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日常に異状発生

 黒髪スレンダー巨乳。大きな目をウルウル潤ませてる顔は美人というよりは可愛い方だろうか。てか、嫌ならやめればいいのに……ってそんな話じゃない。なぜオレの部屋にリボン装備(防御力ゼロ)の女の子がいる!?


「ど、どなたですか!?」


 すぐさま目を伏せて訪ねる。……コレまた綺麗なおみ足な事で。


「あの、私、大生さんから弟さんにサプライズしたいからって頼まれて、それでさっきまで待ってたんですけど、なかなか気が付いてもらえなくて、それで、それで……」


「とりあえず服着てもらえませんかね?」


「あの、私もそうしたいのはやまやまなんですけど……服着させてもらえませんか?」


 何を言ってるんだこの人は。自分で着ればいいじゃないか。変態か、変態さんなのか?


「簡単な操作なので早くお願いします! 凄く恥ずかしいんです!」


 操作? ああ、なるほど。そうか、そういう事か。クソ兄貴め。



「とりあえず、ダイブをシャットダウンすればいいですかね?」


「た、確かにそうすれば見られなくて済みますけど、それではわたしが困ります! 早くお願いします!」


「そんなこと言われてもオレ、ダイブ使ったことないし、わからないですよ」


「なら、まず人差し指で左から右に線を引いてください! それでロック解除されます。それから……」


 操作方法の説明を受けながらなんとか服を着させることに成功した。三十分はかかったが、その間わかったこともある。この女の子、電子ペットの『ソラリス』はクソ兄貴からの入学祝いのドッキリで、しかもただの電子ペットじゃない。あるゲームのオリジナルキャラクターだということだ。兄貴が勝手に登録してそのままオレに渡したんだと。で、ソラリスの着替えが終わったが、なんだそれ。


「ビキニアーマーです! はぁ落ち着く」


 うっとり安心した顔されても困る。卑猥さはさっきまでのリボンと変わらないじゃないか。


「そうですか。では削除させてもらいますね」


「やめてください! なんで? なんでですか!?」


 ソラリスが腕にしがみついてくる。もちろん感覚は無い。しかし、嫌でも目につく、この谷間。確かに削除するのは惜しいかもしれない。


「それはこっちのセリフですよ。なんで削除したらダメなんですか?」


「わかってるんですか? 削除というのは私達、電子空間の人間にとっては殺されることと同義なんですよ! 嫌に決まってます!」


 なぜオレは電子ペットに怒られなければならないのだろう。確かにソラリスから見たら殺されるようなものかもしれないが、人間ありきの電子ペットじゃないか。しかも自分のことを人間って言うことが面白い。自我でも持ってるのか?


「でもですね、別にオレは電子ペットなんていらないし、アナタは兄貴のイタズラに利用されただけの存在じゃないですか。オレにどうしろと? 」


「私のマスターになって、一緒に戦ってください!」


「嫌です。他をあたってください」


 突然だが、オレの夢は公務員だ。そのために日々勉強しないといけない。ダイブだのゲームだの部活だの恋愛だの青春だの下らないことで勉強時間を奪われるのは勘弁していただきたい。


「ちょっ、ちょっと! なんでですか?」


「オレは将来楽して生きるために今の時間を勉強に当てたい。遊んでる暇なんて無いんです」


「でも、きっと将来『あの時、もっと遊んでたらよかったなぁ~』って思いますよ! 青春を無駄にしちゃもったいないですよ!」


「だいたいの人が『あの時ちゃんと勉強してればなぁ』って思っていますよ。んじゃオレはこれから勉強するので切りますね」


 削除はしないでおこう。何だか削除したらオレが悪者になってしまいそうな雰囲気だし。さてさて、まずは宿題を……


「待ってください! 今近くに敵の反応がありました。……来るっ!」


 いったい何が来るというのか。無視してノートを探そう。まずは得意な数学からやってモチベーションを上げよう。最後に英語を、と考えてたら玄関のインターフォンが鳴った。まったく、だいたい人がヤル気になると邪魔してくる奴っているよな。今この家にはオレしかいない。仕方ない、宅急便とかなら受け取ってやるよ。

 オレは挙動不審なソラリスを避けて玄関の覗き窓から外を見てみた。これは予想外。近所の中学生、山下君ではないか。小さい頃は近所のよしみで遊んでやったものだがどうしたのだろうか。まぁ予想はできるが。


「ヤマピー久し振りだね。また家のカギ忘れたのかい?」


 玄関を開けて営業スマイルで対応する。ちょうど良かった、我が家にソラリスという遊び相手がいる。相手をしてもらおう。


「いえ、違います。今日はお兄さんと戦いに来ました。」


 おおぅ予想外だ。そうか、ヤマピーももう中学生だ。厨二病的なものにかかってもしょうがない。整った顔立ちにまだ慣れていないスタイリング、剃りすぎた眉毛。素材がいいのにもったいない。人間って成長するものだな、と関心していたのと動揺でオレが返事できないでいると、ヤマピーから驚きの言葉が出た。


「蒼天舞い降り、翼拡げ大地震わせ! こいっ! 『+漆黒の叫び+』(ユダ)」


 いや、ダッセー! 聞いてるこっちが恥ずかしくなる。なにそのかけ声? 精一杯カッコいい単語並べました感ハンパねぇ。そして出てきた真っ白な聖騎士風なキャラ。ぜんぜん漆黒じゃないし。


「で、貴方のキャラはどこだ。我輩のユダで捻り潰してやろうぞ」


 なんかスイッチ入ったな。さっきまでお兄さんと言ってたよね? にしても凄いな。まるで本当に騎士が側にいるみたいなリアルさがある。『ダイブ』、これはハマるわけだ。


「ま、まぁお茶でもどう? 玄関で話すのもなんだしさ」


「ごたくは結構。早く貴殿のキャラを出すがいい」


 キャラぶれぶれだなコイツ。なんとか丸め込むつもりだったが無理っぽいな。


「……んじゃ呼んでくるから、ちょっと待ってて」


 玄関を閉めてため息をひとつ。なにが何だかわからない。ただひとつ分かるのはクソ面倒なことに巻き込まれかけているということだ。二階に上がり、自分の部屋のドアを開けると、怯えた表情で体を丸めているソラリスがいた。どういうつもりか分からないが来客のことを伝えよう。

 

「なんか戦いに来てるけど、なんとかしてくれない? 恥ずかしい状態で今放置かましてるから早く行ってあげてよ」


「……わたし、戦ったことがないんです。お願いです。一緒に戦ってくれませんか?」


そんな目で見つめないでくれ。オレはさっさと勉強がしたいだけなんだ。ここは心を鬼にするしかない。


「なんども言うけど、オレには関係のない話です。巻き込まないでください」


 少しの沈黙の後、ソラリスは立ち上がり部屋を出ていった。なんだかズルいなと後ろ髪を引かれた感覚ではあったがこれでいい。そう、これでいい。


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