捜索
「あたし的には2人についていきたいけど、それが許される状況じゃないわよね……」
護衛の兵士に魔法を撃ったんだからそれは当然だとして、カエデがここにいないのはおかしい。
ここは城の中で一番安全な場所。
まだ危険な戦場に送り出せる程にカエデは強くなっていないはずだから、城の中で護衛を付けられていると思っていた。
実際、王の間に護衛はいたし、守られている人もいた。
でもその中にカエデはいない。
「ちょっとロアちゃん? 出来れば早く行ってくれないかしら。そろそろ煙が消えて向こうに見つかるわよ。ロアちゃんはあそこで守られてる人達には会いたくないと思うんだけど」
「あ、はい。すいません」
ここで守られている人はおそらく王族、ということは僕が嫌いな人、そして向こうも僕を嫌っている人しかいない。
僕が会いたくないのはもちろんだし、会ったら向こうがうるさくなるから会いたくはない。
「アドア、ここはヴェイルさんに任せて行こう」
「は、はい!」
元から護衛達はヴェイルさんが相手をするつもりだったから、ヴェイルさんを残して行くこと自体は問題ない。
問題なのは僕とアドアだけでは、兵士に見つかる可能性が高くなること、そして兵士に見つかった時に倒せない可能性があること。
でもここで時間を使っている場合ではない。
僕達がカエデを連れ出すまでこの戦争は終わらないんだから。
「ヴェイルさん、がんばってください!」
「ご武運を!」
ヴェイルさんに一言ずつ言い、僕とアドアは走り出す。
その後ろでは王の間に甲高い声が響いていた。
「貴方達! 早く下賤な魔女を殺してしまいなさい! 何が目的で攻めてきたのかは知りませんが、好都合です! 魔女は全員殺しなさい!」
「そうだ! 魔女は皆殺しにしろ! 私が許可する」
誰が言っているのかは見なくてもわかる。
僕を見られていたらもっとうるさくなっていたんだろうな……
あんな所に1人でヴェイルさんを長居させる訳にはいかないから、早くカエデを見つけないと。
僕とアドアは何処にいるかわからないカエデの元に急ぐ。
それから数分後、僕はあることを思いついた。
それは――
「カエデに変身しよう」
「『ディスガイズ』ですか。でも何で変身するのですか?」
隣を走っているアドアは不思議そうだ。
カエデを探しているのに、その探している本人に変身して何の意味があるのか、そう思うのは当然だと思う。
でもやるからにはちゃんと理由がある。
「カエデはこの城のどこかにいると僕は思う。多分護衛を付けられてどこかの部屋の中にいる。そんなカエデが城の中をうろうろしていたら、カエデがいないといけない場所に連れて行かれると思うんだ」
「兵士にわざと見つかって案内してもらう、ということですね」
「そうだね」
闇雲に探すよりかはずっと良いはず。
このまま手がかりも無く探し続けていても時間が掛かるだけだ。
「じゃあ、やるよ。アドアは見つからないように後ろからついて来て」
「わかりました」
服装はどうしよう?
城の中でカエデがどんな服装をしているのかをヴェイルさんに調べておいてもらうべきだった。
知らない以上、今のカエデが着ている服とは違うだろうけど、一緒に冒険してた時の服にするしかない。
「魔女魔法『ディスガイズ』」
僕の体が光に包まれ、そして数秒で消える。
『ディスガイズ』を使う度に思うけど、何だか不思議な感じだ。
体全体が薄い膜で覆われているような感覚。
これでもう僕の見た目はカエデになっているのだろう。
「やっぱりすごいですね。もうカエデ様にしか見えません」
「それは良かった。それじゃあ、僕は兵士のいそうな所に行くからついて来て」
今までは兵士がいないような所を移動してきたけど、今度は逆だ。
兵士に見つからないように移動するのは大変でも、兵士に見つかるように移動するのは簡単。
きっと兵士達はムトさん達が戦っている城の正面側に向かっているはず。
それならそっちの方に行けば兵士に見つかる……と思う。
僕は自分の考えが正しいことを信じて城の正面側に歩き出す。
「カエデ様!? 何でこんな所に!」
「おっ」
歩き出して10分くらい経った頃、見知らぬ兵士に声を掛けられた。
こうなるのを待っていたけど、実際に自分のことをカエデ様って呼ばれるのは変な気分だ。
「魔女共に城を攻められているのでお部屋にお戻りください。カエデ様はこの国にとって大切な存在。こんな所にいてはいけません!」
僕よりは年上だけど兵士の中ではまだ若いだろうその少年は、はきはきと話す。
見た感じだと服も装備も新しいみたいだし、最近兵士になったばかりなんだろう。
「ぼ……私も一緒に戦おうと思って」
今の僕はカエデなんだから、カエデらしい会話をしないとね。
カエデなら本当にこういうことを言いそうだ。
「何を言ってるのですか! カエデ様は私達が守るべき存在。カエデ様は安全な所で戦いが終わるまで待っていてください!」
思っている以上に激しく止められた。
この人、見た目は美少年って感じなのに結構熱い人だなー。
「はーい、わかったよ」
「では、お部屋までお送りします。万が一ということもありますので」
ここまで計画通り。
このままカエデの部屋の近くまで案内してもらおう。
「わざわざありがとーね!」
「い、いえ! では参りましょう」
よし、これでやっとカエデに会える。




