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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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魔女

「魔女に……?」

「はい、今回のことはその人に手伝ってもらいました。ロア様の味方です」


 僕を安心させるためか、僕の目を見つめたまま話す。

 でも近くで見つめ合うのが恥ずかしくなったのか、言い終わるとすぐに視線を離す。

 そんなことをしなくてもアドアの言うことなら信じたのに。


「わかった。取りあえずその人に会ってみよう。アドアの知り合いなら僕も信じれる」


 僕は魔女に対して特に差別意識は無い。

 むしろ魔境で魔女に助けてもらったから好意を持っている。

 まぁ、魔女も一応は職業だからそれだけでは判断は出来ないけど。


「その人の家は城下町の近くにありますからこのまま歩いて行きましょう」


 王様の件もあって魔女は王国の人のほとんどに嫌われている。

 だから前までこの国にはいないのだと思っていた。

 もしいたとしても、城から離れた田舎や魔境のような場所でひっそりと暮らしていると思っていた。

 でもアドアによるとその魔女は城下町の近く、歩いて行ける距離に住んでいるらしい。

 そんな所でどうやって国に見つからないように生活しているんだろう?


「このまま……ね」


 アドアに聞こえないくらいの小さい声で呟く。

 城を出ても町に兵士がいる可能性が高いから、透明化のマントを被っておくのは当然だ。

 アドアもそれをわかっているから言ったのだと思うけど、このままというのはお互いの体を密着させたままということだ。

 今の段階でも心臓の鼓動がいつもの倍速なのに、僕は魔女の家に着くまで耐えられるのだろうか。



 結果としてアドアの方が先に折れた。

 町を出てすぐの所で真っ赤な顔でもう限界だと言ってマントを脱いだ。

 純粋なアドアには男と長時間密着させるのは難易度が高かったらしい。

 まぁ、僕にとってもだけど。


「別にロア様とくっつくのが嫌だったという訳ではないんです! むしろもっと長く抱き締められていたかったのですけど、私にはまだ早かったみたいです……」


 アドアが混乱しておかしなことを言っているけど気にしない。

 僕もおかしなことを言ってしまいそうな気分だから。

 自分では子供にしては大人な心を持っていると思っていたけど、この様子だと僕もまだまだ子供だったみたいだ。


「アドア、そろそろ先に進もう」


 中々正気に戻らないアドアに声を掛ける。

 アドアは真っ赤な顔のまま頷き、僕の先を歩き始める。

 僕は目的地を知らないからどのくらいで着くのかわからない。

 そんな僕の考えを読み取ったかのようにアドアは言う。


「もう少しで着きますよ。あと十分くらいでしょうか」


 それから十分と少し歩いた所には小さな森があった。

 アドアはその森に向かって歩いていく。

 見た感じ家があるようには見えない。

 それに何だか嫌な感じがする。

 魔境で強いモンスターに会う前のような、何となく避けたくなるような気分だ。


「あそこに魔女がいるの?」

「はい。ロア様も感じるとは思いますが、あの林は人避けの結界になっています。人間が本能的に避けたくなるようになっているらしいです。あの林に用事でもない限り人は近づかないそうです」


 そんなことが出来るのか……

 魔女というのは僕が思っている以上にすごいみたいだ。

 まず小さいとはいえ、城と同じくらい大きい森の全体を覆っていることがすごい。

 そして更にそれをずっと保っていることがすごい。

 一体どれ程の力があればそんなことが出来るんだろうか。


「では行きましょう。あの人も待っているでしょうから」


 アドアは結界が張られているという森の中へと入っていく。

 見た目はただの森だ。

 でも進むごとに嫌な感じが強くなっていくのがわかる。

 なるほど、これなら人が近づかないのも納得だ。


 歩き始めて数分、小さな山小屋のようなものが見えてきた。


「ロア様、あそこです」

「あそこに魔女が……」


 どんな人何だろう?

 僕の味方だとアドアは言うけど、何で僕の味方をしてくれるんだろう?

 色々なことを考えながら山小屋の前に立つ。

 当然、先に入るのは知り合いであるアドアだ。


「ヴェイルさん、ロア様を連れてきました。入りますよ」

「あら? 結構早かったね。入っていいわよ」


 ん? この声どこかで聞いたことがある気がする。

 ヴェイルという魔女の返事を聞いてアドアはドアを開く。

 そこにいたのは真っ黒のマントで身を包んだ美女がいた。

 魔女特有の黒の髪に黒の瞳、でも肌は透き通るように白い。

 声を聞いた時は僕も知っている人かとも思ったけど、それは違ったみたいだ。

 今までこんなきれいな人に会ったことは一度もない。

 僕はあいさつすることもせずにヴェイルさんのことを見つめる。


「ヴェイルさん! 何か魔法を使いましたね!」


 アドアが慌てたように声を上げる。

 魔法? アドアは何を言っているんだろう?


「ばれたかー、あたしの魔法を見破るなんて成長したじゃない」

「いえ、ロア様の様子がおかしかったからそう思っただけです」


 魔法を使われている? 僕の様子がおかしい? そんなことはない。

 僕は至って正常だ。


「どういうことなんですか?」

「ゴメンね。ちょっとからかってみたくて、『チャーム』使っちゃった。『チャーム』は相手を自分の虜にする魔法、ロアちゃんがあたしから目が離せないのはそのせいよ」

「えっ、でも僕は魔法に掛かっている感じが全然無いんですが……」

「あたしの魔法は普通の魔法とは違うのよ。使われていることに気づかせもしない精神系の魔法、魔女魔法なんだから。すごいでしょ?」


 使われていることを気づかせないってすご過ぎない?

 どんな相手に何でも出来るってことなのだから。


「アドアちゃんから聞いてるとは思うけど、あたしは魔女。魔法に関しては天才なの。あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。あたしはヴェイル・ルーナー、さっきも言ったけど魔女をやってるわ」


 そう言われれば僕はまだ自己紹介もあいさつもお礼もしていない。

 ちょっと遅くなったけど、そういうのはちゃんとやっておかないとね。


「初めまして僕はロア・ノーブル。一応グリーム王国の第二王子をやっています。今回は助けていただいてありがとうございました」

「う~ん、初めましてじゃないんだよね。『チャーム』のせいでわからないのかしら?」


 そう言うとヴェイルさんは一度指を鳴らす。

 その瞬間、ヴェイルさんが放っていた目が離せない程の魅力が弱くなった。

 もちろん美女なのは変わらないけど、さっきまでのように釘づけになることはない。

 ん? ヴェイルさんってどこかで見たような……


「あ! ジトンの魔境で会った魔女!」

「そうよ、これからよろしくね、ロアちゃん」


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