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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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初めての戦闘

「僕達はまずカブレ村を目指そうと思う」

「一番近い村ですし、村までの道もちゃんと整備されていて歩きやすいですからね」


 城から出発して一時間くらい経って、城下町を少し過ぎた所で、今後のことについて話し合うことになった。

 僕はその時々に言えばいいと思っていたのだけど、二人は先のことがわからないと不安になるみたいだ。

 

「それじゃあ、モンスターと戦ったりしないの?」


 カエデが少し残念そうな表情で言う。

 何でそんなに好戦的なのだろう。

 もしかしたら元の世界ではモンスターと戦う仕事でもしていたのだろうか。

 でも体つきや動作は普通の人に見えるから、カエデの性格の問題なのかな。


「それは魔法の使い方を覚えてから。カエデはまだ戦ったことが無いんだから、ちゃんと戦えるようになってからにしないと」

「むー」


 頬を膨らませてこっちを見るカエデはかわいいけど、僕はカエデの安全を考えて行動しないといけないのだ。

 モンスターと戦うのなら魔法が使える方が安全に決まっている。


「私だって、魔法くらい使えるもん! 勇者魔法『レベルチェック』!」

「!?」


 カエデが魔法を唱えると、黒かったカエデの瞳は黄色に変化した。

 その光景から魔法が発動していることがわかる。

 魔法は一度発動できれば、二回目、三回目は簡単だと言われている。

 最初の一回は、力を魔法の発動場所に集めるという魔法の基礎ができずに失敗することが多い。

 今までやったことのないことをやっているのだから仕方がない。

 僕も練習を始めてから実際に魔法が使えるようになるまでに一週間は掛かった。

 しかしカエデは初めての魔法をいきなり成功させた。

 これが勇者の力なのか、カエデのセンスなのかはわからないけど、魔法が使えるようになったのは助かる。


「どう? すごいでしょ?」

「すごいです! もう魔法が使えるようになるなんて。私なんか使えるようになるまで一か月は掛かりましたよ」


 興奮した様子でアドアはカエデを褒めている。

 カエデはそれを受けて得意げな顔で僕を見る。

 僕はそれを無視して気になっていることを聞く。


「その魔法はどんな効果があるの?」

「えーっと、ちょっと待ってね」


 そう言うと、カエデは腰のホルダーに付けている魔導書を手に取り、あるページをジッと眺める。

 魔導書に書いてある魔法の説明を読んでいるのだろう。

 普通は発動させる前に読むものだけどね。


「『レベルチェック』は視界にいる人の強さをレベルとして表示する魔法なんだってー。ちなみにロア君のレベルは二十一で、アドアちゃんのレベルは十八だよ」


 この世界でレベルを確認できる魔法を使えるのは聖職者と王様だけ、というのが常識なのだけど、どうやら勇者は例外なようだ。

 勇者魔法は万能。

 他の魔法のほとんど全てを習得できる、そう言われている。


「カエデ様のレベルはどのくらいなのですか?」

「もちろん私は一だよ。だってまだ何もしてないもん」


 それはそうだ。

 自分のレベルを確認したのはこれが初めてだけど、レベルを上げるには、魔法を使うか、モンスターや人と戦うしかない、と聞いたことがある。

 僕やアドアは城で訓練として魔法を使ったり、対人訓練をしていたからレベルが上がっているのだろう。


「だから私も戦ってレベルを上げないと」

「他にはどんな魔法が使える? とりあえず全部言ってみて」


 カエデはまた魔導書をパラパラと読んで、一つずつ説明していく。

 それを聞いた所、今の段階では補助系の魔法が多いみたいだ。

 味方の攻撃を強化する魔法『フォース』、味方を守る壁を張る魔法『バリア』、味方に暗視の能力を付ける魔法『ライトサイト』、自分の姿を見えなくする魔法『シャドウ』だ。

 その中で唯一の攻撃系の魔法が、体力を弾丸に変えて発射する魔法『バレット』。

 この魔法は魔術師魔法だった気がするけど、そこは勇者だからなのだろう。


「勇者って援護する人なの? 私の想像だと前線で戦う人だったんだけど」

「僕の想像でもそうだよ。これから攻撃系の魔法が増えるのかな?」


 勇者なのだから敵と戦うために攻撃できないといけないと思う。

 経験を積んでいけば使える魔法は増えるから、きっと攻撃系の魔法を習得していくのだろう。


「まぁ、魔法が使えるようになったことだし、後でモンスターと戦ってみる?」

「もちろん!」

「モンスターと戦うんですか……。私、本物のモンスター見るの初めてです」


 それは僕も同じだ。

 僕の実戦経験は城の兵士だけで、モンスターと戦ったことは元より見たこともない。

 そんな僕だけど、この辺りのモンスター程度なら余裕を持って戦えると思う。

 城下町の近くにいるモンスターは兵士が一人いれば勝てると言われている。

 だから僕がいれば大丈夫だとは思う。


「もう少し進んだら、道から外れた所にある森に行こうか」


 道が整備されているような所ではモンスターと遭遇する確率は低い。

 だけど、道から外れた森や洞窟だと結構すぐにモンスターに会うらしい。


「りょーかい!」

「わ、わかりました」


 カエデは戦えるからかとても元気だ。

 反面、アドアは緊張しているのか、いつも以上に落ち着きがない。

 僕は多分普通……だと思う。

 こうして僕達は初めてのモンスターとの戦闘に向かった。



 歩いて三十分。

 僕達は一番近くにあった森にやってきた。

 木が青々としていてモンスターがいなければ森林浴でも楽しめそうだけど、道の整備が中途半端なことを考えるとモンスターが出てくるのだろう。

 森と言っていいのかわからないくらい小さいけど、一応モンスターは出てくるだろう。

 カブレ村まではまだ数時間歩かないといけないから、何回か戦ったら切り上げようと思っている。


「では、中に入ろうか」


 

 入って数分くらいの所で茂みがカサカサと揺れている。


「モンスター?」


 僕達三人は音のした方をジッと見つめる。

 するとそこから、のそのそと大きなオーガが出てきた。

 人間のような体に角を生やした亜人種だ。

 この辺りのモンスターでは強い部類に入る上に、このオーガは標準の大きさよりも大きい。

 大きさとしては僕の二倍くらいあるだろう。

 一人だったら勝てないかもしれない相手。

 でも三人ならば、油断しなければ十分勝てる相手だ。


「三人なら大丈夫だろうけど、二人とも気を付けて!」

「わかってるよー」

「が、がんばります!」


 オーガは僕達が自分の視界に入ると、嬉しそうに口角を上げた。

 食糧がやってきたとでも思っているのだろう。

 オーガは警戒なんてしていないかのようにゆっくりとこっちに近づいてくる。


「カエデ、魔法で牽制! アドアは後ろに下がって!」

「任せて! 勇者魔法『バレット』!」


 右手を前に突き出したカエデが魔法を唱えると、その手のひらから青白い光の弾がオーガの頭を目掛けて飛んでいく。

 これでオーガの動きを止めて、態勢を作る時間を稼げるはず。 

 光の弾は遅くない速さでオーガに迫っていく。

 そしてオーガの頭に触れた、その瞬間――


 オーガの頭が消えた。


 次の瞬間、頭を失ったオーガは後ろに倒れる。

 体の大きさに合った重さの音が周りに響く。


「え?」


 オーガがそれ以上動くことはない。

 辺りが静かになり、風の音だけが聞こえる。


 

  ……これ、僕とアドアがいる意味ありますか?


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