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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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ウィッチ

 視界が黒く染まる。

 一瞬だけ周りが見えなくなる。

 その間に攻撃されたりしたら困ったんだけど、騎士は僕の姿が魔法で変わっていっているはずなのに何もしてこない。

 実力差があるのを知っているからこその余裕なのだろう。

 騎士が何もしない間にも僕は『ウィッチ』を進めていく。

 周りが見えるようになった時、僕の視界に色が無くなる。

 こうなるのはわかっていたことだから慌てたりはしない。

 体中に力が行き渡っていくのを感じる。

 さっきまでとは違うことが僕にはよくわかる。


「ほう、どんな魔法かはわからないが、雰囲気は変わったな」

「雰囲気だけじゃないのは戦えばわかると思うけど?」

「では始めようか」


 騎士が攻撃をしようとしている。

 向こうから仕掛けてくるのは初めてだけど、攻撃されるなら防御するだけ。

 さっきとは違い、騎士の剣に合わせて僕も剣を振るう。


「戦士魔法『ソニック』!」

「その程度の剣ではさっきの二の舞だぞ」


 騎士の剣と僕の剣が触れる。

 騎士の言う通り、さっきまでの僕の『ソニック』だったら、ここで騎士の剣に押されてまた壁まで飛ばされていただろう。

 でも今の僕は違う。

 僕の剣は騎士の剣をはじき、そのまま騎士へと向かっていく。

 

「何っ?」


 騎士は動揺を見せたけど、焦ってはいない。

 自分の鎧に掛けているであろう魔法が攻撃をはじいてくれると思っているからだ。


「甘いね」


 僕は剣を振り抜く。

 金属が擦れる甲高い音が響く。

 右手に伝わる衝撃からかなり厚い鎧だということがわかる。

 『ソニック』程度の威力では騎士本人には全くダメージを与えられていないだろう。

 

「成程、確かにさっきまでとは違うみたいだな。魔法の威力がさっきとまるで違う」

「戦士魔法『ブレイク』!」


 騎士の言葉を無視して攻撃を再開する。

 『ウィッチ』はそう長く保てる魔法ではない。

 今は良くても10分くらいだと思う。

 だから10分以内にこの騎士を片付けないといけない。


「ふむ、騎士魔法『ブロック』」


 騎士の前に透明に近い壁のようなものが出てくる。

 おそらくは魔法の障壁だ。

 でも構わない、そのまま攻撃を続ける。

 『ブレイク』による攻撃が騎士の『ブロック』を壊す。

 そして僕は続けて攻撃をする。


「戦士魔法『スラッシュ』!」


 斬撃の威力を上げるだけの魔法。

 でも『ウィッチ』を発動している今なら十分な攻撃だ。

 今までとは変わって騎士が剣を使って防御する。

 騎士の体が少し後ろに下がったくらいで僕の攻撃を止められる。


「早く決着を付けようとしていること、魔法の威力が上がっていることを見ると、『ウィッチ』というのは時間制限のある自己強化の魔法だな」


 正解。

 前にヴェイルさんは僕が自分と同じ魔法の天才になったって言ったけど、実際はそうではない。

 通常状態の僕はほとんど前の僕と変わりがない。

 前より魔法の上達が早くなった気がするからそこは変わったのかもしれない。

 でもヴェイルさんが言ったような急な変化は無かった。

 その代わりに僕は新しい魔法が使えるようになっていた。

 それが魔女魔法『ウィッチ』。

 『ウィッチ』は自分の魔法の威力を上げる魔法。

 つまりはヴェイルさんの言う魔法の天才になる魔法だ。

 この魔法を使っている間は戦闘に関係のないものは全て失う。

 例えば色。

 色が無くても敵の姿さえ見えていれば戦える。

 他には味覚や場合によっては痛覚も無くなる。

 僕が魔法の天才になるにはそういったものを全部、魔法を使う力にまわさないといけない。

 そして『ウィッチ』の効果が無くなれば、僕はリバウンドでほとんど動けなくなってしまう。

 だから早く戦いを終わらせないといけないのだ。


「……もう時間がないか。次で決めよう」

「それなら私はお前の魔法が切れてからゆっくり捕えさせてもらおう」


 『ウィッチ』状態の僕と戦ってもまだ余裕みたいだ。

 でも次の魔法は『ウィッチ』を使っている間しか使えない程の魔法。

 これまでの魔法とは格が違う。


「魔女魔法『ドリーム』」


 騎士の動きが止まる。

 僕も動かない。


「騎士魔法『フォースディフェンス』!!」


 騎士が急に魔法を唱える。

 そして騎士の前に黒いバリアが張られる。


「良い魔法だ。だが、私は騎士として防御には自信がある。その魔法、完璧に受け切って見せよう!」

「…………アドア、行こうか」

「はい。まだ回復はしなくても大丈夫ですか?」

「うん、まだ大丈夫」


 何も起こっていないのに必死に防御の魔法を唱える騎士を無視して僕とアドアは歩き出す。

 それに反応もせずにバリアを張り続ける騎士。

 

「ロア様、止めは刺さないのですか?」

「もちろん止めを刺してから行くつもりだよ」


 『ドリーム』は夢を見せる魔法。

 相手の望む展開を見せる、『ファントム』よりも破られにくい幻覚の魔法だ。

 相手はその展開を求めているからこそそれが幻覚だと気づかない。

 騎士も当分は幻覚の中だとは思うけど、万が一ということがあるから、ちゃんと倒してからカエデの所に行こうと思う。


「ははははっ! これで終わりか? そんな力では私には勝てない!」

「夢の続きは倒れてから見るといいよ。戦士魔法『ブレイク』!!!」


 騎士の無防備な体に『ブレイク』を叩き込む。

 『ウィッチ』はまだ続いているし、『ブレイク』は鎧を貫通してダメージを与える魔法だから、騎士はもう立つことも出来ないだろう。

 実際、騎士は前のめりに倒れてきている。


「よし、アドア、行こうか」

「はい!」


 『ウィッチ』が解けるまでもう数分しかないから急がないと。

 解ければ僕は満足に動けなくなるから、せめてカエデを安全な場所には連れて行きたい。

 僕とアドアは倒れた騎士を横目にカエデのいる部屋に向かう。

 ドアには鍵が掛かっていないらしく、ドアノブを回すとそのまま開いた。


「何か用? 部屋にいろって言ったのはあなたでしょ」


 久しぶりに聞くカエデの声。

 どうやらカエデは騎士が入って来たと思っているみたいだ。

 まだこっちを見ていないから当然と言えば当然かもしれない。

 僕達は1人が使うには広い部屋でカエデの方へ歩く。

 返事が無いことを不思議に思ったらしくカエデが僕達の方を見る。


「えっ?」


 カエデと目が合う。

 一緒に冒険をしていた時とは違って、国のお姫様が着るような服とたくさんのアクセサリーを付けているけど、そこにいるのは確かにカエデだった。

 

「ロア……君?」

「お待たせ、カエデ。遅くなってごめ――」


 体に激痛が走って言葉が止まる。

 まだ『ウィッチ』のリバウンドがくるには早過ぎる。

 これは…………。

 僕は自分の体を見る。

 そこには騎士の大剣が突き刺さっていた。


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