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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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冒険の始まり

「それでは、二人に昨日王様から聞いてきたことを話そうと思う」


 今、僕の部屋には僕とカエデ、そしてアドアが集まっている。

 これは僕が王様に昨日聞いたことを二人にも伝えておくためだ。

 何故僕の部屋かというと、僕が起きた時に二人が部屋にいたからとしか言いようがない。

 本当は適当に部屋を借りてそこに二人を呼ぼうと思っていたのだけど、生憎僕は早起きが苦手だ。

 今日も予定より一時間も寝坊している。

 だから僕が起きる前に二人が行動してしまったという訳だ。

 カエデが起こしてくれなかったらもっと寝ていたかもしれない。

 先に来たのはアドアだったらしいが、初めて僕の部屋に来た上、僕が寝ていてどうしていいかわからず、真っ赤になってあわあわしていたというのをさっきカエデから聞いた。

 そんな状況でも起きなかったのは本当に申し訳ないと思う。


「まず、この冒険の決まり事が三つある。一つ目はグリーム王国の外に出ないこと。二つ目はカエデの安全を第一として、危険な行動はしないこと。三つめは二週間に一回は城に戻ること。他にも言われたことはあるけど、細かいことはその時に言うから。何か質問はある?」


 この三つは大体予想していた通りだ。

 グリーム王国の勇者なのだから王国から出ないのは当然だし、勇者であるカエデの安全を一番にするのも当然だ。

 それに定期的に城に戻るのも、支援を受けるには必要なことだから納得だ。


「うーん、特にないかな~」

「で、では私から質問させてもらいますね。この冒険はいつまで続けるんですか? あとずっと三人で冒険するんですか?」


 相変わらずアドアはおどおどしながら、自信無さげな態度だ。

 僕と二人で話すときはそうでもないのだけど、やっぱりカエデがいるから緊張しているのかもしれない。


「冒険の目的としてはカエデを強くすることだから、カエデが上位魔法を使えるようになるまでかな。仲間はこれから信用できる人を少しずつ増やそうかと思ってる」


 勇者は成長がかなり早いと聞くから、普通の人なら習得に数年かかる上位魔法でも、一年くらいで習得できるかもしれない。

 ちなみに僕とアドアは中位魔法まで使える。

 これは子供にしては優秀な方ではあるけど、大人だと普通くらいだ。


「仲間に関しては僕に心当たりがある。信用できるし、実力もあるけど今は城にいないから、次に帰ってきたときにでも誘おうと思ってる」


 その人は僕の幼馴染で今は城の部隊長をやっている。

 昔から僕がどれだけ嫌われていようが一緒にいてくれる良い人だ。

 かなり忙しい人ではあるけど、僕の頼みなら大体何でも聞いてくれる。

 そういう人だ。


「他に質問はある?」


 カエデもアドアも揃って首を横に振る。

 今の段階で僕が伝えておくことはもうない。

 すぐにでも城を出たいところではあるけど、出発前に自分の所に来るように王様に言われているので行かなくてはいけない。


「じゃあ、王様の所へ行こうか」


 

 毎度のことながら長い道のりを、雑談をしながら歩いて王様のいる病室を目指す。

 途中すれ違う城の人の中に僕のことを睨んでくる人が少しいたけど、僕にはどうしようもないので無視する。

 カエデと僕が一緒に行動していることに不満を持っている人はまだいるのだろう。

 今は王様がいるから直接的には何もしてきていない。

 でも王様が病気で死んでしまったとき、一体どうなるのだろう……



 十数分歩いてやってきた病室はいつものように静まり返っていた。

 病人しかいないのだから静かなのは当然だけど。

 僕達は一番奥にある豪華な個室に入る。

 そこには虚ろな目をした王様が横になっていた。


「王様、二人を連れて参りました。これから冒険に出ようと思います」

「ロアか。わざわざご苦労だったな」

「いえ、王様の命とあればいつでも参ります」


 本当は確かに苦労だったのだけど、そんなこと言っても何もならないので社交辞令で返事をしておく。

 

「そうか。そう言ってくれて嬉しく思う。冒険の資金と装備は昨日の内に渡しておくように、部下に言ったのだが、届いたか?」

「はい。ありがたく使わせていただきます」


 資金は普通の人なら一月は過ごせる程、装備は初めて冒険に出る人が持つには十分過ぎる程のものをもらっている。

 まぁ、国の大事な勇者様のためなら、このくらいは当たり前なのだろう。


「あともう一つ渡しておかなければならないものがある。カエデ殿、こちらへ」

「……? はい」


 カエデは名指しで呼ばれたことを不思議に思っているのか、首を傾げながら返事をした。

 僕は当たり前過ぎて忘れていたのだけど、この世界で魔法を使うためには欠かせないものがある。

 それを準備してくれたのだ。

 王様は横の机に置いてある本を手に取り、それをカエデに差し出す。


「これは魔導書。この世界で魔法を使うときにはこれが必要になります」

「へぇ~、こんなものがあるんですね」


 カエデは魔導書をペラペラ捲りながら目を輝かせている。

 見た目はただの分厚めの本。

 だけど魔導書は自分の使える魔法が表示されるというとても便利なものだ。

 そして魔法は魔導書を身に付けていないと発動できない。

 もちろん僕も持っている。

 

「私からは以上だ。何か聞きたいことはあるか?」


 僕は特にないけど、アドアかカエデにあったらいけないので、二人に目を向ける。

 アドアは縮こまってぷるぷると首を横に振っている。

 カエデは魔導書の方に夢中になっている。


「いえ、ありません」

「そうか、それでは冒険に出かけるといい。健闘を祈っている」

「ありがとうございます。では、失礼します」


 話をした時間はほんの数分。

 いつもなら国の大事な人が遠征に行くときは、王様が長々と話をしているのだけど、今回はとても短かった。

 それ程、王様の体が弱っているのかもしれない。


 僕達は病室を出て、各自で自分の荷物を取りに行った。

 病室を出たとき、アドアが緊張しただの、私だけ場違いだっただの言っていて、全く落ち着きがなかった。

 王様と話をする機会が今までに無かったから緊張したらしい。

 気持ちを落ち着かせるためにも時間が必要そうだったから、一時間後に城の入り口に集合ということにした。



 そういう訳で僕は今、自分の部屋にいる。

 

「一か月は帰ってこないんだよなー。そう思うとさみしい気持ちになる」


 一時間後まで特にやることがないので、部屋の掃除をする。

 といっても掃除はいつもしているので、あまりやることがない。

 

 暇。


「ロア君いる?」


 ふとドアの向こうからカエデの声が聞こえた。

 約束の時間まであと三十分はある。

 まぁ、僕の部屋から城の入り口まで二十分くらい掛かるから、そんなに時間がある訳ではない。


「うん、いる。入っていいよ」

「じゃあ、入るね」


 カエデは僕の部屋に入ると勝手にベッドに腰を掛ける。

 何の用だろう。

 僕としてはカエデに話さないといけないことは無いんだけど。

 少し間が空いて、カエデは口を開いた。


「ちょっと遅くなったけど、お礼を言おうと思ってね。……私についてきてくれてありがとう」


 何だ、そんなことか。

 僕にとっても城から出られるのはいいことだから、別にお礼を言わなくてもいいと思う。

 カエデはそれを知らないから、お礼を言ったのだろうけど。


「いえいえ、僕にとってもいい話だったってだけ」

「それでも私は嬉しかったよ。ロア君がついてきてくれるって言った時。だからお礼を言うの。それに命を懸けて守ってくれるんでしょ? そう言ってくれて少し不安が減ったから、それもありがとう」


 何だか照れる。

 人からお礼を言われる機会があんまり無かったから余計に。


「では、カエデ様に喜んでもらえるようにこれからもがんばりますよ」

「うん。頼りにしてるよ、王子様」


 わざと護衛みたいな言葉遣いを使う。

 ただの照れ隠しだったけど、カエデはそれに答える。


 僕は僕のことを信頼してくれる人のためにがんばろう。

 かわいらしい笑顔で笑うカエデを見ながら僕はそう思った。




「アドア、カエデ、準備はいい?」

 

 城の入り口。

 ちょうどお昼時で人はあまりいない。


「私のせいで出発が遅れてすいません。もちろん準備はできてます」

「私も大丈夫だよ! 冒険楽しみだねぇ」


 申し訳なさそうなアドアと上機嫌なカエデがそれぞれ返事をする。


「それなら行こうか。冒険の旅へ!」

 

 晴天に恵まれた冒険日和の中、僕、カエデ、アドアは歩き出す。

 さぁ、冒険の始まりだ。


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