勇者の仲間
「さて、何をしようかな」
カエデを王の所に届け終わったから、この後は完全に自由。
兵士としての正しい行動は武器の手入れか体を休める事で、子供として正しい行動は友達と遊ぶ事かな。
友達と遊ぶっていっても僕の友達なんて数える程しかいない。
そんな数少ない友達の誰かと遊ぶのもいいとは思う。
でも僕の友達はみんな結構忙しい。
大体が城の中で知り合った人で、城で働いている人の子供とか孫とかだ。
そういった人達は親の仕事を受け継ぐため、小さい頃から魔法の勉強、そして訓練をやっている事が多い。
だから僕と友達が遊ぶ事なんてほとんどないし、偶然会った時に話をする程度の関係の人もかなりいる。
信頼できる仲の良い友達といったら、片手で十分数えられる。
つまり僕に遊ぶという選択肢はないのだ。
「やっぱり部屋で休むのが無難だね」
自分でも自覚しているのだけど、僕は独り言が多い。
1人でいる事が多かった事が原因だと思う。
1人がさみしいとは感じないけど、1人ぼっちは暇だから自然と言葉を発したくなる。
「まぁ、別に気にしないけど」
僕は与えられている城の一室へ向かって歩き出す。
ご丁寧な事に僕の部屋は城の一番端にあって、移動するのが一番大変な所だ。
しかも陽の光はほとんど入ってこないし、風通しも悪い、最悪の部屋なのだ。
「僕がいなかったら、この部屋は誰が使ってるんだろう? やっぱり下っ端兵士かな?」
そんな事どうでもいいけど。
僕はできるだけ城の人に会わないようにしながら部屋に急ぐ。
「そういえば、カエデは今頃何してるかな?」
こうやって暇な時にいつも何かを考えようとするのもぼっちの反動だと思う。
おそらく今、カエデは仲間になる兵士と顔合わせをしているだろう。
カエデはこれから強くなるために冒険に出かけたり、訓練したりすることになる。
そしてそれについていく仲間は、当然カエデを守れるくらい強くないといけない。
この世界に来たばかりのカエデに、1人で仲間集めさせるとは考えられない。
だから兵士の中で強い人をカエデの仲間として護衛させるのだろう。
「普通に考えたら部隊の隊長とか騎士団の団長とかだよね」
安全な場所でモンスター狩りをするなら、隊長程の強さがなくても大丈夫だとは思うけど、国はカエデを傷つける訳にはいかない。
だから過剰な強さの兵士を仲間にさせると思う。
何人くらいのパーティーを組むのだろう?
この辺りにはそんなに強いモンスターはいないから、あんまり大人数ではないはず。
戦士一人、騎士二人、治療師一人、といった感じかな。
勇者は万能だと何かの本に書いてあったのを見た事があるから、カエデもそうなのだろう。
戦闘においてパーティーのバランスは大事だし、勇者のパーティ―はカエデを中心としたものに編成されていると思う。
カエデはバランスがいいパーティーよりも、顔のいいパーティーの方が嬉しいだろうけどね。
「やっと着いた……」
この部屋で生活をするようになってから数年経った今でも思うけど、この部屋は城のよく使う施設のどこに行くにも遠い。
とんでもなく不便な部屋だ。
まぁ、こんな部屋でも自分の部屋だから大事に使っている。
部屋の周りだってちゃんと定期的に掃除をしている。
他の部屋に比べて少し綺麗なドアを見て優越感を得るのが僕の日課だ。
「とりあえずご飯まで寝ようかな」
まだ昼にも関わらず薄暗いこの部屋は昼寝をするには最適だ。
夜のご飯まではまだかなり時間があるから、ゆっくり寝られる。
今日は結構がんばったし、すぐに寝付ける気がする。
「おやすみ……」
誰もいない部屋に向かって声を掛けて、僕は眠りについた。
「ロアくーん! 起きてー!」
耳元で大きな声が聞こえてきて僕は目を覚ます。
寝てからどれくらい経ったのかはわからないけど、まだ外から光が入ってきているからまだ昼だとは思う。
「何してるんですか? カエデ様」
目を開けると僕の隣にはもう関わらないだろうと思っていたカエデがいた。
何故か少し不機嫌そうだ。
「ねぇ、私の仲間になってよ」
「……は?」
それから話を聞いた所、カエデは僕と別れた後、王様と少しだけ話をして、僕が思っていた通り仲間候補と顔合わせをしたらしい。
そして仲間候補と話をしたり、城の見学をしたりして、最後に仲間を四人まで選んで欲しいと言われたそうだ。
そこでカエデは
「ロア・ノーブル君がいいです!」
と言ったらしい。
その後、周りの仲間候補がごちゃごちゃ言ってきたけど、それを無視して走って逃げて僕の部屋まで来た。
僕は悪い意味で有名だから、城の人に聞いたらすぐにわかったそうだ。
そして僕は大声で起こされた、ということらしい。
……理解不能。
「何でそんな事言ったんですか!? 候補から選べばよかったではないですか!」
「えー、あの人達は嫌かなー」
実際に見た訳ではないけど、国が選んだ兵士だ。
嫌われるようなおかしい言動をするような人ではないのだろう。
「何でですか?」
「髪が派手すぎてヤンキーみたい。ロア君の髪は綺麗な黒色だから好きだよ」
確かにこの世界の人の髪は色鮮やかだ。
黒とか白とかの人はそういない。
僕の場合は親の魔女の血の方が濃いようで、魔女特有の真っ黒の髪だ。
「そんな理由で……」
「他にもあるよ。みんな妙に恰好つけて近づいてきて、ナルシストみたいで気持ち悪かったとか」
仲間候補達はカエデに気に入られようとがんばったんだろうな。
それを気持ち悪がられているのだけど。
国としてこの状況はどうなのだろう。
このまま僕がカエデの仲間になったとしたら、そのまま冒険のパーティーになるのかな?
「あ、そういえば、出て行く前に王様が後でロア君と一緒に来いって言ってたよ」
どういう事だろう。
怒られるのか、認められるのかのどっちかだと思われる。
どちらにしても、呼ばれているなら行かないといけない。
「では行きましょうか、王の所へ」
僕とカエデが病室に入ると、ざわついていた兵士が静かになった。
ざわついていたのは仲間候補の人達だろう。
「王様。ロア・ノーブル、ただ今、参りました」
「ご苦労であった。さて、カエデ殿から話は聞いているだろうと思う。ロア、お主はカエデ殿と冒険をしたいか? この国の中ならお主でも十分にカエデ殿を守れるだろう。お主が望むなら、冒険に出る事を許可しよう」
あいさつもそこそこに、王様からカエデと冒険に出てもいいと言われる。
これは意外だ。
僕の好きなようにしてもいい、なんて今まで言われた事がなかったのに。
でもどうしようか、僕としてはどっちでもいいのだけど。
僕は周りを見てみる。
カエデは僕についてきて欲しいと言っていた。
王様は僕の判断に任せると言った。
仲間候補達はすごい顔で僕を睨みつけている。
この状況で僕はどうするべきだろうか……
よし、決めた。
「王様、僕はカエデ様と共に冒険がしたいです。そしてカエデ様を命を懸けて守る事を約束します」
僕は今まで下に見てきた兵士達の嫌がる顔がみたいのだ。
自分がやるはずだった仕事を取られて、王様の前だから態度には出していないけど、内心では悔しがっていたり、怒ったりしていたりしているだろう。
そんな様子が見る事ができて僕は幸せです。
「そうか。ではロア・ノーブルに命ずる! カエデ殿を護衛し、カエデ殿を鍛え上げるのだ! 資金は国から出す。必要な人や物があれば、自分で用意して冒険に出るといい」
「王様! こんな奴に大切な勇者様を任せる訳にはいきません! その任務、私がやります!」
王様が正式に命令をすればもう反抗は出来ない。
まだ言い直せる今、1人の兵士が王様に自分を推していく。
「私はあなたよりロア君がいいなー」
「――ということだ。私は元よりカエデ殿の言葉まで無視するのか?」
「くっ!」
何だか今日は周りが僕の味方だ。
とりあえず僕は余計な事を言わないように静かにしておこう。
そのせいで何か起こってしまってらいけないしね。
「じゃあ、ロア君、行こうよ!」
カエデは僕の手を引いて走り出す。
その様子を元仲間候補達が恨めしそうな目でみている。
今日は面倒な日だと思っていたけど、案外いい日かもしれない。