インタビュー
インタビュー
朝、東京都内のマンションにて秋元は起床する。枕もとに置いてあるのは袋の空いたマシュマロである。起きて十五秒後に秋元は手を伸ばして食べた。
部屋はいつ誰が来ても良いようにとても整理整頓されている。
黒で統一された家具や家電類は部屋だけみたら雑誌の「モテる男の部屋特集」にでも掲載されそうである。秋元は、スーツに着替え朝のニュースを見ながらトーストにマシュマロを挟んで食べた。
九時に出社して編集長の机に腰掛ける。
「おはようございます、編集長」
真昼があいさつをしてきた。
「おはよう。今日は、一ヶ月後の発売「男のスーツ特集」に間に合うように早めに頼む」
秋元は腕時計を見ながら言った。
正午―昼、秋元は自社のオフィスビルから出て、インタビューの打ち合わせに出掛けた。
最近話題になった元メガバンク銀行から転職した青年弁護士の帝である。
なにやら、叔父は昔越後のちりめん問屋の付き人だったらしい。
「さて、今日は一癖ある奴か。ここか。俺のギャグネタに加えとこう。元銀行が、メガバンクに入ったはいいがブラック企業過ぎたことに耐えかねて、弁護士へ転身。労働基準法違反とメガバンクを訴え勝訴した!!そのときの決めゼリフ!!訴えてやる!を」
二人は、都内の高層ビルが並ぶオフィス街にきた。その一角のビルの二階に帝がいる弁護士事務所があった。秋元たちは事務所の応接室に案内された。社内は、窓が一面ガラス張りになって明るい作りだ。
窓際には、木製のテーブルと電話機と書類が置いてありそのほかには、社員用のオフィス机が二十席ある。
応接室は、学校の校長室に置いてありそうな黒いソファと観葉植物があった。
その時、弁護士の帝がドアを叩いて開けて中に入ってきた。帝は、灰色の生地に青のストライブの入った高級そうなブランドのスーツを着ていた。
髪は灰色、髪型は耳を出してワックスで整えたような髪型である。腕にはシルバーの高そうな時計が巻かれていた。
「おはようございます、本日は当社の以来をお受け頂きありがとうございます。東都出版で編集長をしている秋元と申します」
二人は立って挨拶した。
「こちらこそ、よろしくどうぞお座り下さい。今、とても忙しいので時間内に終わらせて欲しいね。まぁ、延長料金を払ってくれるなら、二時間だって一日だっていてもいいのじゃけどね」
帝は笑いながら冗談を言ってきた。それに対し、秋元は営業スマイルを浮かべると隣にいる真昼に言った。
「真昼くん、まずは彼のインタビュー用の素材の撮影を頼むよ」
「撮影のために下のカフェに移動してください。よろしくお願いします」
真昼は、撮影のために下にあるカフェに移動して貰うように帝に頼んだ。
三人は、下の階のカフェに入った。
「では、帝さん。まずは正面を数枚あと、横顏を何枚か撮らせていただきます。照明が眩しかったら言ってください」
帝は、カフェの窓際に案内され座り、幾つか違うポーズを要求された通りにこなした。
「次は、足組でお願いします。その次は最後に、仁王立ちのポーズをお願いします。ありがとうございました」
「やっと、終わりますか。さっさとインタビューに掛かりましょう。あと、三十分しかないですよ」
二人は、カフェの奥にいる秋元のもとに向かった。
テーブルには、帝の資料と筆記と秋元愛用のリンゴマークのパソコンとメロンソーダーが置かれていた。
「撮影お疲れ様でした。では、手短に行いますのでよろしくお願いします。まずは、なぜ弁護士になろうとなさったのですか?銀行を訴えるなどとても、リスクが高いのに」
「もちろん、ハイリスクではありましたが。弁護士に慣れた時点でワシは勝訴する自信がありました。なぜなら、元銀行員であるから、その会社の内部情報はとても詳しいじゃから。証拠さえ掴めれば勝てると思ったのじゃよ」
帝は広島弁で話している。
「では、次に今の弁護士としての主な仕事内容をお願いします。世間に注目された分、色々な依頼が押し寄せていると思われますが。主な専門分野をお答え下さい。」
「今の、専門は著作権問題ですね。最近の日本はネットの普及により色々な物がコピー可能な時代ですからね。有名なアーティストの作品を数点集めてそれを組み合わせた物をまるで自分の作品のように扱ってしまう人がいる。そんな人が高い評価を受けないように多くの芸術家や画廊から依頼が来ます。また、私が元行員ですから担保などで美術品の価値を金で換算するときにお世話になった鑑定の専門家にツテもありますしね。まぁ、私がもともと、大学時代に美術部だったと言うのが主な理由ですかね。本当のところ」
「大学は、慶王大学の法学部でしたね。大学時代に司法試験を受けようとは思わなかったのですか?また、美術部ではどのような活動を?」
「もちろん、一時期は司法試験を受けようとは思いましたよ。でも、その頃は弁護士よりも安定を求めて銀行員を目指しました。サークルは、至って普通でしたよ。美術館で絵画の鑑賞会や展示作品を半年かけて描いたりしました」
「サークルでの一番の思い出などはありますか?」
「サークルか懐かしいな。よく夏合宿をしたことを思い出しますよ。ですが、これ以上は詮索しないでくださいね。ワシはシャイなので」
冗談交じりに話した。
「わかりました。では、最後に昨日のニュースをご存じですか。小森美術館から土偶の形をした新しい作品が盗まれたというニュースです。美術の方に詳しそうでしたので。ぜひ意見を聞きたいと思いまして」
秋元はパソコンのキーボードを叩いていた手を放して、顔の前で腕組みをした。その表情は何かを疑っているようだ。
真昼は、カメラを膝の上に置いてその様子を窺っていた。
「その事件は、昨日のニュースで報道されていましたね。ええ、知っていますよ。
なんか、ワシを疑っていませんかね。その顔は……」
帝は秋元の顔をまっすぐに覗き込んで言い返した。
「いえいえ、そんなことはありませんよ。ただ有名な弁護士の方に今回の事件についてコメントを付けてほしかっただけですよ。あの事件はなんせ【うちだけ】のスクープのネタなのですからね☆。ありがとうございました。では、また記事を書くときはよろしくお願いします」
さらに刑事のように疑いをかける秋元であった。
「こちらこそ、どうもありがとうございました。会社で何か著作権や権利問題などが起きましたら是非ワシに一声おかけください」
そう言うと帝はすぐに席を立つとカフェから出て行きオフィスに戻っていった。
秋元は、パソコンを動かしながら向かいに座る真昼に話しかけた。
「真昼君」
「はい、なんですか。編集長」
真昼はコーヒーを飲んでいた。
「彼は、なぜうちの独占取材である事件を知っているのだろうね。しかも昨日の今日だよ」
秋元は顎に手を当てていた。
仕草はまるでシャーロックホームズであるが丸く太いその体格ではまるでタヌキがへそでもかいているように真昼には見えた。いや、タヌキである。
「あんなに、有名な作品ですからどこかから 聞いたのかもしれませんよ。弁護士なら警察関係にも顔が利き易いですし」
真昼はそういいながらも秋元が何か起こさないか内心ヒヤヒヤしていた。
「いや、たぶん彼が犯人だよ。」
秋元は、自信満々で答えた。