高校生、立花吉人の日常
オレは自分を取り巻く全てが嫌いだ。
学校も嫌いだし、先生も嫌い。テレビドラマもタレントも嫌い。勉強も友達も嫌い。日本も嫌いで世界も嫌い。スポーツは観るのもするのも嫌い。お祭りみたいなイベント事も嫌いだ。音楽もエグ○エルも嫌いならA○Bなんてもっと嫌いだ。
美談や感動物も総じて嫌い。
そんな事を言うと人は、なら自分を変えればいいと言う。自分が変われば世界が変わる。自分を絶え間なく変化させ成長させればいいと。
ふざけるな。そう簡単に自分を変えるほどオレは安くない。
まぁ幼稚な考えだとは分かっている。だがコレがオレの本音だ。
教室の片隅で進路希望の用紙を見ながらそんなの事を考えていた。
進路か、進みたい路なんて検討もつかない。本音で考えるならニート希望だが、現実がそう甘くないのは高校生のオレでも知っている。
とりあえず潰しの効く理系を選択しておくのがベストだろう。
自分がいやになる。我ながら夢の無い人生だ。
教室を見渡すとみんな透明なサングラスをかけてお喋りを楽しんでいた。今流行りのヘッドマウントディスプレイ、『ダイブ』。拡張現実を見せてくれるこのデバイスの登場は瞬く間に世界に広がった。
拡張現実空間『ヘブンネット』はダイブを着けた者を異世界に連れて行く。体験型ネットワークの基軸を作り出した。
電子ペットを学校に持ち込んでも問題がないし、メールも通話も出来る。今やスマートフォンは時代遅れのアイテムとなってしまった。
まぁ、オレはバリバリのスマホユーザーだがな。
となると、どうなるか。オレは高校入学して二ヶ月の間、友達がいない。もちろん他の要因もあるだろうが、全てダイブのせいだ。だからオレはダイブも嫌いだ。
教室で浮かないレベルで眉毛を整えて申し分けない程度で髪にワックスをつける。
モブの中のモブ。なのにやっぱり友達はいない。
ホームルームが終わった。さっさと帰ろう。放課後に友達と遊ぶこともなく、部活に勤しむ訳でもない。こんな所からは早く逃げるべきだ。
ボーとしながら家路につく。夕焼けに光る通学路、レトロな感覚を覚える。
玄関を開けて無言で部屋に帰る。オレの心安らぐ場所は家ではなく、自分の部屋。部屋の前まで行ったら「ただいま」と誰もいない部屋に挨拶して入るのだが今日は少し違った。部屋のドアの前に小さな小包が置いてあった。何か頼んだ覚えはないが、とりあえず小包を拾いドアを開けて机に置く。椅子に腰かけたタイミングでメールの着信音が部屋に響いて焦る。普段メールなんてこないからマナーモードにするのを忘れていた。
メールの主はオレが苦手とする人物、我が愚兄『立花 大生』からだった。
(親愛なる愚弟、吉人へ
ダイブ 入学祝い。)
遅いし、本文短いし、別に欲しくないし。他にも色々突っ込みたい事満載だが、どうせ返信しても返ってこないことは分かりきってるのでメールは無視した。おそらくダイブの新作が出たからお古をくれたのだろう。安く済ませやがって、現金を渡せ現金を。 小包を開けると大量の緩衝材の中に黒いメガネケースが入っていた。何だか鼓動が早くなり顔が強ばる。恐る恐るケースを手に取ると予想よりも軽くて驚いた。出来る限り遠くからケースを開ける。なぜこんなにもオレがビビっているのかと言うと、昔ビックリ箱をプレゼントされたことがあるからだ。まだオレも小さかった頃の話だが、最初に浦島太郎の噺をしたあとにプレゼントをくれた事がある。開けてビックリ、ドライアイスの煙がモウモウと立ち込めパニックになった。それ以来プレゼントと言うものに警戒するようになったのだ。
ケースの中身は普通の、型落ちのダイブが入っていた。凝った装飾もない、兄貴にしては珍しい普通のプレゼントだった。目元全体を覆うタイプのサングラスのような形で、羽のように軽い。着けてみる。サイズもピッタリで視界も良好。まだ起動してはないが。
……起動した瞬間爆発とかしないだろうな?
フレームに手を当ててなぞると、あった。小さなスイッチが人差し指に当たり、ポーンと起動音が両耳に流れた。視界は相変わらず、起動してない状態と変わらない。
サプライズもなし。弱冠拍子抜けだ。まぁ兄貴も大人になったのだし、そんな幼稚な……
「……あ、……あの、……」
後ろから聞き取れるかギリギリの声量で女性の声が聞こえた、……気がした。んなアホな。
そうか、わかったぞ。アホ兄貴の電子ペットの鳴き声か、ならまだわかる。きっと削除し忘れたのだろう。仕方ない、消してやるか。そんな事を考え後ろをふりかえると予想を遥かに超えた光景が広がっていた。
「あ、あの、ご入学おめでとうございます!」
……まず、部屋に女の子が居たのもビビったし、裸体に赤いリボンで自分をデコレーションしてるのもワケわかんないし、てか、え、え?
え?