修行開始
「あ、ロア様にヴェイルさん! 2人してどこに行ってたんですかっ?」
お墓参りを済ませてヴェイルさんの家に帰ると、アドアがもう起きていた。
一応、散歩に出るという書き置きは残しておいたけど、ヴェイルさんと一緒に帰ってきたから気になっているみたいだ。
「アドアちゃんには秘密。ロアちゃんも言っちゃダメよ」
「了解です」
僕達が行っていたのはお母さんのお墓。
ヴェイルさんはその場所を誰にも知られたくないから、例えアドアでも教えることは出来ないということだろう。
でもそんな言い方だとアドアが納得しないと思う。
「何でダメなんですか? 2人で何をしてたんですか?」
ほんのり赤い顔でアドアは話している。
それが怒っているからじゃなくて、何か想像して恥ずかしくなっているからだというのはそれなりに長い付き合いの僕ならわかることだ。
「アドアが想像しているようなことはないよ。ただちょっと親戚としての話があってね。それを散歩がてらに話していただけ」
「え? あ、そうですか。ならいいです」
僕の言葉を聞いてアドアはスッと普通の状態に戻る。
少しは冷静になったみたいだ。
「アドアちゃんの扱い方をちゃんと理解してるのね」
「まぁ、長い付き合いなので」
ヴェイルさんが小声で話し掛けてくるから僕も小声で返事をする。
アドアとは会うことはそんなに多くはなかったけど、出会ったのはかなり前だ。
確か3年くらい前に初めて会ったんだっけ?
「そんなに長く付き合ってたの? 知らなかったわ。また今度アドアちゃんの親に報告しておかないといけないわね」
「僕の付き合いとヴェイルさんの付き合いが違う意味な気がするんですけど……」
「そんなの気にしないでいいわ」
「気にしますよ!」
ヴェイルさんがマイペース過ぎて、つい大きい声を出してしまった。
アドアは不思議そうにこっちを見ている。
もうこの話は止めよう……
「そろそろ朝ご飯にしましょうか。僕が作りますので」
そして僕達はおいしい朝ご飯を食べた。
おいしいというのは自画自賛している訳ではなくて、ヴェイルさんが言ってくれたのだ。
「さてご飯も食べたし、そろそろ修行を始めるわよ」
何故か上機嫌なヴェイルさんと一緒に僕とアドアは林の中を進む。
進むと言っても家からほんの数分の場所に着くまでのことだ。
そこは丸型の広場のようなものだった。
2人が魔法を使うには十分な広さがある。
「さぁ、まず最初は体力を増やすためにここで毎日走ってもらうわ」
「わかりました」
「えっ、何でですか!?」
ヴェイルさんの指示に疑問を持ったのはアドアだ。
僕は何で走らないといけないか、がわかっているからだ。
「アドア、ヴェイルさんが言っていることは正しい。魔法は体力を使って発動させるものだから、魔法の種類を増やすだけだと意味がないんだ」
アドアはともかく僕は体力の消費が激しい魔女魔法を使うから、人並み以上の体力は絶対に必要だ。
それにアドアは防御と回復の魔法を使う。
その2つは戦いの中で場合によっては何回も使うことになるから、体力を付けておいて損はない。
「体力を付ける方法はたくさんあるけど、一番単純なのは走ることよ。それにあたしが体力を回復させる魔法を掛けてあげるから、きっと効率もいいはずだわ」
ヴェイルさんが補足して説明をしてくれる。
「うぅー、わかりました。走ります……」
アドアは嫌そうな声で納得した。
僕は兵士だった時に訓練としてこういうことをやってきているから何とも思わない。
でもアドアは治療師として城にいたから、魔法の訓練しかしていないのかもしれない。
それか体を動かさずに体力を付ける方法をやっていたかだ。
さっきヴェイルさんが言ったように体力を付ける方法はたくさんある。
「じゃあ、取りあえず今から倒れる限界まで走ってちょうだい」
こうして僕とアドアの修行の日々が幕を上げた。




