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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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ロア対盗賊たち

「勇者……?」

「いやいや、僕は勇者ではないよ」


 僕に対する警戒を強める盗賊のボスを観察する。

 服や持ち物はボロボロであまり生活がよくなさそうに見える。

 でも、筋肉はあるし、体つきはいい。

 見た感じカエデの魔法で強化されている僕の相手ではなさそうだ。

 『バレット』の威力でわかっていたことだけど、勇者魔法は他の魔法とは格が違う。

 その勇者魔法を掛けられている僕は普通の状態よりもかなり強い。

 今なら盗賊程度はすぐに片づけられるだろう。


「お前ら、全員でそいつを殺せ!」


 予想外の展開に焦っているのか、盗賊のボスは声を荒げて部下に命令する。

 部下達はボスの命令に従って僕を囲む。

 人数は八人。

 全員怯えながらもちゃんと僕に剣を向けている。

 だけどきれいな丸になって囲まれているのは、僕にとっていい状況だ。

 僕は盗賊が動き出す前に魔法を唱える。


「戦士魔法『サークルエッジ』!」


 僕が剣を横に振ると、それに合わせて剣の2倍程の長さの光の刃が、僕を中心として円状に飛んでいく。

 瞬きをする間に一周する速さで飛ぶ光の刃を、盗賊のボス以外全員その身に受ける。

 そして体から血を散らせて倒れていく。

 その一瞬の出来事に盗賊のボスは目を見開く。


 戦士魔法『サークルエッジ』。

 敵に囲まれたときに使う牽制魔法。

 あくまで大人数を牽制するための魔法で範囲は広いけど、威力は低い……というのが普通の『サークルエッジ』だ。

 でも勇者魔法の補助が掛かった僕が使えば、それは大人数を殲滅する範囲魔法に変わる。

 発動させた僕も驚きの威力だった。


「何なんだよ、お前! その歳で何でそんなに強いんだよ!」


 盗賊のボスは僕に怒鳴りつける。

 何でかと言われたら、カエデのおかげとしか言えない。

 僕の力だけでも勝てないということは無かっただろうけど、こうして無傷で無双できているのはカエデの魔法のおかげだ。


「勇者様のおかげかな?」

「くっそ、ふざけやがって!」


 僕の返答に盗賊のボスが怒りを見せる。

 僕としては怒られるようなことを言った覚えは無い。

 でも勇者が召喚されたことを知らないらしい盗賊のボスは、僕が勇者の名前を使ってバカにしていると思ったのだろう。

 

「どうする? 自分から役所に行くなら攻撃はしないけど」

「…………」

 

 盗賊のボスは黙り込む。

 このまま戦っても負けるのはわかっているのだから、迷うことは無いと僕は思うのだけど、盗賊としての意地でもあるのだろうか。

 しばらく下を向いて黙っていたが、不意に顔を上げた。


「わかった、自首する。もう盗賊はやらねぇ」

「…………」


 さっきまでの顔が偽物だったかのように、晴々とした盗賊のボスの顔。

 その顔を僕はジッと見つめる。

 そしてある結論に到達する。


「じゃあ、体を縛らせてもらうよ」

「おう」


 僕は縄で縛るために盗賊のボスに近づく。

 距離は手を伸ばせば届くくらいしかない。

 盗賊のボスの目が今までのギラギラしたものに戻る。


「甘いんだよ、ボウズ! 『ニードル』!」


 思っていた通り盗賊のボスは僕に魔法を唱える。

 魔法によって産み出された針のようなものが僕に向かって飛んでくる。

 盗賊のボスが攻撃してくることを予想していた僕は、近づいてはいても後ろに跳びやすい体勢でいたので、即座に反応して避ける。

 針は僕を通り過ぎて闇に消える。


「なっ!」

「わかっていたよ。自首するなんて嘘だってこと」


 僕は城で僕のことをよく思っていない人から何度も騙された。

 何度も騙されたら耐性が付くというものだ。

 だから僕は嘘に対して敏感なのだ。

 そこらの盗賊の嘘なんてすぐに見破れる。


「自首する気は無いみたいだし、多少痛めつけておかないとね」

「ひぃ!」


 悲鳴を上げて逃げようとする盗賊のボスの足を斬りつける。

 それでも逃げようとしたから手のひらを貫く。

 それで痛みに負けたのか、盗賊のボスは気絶した。

 

「ふぅ、やっと終わった」


 僕はオーガを討伐する中で慣れてしまった、血の付いた剣の手入れをする。

 周りに血が溢れていても気にならないくらいにはもう戦いに慣れていた。

 これも毎晩の特訓の成果なのかもしれない。


「き、君は一体……?」


 今までの光景を腰を抜かして見ていた馬車の運転手は、怯えた目で僕を見る。

 あなたを助けてあげたんだけどなぁ。

 まぁ、子供が盗賊を血祭りにすれば怯えもするだろう。


「さっきも言いましたけど、勇者様の付き添いですよ」

「……本当に?」


 そう言われれば、僕達は勇者のことを証明するものを持っていない。

 これは困った。

 このままでは勇者の名前を利用するただの悪ガキになってしまう。

 

「本当なんですけど、証明するものはありません」

「…………」


 運転手は疑いの目で僕を見る。

 助けたのにこれは酷いと思う。

 別に素性なんてどうでもいいのでは?


「名前は?」

「ロア・ノーブルです」

「ロア・ノーブルって、あの……」


 それはすぐに信じるんだね。

 勇者の付き添いはこんなことしないけど、ロア・ノーブルならやりかねないってことですか?

 さすがにちょっとイライラする。


「まぁ、盗賊を倒してくれたことには礼を言う。だが、盗賊をジトンの役所に引き渡すときに一緒に来てくれないか?」

「はいはい、わかりましたよ!」


 この運転手は僕のことを魔女の子として見ているタイプだ。

 役所で僕のことをどんな風に説明するかわからない。

 多分、僕の手柄を無かったことにするか、僕のことを悪く言うかだと思う。

 カエデとアドアがいる以上、僕のジトンでの評価を今以上に下げるわけにはいかない。


 こうして僕はジトンで役所に行くことになった。


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