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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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馬車の旅

「おはよー! 昨日はすぐ寝ちゃってごめんね。って、あれ? 何で2人共そんなに眠そうなの?」

「初めての冒険で興奮してましたので」

「同じく」


 僕とアドアは昨日の夜、カエデには秘密で特訓をした。

 モンスターの討伐、主にオーガ、時々ウルフ。

 暗くてよくわからなかったけど、あの森のモンスターはオーガが多いみたいだった。

 最初に見張りらしきオーガを倒したから、他のオーガが出てきただけかもしれないけど。

 カエデのように全滅はさせてない……はず。

 僕達はアドアが魔法を掛けられなくなるまでずっとモンスターを倒していた。

 村に帰ってきたのがいつ頃だったかは、あんまり覚えてない。

 でもかなり長い時間がんばった気がする。

 帰ってきてすぐに寝たのだけど、やっぱり眠い。

 隣にいるアドアも何度も目をこすっていてかなり眠そうだ。


「2人共、やっぱり子供だねぇ~」


 そんなことを知らないカエデは僕達を見て楽しそうに笑う。

 僕とアドアは苦笑いを返す。


「さてロア様、今日はどうしますか? ここを拠点にしてレベルを上げますか?」

「いや、この辺りのモンスターではカエデの相手にならないだろうから、もっと遠くの町を目指そうと思う」


 昨日戦っているときに思ったのだけど、やっぱりこの辺りのモンスターは弱い。

 カエデのように一撃で瞬殺……とはいかなかったけど、僕でも楽に勝てる相手だった。

 まぁ、だから最初はここにしたのだけど。

 もっと効率よく強くなるには、自分の強さに合ったモンスターを倒す方がいい。

 そのためには、もっと城から遠くに行かないといけない。

 城はこの国で一番安全な場所に建てられているので、遠ざかる程危険、つまりモンスターが強いという訳だ。


「そうですね。じゃあ、どこに行きますか?」


 今の僕達がどのくらいなのかは何となくしかわからない。

 でもそんなに弱いとは思わないし、モンスターの方がちょっと強いくらいの方がレベルが上がるのが早いと聞いたことがある。

 だからこの国で強いモンスターが出てくると言われている所に行こうと思う。


「ジトンに行こうと思っている」

「ジトンですか!?」

「それってどんな所なの?」

「ジトンはこの国で有名な魔境の一つです。魔境のモンスターは、私達が昨日戦ったみたいな野良モンスターとは比べられない程に強いと言われています」


 アドアの説明でほとんど間違いはない。

 ジトンは魔境の中ではモンスターが弱い方らしいけど、それでも強いことは確かだ。

 それなりの強さを持った冒険者が腕試しとしてよく挑みに行くらしい。

 という訳で僕達も挑みに行こうと思う。


「へぇ~、アドアちゃんの言い方からして、結構強そうだね」

「でも僕は大丈夫だと思う。カエデはもちろん、僕やアドアも、そこらの冒険者や兵士に負けない程に強いし」

「でも、ジトンは遠いですよ。ここから行くなら7日は掛かると思います」


 確かにジトンは遠い。

 ここから歩いて行くならそのくらいは掛かるだろう。

 それなら歩かなかったらいいのだ。


「2人が起きる前に役所で聞いてきたんだけど、この村からジトンに一番近い町まで馬車が出るらしいよ。それも今日の昼に」


 実を言うとこれを知ったからジトンに行こうと思ったのだ。

 歩いたら7日でも、馬車なら3日で到着するらしい。

 こっちに帰ってくる馬車も定期的にあるらしいから帰りも安心だ。


「今日の昼? じゃあ、早く準備しないと!」

「準備する程、荷物あった?」


 僕達が持っているのは必要なものだけ。

 何かを買うような時間も無かったから、出発から荷物が増えることはないはず。

 精々お金が増えたくらいなものだ。


「女の子には色々あるの! ね? アドアちゃん」

「えっ、あ、そうですね。女の子には色々あるんです!」


 何があるんだろう。

 まぁ、僕が気にすることでもないだろう。


「では、昼前に村の休憩所に集合にしようか」

「りょーかい」

「わかりました」



 僕は昨日のモンスターの換金をしたり、3日の旅に必要なものを買ったりして、昼までの時間を過ごした。

 そして休憩所でカエデとアドアと合流して馬車に乗り込む。

 思っていたより大きい馬車で、中には僕達を入れて18人もいた。

 商人が多いようで、たくさんの荷物を持っている人が多い。

 この人数に加えて、全員の荷物まで乗せて走るのだから、馬は本当にご苦労様だ。

 運転手を含めて19人を乗せた馬車は、特に何の問題も無くジトンへの道を走りだす。

 


 アドアが馬車酔いで大変だったこともあったけど、一日目はまぁ無事に終了した。

 進行状況も中々にいい感じらしい。


「う~ん、ずっと馬車で移動っていうのは結構窮屈だね」


 カエデは体を伸ばしながら馬車を降りる。

 確かに半日も体を動かさなかったから、逆に疲れた気がする。


「お二人共何でそんなにピンピンしてるんですか……」


 アドアは僕とは違う理由で疲れているみたいだ。

 僕は馬車に乗ったことが何回かあったから大丈夫だったけど、アドアは馬車に乗るのはこれが初めてだったみたいで、今にも倒れそうな顔をしている。

 明日は大丈夫だといいんだけど……。



 馬車の旅、二日目。

 相変わらずアドアはしんどそうだ。


「もうすぐ降りれるから、それまでがんばって」

「アドアちゃん、大変そうだね」


 もう夕方だから、そろそろ馬車を止めて野宿の準備に入るはず。

 そう思っているとちょうど馬車が止まった。

 アドアは嬉しそうな顔で外を見る。

 

「どうしたの? 早く出ればいいのに」


 外を見たまま動かないアドアを不思議に思って声を掛ける。

 アドアは外を指差して答える。


「それどころではないみたいです……」

「ん? どういうこと?」


 カエデと一緒にアドアが指を指す方を見てみる。

 そこにはガラの悪そうな男達が運転手に何かを言っている光景があった。

 その手には剣が握られている。


「盗賊かなぁ?」

「いやいや、そんなに呑気に言ってる場合じゃないでしょ!」


 他の乗客も状況に気づいたのかざわつき始めている。

 そんな状況の中、カエデは立ち上がって言う。


「私がやっつけてくるね!」


 乗客は唖然してカエデを見る。

 何を言っているんだ、こいつ、と思っているのがよくわかる。

 僕もカエデの強さを知らなかったらそう思うだろう。

 でも強さを知っているからこそ思うことだってある。


「そんなことしたら、相手が死ぬから止めて!」


 カエデの言う、やっつけるというのは、『バレット』でということだろう。

 でもそんなことをしたら、相手の頭が消し飛んでしまう。

 いくら盗賊といえど、それはかわいそうだ。


「僕が行く。カエデは攻撃しないでよ」

「えー、まぁ、いいけど」


 今度は僕に乗客の目が向けられる。

 さっきと同じことを思っているのが本当によくわかる。


「じゃあ、勇者魔法『フォース』、勇者魔法『バリア』」

「ありがとう。じゃあ、行ってくる」


 ひらひらと手を振るカエデと心配そうに見つめてくるアドアに手を振って、僕は馬車を出る。

 僕が外に出ると、盗賊はそれに気づいて僕に近づいてくる。


「おい、お前ら、そいつと中の奴ら縛ってこい。うろうろされると面倒だ」


 運転手を剣で脅している盗賊のボスっぽい人が鬱陶しそうに僕を見る。

 どうやら腰の剣に気づいていなくて、ただの子供だと思っているみたいだ。

 それは好都合。


「坊や、こっちにおいで、お兄さんが優しく縛ってあげるよ」


 心底ムカつく作り声で、僕に近づいていた盗賊は僕を縛ろうと手を伸ばす。

 僕はその手が触れる前にその盗賊の足を斬りつける。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 盗賊は情けない悲鳴を上げながらうずくまる。

 僕は盗賊を盗賊のボスの所まで蹴り飛ばす。

 盗賊のボスは信じられないものを見たとばかりに僕を見る。


「お前、何者だ?」


 警戒心むき出しの顔で僕を睨みつける。

 睨みつけられるのには慣れているので、何とも思わない。

 だから僕はいつもと変わらない態度で言う。


「ただの勇者の付き添いですけど?」


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