合教えてください。即刻直してきますので。
では、今後とも『訳あり剣士と能力世界』をよろしくお願いします。