牛丼とロリコンと帝
牛丼とロリコン
「牛丼二人前お待たせしました」
若い女性の定員大きな声を挙げながら、エプロン姿で牛丼をカウンターに運んできた。
秋元は、人間の姿のままである。
「あれ、君確かロリコンじゃなかたっけ。ほら、この前机の中に幼女の写真が大量に置いていたよね、真昼博人君」
秋元が突然、言い出した。牛丼を運んできた若い定員が、顔を引き攣らせ奥に戻っていった。真昼は、箸を持った体制で固まった。
秋元は、黒い箸を手に持ち挟むと牛丼を食べ始めた。
真昼の頭上からピキッっと音がした。
「いやいや、僕がいつロリコンになったのですか。店員の子に引かれたし」
「でも、机の中に眼鏡美人グラビア特集って雑誌が隠されていたのは、見たよ」
秋元は、顔色一つ変えずに、牛丼を掻き込んだ。
真昼は、口をパクパクさせながら耳を赤くした。
「なっ、なんで、人の机の中見ているのですか」
「やっぱりあるのか。君さぁ、裸眼で眼鏡がいらないのに会社帰りによくメガネ屋に行くから眼鏡フェチじゃないかとは思っていたよ。ふっ。そんなことより、今回の事件だよ。真昼君。あの赤い液体の謎と盗まれた土偶を取り返さないとうちのスクープにならないのだよ」
「編集長、まさか事件を解決しようとしていますか」
「僕は、スクープのためなら火にだって飛び込む覚悟だよ。それに、面白そうな事件じゃないかい」
真昼は、牛丼を半分ほど食べるとお茶を飲みこんだ。
「警察が事件を解決いてくれるのを待った方が確実じゃないですか。相手は、今話題の弁護士ですよ。下手したら、会社ごと訴えられますよ」
「リスクを恐れていたら何もできないよ。これを解決出来れば東都出版の名声はあの弁護士の失脚とともに世に広がるに違いない」
秋元は、どうやら知名度の高い帝が今回に事件に関連していることを利用して全国に東都出版の名前を轟かせたいらしい。
「明日は、朝一番で警察署に行ってDNA鑑定を依頼しよう」
「警察が動物の毛をDNA鑑定してくれるのですか」
「そこは、任せてくれ☆」
本条帝
本条帝は広島県で生まれた。
「ワシは将来大物になる男だ」と言い故郷を出た。
東京の慶王大学法学部に入学した。
何事にも自信家の彼は「TIME IS MANEY 時は金なり」 ということを自身の辞書に深く刻んで成長した男である。
彼は決して金にしか興味がないような男ではなく、むしろ金とは無縁な芸術を愛するような男でもあった。
だからこそ、大学時代のサークル活動のおかげで、今の彼の弁護士として美術品にも詳しいという肩書がついている。
都内某所、高級住宅地が並ぶなかに帝の家があった。帝の家は、一人暮らしには贅沢な一軒家であり、一階のリビングは本棚が壁一面に配置されていた。
「ふう、今日も終わったか」
帝は、ため息交じりに玄関のドアをあけて靴を脱ぐとリビングへ向かった。灰色に青のストライブが入ったジャケットを自宅のソファに掛けた。
そして、テレビのリモコンらしきスイッチを手に持つとスイッチを押した。
本棚が左右に開き地下室への階段が現れた。家には誰にも知られていない地下室が存在していた。
地下室への階段を降りると壁にある照明のスイッチを押し、地下室の明かりを着けた。部屋全体はリビングとほぼ変わらない8畳ほどの空間になっており、全体的に薄暗い印象の部屋であった。壁一面はコンクリートがむき出しの壁だ。
そこは何かの倉庫を連想させるようなイメージだったが、そこにおいてあるものは、倉庫のガラクタではなくむしろ宝が展示してあった。
ガラスケーズの中には、盗まれたはずの土偶が地下室の中央に置かれていた。ほかにも宝石や絵画などいろいろなものがきっちり展示されておりまるで小さな展示場となっていた。奥の壁には狐の絵画が数枚、壁に置かれていた。
「ははは、ワシのコレクションは誰にも渡さないぞ。秋元とか言うタヌキめ。我が一族が代々裏稼業としてきた怪盗業を邪魔しようものなら覚えていろ」
帝は、一気に悪人のような顔になった。
「あいつが狸ならワシはウサギになってあいつを泥船に沈めてやる」
帝はポンっと煙を上げたかと思うと煙の中に獣の姿が浮かび上がってきた。
二本足で立っている獣がそこにはいた。帝である。
毛並みが良く毛が全身を包んでいた。彼は、土偶を観察すると異常がないことを確認して、代々の帝家の肖像画を眺め、そのまま地下室から出て行った。
リビングに戻ると帝はまた元の人間の姿に変化した。その後、人間の姿に戻り地下室のリモコンを手に取りスイッチを押すと地下室の扉は閉まり元の本棚が並んだ。帝は、部屋にある白いソファにため息をつきながら深く腰を降ろした。
地下室のリモコンをソファの隣にある小物入れると、テレビ用のリモコンを手に取りテレビのスイッチを押した。テレビ番組は、いつものように十一時のニュースを伝える。見た目が綺麗な女子アナが政治関連のニュースを伝えていた。
帝は、そのまましばらくニュースを無表情で鑑賞すると必要な情報だけを脳内に刻みこんだ。その後、手持ちのスマートフォンで明日の予定を確認した。
スマホの画面には明日の予定とメールが一件来ていたため帝は、メールを開いた。メールには、メールアドレスを変更しました。登録よろしくお願いします。
慶子と書かれていた。そのメールを確認し登録した後、帝は寝室へと移動した。
寝室は、家に唯一ある和室でありそこに布団をしいて眠りについた。
腕に着けていた時計を床の傍に置くと静かに寝息を立て始めた。
夢を見ていると自覚しながら見る夢のことを明晰夢というが、帝はそれを体感していた。
帝は、慶応大学の校舎の部室塔いた。季節は春、桜の花びらがどこからか降り注いでいた。
彼は、部室に入るとそこには慶子がテーブルにコーヒーとポットとを並べ、それを飲んでいた。
「一杯いかがですか」
慶子がカフェラテを差し出してきた。帝はカップを受け取るとその中を覗き込んだ。
カフェラテには秋元のバカにしたような顔が白い泡で描かれていた。
今日あったばかりのタヌキに犯行を疑われた危機感なのか。ただあのタヌキの顔が生理的に嫌悪する顔であったためかわからないが、夢にまで秋元が出てきたことに帝の苛立ちが倍増した。
「なぜだ、なんで奴なんか」
帝は夢の中で苛立ち頭から白い湯気が大量に吹き出していた。
その姿を見て微笑んでいる人物が一人いた。帝にカフェラテを渡した本人の慶子であった。
慶子は、口元を服の裾で抑えながら目を細めて笑っていた。