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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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特訓

 外が暗くなって建物の明かりが目立つようになってくる時間、僕達はようやくカブレ村に辿り着いた。

 予定では暗くなる前には村に着いておくつもりだった。

 それが何でこんなに遅くなったのかというと、カエデが大きめのオーガを瞬殺した後、僕達はあの森を攻略したのだ。

 具体的に言えば、森にいた多くのオーガと森の中心にいたオーガの王様みたいなやつを殺した。

 もちろん一瞬で。

 オーガは人間を襲うから、国から討伐依頼が出るときもある程に悪いモンスターだけど、それでも全滅は心が痛む。

 止めなかった僕が全面的に悪いのだけど、全滅させてしまったのは襲ってきたオーガのせいでもある。

 仲間が殺されて怒っていたのか、懲りもせずに特攻してくるからやられていったのだ。

 僕の言うことでは無いけど、仲間のオーガの頭が消し飛んでいる死体を見た時点で、オーガ達は死ぬ気で逃げるべきだったのだ。

 まぁ、それでも殺されてしまったオーガには本当に同情する。

 さて、次々に出てくるオーガ達を「リズムゲームみたい!」と言いながら惨殺していった勇者様はというと、村に着いてすぐに疲れたから休みたいと言って、僕が借りた宿で寝ている。

 そして僕とアドアはというと、村の休憩所に座っている。

 そこで話しているのはもちろん――


「これ、私達要りませんよね?」

「そうだね」


 僕達の必要性についてだ。

 カエデは森の戦闘において『バレット』だけで無双していた。

 その姿はまさしく勇者だった。

 そしてその姿を眺める僕達はまさしく仲間1と仲間2だった。


「この辺りのモンスターを一撃で倒せるカエデに果たして僕達は必要なのか、もちろん必要ない。まさか勇者がこんなに強いとは……」


 オーガを一撃で倒せるというのが、どのくらいすごいことなのかはよくわからないけど、僕には無理だということはよくわかる。

 つまり僕の方がカエデより弱いのだ。

 カエデは今日の戦いでレベルが8になっていたと言っていた。

 一日でこれなら、僕のレベルなんてすぐに超えていくだろう。

 そもそもカエデがレベル1、僕がレベル21の段階で僕の方が弱いのだ。

 この差はどうやっても埋められない。


「いつかはカエデ様の方が強くなるとはわかってましたけど、まさか初日からですか……」


 カエデを強くするという冒険の目的からすれば、カエデが強いのはいいことなのだけど、護衛として任されている僕からすれば、やっぱり最初くらいはちゃんと護衛をしたかった。


「それで、これからどうするかだけど……。強さ的に僕達が要らないのはわかりきっているけど、冒険をするには、この世界のことを知っている人がいると思う」


 カエデはこの世界についてほんの少ししか知らない。

 そんなカエデを一人にはできないし、するつもりもない。


「だからこれからも一緒に行動する。でも僕は戦闘で足手纏いにはなるつもりはない。だからこれから少しでも強くなるために、特訓をしようと思う」

「特訓……ですか?」


 カエデと同じように行動していたのでは、差が広がっていくばかりだ。

 それではカエデの強さに合わせて行動しようとすると、僕達は弱過ぎて邪魔になってしまう。

 それを避けるには、特訓をしてカエデとの差を縮めるしかない。


「カエデが寝てから起きるまでに、モンスターを倒す。たくさん倒せば、お金にもなるし、強くもなれるしでいいことしかない」


 モンスターを倒して、その証明ができるものを村や町の役所に持っていくと種類や数に応じてお金が貰える。

 ちなみに今日の分はもう既に役所に持って行っている。

 国から貰ったお金の五分の一くらいはあった。

 一日でこれなのだから、勇者がいれば国からの援助なんて要らないのかもしれない。


「僕はカエデじゃないから、モンスターを倒すのだって一撃って訳にはいかない。傷も負うと思う。だからアドアがいいなら、僕についてきて欲しい」


 僕はアドアを真剣に見つめる。

 夜の戦いは昼の戦いよりも難しい。

 単純に暗いということもあるけど、モンスターは夜行性が多いから、夜の方が強いのだ。

 そんな中にアドアを連れて行くのは嫌だけど、アドアがいないと回復する手段がないのだ。

 一人でしかも回復もできないとなると、最悪の場合、死んでしまうことだってあるかもしれない。


「えっと、私も二人に置いて行かれたくないので、ロア様についていきたいです!」

「わかった。じゃあ、これから行こうか」

「はい!」


 こうして僕とアドアはカエデに秘密で特訓をすることになった。

 場所は村の近くの森。

 この辺りではその森が一番モンスターがいるらしい。

 僕達も寝ないといけないから、それ程長くはできないけど、限界までがんばろうと思う。



「ロア様ぁ、わかってたことですけど、やっぱり暗いですよぉ」


 目的の森まで来る間、アドアはずっとびくびくしていた。

 村で夜の戦闘用の灯りを買ってきて、自分の周りがよく見えるくらいには明るいのだけど、その先は真っ暗だから怖いのだろう。


「そう言われても、慣れてもらうしかないんだけど……」


 森を少しずつ進んでいく。

 辺りは暗いので注意しないといけない。

 夜の森は昼よりもずっと不気味に見えるのだから不思議だ。

 

「……ロア様、あそこ」


 集中している僕を小声でアドアが呼ぶ。

 アドアが指を指す方向を見ると……そこには火を持ったオーガがいた。

 見回りなのか、キョロキョロしながら歩いている。

 僕達との距離はまだ遠い。


「気が付かれる前に攻撃しよう。アドアは灯りを持って後ろにいて」


 アドアが頷くのを見て、僕は攻撃態勢に入る。


「……戦士魔法『エンチャントパワー』」


 『エンチャントパワー』は自分の攻撃を強化させる魔法。

 戦士魔法は自分や武器の強化をする魔法が多いのが特徴だ。

 僕は腰に差している剣を抜いて、オーガを睨みつける。

 オーガはまだ僕達に気が付いていない。

 

 ――僕は静かに駆け出した。

 

 出来るだけ音を立てずに、出来るだけ速く。

 オーガが僕に気づいてこっちを向いたとき、僕の剣がオーガに届く距離まで近づいていた。

 オーガは僕を止めようと手を伸ばしてくる。

 

「遅いよ」


 僕はその手を切り落とす。

 そして慌てるオーガに剣を突き刺す。

 場所は心臓。

 少しの時間が空いた後、オーガは前のめりに崩れ落ちる。


「まずは一体目」


 

こうして冒険一日目の夜は更けていく……


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