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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
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再決意

「元の世界に戻るには力を付けるしかない。城の誰よりも強くなって、力づくで言うことを聞かせる。それしかない」

「…………」


 カエデは何かを考えるように下を向く。

 僕はこれからどうするべきだろう。

 もちろんカエデが力を付ける手伝いはするつもりだ。

 でもその具体的な方法が見つからない。

 早く強くなる一番の方法はこのまま魔境に籠ること。

 魔境のモンスターを倒していけば、魔境以外のモンスターを倒すよりも早く強くなれる。

 でもさっきのように僕達よりも強いモンスターに出会ったとき、今回のような結果になるかもしれない。

 最善を尽くすつもりだけど、また助かるとは限らない。

 多分、安全を優先するなら城にいる方がいい。

 城に戻れば僕よりも強い兵士や騎士の護衛と一緒に安全な冒険が出来るはずだ。

 強くなるのに時間は掛かるだろうけど、安全な方がカエデのためになる。

 カエデは僕と一緒にいるべきじゃない。


「カエデ、君は城に――」

「決めた!」


 カエデは僕の言葉を遮って声を上げる。


「私、ロア君と一緒にいるよ。このまま一緒に冒険を続ける」

「…………」


 カエデの瞳を見つめる。

 そこには迷いは無かった。

 でも僕はそれを認めるわけにはいかない。


「僕と一緒に冒険をしたら、またさっきみたいなことになるかもしれないよ? 城に戻った方が絶対に安全だ」

「わかってるよ。それでも私はロア君と一緒にいたい」

「それは何で?」


 僕と冒険を続けても良いことはあまり無い。

 何より危険過ぎる。


「さっきも言ったけど、私はこの世界の人は人工的なものだと思ってたの。それは城で兵士の人と話をしたときに、私に対して同じような口調で同じような返事の仕方をするから。私の行動に合わせてくるから」


 それは王様に勇者は丁重に扱えと言われているからだろう。

 城にいる人は礼儀作法を学んでいるはずだから、全員が同じような行動をするのもおかしくはない。


「でもロア君は違った。他の人と違って人間味があったの。一番多く話してるのがロア君だからっていうのもあるだろうけど、それでも私はロア君といると安心する。だから私はロア君と一緒にいたい」


 僕は礼儀作法なんて習っていない。

 最低限のことは本を読んで知ったけど、カエデの相手をした兵士のように完璧なものではないと思う。

 だからカエデは僕に人間味を感じたのだろう。


「僕と一緒だと危険だよ?」

「うん」

「今までみたいに楽しい冒険にはならないかもしれないよ?」

「うん」

「死ぬかもしれないよ?」

「……わかってる」


 カエデの決意は固いみたいだ。

 ちゃんと考えて出した答えなら、僕には何も言うことは出来ない。


「でも、次はロア君が守ってくれるんでしょ?」


 カエデは元気に笑う。

 僕はさっきカエデを守れなかった。

 カエデのことを守ると約束した。

 カエデの期待に応えるためにがんばろうと決めていた。

 それなのに守れなかった。

 僕の決意は軽かったのだ。

 そんな僕がカエデを守れるのかはわからない。

 でも僕はこれから間違いたくない。

 ここでカエデの気持ちに答えないことは正しいのか、そんなことあるはずない。

 だから僕は決意を固めるためにもう一回言うのだ。


「ロア・ノーブルはカエデ様を命を懸けて守ることを約束します。……次こそは絶対に守ってみせるよ」


 最初、形式的な誓い方をしていたのだけど、カエデはこういう言い方が機械みたいで嫌だとさっき言っていたのを思い出して言葉を加えた。

 それがよかったのか、カエデは満足そうに笑う。


「うん、頼りにしてるよ、王子様」


 僕はカエデのためにがんばる。

 前にも決めたことだけど、もう一回決意する。

 カエデとアドアを守るために僕は強くなる。

 もう絶対に選択を間違えない。


「……あのー、そろそろ起きてもいいでしょうか」


 僕とカエデのすぐ傍から声が聞こえる。

 もちろんアドアだ。

 言い方から察するにもっと前には起きていたみたいだ。


「いつから起きてた?」

「起きたのはちょっと前なんですけど、声を掛けづらかったので黙ってました」


 起きたのがちょっと前なら、アドアが気絶した後に何があったのかを説明しないといけないね。

 おそらくそのときは起きていなかったから。

 

僕はこれまでのこと、これからのことをアドアに話した。

そしてアドアにもカエデと同じことを言う。


「僕達と一緒に冒険を続けても危険だし、アドアは冒険を続ける理由も無い。僕から誘っておいて申し訳ないけど、アドアは城に帰るべきだ」

「……それは私が足手纏いということですか?」


 アドアは泣きそうな目で僕を見つめる。


「そんなことはない!」


 アドアは回復役として十分に役立っている。

 夜の特訓のときにアドアがいなかったら、僕は傷だらけになっていただろう。


「それなら私はついていきます。私はロア様とカエデ様のことが好きなので! それに私のことも守ってくれるんですよね?」


 アドアもカエデと同じで揺らぐことはないみたいだ。

 なら僕が出来ることは1つ、僕はアドアを真っ直ぐ見つめて言う。


「絶対に守る。もうアドアを傷つけさせないよ」


 嬉しそうに笑うアドアの頭を撫でる。

 その僕の頭をカエデが撫でる。

 周りから見たらとても不思議な光景だろう。

 だけど悪い気は全くしない。

 むしろ今、いい気分だ。


「じゃあ、これからのことをみんなで話し合おう。僕だけで考えても間違えるからね」


 僕達は3人でこれからのことを考える。

 もう誰も傷つけさせないために。



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