土偶娘、遠山シロ
遠山シロ
遠山シロは、身長がわずか百四十センチしかない。しかし、群衆に紛れても一目でその姿を捕えることが出来るだろう。
なぜなら、黒に桃色の睡蓮が浮かぶ浴衣になぜかピンク色の髪の毛のボブヘアであり、赤い眼鏡を掛けている。右手でいつも赤い和傘を持っている。着物の上からでも全体的に薄くつきに凹凸のない体付きである。また、全体的に彼女の周りにはふあふあした空気が流れている。
「なんで、警察署になんか呼ばれたのかしら。ウチは、新しい作品を作ることに忙しいのに」
シロは、きょろきょろしながらも警察署内をうろうろした。
奇抜な格好に多くの警察官の視線が集まった。
その中には、スーツ姿の男性がいるのを発見した。
「はっ、あれは今話題のイケメン弁護士帝さんやないか」
シロは、警察署にいた。帝を発見し迷わず駆け寄った。
「はじめまして、どこかでお会いしましたか?御嬢さん」
「いえ、でもテレビで見ました。あの報道番組とか弁護士ものとかに出ている人ですよね。帝さんですよね」
「ええ、そうですよ」
帝の口元が不敵な笑みを浮かべていた。
「ふふ、よし作戦成功だ。あいつは絶対あの土偶の作者に接触してくるはずだ。その前に、作者と接触さえしてしまえばいい」
帝は考えた。
「帝さん、なんでこんなところにいるのですか。あっ、私は遠山シロです。まだまだ駆け出しですけど。芸術家なのです。それで、なぜか私に警察の人から来てほしいって連絡があって」
彼女は、頬を赤く染めてニコニコしながら手を頭に持っていき、敬礼のポーズをマネた。
「それは、大変じゃね。ワシは、ただ落し物、弁護士バッチを探してほしいと警察署に来ただけじゃ。別にたいそうなものではないのじゃけど」
彼女は、まっすぐ帝を見ると心配そうな表情をした。
「落し物早く見つかるといいですね。ウチの神様に早く見つかるようにお願いしときます」
「ありがとう。もし何かあったらワシに連絡でもしてくれれば力になりますよ。」
帝は、よく彼女の言動の意味が掴めなかったがお礼を述べた。そのとき、軽く彼女の方に
帝の手が触れた。そこには、小さな盗聴器が着いていた。
しばらく、帝とシロは近くのソファに座り呼び出しが来ることを待った。
「遠山シロさん、お待たせしました。こちらへどうぞ」
長い黒髪の婦人警官がシロの下に呼びに来た。
シロは、ソファから立ち上がると振り返り帝にお礼を述べた。
「ありがとうございました。では、またお会いする機会がありましたあら是非」
「ああ、またどうぞよろしくシロちゃん」
帝は、手を振るとコーヒーを買いに署内の自販機に向かった。
「さて、後はタヌキが来るのを待つのみか」
帝は、熱いコーヒーを口に含みながら思考を巡らせた。
その時、警察署の入り口に秋元と真昼が現れた。
「編集長、あれ帝さんですよ」
先に入ってきた真昼が帝を見つけた。小声で、秋元に囁いた。
秋元は、帝の姿を確認すると即座に真昼に言葉を返した。
「真昼君、帝の注意を少し話しかけて逸らしてくれないかい」
「わかりました」
真昼は、帝の方に歩くと大げさに挨拶をした。
「帝さん、偶然ですね。こんなところで会うなんて」
帝は、真昼の方を向くと軽く挨拶をした。しかし、すぐに目線は秋元がいた方に向いた。そこには、タヌキの姿はなかった。
「あれ、さっきまで記者の方もご一緒だったような気がしたんじゃが」
「ああ、編集長なら僕に仕事を任せて他の案件に向かいましたよ。編集長はいつも忙しい人なので」
そこに、タヌキの姿がないためそれ以上帝は秋元を探すことが出来なかった。
そこで、帝は真昼にある話を持ちかけた。
「そうだ、この前の撮影のときは時間がなくて焦らせてしまってすまんかった」
「いえいえ、お忙しいことは知っていましたからこちらこそお時間頂きありがとうございます。」
「それにしても、こんなところで会うなんて奇遇じゃのう。君は警察署に何のようがあるのだい。」
「ええっと、実は落し物をしてしまして」
「ほう、君も落し物かい。ワシもなんじゃよ」
「そうなのですか。奇遇ですね」
すると、本条さんはいますか。という声が聞こえてきた。
「おっ、呼ばれた様じゃ。では、お邪魔します。」
帝は、腰を上げて呼ばれた方へ歩いて行った。
真昼は、内心ほっとして椅子に寄りかかった。しかし、一瞬にして目を大きく見開いた。
受付に向かう帝と秋元がすれ違ったのだった。しかし、帝は人間版の秋元に、気づかない。しかし、真昼が、目を大きく見開いたのはそこではない。
帝と入れ替わりに、部屋から出てきた遠山シロの赤い眼鏡である。
「あっ、あれは天使か?あんなに赤眼鏡が似合う子がいるなんて」
真昼の眼には、シロの奇抜な格好よりも眼鏡しか視界に入っていなかった。
彼は、思わず走り出していた、シロにではなく眼鏡に向かって。
「すいません、その眼鏡写真に収めさせてください。じゃなくてスナップ写真を撮らせてください」
「えっ、なんなんお兄さん。いきなり」
シロは、警察者館内を全力疾走してきた真昼を全身で拒否した。
「あっ、えっと僕は出版社のカメラマンでして、その写真を……。あれ、あなた遠山シロさんですよね」
「そうだが、お兄さんは誰」
「はじめまして、僕は東都出版の撮影担当の真昼博人と申します」
「ああ、東都出版。今度ウチの埴輪を取材するってところの人かい。たしかタヌキの」
「そうです。そうです。でっ、眼鏡っじゃなくて。えっと、ひょっとして例の事件のことで呼ばれたのですか」
遠山シロは、小声になりそっと真昼に顔を近づけると告げた。
「そう、そうでもこれはまだ誰にも喋っちゃダメらしいですよ」
真昼は、少し頬を赤く染めた。
「らしい。ですね。」
真昼は、顔を話し距離を取ると答えた。
「で、真昼さんはなんで警察署に」
「ああ、僕は編集長の付き添いなので詳しくは編集長に聞かないと」
奥の方から出てきた人間版編集長が出てきた。
真昼とシロの方に向けて歩きながら手を振っている。
「やぁ、ありがとう。眼鏡フェチの真昼君、おやおや、そちらは真昼君好みの眼鏡女子の遠山シロさんじゃないですか。」
「編集長、変な誤解をさせないでくださいよ」
「いやいや、事実だろ。ああ、お会いするのは二度目になりますね。東都出版の秋元都市伝説と申します。いつもは僕のありのままのクールでかっこいい姿なのですがね。僕の知り合いにタヌキアレルギーの方がいるので今は人間に化けています」
「タヌキアレルギーって」
真昼は、無意識にツッコミを入れていた。
シロが納得した顔でポンッと両手を胸元で叩いた。
「ああ、あのタヌキさんかいな。気が付かなかったよ」
「どうぞ、よろしく」
「そうそう、たぬきさんはなんで警察署に来ているの」
「今回のシロさんの作品が盗まれた事件を是非解き明かそうと思ってね」
「編集長は、今回の事件を解決して最近売れ行きが伸び悩んでいる雑誌の一面を飾りたいらしいです」
「スクープを手に入れて、我が東都出版の名を日本中に広げるからね☆」
秋元は、パチンッと片目を瞑りウィンクした。
ウィンクした秋元は、シロの方に何か着いているのを発見した。しかし、そのまま真剣な顔になると腕を顎に置き数秒そのまま何かを考えると元の顔に戻った。
「編集長、何かありましたか。」
「ん、いやいや何でもないよ。ところでシロさんこれから一緒にランチは如何ですか。この近くにおいしい蕎麦のお店がありますよ。」
「うむ、そうしようか。どうじゃそこの変態君も一緒に」
「えっ、僕も人数に入ってなかったのですか。変態って」
真昼は、あったばかりのシロから変態扱いされショックを受け、首を下に向けた。
「冗談、冗談。さぁ、行こうか。博人くん」
「はい、そうですね」
三人は、秋元のお勧めの蕎麦屋さんに来ていた。店内は、狭いが人が多く大衆の香りが漂う雰囲気が出ている。忙しそうに、蕎麦を茹でている鉢巻をした男が話し掛けてきた。
「へい、お客さん適当なところに座ってくれ。注文はウチの自慢の蕎麦だよなぁ。温かいのか、ザル蕎麦のどっちがいかい」
「僕のお勧めは温かい蕎麦だけど、どうする」
秋元は、後ろの真昼とシロに語りかけた。
「じゃあ、ウチも温かいので」
「僕もお勧めで」
男は、注文を取ると調理に戻った。
「奥の方が、空いているねぇ。シロさん人が多いから気を付けてね」
秋元は、シロの背中を軽く触れて奥のテーブルへと案内した。
「シロさん、セクハラで訴えるなら今ですよ」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
しばらくすると、テーブルに蕎麦が三つ運ばれてきた。
三人は、運ばれてきた蕎麦の香りを堪能していた。
「さてさて、ここの蕎麦は絶品だからねぇ」
秋元は、割りばし箸を二つに割って蕎麦を食べ始めた。
「頂きます」
「ん、おいしい」
蕎麦を食べ終えると三人は店を出た。