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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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魔女の血

「…………」

「魔女魔法は教えられないわ。ロアちゃんのお母さん、あたしのお姉ちゃんの最期のお願いなんだから」


 僕は母に愛されていた。

 僕が生まれたことは誰にも望まれていなかったと今まで思っていたけど、案外そうではなかったみたいだ。

 僕を愛してくれた母の最期の願い、出来ることなら叶えてあげたい。

 それでも僕は……


「ヴェイルさん、やっぱり魔女魔法を教えてください」

「……さっきの話を聞いても考えは変わらない?」

「母のことは正直嬉しかったです。僕は今まで愛されていないと思っていたので。でも僕は今を大切にしたい。今、一緒にいてくれる仲間を守れるように強くなりたい!」


 母は僕のことを心配していたから、ヴェイルさんにあんなお願いをした。

 でも僕は母に心配されるような弱い人間にはならない。

 心配する必要がないくらい強い人間になってみせる。

 だから今は母の言うことには従わない。

 ちょっと早めの反抗期というやつだ。

 もし天国があるのならそこでいくらでも謝るから許してください。


「わかったわ。あたしも今のロアちゃんには魔女魔法を教えるべきだと思うし、お姉ちゃんは昔から心配症だったからね。お姉ちゃんの言うことなんて当てにならないわ」


 ヴェイルさんが続けて小さな声で「ゴメンね、お姉ちゃん」と言っていたのが聞こえた。

 やっぱりお姉ちゃんが大好きで約束を破るのは嫌だったみたいだ。

 本当に申し訳ないと思う。


「詳しいことは帰ってから話すわ。魔女魔法『ワープ』」


 本日二回目の瞬間移動でヴェイルさんの家まで帰ってきた僕達はさっきの話の続きを始める。

 魔女魔法についての話だ。


「さっきは魔女魔法を諦めてもらうために戦士魔法をどうするのかを聞いたけど、本当はどうもしなくていいの。魔女魔法は全て魔法を制する原始の魔法。つまり魔女魔法はどんな魔法でも習得できるのよ」


 もうどんなに魔女魔法が強くても何とも思わない。

 魔女魔法が異常な強さを持っているのは今までの出来事でわかっていたことだ。


「つまり魔女魔法と戦士魔法の両立は可能なんですか?」

「そうよ。ちなみにあたしは魔女魔法の他に医療師魔法と魔術師魔法が使えるわ」


 そうか、だからジトンの魔境で『ワイドハイヒール』を使えたんだ。

 それなら僕も色々な魔法を習得しておきたい。

 自分で何でも出来るようになれるならその方がいいに決まってる。


「あ、でも習得できる魔法の数には限りがあるみたい。あたしは3つだけど、お姉ちゃんは2つしか習得出来なかったし」


 ふむふむ、さすがに全部1人でやるのは無理か。

 取りあえずは戦士魔法と魔女魔法だけにしておこう。

 回復はアドアがいるし、遠距離はカエデがいる。


「あ、あと魔女魔法のリスクについて教えておくわ。リスクは2つ。まぁ、わかっていることだとは思うけど、1つ目は使っている所を国に見つかれば死刑になること」


 もちろんそれはわかっている。

 母が王様の子供を産むより前から魔女は嫌われていたらしい。

 この国の人にとって魔女は忌み嫌うもので、魔女は国から迫害を受けてきた。

 だからヴェイルさんは誰にも見つからないようにこんな林の中で生活しているのだろう。


「2つ目は体力の消耗が他の魔法よりもかなり激しいこと。あたしは天才だから何十回でも使えるけど、今のロアちゃんだと数回くらいしか使えないと思うわ」

「何でわかるんですか?」

「ロアちゃん達が冒険してる間、ずっと見てたって言ったじゃない。その時の戦いを見た感じで何となくわかるものなのよ」


 そういうものなのかなぁ。

少なくとも僕は他人の戦いを見ただけで総体力がわかったりはしない。

 こういうことが出来るのを含めて魔法の天才なのかな?


「儀式はどんなことをするんですか?」


 リスクについての話で何も言わなかったということは、失敗したら反動がくる類のものではないみたいだ。

 今まで触れてもいないことから、難しいという訳でもなさそうだ。


「あぁ、儀式ね。魔女魔法の儀式は簡単よ。一定以上の魔女の体液を体内に入れる、つまりはあたしの血を飲めばいいの」


 ヴェイルさんはとんでもないことをサラッと言う。

 そんなの常識人なら絶対に断る。

 ていうか、他人の血を体に入れたら拒否反応があるとかどこかで聞いた気がする。

 これはリスクの1つにはならないのだろうか。


「……それって大丈夫なんですか?」

「う~ん、あたしは両親とも魔女魔法の使い手で生まれたときから使えたから、儀式はやってないんだよね」

「絶対大丈夫じゃないですよね!?」


 本当にこれで合っているんだろうか。

 僕は違う気しかしない。


「まぁまぁ、やってみればわかるわよ」


 僕の返事を待たずにヴェイルさんはどこからか出したナイフで手首を切る。


「えっ! ちょっと!」

「ほらほら早く! 早く終わらせてくれないとあたしが失血死しちゃうわよ」


 それなら急に始めないで欲しい。

 僕はヴェイルさんを殺すわけにもいかないので、結構な勢いで垂れている血の源泉である手首に口を付ける。

 そして流れてくる血を飲む。


「あっ」


 ヴェイルさんが艶めかしい声を上げているけど、僕にそんなことを気にする余裕は無い。

 初めて口にする血の味に気分が悪くなってきたところだ。

 ――数十秒くらい血を飲み続けたころ、僕の体が光り始めた。

 これは儀式が成功した証拠。

 僕は即座に手首から口を離す。

 アドアにヴェイルさんの傷を治すように言おうとしたその時、僕は気を失った。


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