いざ、船上へ
いざ、船上へ
翌日
真昼と秋元は横浜の船の上にいた。
秋元はフォーマルなタキシードを着た人間モードである。
真昼は、スーツにカメラとあまり普段と変わらない服装をしている。
彼らは各自、招待状を港にいる係のボーイに渡した。
「編集長、今日はヒト型なのですね。いつもその恰好でいたらいいんじゃないですか。」
秋元は、熱いのかワイシャツの襟元をヒラヒラと揺らして仰いでいる。
「いやいや、これはその場しのぎの格好に過ぎないよ。それにこの格好は僕の美的センスとは程遠いからね。僕は必要なときにしかヒト型にはならないよ」
「いやいや、絶対にそっちの方がいいですよね」
「あれだよね。これは一種の読者サービスをお届け出来なくて残念だよね」
「えっ、タヌキの方が読者サービスですか」
「もちろん、僕のあのポッテりしてプリティーな姿の方が読者も喜ぶだろう」
「えっ、ええ。まぁタヌキ愛好家ならですね」
「さて、真昼君。謎を解決して見せるよ、スクープの名に懸けて」
秋元は、船の甲板で右手を挙げて真っ直ぐに海の方に人差し指を向けた。
甲板には、他にも帝に招待された客が大勢押し寄せていた。一流弁護士や大物政治家など多くの客がいた。
船内に入るためには簡単なボディチェックが行われた。警備員が二人係で荷物チェックと金属探知機を導入していた。
人と獣用にゲートが分かれておりヒト型になれる獣は人用のゲートを利用し、人に化けることのできないものウサギやネズミなどの動物や鳥などは専用のゲートが用意されていた。
亀の夫婦が甲板で会話をしている。
「いやぁ、おばあさん来てよかったねぇ。帝君がこんなに有名になってくれてうれしいことだよ」
甲羅が厚い老人の亀は端正な髭を撫でながらワインを片手に老婦人に語りかけていた。
「本当ですね。あんなに出来のいい弟子は今までいなかったじゃないですか。おじいさん」
「本当だよ。良くぞここまで立派に成ったモノだよ」
老夫婦は終始ニコニコしながらお喋りをしているようだ。
「おじいさんが、ビシバシ教育していましたからねぇ」
「そうそう、そうなのじゃよ」
老夫婦の会話は、亀だけにゆっくりしているらしい。
しばらくして、船体がゆっくりと動き出した。
ボーっと言う大きな音を発してクルーザーはゆっくりと港を離れていき海辺へと移動し始めた。ゆっくりと進む客船は、普段の日常から人々を解放するようである。
「さて、行くよ。真昼、君今度こそ直接対決だよ」
秋元と真昼は、船内のホールで行われているパーティへと向かった。