始まり
「何で2人共そんなに顔が真っ赤なの? ……あ、そういうことね」
ヴェイルさんは質問しておきながら自分で勝手に納得する。
おそらく辿り着いた答えは間違っている。
「知り合いの家でイチャイチャするなんてやるじゃない」
「違いますから!」
否定してもニヤニヤしながら僕とアドアを見てくる。
アドアはまだ顔が赤いから説得力は無いのかもしれない。
ホントに違うんだけど、この様子だと誤解を解くのは難しそうだ。
「まぁ、甲斐甲斐しく看病してくれた女の子に優しくしたくなるのは当然だわ。それにアドアちゃんはかわいいものね」
確かに看病してもらったから優しくしたいとは思うし、アドアがかわいいのも納得は出来る。
でもそれとイチャイチャするのは関係ない。
「この様子だとキスくらいはしたのかしら?」
「してません!」
僕とアドアの顔が真っ赤だったからそう思ったのだろうけど、甘いね。
僕もアドアも純粋なのだ。
「その様子だと体はもう大丈夫みたいね。良かったわ」
未だにニヤニヤしているけど、もう気にしないことにしよう。
まぁ、ヴェイルさんにも心配を掛けたみたいだから、本人の好きなように思わせておきてあげよう。
「おかげ様で体が痛いですけどね」
気にしないと言っても、少し皮肉めいた言い方になってしまったのは仕方がない。
本当のことだしね。
「え、ロア様、体を痛めているんですか?」
アドアが久しぶりにしゃべった。
あ、そういえばアドアには体も気分も大丈夫だって言ったんだっけ?
もうかなり昔のことのように思える。
「冗談だよ。僕は全然大丈夫」
「ならいいんですけど……」
アドアに嘘をつきたくないけど、もう一回嘘をついてしまったから後戻りは出来ない。
このくらいの痛みなら十分耐えられるから、本当に大丈夫というのもあるけど。
「青春してるわね~。相手がいるって羨ましいわ」
相変わらずニヤニヤしながらヴェイルさんは僕達を見ている。
多分だけど僕の嘘がばれているのだろう。
ヴェイルさんには全て見透かされている気がする。
これが歳もとい経験の差かな?
「だからそういうのじゃありません」
「はいはい、付き合う前の人はみんなそう言うのよ」
ダメだ、僕の言葉なんか耳に届いていない。
気にしたら負けだと思って無視するしかない。
「あ、話は変わるけど、魔導書は確認してみた?」
本当に急に話が変わった。
さっきまでとは違って結構真面目な話だ。
「いいえ、まだですけど」
「一応確認しておいた方がいいわよ。もしかしたら儀式が失敗してるかもしれないし」
ヴェイルさんはもうニヤニヤしていなくて真剣な顔だ。
本人もそんなことはないとは思っているだろうけど、まぁ、念の為だ。
僕はベッドの隣に置いてあった自分の魔導書を手に取る。
そこには戦士魔法の続きにちゃんと魔女魔法のページができていた。
「えーっと、自分の姿を変える魔法『ディスガイズ』、相手に幻覚を見せる魔法『ファントム』、この2つが今でも使える魔法です」
「儀式はちゃんと成功してたみたいね」
その言い方だと失敗していてもおかしくない感じがする。
まぁ、成功していたんだからいいけど。
それにしても……
「男でも魔女魔法なんですね」
今まで他の言い方がわからないから魔女魔法って言ってたけど、男が使う時は名前が変わるものだと思っていた。
男なのに魔女って……
「そりゃそうでしょ。あたしのお父さんも魔女魔法って言ってたわ」
これから僕は魔女って呼ばれるようになるのか……
何かいい呼び名は無いのかな?
「ロア様、私は魔女でもカッコいいと思いますよ」
アドアが気を使って言ってくれているけど、間違ってもカッコいいはずはない。
気を使わせる程に僕はがっかりしている顔をしていたのか。
「呼び方なんてどうでもいいじゃない。それよりもう寝なさい。まだ夜中だし、体はまだ疲れているだろうから。アドアちゃんもちゃんと寝た方がいいわ。明日から2人の修行始めるんだから万全の体調にしておきなさいよ」
「え? 修行?」
そんな話は一度も言っていないし、聞いてもいない。
修行というのは僕とアドアが強くなれるように指導してくれるのだろう。
それは僕にとって嬉しい話だ。
「嫌ならいいわよ。別に強制するつもりはないわ」
「やります! やらせてください!」
「じゃあ、早く寝なさい。明日から疲れるわよ」
「はい!」
僕は強くなる。
この国の誰よりも強くなってみせる。




