王子(仮)
「ねぇねぇ、ロア君って王子様なんでしょ? もし王様が死んじゃったら新しい王様になるの? あ、ロア君は第二王子なんだったっけ? それならやっぱり第一王子の人が王様になるのかな?」
「カエデ様、ここは城内なのでそのような事を大声で言わないでください」
僕とカエデは王様の所、つまり病室に行くために城の長い廊下を話しながら歩いている。
この会話をまだカエデが勇者だと知らない人が聞いたらどう思うだろう。
最悪の場合、問答無用で襲ってくる可能性があるかな。
僕の権力なんてないのと同じ、あってもそこらの兵士と同じくらいだから、僕も一緒に襲われるんだろうなー。
まぁ、幸いにも、今は廊下には誰もいない。
勇者を一目見ようと隠れている人とかがいるかもしれないけど。
「誰もいないからいいんじゃないの? それでロア君は王様になれそうなの?」
……この人、勇者として大丈夫なのかな。
突然の状況に混乱しないのはいいけど、少し落ち着き過ぎてない?
僕が言うことではないけど、危機感とか持った方がいいと思う。
「僕には王になる権限がありません。王子というのは肩書きだけであって、実際にはただの兵士ですから」
「ん? どういう事?」
「僕は王の子ではあっても、王妃様の子供ではありません。それに側室の子でもない。……僕は魔女と王の子なのです。この国で魔女は嫌われる存在。その子供となれば疎まれるのは当然でしょう」
僕は魔女の子、だからこの国の人は僕の事を良い目で見ない。
表立って何かしてくる人は少ないけど、影で何て言われているのかはよく知っている。
一番悪いのは、魔女の誘惑に負けた王様だと思うけど、国民は王様には何も言わない。
王様は王妃様にきつい罰を受けて、それで許されたらしい。
僕は全くもって納得いかないのだけど。
「そんなに小さいのに大変な人生送ってるんだね」
「別に生まれてからずっと変わらない生活を送っているので何とも思いませんよ」
本当に何とも思わないわけではないけど、ある程度は受け入れている。
これから僕の親が変わることは無い。
だからこれも運命だと思って生きていくことにしている。
「そろそろ王の所に着きますよ。着きましたらそこに王直属の兵士がいると思うのでその人の指示に従ってください」
「えっ、ロア君は一緒に来ないの?」
「僕の役目は王の所へカエデ様を届ける事ですので」
そう、だからやっと僕の仕事が終わるのだ。
この後は何も予定が入ってないので、久々にゆっくりできる。
町に出て買い物でもしようかな。
「えー、私、さみしいなー。ロア君と行きたいなー」
「それは僕の仕事ではないのでお断りします。王の所にいる兵士は顔がいいですからそれで満足してください」
せっかくの僕の休みを削らせてたまるか。
見たところカエデは十六歳から十八歳だと思う。
この年頃は女性の人生の中でも特に男が好きな時だと聞いたことがあるから、顔のいい男がいるとわかったら喜んで行くはず。
「うーん、まぁ、仕事なら仕方ないよね。イケメン兵士さんで我慢しようかな」
何を我慢なのかはわからないけど、僕の休みは無事守られたみたいだ。
そして話しながら歩いている内に、目的地である病室に到着した。
病室の前には王直属の兵士が待っている。
僕はその前に行き、片膝をつく。
「こちらが召喚された勇者、カエデ様です」
「ご苦労。お前はもう帰っていいぞ」
「わかりました。失礼します」
物理的にも精神的にも上から物を言われるのは、いつもの事だから特に気にはしない。
言葉に従ってさっさと帰るとしよう。
サッと立ち上がって早足で帰ろうとする。
「ロア君、ありがとね! これからもよろしく!」
カエデは笑顔で手を振っている。
兵士の人はこっちをジッと見つめて――いや睨んでいる。
この場合どうするのが正解なんだろう。
カエデとしては返事が欲しいだろうけど、兵士の人としては勇者と僕が仲良くなって欲しくないのだと思う。
勇者と仲良くなる事で僕の地位が上がってしまうとでも思っているのかな?
まぁ、実際はそんな事ないと思うけれど。
「こちらこそ楽しい時間をありがとうございました。これからもよろしくお願いしますね」
僕は兵士の人に睨まれながら、兵士の人が嫌がる事をしてやった。
いつも偉そうにされているから小さな嫌がらせだ。
案の定、兵士の人は僕をより一層睨んできた。
勇者に対しては紳士的な態度で接しろって王様に言われていたから、別にこの行動は間違っている訳ではない。
紳士は淑女の言葉を無視して帰るようなやつではないのだ。
「では、改めまして失礼します」
「勇者様、こちらへ。王が待っております」
ついに無視されてしまった。
まぁ、僕としては会話が減るから嬉しいね。
病室へ入る兵士の人に向かって舌を出す。
やっておいて自分でも子供だなぁと思う行動だけど、実際に僕はまだ子供なんだし仕方ないのかな、とか思っていたらカエデに見られていた。
カエデは微笑ましい光景を見たとばかりに優しい笑顔で手を振ってきた。
少しイラッときたので僕は無視して歩き出す。
僕が勇者と関わることはもうこれでないかな。