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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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治療師

「ではまず仲間を集めましょう」


 僕の部屋で唯一日の光が入ってくる窓際の一部分に僕とカエデは向かい合っている。

 これからどうするかを話し合うためだ。

 僕は王様に冒険に出る許可を貰った訳だけど、その準備は僕達でやらないといけないみたいだ。

 準備をしないといけないのは仲間。

 カエデは勇者といっても、戦うのは初めてだろうし、できるだけ安全に冒険をするためにも万全の態勢で冒険を始めたい。


「何人くらい集めるの? あんまり多いのは嫌だなー」

「絶対に必要な人は治療師です。人数を少なくしたいのなら、とりあえず他には要らないでしょう」


 どんなに強い兵士でも傷を負う事はある。

 そして小さい傷でも増えれば動きが鈍るうえに、それが原因でまた傷を負うかもしれない。

 僕は回復系の魔法を使えないし、いずれは使えるようになるかもしれないけど、今はカエデも使えない。

 パーティーとして回復役がいないのは致命的だ。


「やっぱり回復キャラは必須だよね。城の人にお願いするの?」

「治療師なら僕に心当たりがあります。一応城の人という事になるのでしょうけど、僕が信頼している子です」


 僕の友達の中に親が治療師で、小さい頃から治療師魔法の訓練をしている子がいるのだ。

 僕と同い年でまだ子供だけど、回復系魔法なら大人と同じくらいの力があると評価されているらしい。


「ロア君の友達かな? それなら安心だね」

「どういう基準なのかはわかりませんけど、安心してもらえるなら幸いです」

「私はロア君のことをそれなりに信用してるからね。そのロア君が信頼してる人なら、まぁ、大丈夫かなーってこと」


 それなりなのか……

 出会ってまだ数時間だから仕方ないとは思うけど、そういう事は言わない方がいいのでは?

 

「それはありがとうございます。では治療師の元へ参りましょうか」

「もう行くの? どこにいるかわかるの?」

「大丈夫です。この時間なら治療室にいるでしょう」

 

 今は夕方。

 もう少しすれば子供は勉強や訓練を止める時間だ。

 治療師の訓練は大体の場合、治療室で行われる。

 今、治療室に行けばちょうど訓練が終わった頃に会えるはず。

 治療室は僕の部屋とは反対側にあるのでそれなりに時間が掛かるのだ。


「ふーん、それじゃあ行こうか」


 カエデと僕は新しい仲間を求めて治療室に向かう。

 



 治療室に着くと、予想通りちょうど訓練が終わったくらいだった。

 僕は大人が多いこの空間に数人いる子供の中から、目的の少女を探す。

 青色の髪のロング、身長は低め。

 あまり特徴的とは言えないけど、元々子供は少ないから見つけるのは簡単だ。

 入り口と反対側の壁に寄り掛かって座っているのが見えたので近づいていく。

 

「やぁ、アドア、久しぶりだね」

「あ、ロア様。お久しぶりです。この前けがをされた時以来でしょうか」


 話しかけたのが僕だと気が付いたアドアは、訓練で疲れているようでゆっくりとこちらに顔を向ける。

 アドアは僕を様付けで呼ぶ上に敬語を使う。

 アドアの親も僕を蔑んだりしない、むしろ良くしてもらっている。

 僕の事を王子として接してくれる人は城には少ない。

 アドアとその家族は僕の少ない味方なのだ。

 だから僕はアドアとは仲良くなれたし、こういう時に頼み事ができる関係になれた。


「今日はどうされたんですか?」

「ちょっと話があって来たんだ。それも結構大事な話」


 アドアは大事な話と聞いて顔を強張らせる。

 僕としてはアドアがパーティーに入ってくれたら安心する。

 アドアは僕がけがをした時にいつも治してもらっているから、実力は知っているし、知り合いが近くにいると精神的に楽だ。


「まずはこちらの方の紹介をしようか。アドアはまだ知らないと思うけど、こちらは今日召喚された勇者様だ」

「私は奈倉楓! よろしくね、アドアちゃん」

「わわっ! ご挨拶が遅れてすいません! 私はアドア・ファズィです。お城で治療師になるための訓練をしている者です」


 アドアは慌てた様子でペコペコと頭を下げている。

 カエデが召喚されたのは今日の事だから知らないのが当然だと思うけどなぁ。

 アドアは真面目で良い子だ。

 そんなアドアならパーティーに入ってくれるはず。


「それで僕はカエデ様と冒険に出る事になったのだけど、まだ僕達二人しかメンバーが決まっていないんだ。そこでアドアには治療師としてカエデ様のパーティーに入って欲しい」

「何でそんな事になってるんですか……」

「それは、まぁ、色々とあったんだよ」


 アドアは説明をして欲しそうだったけど、面倒だったので省略する。

 大事なのはパーティーに入るか入らないかだけだ。

 

「私としてはロア様とカエデ様の力になりたいです。でも本当に私でいいんですか? もっと優秀な治療師がここにはいます。お二人の安全を考えるなら、そちらの方がいいのではないでしょうか」

「アドアも十分優秀じゃないか。いつもけがを治してもらってる僕が言うのだから間違いない。それに知らない人に自分の体を任せる気にはならないからね」


 僕が思うにアドアは自分に自信が無さ過ぎる。

 アドアの実力は僕以外の人も評価しているのに、アドアはそれをお世辞と捉えている。

 もっと自分の力に自信を持てばいいのに。

 そういう性格だから仕方ないのだろうけど。


「僕はアドアがいい。アドア・ファズィに仲間になってもらいたいんだ」


 僕が王子として命令したらアドアはついてきてくれるだろうけど、強制はさせたくない。

 王様が僕にしたように、アドアに自分の意思で決めて欲しい。


「わ、わかりました! 不束者ですが、よろしくお願いします!」

「ありがとう! こちらこそよろしく!」

「私からもよろしくね! 頼りにしてるよ!」


 これで一先ずパーティーは決まった。

 他のメンバーは必要だと思った時に探すとしよう。

 

「じゃあ、アドアは今から冒険の準備をしておいて。あとおじさんとおばさんにはちゃんと説明しておきなよ」

「説明できる程、詳しく説明されていないんですが……」

「あー、そうか。まぁ、おじさんとおばさんも王様から後で説明されるだろうからいいのかな。説明しようにも僕も冒険に出る、としか聞いてないから」

「わかりました。そう伝えておきます」


 これは王様に詳しい説明を受けた方がよさそうだな。

 とりあえず今から王様の所へ行こう。


「それじゃあ……いえ、それではアドア、カエデ様――」

「あ、そういえばロア君にお願いしたいことがあるんだった。全然関係ない事だけどいい?」

「いいですよ。何でしょうか?」


 カエデが僕の別れのあいさつを遮る。

 何だろう。

 特に何か失敗をした覚えはないし、紳士な態度で接してきたはずだ。

 気が付かない内に何か言われるようなことをやってしまったのだろうか。


「私をカエデ様って呼ぶのと、敬語を使うの止めない? アドアちゃんと話す時みたいな感じで私とも話してよ」

「……それは何故ですか?」

「私が敬語で話されるのに慣れてないから。それにその方がロア君が楽そうだから。敬語で話してるときより、アドアちゃんと話してるときの方が生き生きしてたよ」

 

それは多分そうなんだろう。

 僕が敬語で話さなくてもいい人なんてかなり限られているけど、やっぱり敬語で話すときよりも楽だ。

 おそらく大半の人も僕と同じだと思う。


「僕はそれでもいいのですが、紳士な態度で接しろという国の指示がありますので」


 するとカエデがムッとした表情になる。


「そんな固いこと言わないで子供らしくしてもいいんじゃない? 周りに私達以外いない時だけでもいいからさ。これから長い付き合いになりそうだし、気を使わない方がいいでしょ」


 城の外にいる間だけっていうのはいい考えだなぁ。

 敬語を使わない方がお互いにとっていいなら、そうするべきだろう。

 

「わかりまし――いや、わかった。でも誰かがいる時は今までと同じように話すから」

「うん! やっぱりその話し方の方が子供らしいよ」


 そういう訳で僕はカエデに普通に話してもよくなった。


「それじゃあ、2人共、また明日!」



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