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戦いのゴング

あーもうっ! あーもうっ!

オレはこんなキャラじゃねぇぞ! 今回だけだ。そう自分に言い聞かせて部屋を出る。肩を震わせて少しずつ歩くソラリスの背中は、まだ近くにあった。呼び止めるつもりではないが、声をかけてみる。

「……負けたらどうなるの?」

「電子の海に還ります」

ソラリスは背中を向けたまま言った。電子の海か、つまり人間で言うあの世的な場所なのか。そりゃ怖いだろうな。


仕方ない。

「わかったよ、今回だけ一緒に戦ってあげますよ。ただ、オレも戦ったことがないし、負けても文句言わないでくださいよ。」

「ほ、本当ですか!」

振り向いたソラリスは嬉しそうな顔だ。オレはソラリスの笑顔を無視して階段を下りる。

「ありがとうございます! やっぱり大生さんの言った通りの人ですね! わたし、凄く嬉しいです!」

兄貴の言った通り? 兄貴がオレをどんな風に評価しているのか気になるところだが今はそんな場合じゃない。ヤマピーをかなり待たせている。あんな恥ずかしい状態で長時間放置なんて、オレなら舌を噛みきりたくなる程だ。

「さっさと終わらせましょう。オレは勉強しなくちゃいけない」

我が家は階段のすぐ下に玄関がある。階段を降りきる前に不満気なヤマピーの顔が見えた。

「遅い。遅すぎるぞ! 」

「ゴメン、ゴメン。で、悪いけどオレ初めてなんだよね。少し教えてよ」

「問答無用! 初心者のふりで誤魔化そうとしたってそうはいかない。行け!ユダ!」

長い時間キャラを維持できたのは誉めよう。けど、人を信じるのも大切だと言いたい。

とか考える暇もなく、ユダがソラリス目指してランスを構えて突進してきた。ソラリスはまだ玄関の中。攻撃するには玄関に入ってくるしかない。場所が分かれば避けるのはそう難しくない。

「玄関の影に入って足払いしましょう。転けた所を馬乗りでボコって終わりで」

とりあえずこんなものだろう。ルールなんてわからんが、武器の使用有りで勝手にスタートするのでOKなら馬乗りも許されるはずだ。

「……吉人さん、足払いってなんですか?」

とりあえず影に隠れたソラリスが困った顔で聞いてきた。そうか、そのレベルか。

オレが返事をしようとしたタイミングでユダが玄関から凄いスピードで入って、すぐそばの階段にランスを突き立てる。狭い玄関の中で戦いの幕が開いた。

「とりあえず避けて避けて、避けまくってください。相手の攻撃スピードを見極めましょう」

ソラリスに指示しておいてオレは他の事を考える。この戦いについてだ。ヤマピーの様子を見ると、格闘ゲームのように自分がキャラを操作する訳ではないらしい。ということはボクシングの試合のように、自分のキャラが選手で、自分はトレーナーといったところか。ならさっきのオレの判断は間違っていなかったようだ。そしてこの結論から導くことができる考えがある。ソラリスは何のトレーニングも受けていないただのポンコツだということだ。

ユダは階段の壁からランスを抜き振り返る。

「ユダ! 蜂の巣にしてしまえ!」

ヤマピーが叫ぶとユダは静かに頷きランスを構える。先にはソラリスが青い顔をしていた。果たしてほんとに避けられるだろうか。

「大丈夫。相手の動きをみて左右に横とびしてたら大丈夫ですから」

「ほ、ほほ本当ですか!? 」

もちろん嘘だ。

ただ、今のソラリスは玄関の壁を背にして立っている。一撃目を避けさえすれば再びランスが壁に刺さり動きを止められるだろう。

「藻屑となれ」

ユダが初めて口を開き攻撃を繰り出した。遅くはないが、速くもない。避けてくださいとでも言ってるような動き。避けることしか考えてなければ余裕でカウンターがとれる。だがソラリスはその攻撃を間一髪しゃがみこんで回避した。

「……まぁ結果オーライです。チャンスだからこっちも攻撃しましょう。武器とかありますか?」

オレはソラリスの能力の低さに呆れながらもちゃんと指示を出す。

「武器はありません。しいて言うなら拳です!」

ソラリスはしゃがみこんだ状態から四つん這いで犬のようにオレの所まで逃げてきた。ユダの動きは遅く、ゆっくりランスを玄関の壁から抜くとこちらに視線を合わせた。

コイツ余裕って感じだな。

「ユダ! なにをしている!さっさと片付けろ!」

ヤマピーが吠える。しかしユダは聞く耳を持たず、静かにランスを構えた。


コイツら連携がとれていない。

まぁそれはオレらにも言えることだが。

「……攻撃を掻い潜って殴るしかないですね。ーー出来ます?」

「わたし、人を殴ったことなんてありません!」

「なら諦めて電子の海に還るしかありませんね。お疲れ様でした」

「やります! ボッコボコにしてやります!」

ユダが三度目の攻撃を仕掛けてくる。闘志に火が着いたソラリスは今度はランスを横っ飛びで回避すると着地した足で地面を蹴り、ユダの懐まで一歩で間合いを詰め、甲冑で守られているボディに拳を打ち放った。そこはがら空きの顔面に打ってほしかったが仕方ない。

ゴーンと鈍い音が響き、ユダは少しよろめき後ろに下がった。なんだかんだ先制攻撃が成功したがダメージは見られない。むしろ、

「イッッッタあぁいっ!?」

ソラリスは自分の左手を抱えるようにうずくまり叫んだ。華麗なフットワークをみせた時はイケると思ったがやはり武器がないと厳しい。

「……ユダ。アーマー解除。アビリティ発動! やつらがこれ以上成長する前に終わらせるぞ」

ヤマピーがユダに指示する。アビリティってなんだ?

ユダは構えを解き、直立するとランスを胸の前に立てる。さっきまでの空気が一転、ユダの周りが薄暗くなり全身を包む甲冑が重力に従いずり落ちると、小振りな胸をさらしで巻いた綺麗な白い肌が現れた。

ソラリスも空気が変わるのを感じ取り立ち上がる。茶番は終了。本当の闘いが始まる。


『ミラージュランス』

ユダはさっきまでの重そうな動作とは打って代わり、軽やかにランスを構えると先程の攻撃とは格段に違うスピードでソラリスにランスを突き立てた。

奇妙な光景がオレの前に広がっていた。運がいいのか悪いのか、ソラリスは反射的にランスを回避したはずだった。だがソラリスの肩にはランスが深々と突き刺さっている。

「……あぁぁぁッ!?」

ソラリスは肩を押さえランスを一心不乱に抜こうとする。その行為は傷口をえぐる形になってしまい、結果的にダメージを増やしていた。

ユダはランスを押さえているソラリスの手を乱暴に振り払うと再び構える。

歯を食いしばって痛みを我慢するソラリスを横目にオレはユダのその姿に注目していた。

ランスを構えてる方の腕に肘が無い。無くなった肘から二本の腕とランスが生えている。腕が肘から二又になっていると言った方が分かりやすいかもしれない。

「……どうします?」

口を開いたのはソラリスの方だった。そりゃこっちのセリフだ。肩を押さえている手の指の間から生々しく血が留めなく溢れる。傷はかなり深く見えた。動かなくなった右腕を庇いながら、素人がどうしたら武器を持った奴に勝てるだろうか。

「撤退はありですか?」

ソラリスは長い黒髪を左右に振った。闘志はまだ消えてないらしい。凄い。

だがヤル気だけでどうにかなるものでもない。

足りない頭で考える。

どうする?


どうする?


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