寿命
「魔法の天才に……?」
「そうよ。あたしは生まれつき魔法を使うことに関しては他の人よりうまかったの。もちろん努力もしたわ。でも今のあたしの強さは才能があってこそのものよ」
ヴェイルさんは少し悲しそうな顔になる。
もしかしたら昔、才能のことで誰かに嫌味でも言われていたのかもしれない。
「おそらくそのあたしの魔法を扱う才能がロアちゃんにうつったわ。だから急に体力が増えたんだと思う。あたしは他の人より体力が付きやすかったし」
魔法を扱う才能……
今まで聞いた話だと、体力が増える、体力が付きやすくなる、魔法を使うのがうまくなる、というのが僕にうつったらしい。
ヴェイルさんは申し訳無さそうに言うけど、僕にとっては好都合だ。
修行もしないで一気に強くなれた。
本来なら長い時間を掛けて少しずつ身に付くものが一瞬で手に入った。
それは少しでも早く強くなりたい僕にはちょうどいい。
「それっていいことじゃないんですか?」
「…………それがね、あたしはその才能のせいで普通の人より寿命が短いって言われているわ。だからつまり……」
「……僕の寿命も短くなったってことですか?」
ヴェイルさんは首を縦に振る。
「あたしの体は魔法を使うことに特化してるから、健康な体を保つために必要なものまで魔法を使うために機能してるらしいわ。だからあたしは体が人より弱いの」
その体の性質が僕にもうつったから僕も寿命が短くなった、ということか。
ヴェイルさんを見る限り明らかに体が弱いということはないから、日常生活に影響が出る程ではないのだろう。
「短いって言っても若いうちに死んでしまう訳ではないわ。でもあたしが生きられるのはあと20年くらいよ」
ヴェイルさんは見た感じ20代前半。
そのヴェイルさんがあと20年しか生きれないと言っている。
僕だとあと30年くらいか。
「ロアちゃんがそのくらいしか生きられないかどうかはわからないわ。あたしの場合は生まれついてのものだから。でもそういう覚悟はしておいて欲しいの」
「…………」
人はいきなり自分の寿命が短くなったと言われたらどうするだろう?
僕は前と変わらないままだと思う。
慌てたって何も変わらない、それなら今まで通りの生活を続ける。
それに今回に関してはただ寿命を減らしたわけではない。
寿命と引き換えに力を手に入れたのだ。
力は僕が今、一番求めていたもの。
それが手に入ったなら寿命くらいは魔女に捧げたっていい。
「ヴェイルさん、僕はこれで良かったと思っています。例え命を削ってでも力が欲しいので」
「……そう。ならいいわ」
言葉とは裏腹に表情は全然良さそうじゃない。
何だかんだ言って僕の心配をしてくれるヴェイルさんはやっぱり優しい。
そうでなくとも甥っ子の寿命を減らせてしまったら責任を感じるのかもしれない。
でも僕は気休めではなく本当にこれで良かったと思っている。
だからヴェイルさんが気にすることなんて何もない。
「例えこうなるってわかっていても僕は魔女魔法を教えてもらったと思います。もしもお儀式の時に正しいやり方を知っていても、あのやり方でやってもらったと思います。だからヴェイルさんが責任を感じる必要はありません。まぁ、それでも気にしてしまうなら、僕が早く強くなれるように手伝ってください。それで僕は満足ですから」
「……わかったわ。あたしの全力を尽くしてロアちゃんを強くしてあげる」
まだ暗い顔のヴェイルさんだけど、一応は納得したみたいだ。
これでこの話は終わり、という意味を込めて僕は咳払いを1つする。
そして続けて話を始める。
「ヴェイルさん、昼からは何をするんですか?」
僕としては他愛もない話を選んだつもりだったのだけど、ヴェイルさんは真剣な表情で考え出した。
全力を尽くすって言った以上、元々考えていた方法よりもいい方法を考えないといけないと思っているのかもしれない。
僕としては元々考えていたであろう方法で十分なんだけど。
「よし、昼からはロアちゃんは魔女魔法の使い方、アドアちゃんは魔法の種類を増やす修行をするわよ」
ヴェイルさんの言葉を聞いて、アドアの顔が明るくなる。
そんなに走るのが嫌なのか……
それともさっきの寿命の話で暗くなった空気を明るくしようと、わざと大きく反応しているのかもしれない。
アドアはそういう気配りができる子だ。
「アドア、嬉しそうだね。そんなに走るのが嫌なの?」
「はい。もう朝だけでくたくたです……」
笑いながらそう言うアドアは、やっぱり僕が思っていたように気を使っているみたいだ。
「じゃあ、アドアちゃんは昼からも走ってもらおうかしら?」
「絶対に嫌です!」
ヴェイルさんもアドアが笑っているのを見て少し元気になったみたいだ。
いつものようにアドアをからかって面白そうに笑っている。
「2人ともご飯は食べ終わったみたいですし、そろそろ始めます?」
「そうね。午後の修行を始めましょう」




