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非日常からはじまる日常  作者: 櫻木 あお
第1章 ぼくが女の子に!?
2/17

女の子になった日 1

 ある朝のこと、高城響花たかじょうきょうかは毎日家族の誰よりも早く起きて朝食を作っている愛してやまない弟の槙が起きて来ないのを心配(?)して、弟である槙の部屋の前に来ていた。

 そして、勢い良くドアを文字どおり蹴り開けて部屋の中に突入した。


「槙、朝だぞ、ご飯だ、おなかすいた」


 響花は木製のドアを文字通り蹴破り、近所迷惑を顧みずに大声でいった。


「姉さん……朝からうるさいです。あとドア壊さないでください。後でちゃんと直して置いてくださいよ」


 ぼくこと高城槙たかじょうまきはベットの上で上半身を起こした状態で目をこすりながらあくびをした。


「おお、起きてた? で、何で女になってんの?」


「うん? なに言ってるんですか、姉さん。寝言は寝ながら言うものですよ? 拾い食いでもしました?」


「なんか姉に対してひどい扱いを受けたような気が……って、そんなことはどうでもいいんだよ! いや、どうでもよくないけど!」


 ぎゃーぎゃーと朝から騒いでうるさいので仕方なく収拾にかかる

 まったくこんなんだから近所の人に「高城さん家いつもは朝から元気ねぇ」とか言われるんだ。


「ドウドウ、姉さん落ち着いて。はいすってー、すってー、はいてー」


「ヒッ、ヒッ、フーってちがーう!!」


 自分でマラーズ呼吸法やってからつっこむなんてさすがわが姉だとちょっと感心した。

 将来は芸能界入りも夢ではないかも。


「おお、素晴らしいノリツッコミ」


 パチパチと拍手を送っておく。


「ええい、口で説明するのも面倒くさい! ちょっとこっち来て!」


「ええ!?」


 腕をひっぱられて、ベットから降りて、床に足をつける、歩くといういつも考えずに行う動作に違和感があったけど、姉さんに手を引かれ、違和感の招待を確かめることも出来ないまま、されるがまま洗面所の姿見までついていった


「もう、いったい何ですか、朝から」


「いいから鏡見てみろ」


「見てみろっていつもと変わらないぼく……じゃない?」


 鏡に映っていたのはいわゆるお人形みたいといわれるようなかわいらしい女の子だった。

 腰まである長い髪、陶磁器のようなしみのない白い肌、パッチリとした目、すっとした鼻、ぷるんとした唇、なにより胸に自己主張するかのようなつつしまやかな二つのふくらみが―――。


「だれ?」


 鏡に写った女の子がちょこっと首をかしげる。

 次に右手を上げてみると鏡の女の子も右側の手を上げた。

 その次に左手を上げてみると鏡の女の子も左側の手を上げた。


「……ぼくか!?」


 鏡に写った女の子も驚いた顔でぼくを見ていた。

 何で!? WHY!?

 何でぼくが女の子になってるんだ?

 こんなことが現実に起こるわけがない!

 って事は夢だ。きっと、いや絶対夢だ!

 そうだ夢ならほっぺた引っ張っても痛くないはず!

 よーし思い立ったが吉日! さそっく姉さんのほっぺたに手を伸ばし思いっきり引っ張ってみる。

 痛くない! なんか「ひたい、ひたい」って声が聞こえるけどぼくは痛くないので大丈夫! 夢だ!


「痛かった……こういう場合自分のほっぺたを引っ張るんじゃないの?」


「……盲点でした」


「え? わざと? わざとなの?」といつまでも騒いでる姉さんを無視して、今度こそ自分のほっぺたに手を伸ばし思いっきり引っ張ってみる。

 もちろん鏡の中のぼく(仮)の女の子も同じようにほっぺを引っ張る。

 痛くない事を願いながら――。


「ひたい!!」


 ということはもしかしてだけど現実!?

 なんて現実は残酷なんだ、この世には神も仏もいないのか……。

 ガックリと膝をついて絶望に打ちひしがれる。


「……とりあえずリビング行こうか」


 ここで絶望していても何も変わらないので、困惑顔の姉さんの言うとおりガックリと肩を落としながらリビングに向かった。


☆★☆★☆★


 とりあえずリビングに移動してソファーにローテーブルを挟んで向かいあうように座った。


「落ち着いた?」


「うん、まだ理解は追いつかないけど」


 さっきからずっと姉さんが真剣な顔をしたままぼくを見つめてる。

 そりゃあそうだ誰だって普通弟が次の日には妹になってました、なんて到底とうてい信じられないだろう。

 自分で言っててへこんで来た。


 とりあえず、まずは昨日寝る前のことを思い出してみよう。

 たしか部屋で昨日買った本を読んでたら急に寒気と、頭痛のダブルパンチがきて、ボーっとした頭で寝れば直るかな、風邪薬を飲みに行くのも億劫だし……。

 と考えてベットの中にもぐりこんで寝た。


 ……あまり女の子になる要素はない気がするけどいったい何がどうしてこうなったんだ?


「じゃあ、落ち着いたところで聞くが……」


 いつになく真剣な顔をした(本人に言ったら怒るから言わないが)姉さんがぼくを指差しながら――。


「なんでかわいくて、私好みのかわいい女の子になってるのよおおお!」


 あ、かわいいって2回いった。

 姉さんは叫びながらローテーブルを飛び越えて、ぼくに抱きついてきた。

 ローテーブルを飛び越えたときに、弁慶さんの泣き所を強打してるけど痛くないのかな?


「どーれ、どれ、本当に女の子になったのか確認してあげよう」


 姉さんが手をワキワキさせて、ぼくの胸を揉もうとするのを姉さんの頭に手加減なしのチョップをいれて撃退した。

 まったく油断も隙もあったもんじゃない、だけどおかげでさっきよりも落ち着いた。

 ……やり方があれなので感謝はしないけど。



 とりあえず落ち着いたは良いが、いやよくないけど。まずは家族にどう説明するかということだ。

 何せ毎日顔を合わせるんだから、遅かれ早かれ説明しなくてはいけないだろう。

 しかし、なんと説明すればいいんだ……朝起きたら女の子になってたんだと言って信じてもらえるものか。まあ、事実なんだから信じてもらうしかなんだけどさ。


 そんなことを考えてるとやれていたはずの我が愚姉がいつの間にか目ざめており、ハアハアと荒い息でぼくの胸を揉んでいた。

 どうやらやられたフリをしてぼくの油断した隙をついてきたようだ。なんて策士。

 って! 冷静に分析してる場合じゃない!


「なっ! なななななななな、にしてるの、この馬鹿ねええええええええええ!!!」


 顔が急に熱くなるのを感じながら、手加減なしのアッパーを叩き込むと「ぐぴゃ」と言いながら宙を舞い、顔から倒れて床とキスしていた。

 まったく油断もすきもあったもんじゃない。こんな変態も家の外に出るときりっとしていてみんなから慕われているなんて世の中は理不尽だ。


 そんな時リビングにある固定電話が鳴り出した。


「はい、もしもし高城で―――あ」


 つい、いつものクセで電話に出て途中ではたと気がついた。

 もし身内やぼくのことを知っている友人からだったらなんていえばいいんだ?

 いきなり知らない声の人が出たら「どちらさま?」って聞くだろう。ここは姉さんのフリをしてごまかして――。

 などと、ぐるぐる頭の中で考えていると。


『あら? その声、響花じゃないわね。槙が女の子にでもなったかしら?』


「! ……その声、おばあちゃん?」


 電話口から聞こえてきた声は、やさしいおばあちゃんの声だった。

 そして、おばあちゃんの口から出た言葉に驚いて声が出なかった。



 どうやらおばあちゃんはぼくが女の子になった事を知っているらしい。


「―――どうして知ってるの? その、ぼくが女の子になったって」


「ふふふ、そうね。知っていると言うよりは、分かっていたと言うほうが正しいかしらね」


「どういうこと?」


「くわしい話をしたいのは山々だけど、直接槙に会って話したいわね。女の子になった槙の姿が早く見たいの」


 女の子になったぼくを見たいのが本音なのか、と思いつつ「分かったすぐ行くよ」と言って電話をきる。

 受話器を置いてすぐに自分の部屋に戻って着替えようと反転したらズボンが足に引っかかって盛大に転んだ。


「いたた……」


どうやら女の子になって体が縮んだらしく、ぴったりサイズだったズボンがずり落ちていた。


「あれ? そういえば姉さんはどこに行ったんだろ?」


 部屋の中を見回してもどこにもいないさっきこのあたりに転がっていたはずなんだけど。


「ここだよ……」


 弱弱よわよわしい姉さんの声が床から聞こえてきた。

 目線を下に下げてみると姉さんの上にぼくが乗っかっていることにいまさらながら気付いた。


「ご、ごめん姉さん。すぐ退くから」


「ま、槙。あ、ありのまま今起こった事を話すぜ! 槙の胸を揉んでいたはずなののになぜか床とキッスしていた。な……何を言っているのかわからねーと思うが私も何をされたのかわからなかった」


 あ、やっぱり頭打ったからおかしくなっちゃったのかな……。

 南無。

 ……よく考えたら、姉さんって元々こんな感じだったし大丈夫だろう。


「じゃあぼくは部屋に行くから」


 取りあえず大丈夫そうなので、ズボンを手で押さえながら転ばない程度に早足で、自分の部屋に撤退した。



☆★☆★☆★



 部屋に戻り、おばあちゃんの家に行く準備をはじめるが、まず問題なのは服だ。

 この体になって体が縮み、今までの服がブカブカになってしまっておりとても着て外に出られる格好ではない。

 一応タンスの中身を全部ひっくり返してみたが着れそうものがない。


「うーん、これは困った」


「話は聞かせてもらった!」


 再びぼくの部屋のドアは蹴り開けられた衝撃で、ついに蝶番ちょうつがい部分が壊れてドアがパタンと床に倒れた。


「……寿命だったんだな」


「違うよ!? 姉さんが壊したんだよ!?」


「なに、細かい事は気にするな。ハゲるぞ?」


「ハゲません! もう! いちいちドアを蹴り開けないでって何度言ったら分かるんですか!!」


 もう堪忍袋の緒が切れた。姉さんをギロリと睨むとビクッとして土下座した。


「すいませんすいませんもうしませんから許してください。でも、怒られると興奮す――」


 姉さんがまた変態発言を始めたので再びギロリと睨むと「すいませんすいません」とペコペコしだした。

 このままではループになるだけなので、ループを断ち切るため、まずは姉さんがぼくの部屋にやってきた理由を聞いてみた。

 すると「良くぞ聞いてくれた」と意気揚々と話し始めた。

 立ち直るの早いなと思いながら姉さんの言葉に耳を傾けた。


「実はかくかくしかじかなんだ」


「ふむふむ。なるほど――なんて言うと思ったら大間違いだよ!? それで結局、ドア壊してまでぼくの部屋に来た理由は?」


「ふふふ、これだ」


 姉さんがどこからともなく取り出したのはスクール水着だった。

 もちろん女子用の、しかも胸部分には「まき」と大きく書いてある。


「あ、間違えた。えーと、目的のものはっと、これだこれ」


 と、姉さんが取り出したものは白とピンクの生地にフリルをふんだんに盛り付けたいわゆるロリータ服、さらに女性用の下着だった。

 つ、ツッコミどころが多すぎてどこからツッコんだらいいだ………。

 あー、頭痛がしてきた。半分優しさで出来てる痛み止め飲まないと。


「ちょっと待って、最初に出した水着はなに?」


 姉さんは明後日の方向を向いて口笛を吹きだした。

 くそぉ、腹立つわー。でもここは暴力などに頼らない大人な対応だ。

 それに遅くなってしまえばおばあちゃんが心配するだろう。

 時間は有限なのだから効率的にいかないと、昔の偉い人も言っている「時は金なり」と。


「姉さん? どういうことか後でじーくり聞かせてもらいますので」


 ニッコリと笑顔を浮かべているのに、姉さんはガタガタ震えだしたが気にしないことにした。

 それよりもっと大事な――。


「それと、その服はまだしもその、し、下着…はなんですか!?」


「ん?これか?この服は桜に着てもらいたくて父さんが買ってきたんだが拒否られてお蔵入りになったもので、こっちのショーツとブラがあたしが買ったはいいが着ずにタンスの肥やしになってたやつ。さっきサイズは確認したから問題無く着られるぞ」


「ちょっと待ってください。さっきサイズ確認したって言いましたけど、いつ確認しました?」


「ん? そりゃあ胸を揉んだときに決まってるだろ」


「どや顔で変態発言しないでください」


 もうやだこの姉……。しかし、ツッコミを入れてしまうのはぼくのさがってやつなのか。

 ちなみにさっき話に出てきた桜というのはぼくの双子の妹だ。

 もっとも2卵生双生児なので同じ顔と言うわけではないが。


「では、ショーツとブラ着ましょーね、うへ、うへへへ」


 姉さんは鼻血をポタポタ床の上にたらしながら、ぼくが今着てるだぼだぼになった上着を脱がし始めた。


「ちょ、自分で出来るって、分かった、分かったからとりあえず鼻血拭いて! ティシュあげますから! ほら!」


 ティシュを渡すともそもそと鼻に詰め込んだ。


「ほれではいひょぶだ。はーておきがへしよふへー」訳:これだ大丈夫だ。さてーお着替えしましょうねー


「自分で着替えますって!いいからあっち向いててください!」


 ティシュを箱ごと投げたら、箱の角が姉さんのおでこにクリーンヒットしたら、「痛ええええっっ!」と叫びながらごろごろ床を転がりまわった。


「ふんっ、自業自得だよ」


 この隙に仕方なく姉さんが持ってきた服に着替えを始めた。


……


 クローゼットの扉の内側にある鏡に写るぼくはどう見ても女の子にしか見えない。それになぜかサイズがぴったりだったのが解せない。

 いや、もちろん女装などではなく女なのだが……。

 ふぅと一つため息をつき、部屋を出ようとしたところでおそるおそるといった感じで姉さんが顔を出した。


「あの、さ、その服以外にもこれがあるんだけど……」


 姉さんが持ってきたのは青と白のボーダ柄のワンピースだった。


「……姉さん」


「は、はい! なんでしょうか!」


 まださっきの投擲が効いてようだ。

 今度からは姉さんが変なことしたらモノを投げよう。


「それを最初から持ってきてくださいよ……」


「いやー、あはははは。では責任を取って私が着替えを……」


 また変なこと考えてるじゃないかとジト目で見つめるて居ると、あわてて釈明を始める。


「いやいや、いかがわしいことなんて全然考えてないよ!?ブラ直してあげるって言っておっぱいに触ったり、お肌の調子を確認だって言ってすりすりしたり、抱き枕にしたいとか言って抱きつこうなんてこれっぽちも考えてないよ?本当だよ?」

 

 ますます怪しいというか、もうやるっていってるようなものだ。

 しかしもう時間もないし、姉さんに手伝ってもらったほうが早く準備できるだろう。

 いつまでもおばあちゃんを待たせるのは忍びない。


「はあ……姉さん、手伝ってもらっていいですか?」


 姉さんはぱああっと顔を輝かせて。


「ただし変なことしたらこれだからね?」


 手近にあったボールペンを投げるしぐさをすると必死な顔になり、コクコクとものすごい勢いで上下に首を振った。

 ボールペンを作った人は偉大だなと思った。

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