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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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作戦開始

「ちゃんとロアちゃんの部屋に着いたかしら?」

「はい、ここは僕の部屋ですよ」


 ついさっきまで広い平野にいたのに、今はもう狭い部屋の中。

 やっぱり魔女魔法は便利だ。


「それなら周りの確認を始めるわ。魔女魔法『サーチ』」


 ヴェイルさんは目を閉じ、腕を横に伸ばす。

 それから何度かその場で回転をする。

 『サーチ』は周りを確認する魔法で、魔法の効果範囲内の地形やどんな生物いるかが数秒でわかるらしい。

 もっとも僕とアドアは元々城にいたんだから地形はよく知っている。

 大切なのは周りに人がいるのかどうかだ。


「…………ふむふむ」

「どうでしたか?」

「今はこの近くに人はいないわ。でも兵士が慌ただしく動いているから、見つかる可能性もありそうね」

「城が攻められている以上、それは仕方がないと思いますけど……」

「そうだね。カエデを見つけるまで一回も見つからないなんて都合が良過ぎる。何回かは戦う覚悟はしておかないと」


 もしも戦いになったとしても一般の兵士くらいなら僕とアドアで何とか出来るし、強い人と出会ってしまってもヴェイルさんがいる。

 この状況なら少しくらい無茶をしても平気だと思う。


「じゃあ、カエデちゃんを探しに出るってことでいいのね?」

「はい!」

「もちろんです!」

「わかったわ。あたしについて来て。もちろん物音は出来るだけ立てないようにしてね」


 そう言い、ヴェイルさんは僕の部屋のドアを開く。

 ヴェイルさんが言った通り、周りには人はいないようで廊下は静まり返っている。

 僕達は誰もいない廊下を慎重に歩き出す。



 たまにヴェイルさんの『サーチ』を使いながら城を進んでいる僕達は、時間が掛かったけど誰にも会うこと無く王の間の前まで来ていた。

 カエデがいるのは城の中でも安全な場所、つまり城の中心にある王の間だと僕は思っている。

 だから今、扉を開ける前にヴェイルさんに『サーチ』で中に人がいるかを確認してもらっている。

 もしもここにカエデがいるのなら、絶対に付いているはずの護衛がどのくらいいるのか知っておかないといけない。

 

「ヴェイルさん、どうですか?」

「……結構な人数がいるわね。ロアちゃんが言ってたようにここが当たりかもしれないわ」

「具体的にはどのくらいの人がいるんですか?」

「20人くらいはいるみたいね。5人を他の人で囲む配置になっているから、その5人の中にカエデちゃんがいるかもしれないわ」

「15人もいるんですか……。どういう作戦でいきますか?」


 15人と言っても勇者とおそらく王族を守っているような人達だから、普通の兵士では無いはずだ。

 ヴェイルさんが魔女魔法で全員倒すなんてことは多分出来ない。

 だから僕とアドアも戦うことになるけど、何かしらの作戦を立てておかないとお互いにやり難い。

 僕もアドアも弱いなりに頑張ったんだ。

 ヴェイルさんの足手纏いになるつもりは無い。


「すぐに複雑な作戦なんて覚えられないだろうから、簡単にそれぞれの役割を決めておくだけにしましょ。あたしは護衛の相手、ロアちゃんはカエデちゃんを連れ出す。アドアちゃんは最初にあたしのサポート、ロアちゃんがカエデちゃんの所に着いたらロアちゃんのサポート。これでいいかしら?」

「ヴェイルさんは1人で15人を相手にするんですか?」

「そうね。まあ、アドアちゃんにも手伝ってもらうけど」

「私も最大限の努力はしますけど、大丈夫何でしょうか……」


 アドアは不安そうな顔で僕を見る。

 3人で護衛を倒してからカエデと逃げた方がいいと思っているみたいだ。

 まあ、僕も少なからずそう思うけど、ヴェイルさんが自分に出来ないことを言うとは思えないから口には出さない。


「あたしは扉を開けると同時に魔法を撃つから、2人が扉を開けて。最初の一発で出来るだけ数を減らしておくわ」

「ヴェイルさん、わかってるとは思いますが――」

「カエデちゃんには当てるな、でしょ? わかってるわ。守られてる5人には当てないようにするつもりよ」

「ならいいですけど……」

「じゃあ、いくわよ」


 これ以上は何も言うことが無いとばかりに扉のすぐそばに立つ。

 僕がアドアの方を見ると、アドアも僕の方を苦笑いをしながら見ていた。

 こうなったらもう、やるしかない。

 僕が扉の方に歩き出すとアドアもついてきた。

 王の間の扉はそれなりに大きいから、僕1人だと力が足りないと思ったのかもしれない。

 

「それじゃあ、アドア、開けようか」

「は、はい!」


 少し震えた声で返事をしたアドアだけど、ちょっと声が大きい気が……。

 中の人にも聞こえたかもしれない。

 まあ、もう中に入るつもりだから、聞こえた所であんまり変わりは無いかな。

 僕達が力を入れると扉は重そうな見た目に反して滑らかに動き始めた。

 王の間は広いから護衛の人達との距離はまだあるけど、扉が開けられていることに反応して全員がこっちに意識を向けたのがわかる。

 でも護衛という役割だから護衛対象から離れて僕達を攻撃する、ということは無いみたいだ。

 それは好都合。


「爆ぜなさい、『レンジバースト』!!」


 扉を開いている途中、僕も予想していなかったタイミングでヴェイルさんが攻撃を始める。

 驚く僕の隣を赤い閃光が横切る。

 これがヴェイルさんの攻撃によるものだとわかるから邪魔はしない。

 ヴェイルさんから伸びているであろう閃光は王の間の中央にいる護衛達に向かって伸びていく。

 それが自分達に近づいていると気づいた護衛は各々魔法を唱え始める。


「騎士魔法『ウォール』」

「騎士魔法『マーチストップ』――」


 あっと言う間に閃光と護衛達の間に物理的、魔法的な壁が出来上がる。

 それに触れる前、ヴェイルさんの方から指を鳴らしたような音が聞こえてきた。

 その音とほとんど同時に激しい爆発が王の間を包む。

 爆発の煙が部屋いっぱいに広がっていて視界が悪いけど、護衛が出していた壁が何枚か壊されるのが見えた。

 この攻撃で護衛達は少なくないダメージを受けていると思う。

 やっぱりヴェイルさんは強い。僕なんかでは比べることも出来ないくらいに。

 魔法の天才って自分で言うだけのことはあるね。

 僕もいつかはこんな風に強くなれるんだろうか……。


「やりましたね。さっきのでかなり人数を削れたんじゃないですか?」

「…………」


 僕は扉を開ききってからヴェイルさんに言う。

 でもヴェイルさんからの返事は無い。


「どうかしたんですか?」

「……ロアちゃん、アドアちゃん、ここはあたしに任せて、2人はカエデちゃんを探しに行きなさい。ここにカエデちゃんはいないわ」


 ヴェイルさんにそう言われ、煙が消えてきて見えるようになった王の間の中央をよく見る。

 そこには僕の嫌いな人は何人かいたけど、好きな人はどこにもいなかった。


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