お墓
「ふぅ、よく寝た」
久しぶりにベッドで寝たからいつもよりよく寝れた気がする。
それでもアドアより早く起きたみたいだ。
アドアはまだ同じ部屋の反対側にあるベッドで寝ているのが見える。
そんなに広い部屋ではないから、寝顔までばっちり見えてしまう。
昨日のことを思い出してしまって顔が赤くなるのがわかる。
あの後ヴェイルさんが気を利かせたつもりで、僕と同じベッドで寝るようにアドアに仕向けたけど、アドアはそれを真っ赤になって断った。
その結果、同じ部屋のベッドで寝るということになったのだ。
ちなみにヴェイルさんは2階にある自分の部屋で寝たそうだ。
この部屋はお姉ちゃん、つまり僕の母が使っていた部屋らしい。
今まで掃除しかしていなかったから、物は使っていた時のままだと言っていた。
もちろん、そんな部屋で寝てもいいのかを聞いたけど、息子に使われるなら本望だと思うと言って使わせてくれた。
そう言われてアドアは他の部屋で寝ると言ったけど、ヴェイルさんが息子の彼女に使われるなら本望だと思うとか言うものだから、アドアが赤い顔を更に赤くしたのは言うまでもない。
その後、色々と言い合った結果、結局アドアはこの部屋で寝た。
「ちょっと外に出てみようかな」
窓から眩しいくらい光が入ってきているから、もう今は朝だろう。
昨日は色々あって、林の中は少ししか見れていない。
アドアが起きるまで外の様子でも見てみよう。
何か面白いものが見つかるかもしれない。
それに当てのない散歩が小さい時から好きなのだ。
僕はヴェイルさんが起こしに来てくれた時とアドアが起きた時のために書置きを残して外に行く。
外は昨日と変わらない林の中。
僕はその林の中をフラフラとさまよう。
さまようと言ってもちゃんと道は覚えているのでいつでも帰ることは出来る。
林の中は青々とした葉っぱが木に付いていて空気が爽やかな気分になる。
僕はそんないい気分でフラフラとし続ける。
数分くらい歩いたかな? 時間感覚が狂ってしまうくらいにボーっとしてしまっていた。
歩いていると少し開けた場所に辿り着いた。
そこにはお墓らしきものとヴェイルさんがいた。
「……ロアちゃん!?」
僕に気が付いたヴェイルさんが驚いた声を上げる。
散歩をしてたら偶然会ったってだけなのに驚きすぎじゃない?
「ヴェイルさん、おはようございます」
「おはよう、ロアちゃん。どうしてここに?」
「散歩ですけど……」
「そう」
この様子だとこの場所に僕が来るとは思っていなかったみたいだ。
多分ここにあるお墓は母のものだろう。
処刑された後の死体は国の死体置き場に捨てられると聞いたことがあるから、そこから盗み出してここに埋葬したんだと思う。
「ここにはあたし以外に誰も近づけないように、他の場所よりも強い結界が張ってあったんだけどね……。本人が結界を破ったことを意識してないってことは、お姉ちゃんが自分の子供に会いたくて手助けしたのかしら?」
僕の考えている通り、ここは母のお墓みたいだ。
ヴェイルさんが言ったように僕は結界を破った覚えなんて無い。
ただフラフラと散歩をしていたらこの場所に着いたのだ。
「ここは母のお墓なんですね……」
「そうよ。例えあたしが死のうと人が来れないような結界を張ってるから安心していいわ。まぁ、たった今、ロアちゃんがここにいるから説得力はないかもしれないわね」
「そんなことはないですよ」
きっと母が僕をここまで導いたんだ、と何故かはわからないけどそう思う。
そう思いたいだけかもしれない。
母に愛されていたと聞いて、今でも愛されていると思いたいからかもしれない。
僕は母のお墓の前に行き、目を閉じる。
僕は幽霊の存在を信じている訳ではない。
現在の魔法学では幽霊の存在を証明することはできていないからだ。
でも今だけはここに母の幽霊がいて欲しいと思う。
会ったこともない母に僕のことを少しでも知ってもらいたい。
僕は母がそこにいると信じて心の中で話し始める。
お母さん、って呼べばいいのかな? 初めて呼ぶからよくわからないけど、取りあえずそう呼ぶことにします。
妹のヴェイルさんから色々と聴きました。
僕はお母さんとヴェイルさんの約束を知った上で魔女魔法を教えてもらいました。
僕には今、力が必要です。
大切な仲間であるカエデを国から奪うために、そしてカエデを元の世界に帰すために、国に負けない力が欲しいです。
だからお母さんの言ったことを守ることはできませんでした。
でも心配はしないでください。
僕はお母さんが心配しないといけないような弱い人間にはなりません。
僕には仲間と友達がいます。
どんなことが起きようとみんなと何とかするので大丈夫です。
だから安心してください。
これからも定期的にお墓参り来るから、そこで僕の元気な姿を見てください。
……最後に、お母さん、僕を愛してくれてありがとう。
話し終わると同時に僕の体に何か入ってきた気がした。
それはとても大きく、温かく、愛に満ちている、そんな感じがするものだった。
僕はそれを噛みしめながら目を開ける。
「お母さんとの話は終わったかしら?」
「はい」
ここにはまた来よう。
ヴェイルさんは結界を張っていると言ったけど、きっと来ることが出来る……気がする。
「じゃあ、帰るわよ。修行を始めるわ」
「はい!」
お母さん、またね。




