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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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魔女魔法

 ヴェイルさんはジトンの魔境でクマを一瞬で倒した魔女だった。

 つまり僕達を救ってくれた命の恩人だ。


「あの時は本当にありがとうございました!」


 今更だけどあの時のお礼を言う。

 助けてもらった直後は混乱していてお礼も言えてなかったから気にしていたのだ。


「いやいや、お礼は言わないでいいわよ。アドアちゃんの親に頼まれてたことだから」

「どういうことですか?」

「私も昨日聞いたことなんですけど、私のお母さんがヴェイルさんに私達の護衛を頼んでいたそうです。子供だけで冒険なんて危ないからって」

「そういうこと。アドアちゃん達が夜中にもうろつくから、あたしも結構大変だったんだから」


 つまり僕達はヴェイルさんにずっと見守られていたということだ。

 確かにクマの時はタイミングが良かった。

 僕達がもうどうすることも出来ない、そんな時に偶然助けが来るなんて都合が良すぎる。

 

「僕はヴェイルさんにたくさん助けてもらっていたみたいですね。本当にありがとうございます。でも何で僕のことを助けてくれるんですか?」


 僕を助けても良いことは特に無いと思う。

 もしも僕が権力を持っていたならそれが目当てになるだろうけど、僕に権力が無いことなんてこの国にいる人なら大体が知っていることだ。


「理由は色々とあるけど、一番の理由はアドアちゃんのためかな。あたしはアドアちゃんの親に恩があるのよ。それを返すためにもあの2人はもちろん、娘のアドアちゃんを助けるって決めてるの」

「アドアのためなら今回は何で僕を牢屋から出す手伝いをしたんですか?」


 アドアが僕を助けたいと言ってくれたとしても、アドアの安全を考えるなら止めるべきだと思う。

 今回はうまくいったから良かったけど、例え透明化のマントがあっても危険だ。

 移動中、人にぶつかってしまえば気づかれてしまうし、風でマントがめくれる可能性だってある。


「それはアドアちゃんにはロアちゃんが必要だからよ。だってアドアちゃんは――」

「ち、違います! 昨日も言いましたけど、尊敬してるからです!」

「まだ何も言ってじゃない」


 よくわからないけど、アドアのおかげで僕は助かったみたいだ。


「あ、ロアちゃんを助けた理由は他にもあるわよ。一番の理由がこれってだけで。例えば、ロアちゃんの親のこととか、新しい国王のこととか」


 僕の親のことと言えば、母親が魔女ということ。

 もしかして母のことを知っているのだろうか。

 まぁ、知ったところで今の状況が変わる訳でもないから聞かなくてもいいかな。


「まぁ、ありがとうございました。……あの、僕はこれからどうしたらいいと思います?」

「あら? お母さんのこととか聞きたくないの?」


 やっぱり僕の思っていた通り親のことというのは母のことだったみたいだ。

 でも僕には特に聞きたいことが無い。


「別に大丈夫です」

「……そう」


 ヴェイルさんは明らかに残念そうな様子だ。

 何故かはわからないけど、僕の母のことを話したかったみたいだ。

 母とはどういう関係だったんだろう?

 ヴェイルさんはすぐにさっきまでと同じ表情に戻った。


「えーっと、ロアちゃんがこれからどうしたらいいか、だっけ? それは自分でもわかっているんじゃないの?」


 ヴェイルさんは何で聞くのか不思議そうに首を傾ける。

 ヴェイルさんの言う通り、僕がどうするべきなのかはわかっている、というか1つしか無い。


「国が僕のことを諦めるまでこの林の中で過ごす」

「そうね、あたしもそれが一番だと思うわ」


 この林の中の方が他の場所に逃げるよりもよっぽど良い。

 ここには人避けの結界が張られているから一般人に見つかることはほとんどないし、国の兵士達もこんなに城の近くにいるとは思わないだろう。

 でも問題なのは……


「もしかしてあたしに遠慮してる?」


 僕は首を縦に振る。

 僕の消息が完全に絶てば、兵士達は近くの森や洞窟を適当に探すようになると思う。

 そしてこの林に兵士が来てしまった時、ヴェイルさんなら倒すのも簡単だろう。

 でも、もし1人でも逃がしてしまったらヴェイルさんはこの林にはいられなくなる。

 そんなことになってしまったら本当に申し訳ない。


「子供が遠慮なんてしなくていいわよ。それにもうたくさん苦労掛けられてるから今更だし」

「いや、でも――」

「ちょっと待って、この話は後でね」


 ヴェイルさんは誰もいない方向をジッと見つめる。

 そして少しの間、目を閉じる。


「誰か来たわ。ちょうどいい、2人共おいで」


 結界に何か反応でもあったのか、見てもいないのに確信しているようだ。

 誰かが来たということは、僕とアドアがここに来るまでに誰かに見つかってしまっていたということだ。

 一体どこで……あ、町を出た所か。

 そういえばマントを脱いだから普通に見つかる可能性があるんだった。

 あの時はドキドキし過ぎて頭が回ってなかった。


「まぁ、おいでって言ってもあたしが勝手に連れていくんだけどね。魔女魔法『ワープ』!」

「え?」


 部屋の中が映っていた視界が一瞬で切り替わる。

 そこは林の中、そして兵士が10人程歩いていた。

 でもすぐに驚いた顔で足を止め、武器を抜いた。


「どうも兵士の皆さん、こんにちは。取りあえず大人しくなってもらうわね。魔女魔法『バインド』!」


 ヴェイルさんの体から黒い鎖のようなものが兵士と同じ数だけ出てくる。

 その鎖は一本ずつに意思があるかのように動きながら兵士に向かっていく。

 僕と同じくまだ状況が把握できていない兵士達はその鎖に捕えられる。

 ヴェイルさん以外のこの場にいる全員が呆然としている。


「よし、じゃあ、魔女魔法『マインド』!」


 ヴェイルさんはそんな僕達を気にすることなく、次の魔法を唱える。

 次の瞬間、兵士達は鎖で縛られているまま林の外に体を向ける。

 そして誰も何も言わず、抵抗もしないまま林の外に向かって歩き出す。

 僕とアドアは何も言えずにその光景を見ていた。


「これでよしっと。どう? すごいでしょ?」

「何をしたんですか?」


 正直あっという間のことでほとんど理解できなかった。

 気づいたら目の前に兵士がいて、ヴェイルさんが2回魔法を唱えただけでその兵士達はいなくなっていた。


「まぁ、詳しくは言わないけど、あの兵士達にはこの林には誰もいなかったし、何もなかったっていう記憶を植え付けておいたから安心していいわよ」


 簡単なことのように言っているけど、やったのはとんでもないことだ。

 魔女魔法は強すぎる。


「…………あの、1つお願いをしてもいいですか?」

「あたしに出来ることならいいわよ」

「僕に魔女魔法を教えてください」


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